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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章17話 見えざる目的




 この作戦は、急遽発案された。


 なんでも旦那が7年間探していたモノが見つかったらしいっす。それも7年前と同じ人間が側に居るときたもんだ。


 誘惑の匂いを発生させて、誘導しようと試みたが失敗したらしい。まぁ現状結果オーライにはなったっすけど。


 現状、俺はその探しモノを見ることはできないっす。だから、7年前と同じ人間の方を捕えることにした。


 それが『イロアス』と呼ばれるガキ。7年前、俺に深傷を負わせた気に食わないガキ。


 旦那が考案した結界内に留め続け、すぐに報告することが言い渡された依頼。その通りに俺はイロアスを留め続けた。そして伝達係の蝙蝠も飛ばした。


 本来ならばすぐに旦那がこの場に来て探しモノの有無を確認するはずだったのに、旦那は来ない。代わりに来たのは同じ眼を持つガキ。『青鬼』エナ=アソオス。


 この依頼で最も接触したくなかった、アナトリカ王国の師団長クラスのガキ。


 今の自分では勝算が薄い。旦那の到着を待ちたいが、このガキから発せられた言葉には流石に冷や汗をかくっすね。


 永久凍土スクピディアの氷を燃やすほどの魔力を持つ男。そんなの、アナトリカ王国のどこを探しても一人しかいない。


 『灼熱』リオジラ=プラグマ。この世界を守護する『七人の使徒』が一翼。


 そんな化け物が来ているのなら、旦那がここに来れないのも納得っす。


 旦那が来れないと判断するにはまだ少し早いから、少し頑張りますかね。ただその少しが経過したら、撤退っすねぇ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「うーん、厄介だねその転移。どうしようかなぁ。」


 エナとミストフォロウの戦闘が開始されてから、エナの防戦一方であった。そしてミストフォロウはイロアスとリアも同じように執拗に狙っている。この転移に現状適応できているのはエナとイロアスだけである。


 しかし、イロアスはリアを守ることに必死で、ミストフォロウに攻撃する術がない。


 未だ原理の掴めないミストフォロウの転移と、リアとイロアスの守護。これによってエナは防戦に陥っている。


 しかし、初見の転移を悠然と躱わすその戦闘センスはさすがとしか言えなかった。


 「俺の転移は初見じゃ不可避のはずなんすけどね。いくらガキどもから教えられていたからって、簡単に躱せるもんじゃないっすよ?あんたもなんかしてるっすよね?」


 「さぁ、何してるんだろうね。」


 「まぁ見当はついてるっすよ。風っすよね?」


 まさにその通りであった。エナは周囲の風を操る、風の属性を持つ。周囲の風の揺らぎを感知し、転移を悟る。悟った後の対応は、エナの持つ圧倒的な戦闘センスである。


 この若さで、師団長にまで上り詰めた才能であり、これは圧倒的な身体能力を持つイロアスですら及ばない。


 「正解〜!じゃあ僕も君の転移についてわかったことを発表しようかな。」


 「なんすか?」


 常人なら幾度となく死んでいる、そんな攻防の果てで、二人による問答が開始されている。


 「君の転移が上空にある日輪が関係しているのはみんなが承知の上だ。だが、そこからがどうにも腑に落ちなくてね。」


 「腑に落ちないっていうのはどういうことっすかね。」


 「そこにいる『朱姫』のように、自分の魔力が及ぶ範囲内に転移するのが普通なんだけど、どうにも僕たちには君の魔力がくっついているとは思えない。なら、その日輪は君の転移魔法の補助をしているんじゃないかい?いわば結界のような役割を果たしていると、そのように考えればどうだろうかね。」


 「それで?」


 「もし君の転移が日輪によるものだったら、君の転移はこの日輪が及ぶ全ての範囲になるべきだ。」


 「・・・」


 「それなのに君が転移する場所は常に僕たちの周囲のみ。さらに言えば、その転移に対応している僕や彼の反撃を君は転移で躱わす事なく受けるか避けるか。転移でよければいいところを、無駄な動きと言わざるを得ない。ならば、君が転移できるのは僕たちの周囲のみだ。」


 その言葉の真意を、リアとセアは察する。


 「日輪は炎属性、そして纏っている雷は言うまでもなく雷属性。雷は転移に関係していないことはわかるけど、その理論なら・・・」


 「その通りだよ、『朱姫』。これは日輪による炎属性の転移ではないと言うことだね。」


 それならばと、わかったかのような表情を浮かべるリアに対して、口封じをするかのようにミストフォロウがリアの元へ転移する。


 しかし、リアは側にいるイロアスによって守られている。攻勢には出れなくても、守るだけならできる。


 「今までアタシたちは、炎と雷の二つの属性だと確信して転移について考察していた。でも、それが間違っていたということね。」


 「その通り!さて、そこからずっと考えていたんだが、君が転移できる場所は僕たちの周囲だよね?そして日輪がその補助をなしているとしたら、答えは一つだ。」


 そこから先の答えは、イロアスも理解できた。ミストフォロウが転移している場所は、太陽によってより色濃く映し出されるモノ。


 「影だ。お前が転移できる場所は、俺たちの影。」


 そしてリアの元へ転移してきたミストフォロウに対して、その攻撃を防いだのは、イロアスではなく

リアであった。


 その答えが正しいかどうかは、リアが攻撃を防いだことで判断された。


 「ビンゴ!みたいだね!さぁ、反撃しようか、二人とも!」


 俺たちがずっと試そうとしてできなかったことを実践するときだ。


 この厄介な転移に対応する策は一つ。日輪を破壊すること。


 この誰もが思いつく日輪の破壊をできなかった理由は、転移に対応できないリアを守ることが必要であったからだ。それに力を裂き、日輪にまで手が及ばなかった。


 しかし、先ほどリアが自分の身を自分で守り切った。それが反撃の合図であった。


 「『朱姫』、イロアス!日輪を破壊する。3方向から攻めるぞ!」


 エナの合図で、日輪に向かって3人が飛ぶ。ミストフォロウがそれを防がんと、3人に転移しながら攻撃を繰り返す。


 しかし、その3人すべてが、ミストフォロウの転移に適応し、攻撃を防ぐ。そして各々の全力で、日輪に向けて魔力を放出した。


 「焼尽桜花(しょうじんおうか)

 「澎湃(ほうはい)

 「颶風災禍(ぐふうさいか)


 リア、イロアス、エナの魔法が日輪を破壊する。


 天高く飛んだリアに対して、日輪を破壊されたミストフォロウが、魔法を放つ。


 「火雷の剣(スルト)


 その威力は、空中にいるリアにはなす術もないほどの威力であった。


 ミストフォロウは依頼に忠実であった。今回の依頼は、結界内にイロアスを留めておくこと。そしてもう一つ、『灼熱』の地位を継承しうる可能性のあるリア=プラグマの抹殺。


 この時点でエナを仕留めると、ミストフォロウの生存率は高い。しかし、この一撃ではあの『青鬼』を仕留めることは叶わないことを知っていた。


 故にミストフォロウが狙ったのは、リア=プラグマ。


 しかし、ミストフォロウは日輪が破壊された時点で、そこから撤退するべきだったのだ。


 先ほどからリアを守り続けていたイロアスですら、空中ではなす術なく落ちていくだけであった。しかし、そうにかあがこうと、魔法を放ったミストフォロウに向かって、イロアスは最大限の魔法を放つ。


 それをさせまいと、ミストフォロウはイロアスの背後に現れる。


 「空中には影ができないとでも思ったすんか?まだ魔法に未熟なガキに魔力をくっつけといて正解っすね。」


 空中によって防御不可能なリアと、空中で囚われたイロアス。


 これが地上であったなら、エナ=アソオスに助けられてしまうだろうけど、空中ならばそうはいくまい。


 「返してね?犯罪者くん?」


 空中にいようとも、関係などなかった。その強烈無比な蹴撃が、ミストフォロウの仮面に入った。地上に向かって加速度を持って落下するミストフォロウは、地面に強く打ち付けられる。


 イロアスがリアを心配する。しかし、その心配など無用であった。すでにエナによって抱えられ、手の届く範囲にいるリアと目が合った。


 「僕は風そのものなんだよ。空中にいようがいまいが、僕には関係ない。」


 イロアスとリアを抱え、優雅に地面に着地したエナは、二人を降ろし、戦闘体制に入る。


 地面で待っていたセアも、エナが不意に見た方向を見つめる。そしてふらふらとエナのそばにつく。


 「さて、ここに向かってくるすごい勢いの2人をどうしたものかな。」


 「エナ=アソオス、未だに目的がはっきりしていないのだから、守るべきものはわかってるわよね。」


 「もちろん、あなたが案内した対価は払うつもりだよ。精霊さん。」


 エナをここに連れてきた精霊セアは、その姿をエナに見せざるを得なかった。その案内を頼んだのは他でもないイロアス自身であったが、セアが他の人と話しているその光景が、なんとも言えない不思議な感覚であった。


 セアは他の人には普通見えない。


 はずなんだ。


 飛んできた異物が、そのイロアスの常識を覆す。


 「精霊、みーつけたぁ。」


 「え?」


 エナの恐ろしい戦闘センスによって、セアに伸ばされた悪手を弾く。


 彼らは誰も、敵の目的を知らない。リアの命が狙われていること、イロアスが目的に沿っていること。しかし、肝心な本当の目的を知ることはなかった。


 『目に見えないもの』


 その目的の正体は、その伸ばされた魔の手によって判明する。


 「お前も見えてるとはねぇ、『青鬼』。」


 「狙いはまさかとは思うけど・・・」


 精霊セアこそ、敵の目的そのものであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ビザル森林の東地点。


 今宵の最大の戦闘が行われていた。


 『灼熱』vs『魔王』


 その果てしない攻防を見守る観戦者はいない。オル=パントミモス、ゼモニコス=ポルタ率いる騎士は、すべて巻き添えを喰らわないように撤退済みであった。


 それは優れた判断である。もし呑気に観戦などしていたものなら、太陽がごとき熱に灼かれているか、夜の闇の如き黒に呑まれているかであっただろう。


 「黒衣の星雲(ナハト・ネビュラ)


 質量を持った黒い雲が、地面を削りながら速度を持ってリオジラの元へ迫る。


 「赫々空蝉(かっかくうつせみ)


 その黒き雲を焼き尽くし、ましてやその勢いのまま大地を焼く。


 『魔王』は黒い翼をその背に生やし、上空に飛び立つ。リオジラは腰に刺さっている剣を抜き、魔力を込める。


 「それが噂に聞く赫刀かいぃ?その断面は切ったというよりかは、溶かすに近いと言われるほどの熱が込められた剣。」


 「喰らってみるか?」


 その言葉を実践するかの如く、『魔王』に向かって飛び、剣を振り払う。『魔王』はそれを躱わすが、残像のように炎が残り続ける。


 その技はまるでリアがミストフォロウに向けて放った技と同じであった。


 だが、完成度は歴然の差であった。


 「紅蓮落花(ぐれんらっか)


 あまりに早い剣速によってできた美しき花は、『魔王』の近くで、爆発という名の散開をする。


 そのような激闘の末、二人は森の方で発せられる三つの大きな魔力に気づく。


 それは、イロアス、リア、エナの3人で日輪を破壊した力であった。それによって、『魔王』は自身がミストフォロウに渡した結界が破壊されていることに気づく。


 そして勘繰るのだ。あれはエナ=アソオスが見つけられるものではない。認識阻害を付与した結界を見つけられるとするならば、それは・・・


 「そこにいるなぁ、確実にぃ。」


 そして『灼熱』を置いて動き出す。


 目的のために。


 一瞬戸惑った『灼熱』もすぐに後を追う。


 そして、ついに見つけたのだ。7年間探し、つい最近王都にてその姿を捉えたモノ。


 精霊を。



 

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