第1章14話 その歪みの正体
この戦いが、自身が臆病者でないことを証明するわけではない。
この戦いで証明されることは、自分に臆病者の血が流れていないことである。あの人の血が、本来の自分を上書きしているのだと、そう思ってならないのだ。
あの人が、頭から染み付いて離れない。それはあの翡翠の眼の臆病者と会ってからではない。
あの日、袂を分った日から、ずっとあの人が頭にいる。それはリアがわずか2歳の時の話である。
それと決別する。血すら許容しないほどの、決別を。
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向かい合う真紅の髪と、一つ目の描かれた白い仮面。両者共に実力者である。そしてそれを互いに理解している。しかし、
「憂さ晴らしとは、言ってくれるっすね。」
「どいつもこいつも邪魔なのよ。アタシは弱くない、あの人の血なんて流れてない!」
剣を抜き、炎を纏う。それは美しく、鎧の形をへ変貌する。
「丹花の鎧」
それは美しい朱色の戦姫。人呼んで、
「『朱姫』リア=プラグマ・・・噂に違わぬ美貌っすね。でも、その美しさとは相容れぬ程の殺意。・・・歪んでるっすね。さすがは血塗られた一族っす。戦うことしかできない一族。」
歪んでいる。その言葉が妙に頭が引っかかる。そして、妙に怒りを覚える。
その歪んだ感情と共に、炎を纏った剣を振るう。振るうたびに炎が弧を描き、花弁のように空に留まる。それが何枚も重なり合い、まるで美しい炎の花のように模る。
それを無情にも、雷を纏った脚が枯らす。そして花弁散るその激突の中で、2人は探り合う。
「目的は何。」
「目的はそうっすねぇ・・・目に映らないものとでも言いやしょうかね。」
その意味深な言葉を考慮する戦姫に、轟音と共に天上から雷が落ちる。間一髪剣で受け止めるが、ミストフォロウの攻撃の手は緩まない。しかしリアも負けじとそのどれもを紙一重で躱わす。
しかしその猛攻に堪らず一度身を引くリアに、天上から再び落雷が降る。そして再び距離を詰められ、またしても防戦一方に陥る。
そのあまりにも防戦をする名家の娘に対して、がっかりしたように仮面の男は語る。
「プラグマ家って言うから期待したんすけどね。なんか、大したことないっすね。」
「・・・!黙れ!!」
迷いがあるからこそ、安い挑発に乗ってしまう。
大きく炎を纏い、大技を出そうとする。なんて滑稽だろうか。そのあまりに大きい隙をいったいどうして見逃すことができるだろうか。
雷光の如き速さで、瞬く間に距離は詰められ、愚かな迷う子は吹き飛ばされる。
「出会った時からずっと何かに迷い続けてるっすね。攻撃にくだらない感情が上乗せされてブレブレっす。」
そうだ、アタシは戦いに集中できていないんだ。わかっている、いつもの調子が出ていない。
本当に憎たらしい、あの翡翠の眼の臆病者め。厄介ごとを持ち込んで、なんでアタシがこんな目に・・・。
「やっぱプラグマ家はもうあの爺さんワンマンチームっすね。家出した娘とこんなに弱い孫なんて、恵まれなかったんすね。」
その言葉は、あまりにもリアを侮辱する言葉であった。
この国のトップである十大貴族。その中のトップであるプラグマ家はこの国の王家と肩を並べる、アナトリカ王国の最高峰である。
代々『灼熱』の名とその力を継承し、その地位を揺るぎないものとしてきた。当代『灼熱』リオジラ=プラグマは、たった一人の娘にその地位を継承せず、現在まで自身でその力を最前線で振るっている。
今のミストフォロウの言葉は、その伝統ある名家を侮辱する言葉である。
しかし、今リアを刺激したのはプラグマ家の名誉などではなかった。
「アタシを、あの人と同じにするなぁぁ!!」
家をでた臆病者と、肩を並べられる屈辱。それだけしか、彼女の耳には届いていなかった。
激情に身を任せて強くなる。
そんなことはあり得ないと、それを最も知るのは、何よりも強さを求め、この国の頂点に立ち続けた名家である。
幼少の頃から魔力を発現させ、その扱いを学び、剣技を極め、戦の心得を学ぶ。
感情で強くなるなど、夢物語だ。強者ほどそれを弁えている。
故にプラグマ家では、常に冷静であらんとせよと教えられる。
しかし、今のリアは、ただ感情に身を任せた、愚か者である。そして、生憎だが、目の前の仮面の男は紛れもない強者である。
激情の炎を身に纏い、ミストフォロウ相手になんの策略もなく突っ込んでいく。それを簡単にあしらわれ、今度こそ、強く雷を纏った蹴りを真正面から腹に喰らう。
背後の木に背中を強く打ち付ける。それほどに強く吹き飛ばされた。受け身はイマイチで、内臓にダメージが入る。
「一応プラグマ家ってことで見かけたら殺すように命を受けてるんで、まぁ、悪く思わないで欲しいっす。」
そう言って、ミストフォロウは雷で槍を模し、リアの脳天に狙いを定めた。
「雷槍フリューナク」
目の前が明るい。お腹が痛い。口の中で血の味がする。
アタシは、アタシは弱い。
証明されてしまった。アタシは、あの人の血を引いている。その最も忌むべきことが証明されてしまった。
悔しい。ただその感情だけを抱き、雷が迫る。
あぁ、明るくて眩しい。
目の前の仮面の男が、手にしている雷槍をこちらに投げる。
その時、眩しかった目の前の光景に、影が割り込む。
槍はアタシの目の前の影によって止められ、その衝撃波だけが伝わってきた。
「間一髪か!」
「案内ありがとう!」
「い、いえ、お、お二人ともすごいです!あ、あれを受け止めるなんて!」
あぁ、アタシは助けられたのか。
喧しい小心者と、忌み嫌う亜人と、最悪の出会いである、最悪の臆病者に。
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助けられたくなどなかった。臆病者と亜人になんかに。
「大丈夫ですか、リア嬢。」
「だ、大丈夫ですか?」
亜人ミューズと小心者フェウゴの心配の言葉を跳ね除け、リアは真っ先に臆病者イロアスの胸ぐらを掴んだ。その感情はもちろん、感謝ではなかった。
しかし、怒りでもなかった。
言葉ではなんと言えばいいだろうか。この目の前の女の子の顔を、なんと表現したらいいんだろうか。
「アタシは、お前に助けられたくない。だって、お前はあの臆病者の子だから。アタシは臆病者の子なんかじゃない・・・ミテラの子なんかじゃない!あの人の血なんて継いでない!アタシは、お前の手なんかには頼らない!!」
薄々勘づいていた。俺は、ずっと重ねていたから。
美しい真紅の髪をしていたからではない。それにこいつには、あの人のような無償の優しさはない。でも、なぜか重ねてしまっていた。
俺の育ての親ーーミテラ=メーテールに。
「アタシは、ミテラの子なんかじゃない・・・。」
胸ぐらを掴み、怒鳴り、焦燥し、このなんとも言えない感情を目の当たりにして、ふと脳裏が揺らぐ。そうだ、俺はこの感情に心当たりがある。知っているんだ、この名前の付け難い感情を。
「危ない!」
リアとイロアスが突っ立ているところに、ミューズが抱き抱えるようにして攻撃から2人を守る。こちらの意に介さず攻撃してくる根暗な奴がいる。
「邪魔するんじゃないっすよ、亜人。その嬢ちゃんは殺さないといけないんすよ・・・ってあれ?お前・・・」
そう言った男が被る白い仮面は、見覚えがあった。
忘れるはずもない、7年前のあの日。この仮面の男はそこにいた。
「ミストフォロウ・・・!」
「やっと見つけたっす、会いたかったすよ。久しいっすね。」
こっちも会いたかったぜ・・・会いたかった?
「今なんて・・・」
「見逃してあげた7年前とは違うっすよ。今回の標的はお前っすよ、イロアス。」
俺が標的だと・・・?一体なぜ・・・。
そう戸惑っているイロアスを無視して、ミストフォロウは口笛を吹く。
すると、いつの間にかミストフォロウの周囲を囲っていた数匹の蝙蝠が一斉に東の方角へ向かった。
なんらかの命令を下されたかのように、一斉に飛び立った蝙蝠を見て、嫌な予感がした。
「まぁ正確には違うんすけど・・・さて、プラグマ家の嬢ちゃんには死んでもらって、お前は一緒に来てもらうっす。」
そう言い、ミストフォロウは両足に雷を纏い、イロアスとリアに突っ込んできた。それをミューズが拳で受け止める。そしてフェウゴがすかさず紫のいかにもやばそうな液体をミストフォロウめがけてかける。
ミストフォロウはそれを回避し、4人との間に距離を取る。
どうやらこのまま4人を一斉に相手取るつもりなのだろう。いや、4人ではないな。今もまだ俺の服を引っ張っている、このどうしようもない感情に支配されてしまっている彼女は戦えないだろう。
その思考通りに、ミューズとフェウゴのみがミストフォロウ相手に戦っている。
S級犯罪者相手に数分稼ぐことはこの2人でも難しい。
それを承知の上で、イロアスは願う。
「ミューズ、頼みがある。」
「なんだい、悪いけど見ての通りの状況だ。手短に頼むよ。」
「時間が欲しい。」
「・・・任せてよ、でもなるべく早くしてね。」
その言葉を聞いて、イロアスはリアを抱えてその場を離れた。
ミストフォロウは逃さないと言わんばかりの脚力で追いかけようとしたが、ミューズに阻まれてしまった。
この状況、リア嬢を置いて僕とフェウゴくんとイロアスくんの3人で戦っても、おそらくは負ける。あくまで僕たちはエナ師団長が来るまでの時間稼ぎだが、そのための時間を稼ぐにはリア嬢の力が必要不可欠だ。
イロアスくんはリア嬢を立ち直らせるために、僕に時間を稼ぐように頼んだ。
・・・いや、違うな。
今のイロアスくんにはこの戦況のことをもう深くは考えていないだろう。きっと彼は、ただ目の前の困っている彼女を見捨てられなかったんだ。
諦めてそっとしておくことだって選択肢の一つだ。彼女自身の力で立ち直らせることも選択肢の一つ。
臆病者と罵られているんだ、見捨てるのも選択肢の一つだ。
3人でもいいから時間を稼ぐために立ち向かった方が勝算は高い。それでも、彼はリア嬢を優先した。
僕たちが2人で持ち堪えると信じて。3日前に出会った亜人の僕と、さっき道すがら出会ったフェウゴくんに信頼を置いた。
その信頼が、僕は嬉しい。
なんとも心地よいのだろう。彼の言葉はまっすぐで、彼の眼は亜人を見ていない。
僕を、このミューズ=ロダという個人を見ている。
ミテラ叔母さんを知るものとして、リア嬢が亜人を憎悪する理由を知るものとして、今のリア嬢を立ち上がらせることは難しいだろう。
それでも、期待してしまう。イロアスくんならと。
亜人差別の現実を目の当たりにしてから、人を心底では信じられなくなった僕は、たった3日で彼をここまで信頼している。
「フェウゴくん、イロアスくんの信頼に応えたいんだ。力を貸してくれるかい?」
「う、うん・・・ミ、ミューズ様がそんな眼をするの初めて見ますから・・・が、頑張ります。」
白い仮面の男は、雷を全身に纏い始める。
「こっちも時間がないんす、悪いっすけど、さっさと終わらせるっすよ。」
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ミテラ叔母さんの名前は、ミテラ=メーテールである。孤児院にいたとき、ミテラ叔母さんは確かにそう名乗った。
しかし、リア=プラグマは確かに言った。
「アタシは、アタシは・・・ミテラの子じゃない!あの人の血なんて継いでない!」
この言葉から推測されるに、リアは自分に流れている血を嫌っている。プラグマ家の血という意味ではない。
自分に流れるミテラ=メーテールの血を憎んでいるのだ。
ここから推察される事実はただ一つ。この子の母親の名前は、
「ミテラ=プラグマ。それが、ミテラ叔母さんの本当の名前であり、お前はミテラ叔母さんの子なんだな。」
なんとも悲しい話だろうか。
自らの母を臆病者だと罵り、彼女はその血すら憎んでいる。
「アタシには母はいない。あの人は、アタシの母じゃない!あんな臆病者なんかが、アタシの母の訳がない!」
そう、アタシは、あの人の娘なんかじゃない。アタシは臆病なんかじゃない。
「プラグマの名に連ねながら、最愛の人の仇すら討とうとしない、あんな人・・・アタシは認めない!」
なんて的外れなのだろうかと、そう思ってしまった。
「どいて、まだあの仮面のやつと決着がついてない。」
イロアスはどかなかった。どく訳がなかった。
「決着をつけるべきは、そこじゃない。」
「・・・どきなさい!戦場にも出れないのか、この臆病者め!」
「臆病者はお前だ!」
「・・・!アタシは臆病者なんかじゃーー」
「お前は!この話から逃げている臆病者だ!母から逃げている臆病者だ!」
そうだ、リア=プラグマは臆病者だ。
母を全否定し、自分の感情を歪めている愚者。何があったかは知らないが、彼女はミテラ=プラグマを臆病者と罵り、否定している。
しかしそれは否定であって、憎悪ではなかった。怒りに近い感情を抱きながらも怒りではない。ましてや、嫌ってすらいない。
このなんとも言えない感情を知っている。この表情を知っている。
7年前、全てに絶望し、全てを恨んだあの日の俺のようだ。
だからこそ知っているのだ。
リア=プラグマは求めている。血を恨み、拒絶する。そこになんの意味もないことを知っているのに、そうせずにはいられない。
彼女は、待っているのだ。
「リア、君は・・・」
彼女が求めるものはただ一つ。
「・・・母の愛を求めている。ただ、家族の愛を求めているんだね。」
そう、彼女の求めているものは、家族愛だ。
7年前、俺がそうしていたように。
魔法が使えない自分の境遇を恨み、捨てた両親を恨み、祝福を授けなかった女神様を恨んでも尚、彼らからの愛を求め続けた7年前の愚かな自分と一緒だ。
何があったかは知らない。でも彼女はミテラ叔母さんに対して強い負の感情を抱いている。しかし、この彼女の歪んだ表情は、ただ全てを否定しているのではない。
心の奥底で、どこかで何かを求めている故の歪み。
答えは簡単だ。7年前の俺と同じなのだから。
彼女は、否定しているものからの、愛を求めている。
だから、歪んでいるのだ。
否定したものから、愛をくださいなんて、全くもって愚かな話だ。名家のお嬢様とは思えないくらい、なんとも子供らしい我が儘。
俺を臆病者と呼ぶのは、ミテラ=プラグマを臆病者と罵っているからだろう。あの人の子は自分ではなく、イロアスという孤児なのだと、そうやって否定していたのだ。
臆病者の子は臆病者なのだと。アタシは臆病者じゃないから、あの人の娘なんかじゃないと。
そうやって、否定してきた。何かと理由をつけて。全くもってバカな理由だ。
それでも、彼女は愛を求めている。ただ一人、臆病者の母からの愛を。
そして、当人も心の奥底ではそれに気づいている。だからこそ、彼女は何も言えず、ただ沈黙する。しかしその表情はやはり、
歪んでいた。
泣きそうで、恨めしそうで、やっぱり悲しい、そんな顔。
「リア、君とミテラ叔母さんの間に何があったのかなんて知らない。でも、あの人は、君を想っているよ。」
「嘘をつくな!あの人は家族を捨てた臆病者だ!今更アタシには何も想っていない!だから孤児院を開いて、子どもに囲われて喜んでるんじゃない!」
「じゃあなぜ、自分の名を彫ってある剣を渡したんだ。」
リアは再び、あの顔で沈黙する。
この沈黙は、彼女の答えなのだ。否定するための言葉が思い浮かばないが故の沈黙。
「・・・あんな剣・・・あんなもので・・・」
「ならなぜ君は、この剣をここに持ってきたんだ。」
そう言って、イロアスがリアに差し出した剣は、リアが数刻前に捨てた剣。ミテラの名が彫ってある剣。
リアはその剣を受け取れずにいた。迷いある顔。迷いある震える手。
その迷っている最中、近くで轟音が鳴り響いく。恐らく、そろそろ限界だろう。
「リア、俺はミューズたちの元に戻る。もう時間がない。だから、最後に聞いてほしい。俺はきっと、君の歪みを解くきっかけにしかなれない。それでも、俺は君を救いたい。だから、今はここを乗り越えよう。」
そう言って、イロアスは再び剣を差し出した。
「この危機を乗り越えて、あの人に会おう。」
「何言って・・・なんでアタシが・・・」
「話し合わないと解決なんてしない。俺がそのきっかけになろう。だから、今はもう迷うのはやめろ。」
「・・・」
「言いたいことがあるのなら、全部ミテラ叔母さんにぶちまけちまえばいい。だから、今はこの危機を乗り越えよう。もしここで全滅なんてしたら、それこそお前は臆病者のまま死ぬことになるぞ?いいのか、それでも?」
「・・・あんた、最悪ね。」
「お前の力が必要なんだ。見せてくれよ、名家の力ってやつ。」
リアは、イロアスの差し出した剣を手に取った。その顔は、今はもう歪んではいなかった。
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ミストフォロウは手こずっていた。
実力差は必然。自らの方が圧倒的な力を持っている。経験も豊富。負ける要素はまずあり得ない。
しかし、彼らを相手に、10分以上の足止めを喰らっている。
この亜人は、こちらの動きをかすかに読むような動きを繰り出している。原理は不明だが、間違いなく自分の行動を読んでいる。そして的確な場所にしか攻撃をしてこない。
もう一人の紫色の髪のガキが最もうざい。当たれば自分もタダでは済まない一撃を持っている。正体は毒だ。
闇の魔法で毒を生み出すことはできるし、おそらく初級と言えるほどのもの。しかしこのガキの発する毒は圧倒的な致死毒だ。
この毒は知っている。十大貴族のヴァサニス家の得意とする魔法。
ヴァサニス家とは、アナトリカ王国の犯罪者を収容する刑務所の番人である。囚人は絶対にそこから出られない。それはヴァサニス家秘伝の毒魔法があるから。触れれば即死。この毒のおかげで、この刑務所は何百年も脱獄者を出していない。
しかし毒だけなら良かったが、このガキはその毒に水魔法を応用して、攻撃範囲を広げている。
あまりに厄介だ。
そう、彼らも思っていただろう。まだ数分は凌げると。
しかし、ミューズとフェウゴは甘く見ていたのだ。ミストフォロウというS級犯罪者を。
「旦那が来るのが遅いから、しょうがないっすよね。」
その瞬間、雷を纏っていたミストフォロウの上空に、大きな日輪が発生した。
「やはりまだ隠し持ってたか・・・」
「か、雷と、ほ、炎魔法だね。ま、まだ対応できる。」
「それは甘く見過ぎっすね、ガキども。」
その声はミューズの背後から聞こえた。
その声と同時に、ミューズの脇腹は雷の槍で貫かれた。
「なぜだ・・・あり得ない。今目の前にいたはずだ・・・」
「種明かしはしないっすよ。どうせ死ぬんすから・・・って、本当に厄介っすね。今の攻撃すら致命傷を避けるなんて。」
「種明かしはしないよ・・・まだ、死なないからね。」
しかしその瞬間、ミューズの目の前に一瞬でミストフォロウは移動していたのだ。
死を悟る、しかし、信頼には応えた。
ありがとう、イロアスくん。
僕の信頼にも応えてくれて。
ミストフォロウは確実に亜人の目の前に移動したはずだった。しかし、次に気づいたときには、脇腹に痛みを感じ、近くの凍った木に吹き飛ばされていた。
何が起きたのかは、亜人の方を見れば一目瞭然だった。
そこに立っていたのは、自分と同じく転移してきたやつだった。
「立ちなさい犯罪者。まだこれからでしょう?」
そこに立っていたのは、それは美しい真紅の髪を靡かせた戦姫であった。




