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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章15話 重なる誤算




 「ミューズ!無事か!」


 先走ったリア=プラグマに追いついたイロアスが、戦場で血塗られた亜人ミューズ=ロダの元に駆け寄る。


 「ありがとう、イロアスくん。」


 「あぁ、俺のほうこそ、ありがとなミューズ。」


 彼はきっと分かってないんだろうな。そう2人のやりとりを覗くフェウゴ=ヴァサニスは思う。


 同じ十大貴族として、ミューズ=ロダを昔から知っているフェウゴは、彼の心情を理解しているつもりだった。


 亜人差別が熱を増すこの数十年の中でも、必死に差別をなくそうと奮闘するのに、心底では人間を信用しきれない亜人。


 それなのに、ミューズはフェウゴにこう語ったのだ。



 「信頼に応えたい。」



 今までのミューズなら、そんなことは言えなかっただろう。だからこそ、この光景はなんとも嬉しいものだと、そう思ってならないのだ。


 そしてその信頼が、イロアスにさらなる変化をもたらす。




※※※※※※※※※※※




 「フェウゴ=ヴァサニス、早くその怪我人と離脱しなさい。あなたも魔力切れでしょう。魔石は持っているでしょ。」


 ミューズとイロアスのやりとりに感動していたフェウゴは、突如名前を呼ばれ、その通りに動き始める。他ならぬプラグマ家の頼みを、ヴァサニス家の小心者は無碍にはできないようだ。


 「イロアス、早くなさい。まだ仮面の男は立っているわよ。」


 「分かってるよお嬢様。ここからはバトンタッチだな。ミューズ、ゆっくり休んでいてくれ。」


 痛みに耐えながら、イロアスの言葉に笑顔で返す。そしてフェウゴと共に、与えられた受験番号の書かれた魔石に魔力を込め、ミューズは戦線を離脱する。


 「たった2人で、俺に勝てるんすか?」


 「勝つ必要などないわ。時間さえ稼げればいいのよ。」


 「あぁ、もしかしてエナ=アソオスでも待ってるんすか?確かにその作戦なら今ここで立ち向かうのは合理的っすね。でも、残念っす。奴は来ないっすよ。」


 「なんで言い切れる。」


 「仕掛けはすでに施してあるんすよ。ここには来れない。気づかないんすか?もっと周囲に気を遣った方がいいっすよ。」


 「そうゆーことかよ。まずいなこれは。」


 リアよりも先に周囲の状況に気づいたイロアスが、この作戦が最初から成り立っていないことを告げる。


 「周りの音が全く聞こえない。」


 それはあり得ない状況であった。この島スクピディアが戦場と化してしまったことはエナのアナウンスによって知らされた。しかし、今も尚戦っているはずの魔獣の咆哮も、騎士の戦いの波動も、こちらには一切感知できていない。


 「結界ね・・・やってくれたわね。これじゃあエナ=アソオスはこちらを見つけられていないことになるわね。」


 この時間稼ぎの作戦はそもそも、エナとミストフォロウをぶつけるために実行したものだ。しかし、今となっては話がちがう。これではただの戦闘になってしまった。


 「・・・イロアス、魔石に魔力を込めなさい。ここから離脱するわ。」


 確かに、今現在戦う理由がない。確かにここでこいつを逃すわけにはいかないが、勝算がある訳ではない。俺たち二人の勝利条件は、今現在はここを離脱し、エナを探すことに変わった。


 そして離脱は簡単だ。魔石に魔力を込めるだけでいい。先ほどミューズとフェウゴが離脱できたところを見ると、この周囲に張り巡らされた結界は離脱を拒むものじゃない。


 だが、目の前の仮面の男はそれを逃すほど、甘くないことを知っている。


 隙を狙うかのようにミストフォロウがイロアスの目の前に転移する。


 理屈は全くわからないが、ミストフォロウはリアと同じように転移をすることを可能としている。転移してきた瞬間に、雷を纏った蹴りがイロアスを襲う。


 しかし、イロアスはなぜかそれを回避した。


 イロアスも原理はわかっていない。同じく原理をわかっていないミストフォロウだが、彼は先ほど同じ体験をしたばかりであった。


 十大貴族ロダ家の嫡男、ミューズ=ロダは先ほど初見の転移に反応してきた。


 同じことがイロアスにもできている。


 その困惑の一瞬で、イロアスは魔石を取り出し、魔力を込める。


 次に見た光景は、行きに乗った飛行船だと思っていた。


 しかし、彼の見える光景は、



 全く変わらなかった。



 その不可思議な状況に、今度はイロアスは戸惑う。そしてその隙を、ミストフォロウは逃さない。


 だが同時に、迷いなどするはずもないリア=プラグマもまた、イロアスを狙うミストフォロウの動きを感知していた。


 「紅蓮落花(ぐれんらっか)


 エナと対峙した時や、ミストフォロウとの初戦とはかけ離れたほどの実力を見せる。


 迷いが今はないことが確かにその原因に直結するが、理由はもう一つある。


 彼女が、ミテラと名の彫られた剣も使っていること。現在の彼女は、二刀流であることがその大きな理由である。


 彼女の紅蓮落花は、剣を振った残像が炎として残る。剣の振りが多いほど、その残像である炎は多く残る。それがやがて一輪の花のように成る。


 そしてその花が爆発し散開する。


 二刀流になると、単純に考えてその威力は、一刀流の時の倍である。それはミストフォロウが無視できぬほどのものであった。


 その一連の流れの中、3人は先ほどのイロアスの状況を考察する。


 「「「転移できていない。」」」


 理由は不明。現在考える余地はない。だが、この状況はミストフォロウにとっては好機であり、リアとイロアスにとっては最悪だった。


 無意味な戦闘の継続を約束されてしまった。イロアスは責任を感じ、少しばかり気を落とす。


 「しっかりなさい、イロアス。」


 その一瞬の気の緩みも許さないと言わんばかりに、リアはイロアスに語りかける。


 「離脱できないならやることは一つでしょうに。アタシとあなたで、奴を討つ。覚悟を決めなさい。死ぬ覚悟ではないわよ、戦う覚悟よ。」


 「いや、せめてリアだけでも離脱してくれ。」


 「ぶん殴るわよ。」


 そう言って頭をおもっきり剣の柄で殴られた。そのセリフは普通殴らないときに言うんじゃないのかと思いながらも、リアに撤退を進める。


 「アタシとあの人を引き合わせるのでしょう?こんなところでいなくなられたら困るのよ。早く構えなさい。あいつも何かを待っているようだしね。」


 確かにその通りであった。本来ならばこの会話もする暇もない猛攻があるはずだが、なぜかミストフォロウは攻めあぐねていた。


 それはミストフォロウの目的がイロアスではない何かであるから。


 リアは確かに聞いた。ミストフォロウの目的は目に見えない何かであると。そしてそれはイロアスに関係しているのだと。


 そしてミストフォロウは、それが何かは誰にもバレていないことを確信している。


 しかし、予定ならば()()はもうここにきているはず。向こうにも何か予想外の事態が起きているのか・・・


 こちらも多少のトラブルと幸運に見舞われたが、イロアスを捕らえることにはすでに成功している。この簡易結界には内と外両方に認識を阻害する効果を持つ。


 この結界内にイロアスを()()()()()()()が仕事である。


 そう、これはあくまで簡易結界なのだ。旦那からもらった魔法具を展開したに過ぎない簡易結界。


 結界を相伝としている十大貴族ポルタ家のように、阻むものではない。制約をつけた簡易的な結界。その制約は、


 『すべての生命の出入りを可能とするが、その結界内にいるものに対する認識を阻害する』


 この結界を発見できるのは、この結界を作った旦那以外あり得ない。この中にイロアスを留め続ける限り、厄介な敵からの手助けはあり得ない。それが例え『使徒』であったとしても。


 ・・・もう少し仕事をするか。部外者であり殺害対象であるリア=プラグマを殺そう。そして、旦那を待つ。


 明らかな目的を持って姿勢を整えたミストフォロウに2人は反応する。


 天上の日輪が、結界内にいる3人を照らす。


 雷を纏い、ミストフォロウが再びなんの前触れもなくリアの背後に現れる。それに瞬時に呼応するイロアス。


 現れることを読んでいる訳ではない。現れた瞬間に、超反応とも呼べる反応速度でこちらに気づいている。


 やはりあり得ない。これはまるで、先ほどのミューズ=ロダと同じ力だ。


 そしてそれは、リアも感じ取っていた。彼女はロダ家の相伝の技術を知っている。


 それは、水魔法を応用した超反応である。しかしそれはロダ家だからこそ成し得る技である。なぜならこれは水魔法が使えるだけではできないのだ。


 ロダ家が亜人であるからこそ成し得るのだ。彼らが持つ聴覚がこの相伝の技の全てである。


 世界を凪いでいる海と捕らえ、その波紋を感知し、反応する。


 その波紋を生み出す行為は、多くは音である。音が波紋を生み出し、その発生源を感知し回避する。それが先ほどミストフォロウの初見殺しとも呼べる正体不明の転移からの攻撃を回避した種明かしだ。


 背後から突如として現れた音を感知し、回避した。しかしそれには、繊細な水魔法のコントロールと、圧倒的な聴覚が必要であり、ネタがわかったからといってできるものではない。


 しかし、イロアスはそれをやってのけている。しかもその反応速度はミューズを上回っている。


 そのネタがわかっているリアですら驚嘆している。何も知らないミストフォロウが、困惑するのも無理はない。


 しかし、ミストフォロウの転移の謎は、二人には全くつかめていない。


 上空にある日輪が関係しているのは間違いない。彼の魔法は雷と炎で確定だ。3種目を持っている可能性は確かに捨てきれないが、一人の人間が3つの属性を持っていると言うのは、あまりに例外的なのだ。


 世界で確認されているだけでも数人しかいない。この可能性はほぼ0と見ていい。ならば、一体どうやって転移している。


 その絶え間ない考察は、絶え間なくリアを攻め続けるミストフォロウとの戦いの最中に行われている。その考察する余裕を生み出しているのは、イロアスの功績があってこそである。


 そしてイロアス本人は、何か自分の知らない力が発揮されていることに不思議に思っていた。


 ミューズが離脱した瞬間、自分の体に何か流れる感覚がした。その感覚は、初めて魔法が使えた7年前にも感じた。


 先ほど、この力の使い方を、体で覚えた。おそらく今、炎以外の力が使える。


 試してみたい。この力の感覚を。


 力の奔流を、呼び起こす。


 剣を右手に持ち、炎の魔力を通わせる。そして、左手で、新たな力を宿らせる。


 ミストフォロウは7年前、その思いもよらぬ少年の力によって吹き飛ばされている。そして今回もまた、その思いもよらぬ力によって、吹き飛ばされるのだ。


 彼の左手から出た力は、大海を模る力。魔力を込められた左手から発せられたものは水であった。


 その大量の水がなす津波の如き波は、ミストフォロウを押し出す。


 「ちょっとあんた、水属性もあったの!?」


 「わからないけど、なんか使えたんだよ。」


 そのあまりに嬉しい()()であり、イロアスは歓喜の感情に包まれていた。しかし、相手もまた、7年前のあの事件の経験者である。


 ミストフォロウが流された先で、爆発が起きる。その熱量で、水蒸気が上がっている。その水蒸気の中から、流されたはずのミストフォロウが、残りの水を蒸発させながら迫ってきた。


 「本当にイラつくガキっすね7年前から。不意打ちばっかり狙いやがって。」


 水を蒸発させるために雷ではなく炎を纏ったミストフォロウが、イロアスに向かって近接戦を持ち込む。


 イロアスはさらに新たな力を試す。以前ミューズと試合したとき、ミューズの近接での戦闘は強かった。なぜか交わしづらいところに的確に拳を打ってくる。


 その技術が今、身に染みてわかった。


 人体の60〜70%が水でできている。その水を見極めるのだ。先ほど、ミストフォロウの転移を見極めたかのように、波紋を感知する。自分のうつ拳に対して、相手がどのように避けるのかを、体の波紋から推測する。


 その推測を感知した瞬間に、打つ方向をずらすのだ。だから交わしにくい。


 つまり近接戦では、イロアスが有利である。


 右手にもつスタフの名の彫られた剣が、ミストフォロウに傷をつける。リアがすかさず追い打ちをかける。


 的確なタイミングで、強く追い打ちをかけるリアの一撃は、ミストフォロウに着実にダメージを負わせる。


 侮っていたのだ。不意打ちだけではないイロアスの近接戦に、迷いを切ったリア=プラグマの戦闘センス。


 ミストフォロウは、強い魔法を使うわけにはいかない。あくまでも簡易結界だからこそ、自分の全力で魔法を使うと、結界の外にまで魔法が響く。


 それは、気づかれる恐れがある。いくら結界の効果があるからといって、やつなら気付きかねない。


 だからこそ、ミストフォロウは全力を出せずにいた。


 しかし、その気遣いは無用であった。


 気づかないだろうという、その慢心が、誤算を生む。


 ミストフォロウは、異変に気づいたのだ、突如として起こった異変に。


 結界の瓦解。


 外からの力によって、結界が崩れ落ちたのだ。


 「あり得ないっすよ・・・どうやってここがわかったんすか。」


 「それは内緒だよ。だいぶ時間がかかってしまったけど、ちゃんと生きてるね。さすがは僕の見込んだ若葉たちだね。」


 それは待ち望んでいた出会いだった。この人を待っていたのだ。憎き紺碧の眼を宿す、青い鬼。


 エナ=アソオスが、ミストフォロウと対面する。


 そして、永久凍土スクピディアでの、思惑の外側の戦いは、終局へと向かう。




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