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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章16話 戦況を変える者




 突如として瓦解した結界。


 そして悠然と現れた『青鬼』エナ=アソオス。


 イロアスは、エナがここまで辿り着けた理由を、なんとなく察する。


 それは、彼の背後のピッタリくっついていた、精霊がいたからだ。


 「ロア!約束通り連れてきたわよ!」


 「遅かったじゃんか、結構待ったんだぞ。」


 そして、戦場は終局へ向かう。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 イロアス、リア、ミストフォロウの前に現れた男、エナ=アソオスの姿は、血に塗れていた。その姿から、激しい戦闘が行われたことはわかったが、何と戦ったのかはわからなかった。


 しかし、ミストフォロウはそれを把握していた。


 「3体いたはずなんすけどね。やっぱり相手にならないっすかね。」


 「いや、そんなことなかったよ。十分めんどくさい相手だったさ。」


 その会話の最中、セアがイロアスの元に寄る。


 「本当に大変だったんだからね!あいつやばすぎ!見つけれても早すぎて見失うし、竜種3体を一気に相手取るし!規格外だわ!」


 うるさい割には随分と疲れた様子のセアがイロアスの文句を言う中で、聞き流せない言葉が聞こえた。


 「竜種・・・?」


 その言葉を聞いたリアが、驚嘆し、エナを見る。


 「竜種を3体相手にしてきたの・・・」


 竜種とは、魔獣の上位に存在する神獣ファフニールの劣等種である。しかしそのどれもがファフニールの血を持ち、その恩恵を受けている。


 そこらの魔獣とは比べ物にならない。ましてや、このスクピディアに存在する『モナクシア』の名を冠する魔獣たちですら、絶対に勝てるはずもないほども魔獣。


 「奴らはこの島の恩恵も受けさせたんすけどねぇ。」


 「あぁ、だからいつもより強かったのかな。この島は本当に異常だね。」


 その異常さを上回っていると、竜種の強さを知るミストフォロウ、リア、セアは思う。


 イロアスは、別の異常さを感じ取った。


 「結界が無くなったのに、周りの音が聞こえない。」


 その異常に気づいたイロアスの言葉で、ミストフォロウは、異変があったとみられる東の方向をむく。


 魔獣が行進し、蹂躙しているはずの東では、その魔獣の呻き声すら聞こえないほど静寂であった。そして代わりに、その静寂を荒らしているのは、燃え盛る炎であった。


 「何が起こっているんすか。」


 「それは簡単だよ。この永久凍土の氷を燃やすことができる人なんて一人しかいないでしょ。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 それは、結界内でミューズとフェウゴが必死に時間を稼いでいる時まで遡る。


 場所は東のビザル森林の端。


 そこに居合わせたのは、アストラ=プロドシア、サン、カンピア=ミルメクス、そしてその他の受験生、それらを引率する騎士団の数名。


 絶え間なく進行してくる魔獣の軍団に、各々の全力で迎え撃つ。3体の竜種に突破を許したが、その他の魔獣には一歩も引かずに前線を保っていた。


 その最たる功績は、やはりエナが認めた未だ魔石を所持している2人、アストラ=プロドシアとサン。この両名と、歴戦を飾る騎士団がこの魔獣の進軍を止めていた。


 そして隠れた功績者として、他の受験生を統率するカンピア=ミルメクス。


 さらに、さらに東で結界を張り、魔獣の進軍が一気に流れ出ることを阻止した騎士ゼモニコス=ポルタがあげられる。


 これらの活躍により、歯止めがかかっていた進軍に、一つだけ、圧倒的な力があった。


 「おいおい、いくらなんでもこれはよぉ・・・」


 「うん・・・多すぎる・・・」


 徐々に崩れていくのは、やはりエナに即座に捕まった受験生の軍団。


 そして、一山崩れれば、全てが崩壊する。


 「まだ立つのである!絶対に倒れてはならぬ!」


 カンピアの鼓舞も虚しく、一人、また一人と倒れていく。魔獣は倒れた人間になど気にも止めずに、進軍を続ける。


 「・・・っくそ!崩壊しやがった!」


 「・・・」


 魔獣の進軍が森に差し掛かるその瞬間、誰もが諦めたその瞬間、天上から救いが落ちる。


 「玉蜻光芒(たまかぎるこうぼう)


 天上から、熱を帯びた幾重もの光が、魔獣を貫く。貫かれた後には、焦げ跡があり、煙が立つ。それほどの熱量を帯びた光。


 それは誰も知り得なかった、何者かの参戦を意味する攻撃。


 その場の全員が天を仰ぐ。そこには、さらに東に向かって一筋の煙が伸びている。


 「あのお方が来てくださったか。」


 その場にいた騎士が、そう呟いた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 天から、魔獣の軍に向かって、数百という光が落ちる。その熱を帯びた光が、魔獣の進軍を止め切った。


 そして、天に描かれた一筋の筋雲が途切れた先は、ビザル森林の東地点。


 オル=パントミモスと、『魔王』が激突するその地点。


 しかしすでに時は進み、ゼモニコス=ポルタ率いる数名の騎士が参戦し、『魔王』はその場にとどまり続けていた。


 時同じくして、数匹の蝙蝠が、『魔王』の元に到着する。


 『魔王』は姿を見ただけで、それがミストフォロウから送られてきた蝙蝠であることに気づく。この地で、伝達役が欲しいからという理由で、自分の支配下に置いた蝙蝠。


 それの到着が意味することは一つ。


 『目的に接触したこと。』


 そして、もうこのお遊びで退屈を潰さなくていいのかと思うと、笑みが溢れてしまった。


 「何を笑っているのでござるか・・・!」


 「ウチがあんたを逃すとでも思ってるのかい!」


 ゼモニコスの結界に囲まれる『魔王』。


 「あらぁ、確かにいい結界だぁ。僕も結界の研究してるんだけど中々難しくてねぇ。」


 そう言いつつ、何か黒い力で結界を埋め尽くし、結界が瓦解していく。いや、崩れたわけではない。これは、


 「結界が溶けた・・・」


 「僕の魔力はちょっと特殊だからねぇ。じゃあ、時間だからぁ。バイバイ。」


 結界の溶かした、強大な黒い力がその場の騎士団を襲う。


 だが、それは一瞬の闇であった。


 「全てを飲み込む闇そのものか。ならば照らしてあげれば良いかのう。」


 闇が、太陽によって照らされる。そして太陽が昇る天に、一人の姿が映る。


 黒い服を着た、どこかの家の執事のような格好の黒髪の老人がそこにはいた。


 「プラグマ家の執事がなぜここに。」


 オルからすれば、その執事は、飛行船に乗るその際まで、リア=プラグマのそばにいた執事。だがそれはおかしい。この魔力、この規格外。これはまるで、


 「これはこれはぁ。君が出てくるほどじゃないと思うんだけどなぁ。」


 「ほっほっほ。『魔王』が出てくるならば儂が出ても不思議ではあるまい?」


 「僕が出るとどうしてわかったのかなぁって思ったけど、そうか、プラグマ家に君がいたのは誤算だったなぁ。」


 「おやおや、どうしてかのう。儂がプラグマ家にいても問題はなかろう?」


 「なるほど、君、もしかして気づいていたなぁ?」


 「いいや?部下の報告を受けて、警戒しただけじゃ。せっかく王都郊外に姿を見せてくれたのに、すまんのう。そっちには『聖女』様が向かわれたわ。」


 「それでこっちには『灼熱』が来たら世話ないなぁ。」


 天からゆっくりと、『魔王』と対等に話しながら降りてくる黒髪の老人は、地に着くと同時に炎にまかれ、その姿を変える。


 きっちりとした黒いスーツは、白いコートに代わり、黒い髪はやがて真紅の短髪に変わる。


 その炎は、狂気の熱を帯び、目の前の敵を焼けごかす勢いで、天に昇る。


 『七人の使徒』が一翼、『灼熱』リオジラ=プラグマの参戦である。

 

 「さて、目的もおおよそ見当がついておる。よってお主はここで仕留める。まぁ目的関係なく、仕留めはするんじゃがのう。」


 「へぇ、目的ってぇ?」


 「見えざるものじゃろう?あぁ、お主には見えるんじゃったなぁ。」


 「・・・今まで『使徒』との争いは極力避けてきたんだけどぉ・・・もういいよねぇ?『原罪』ちゃん。」


 『魔王』の全てを飲み込む闇に対して、『灼熱』の全てを燃やす炎。この両者の激突はまさに世界の頂点に君臨する者たちの戦いであった。






 現在のすべての戦況を把握する。


 飛行船には、捕らえた『単眼の死角』の構成員と、それを守る騎士が数名。さらに魔石に魔力を込めたミューズ=ロダ、フェウゴ=ヴァサニスが避難している。


 ビザル森林東部には、『灼熱』リオジラ=プラグマによって殲滅された魔獣の軍の残党の処理に、アストラ=プロドシア、サン、カンピア=ミルメクス、数名の騎士、94名の受験生が当たっている。


 さらに東部では、『灼熱』リオジラ=プラグマと『魔王』の対決。その2次被害を被らないように撤退するオル=パントミモス、『剛晶』ゼモニコス=ポルタ、数名の騎士。


 そして、ビザル森林西部にて、イロアス、リア=プラグマ、『青鬼』エナ=アソオスの3名と、相対するは『単眼の死角』首領ミストフォロウの戦いが繰り広げられていた。


 僅か10分後に、永久凍土スクピディアにおける、騎士団選抜試験で起きた大事件が、


 決着する。


 

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