第2章1話 配属先は、地獄です
騎士団入団を許可されてはや数週間。
この期間、クルーダ=ロダが経営する宿『閑古鳥』でお世話になっていた。
その地下でミューズとアゲラダとともに稽古を重ねた。
永久凍土スクピディアにて覚醒した水の魔力を使いこなせるように、ミューズに教えをこいていたのだ。アゲラダは対人訓練に付き合ってくれた。
そして遂に、王国から通達が来たのであった。
「ロア!手紙が届いてるよ!ミューズの分もあるね。」
ミューズはセアを見ることができるようになっていた。スクピディアにて、ミューズを紹介したためか、セアはミューズには姿を隠すことは無くなっていた。
だが、相変わらず他の人には見せるつもりはないらしい。
「なんて書いてある?」
送られてきた手紙をミューズと2人で見る。
「・・・配属先が書いてあるね。」
そこに書いてあったのは、配属先と、初勤務の集合場所と日時。
アナトリカ王国騎士団イロアス殿
貴殿を、第2師団へ配属する。
第2師団・・・それは、あいつが団長を務める師団。
『青鬼』エナ=アソオス。紺碧の眼を持つ、生意気にも強いやつ。
「イロアスくん、僕も第2師団だったよ。」
恐らく俺の嫌な顔を察して、何も言わずともミューズが俺の配属先を理解したみたいだ。
「集合は4日後、場所は王都の西にある修練場。」
イロアスが『英雄』を目指して7年。遂に、かの英雄と同じ騎士となった。これから、世界を救うのだ。そのための第1歩を踏み出したのだ。
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「まだまだ走るよー。さぁ、気合い入れていこうねー。」
世界を救うために踏み出した一歩は、もう随分前に過ぎてしまった。
もう何時間走ってるのだろうか。もう何万歩、いや、何億とかいってんのかな。
「イ、イロアスくん・・・た、助け・・・」
ミューズが脱落した。こいつは筋肉を鍛えすぎて、持久力がないみたいだ。体が筋肉で重くなってるんだろうな。
「や、やるわねあんた・・・こ、これに・・・ついて来れるなんて・・・」
隣を走るリアが話しかけてきた。
彼女はリア=プラグマ。俺たちと同じ第2師団に配属されたみたいだ。
「い、いや・・・もう・・・限界・・・」
ダウン寸前。肺が痛いし、足がいたい。
そして、イロアスの意識は失われた。
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気がつくとそこは、木の下だった。そして、辺りを見渡すと、隣には熊の耳がついている亜人ミューズが横たわっていた。
「情けないねぇ。女に負けるなんて。」
誰もがあんたみたいな男まさりの性格をしていないんだよ。
そんな暴言を心の中で目の前の女に吐く。
「ゼモニコス、みんな目覚めたかな?」
「あぁ、そこの亜人ももうすぐだろうよ。」
そう言っているうちに、隣で寝転んでいるミューズが目を覚す。
「ここは・・・」
「はいはい、寝ぼけてる場合じゃないよ?『朱姫』なんて次のステップに入ってるんだから。」
ぼんやりと目の前の修練場を見ると、他の騎士に混ざって、リアが素振りをしているのが見える。
・・・あ、倒れた。
「あ、倒れちゃった。流石にか。」
「流石にだよ、エナ。いくらプラグマの最高水準のトレーニングをしてるからって、休憩一切なしはこうなる。」
エナ団長と、ゼモニコスさんが、何か無責任なことを口にしている。
「まぁ彼女も木の下の運んでくれ。さて、君たちに何の説明もなく鍛錬に出したのには、特に理由はない。」
「「ふざけんな。」」
イロアスとミューズが声を揃えてつっこむ。
「上官に向かってその態度はなんだ。」
そう男勝りの女『剛晶』ゼモニコスに殴られる。
「あんたたちと2個しか違わないからって、ちゃんと敬意を示しなさい。」
「うっす・・・え?」
「え?」
・・・ん?今、俺たちと2個しか違わないって・・・
そんな呆けた顔で、イロアスとミューズは団長エナの方を見る。
「・・・?僕、まだ19だよ?」
とんでもない事実が、発覚した。
「そんなことはどうでもいいのさ。君たちがこの国にいるのは、あと1か月しかないからね。魔法じゃなくて肉体を死ぬほど鍛えてあげる。魔法は向こうで学んでもらうから。」
「・・・この国にいるのはあと1か月?向こうで学ぶ?」
「あんたら、手紙読んでないのかい?」
「読みましたけど?」
そして、イロアス、ミューズ、ゼモニコスの3人は、エナの方を見る。
「・・・書き忘れちゃった、えへ。」
こいつ、本当に団長なのか?
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その後、リアが木の下に運ばれ、目を覚ました後に、エナから説明を受ける。
「君たちには、1か月後に学校に通ってもらうよ。」
「「学校?」」
イロアスとミューズが、再び声を揃えて疑問を投げかける。
「そう、魔法を学ぶための学校さ。アナトリカ王国から遙か西にある大国ディコス王朝に行き、魔法学校フィラウティアに通ってもらう。半年間ね、最高でも一年で帰ってきてもらうよ。」
魔法学校。何とも素敵な響きだろうか。
イロアスは、この前のスクピディアの一件からずっと知りたかったことがある。
それは魔法についてだ。自分の属性が変化していること、魔石が反応しなかったこと、ミストフォロウの日輪、リアの転移術、ミューズの体術、エナ団長の迅歩、ゼモニコスの結界。
イロアスは魔法についてあまりにも無知だった。まぁそれは孤児院の魔法の授業を一切聞いてなかった自分が悪いんだけど。
知りたい、その欲求がイロアスを満たしていく。楽しみだ、とても。
でも、ちょっとした疑問。
「なんで17になってから学校に通うんだ?もっと早く教えてくれればいいのに。」
「あんたって本当にこの世のこと知らないのね。」
さっきから黙っていたリアが我慢できずに話しかけてきた。こいつ、名家だから魔法学校に通うことも知ってただろ。
「いい?魔法学校フィラウティアはね、完全招待制の超秘密主義の学校なの。生徒のほとんどがディコス王朝の貴族で、留学生度でアタシたちは招待されるのよ。生徒の全てが秀才で天才。だから留学制度の枠もアナトリカ王国みたいな大国じゃないとないのよ。」
「何でい、ケチかよ。この世には隠れた天才だっているんだぞ。」
そう、たとえば孤児院のアフターとか。あいつ、一歳で全身光ってたんだぞ。
「仕方ないわよ、王朝の王様は独裁主義だから。そして校長は代々自分の魔法の研究以外に興味のないお方だし。」
「もっとマシなやつ選べよ、王様と校長に。」
「マシもマシよ、本当に何も知らないのね。校長は代々『七人の使徒』が一翼、『魔導王』が務めてるのよ。実力で言えばこれ以上ないほど適任よ。」
「・・・生意気言ってすいません。」
目指すべき英雄。それに最も近い存在である『七人の使徒』。この国で二人に会って、もう三人目に会えるのか。なんて幸運なんだろう、そう思った。
リアが丁寧に魔法学校について説明してくれたおかげで、エナがとても話しやすそうに、端的に話し始める。
「フィラウティアは魔法を学ぶところだ。だから、ここでは何を学んでいただくかと言いますと〜?」
・・・なるほど。だからこんなにも・・・
「か・ら・だ!さぁ、そろそろ行こうか!鍛錬はまだ始まったばっかりだよ!」
その日から1か月、地獄を見た。




