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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章13話 心を躍らせろ




 ーー油断。


 情けない限りだ。咄嗟にヤロウとの隙間に結界を挟めたおかげで、致命傷には至らなかったが、しくじったな。


 吹き飛ばされた場所も悪かった。氷結した建造物に吹き飛ばされて、そのまま崩れ落ちてくれたおかげで、抜け出すのに時間がかかった。


 現場に戻ると、騎士団のほとんどが、『単眼の死角』の構成員を抑えていた。受験生には自分の結界が変わらず張っている。気絶しなかったおかげで、結界が維持できたのが幸いだ。


 ゼモニコスが戻ってから数秒後に、森林の中から風が吹く。


 「無事かーい、ゼモニコス。」


 「エナ。悪い、しくじった。」


 森林から爆速で戻ってきたのだろう。しかし手には複数の受験番号の書かれた魔石があった。そしてエナは現場の安全を確保してから魔石に魔力を込め、受験生を転移させた。

 恐らく結界が無くなったのを見て、すぐ転移させるのは危険と判断したのだろう。


 「安全が確保されたみたいで良かったよ。よくやった。」


 「だが『単眼の死角』の首領が単独で森の中に入って行った。狙いはわからんが・・・受験生は今ので全部か?」


 「いや、面白いやつだけ残そうと思って、多分後6人だね。それと、東の魔獣の大群には気づいているかい?あれは間違いなく人為的に作られた群れだ。」


 「なんだと・・・!東には、オルが30分以上前に調査に行ったきりだ!」


 「オルなら大丈夫かと思ったけど、そうはいかないみたいだね。」


 「どういうことだい?」


 「ここまで人為的に魔獣を操れるやつなんて、僕は一人しか心当たりないなぁ。ゼモニコスは複数の騎士を連れて魔獣の討伐をしながら東を目指してくれ。可能であればオルを連れ戻せ。不可能ならば、状況を把握してから即離脱し、僕の元まで戻ってこい。いいね。」


 魔獣をここまで高度に操るやつは、この世界のどこを探しても一人しか見当たらないだろう。


 「わかったよ、行ってくるぜ。」


 「あぁ、受験生の結界を解いてくれ。彼らは飛行船に戻すよ。」


 ゼモニコスは受験生を囲む結界を解き、複数の騎士を連れてすぐに東に向かう。恐らくこれから敵対するのは、魔獣の統率者ーー『魔王』。


 先ほどは・・・いや、言い訳だ。しかし次は守るべきものはいない。全力で挑まねば、恐らく命はない。

 それでもやらねばならない。騎士として務めを果たさねばならない。


 その覚悟を持った者のみが、騎士となることを認められる。


 「ーーさて、受験生諸君。現在僕たちは人手不足だ。手伝ってもらいたいんだけど、どうかな?」


 彼らは弱者だ。


 私は、僕は、俺は、弱者だ。


 試験を通して、目の前の惨状に足がすくみ怯える自分を見て、そう思わずにはいられない。

 手伝ってもらいたい?冗談じゃない。今すぐ家に帰してくれ。


 そう怒鳴りちらかせたのならば、どれだけ楽だっただろうか。


 いや、きっとこの沈黙という選択すらも、楽な選択肢なのだろう。


 彼らはそうやって、自分たちを卑下することしかできなかった。自分たちの目指したものは、遥かに遠く、気高いものであった。今も恐れずに立ち向かえない自分たちが、騎士になろうだなんて畏れ多かったのだ。傲慢であったのだ。


 この島に来てから、そう思い知らされた。


 彼らには、無茶な願いをするこの頭のおかしい試験官に怒鳴る気力も、勇気も無くなってしまった。


 その様子を見て、エナは無理だと悟る。このまま沈黙の時間を過ごしてもしょうがないし、鼓舞するのも面倒だ。


 「じゃあみんな飛行船に戻ってじっとしててよ。じゃあね。」


 「ちょっと待つのである!」


 エナは自分の発した命令の発言と共に、すぐに受験生に背を向け走り出そうとしていた。騎士として生きることを諦めた奴らには興味をすでになくしていた。


 しかし、エナを呼び止めた声は、確かにその集団の中から聞こえた。


 十大貴族ミルメクス家長男ーーカンピア=ミルメクスが、怒りに満ちた表情で、エナを呼び止めたのだ。


 「恥である!」


 そう、語りはじめた。


 「貴族として、ここで逃げるわけにはいかないのである!」


 そう、誇りを掲げた。


 「私はこの試験で無様を晒し、それからずっと、ここで朽ちている!十大貴族の名を背負うものとして、私は恥ずかしいのである!」


 そう、自らを語った。


 「我が友ヴァサニスと、天上の姫プラグマが未だここにきていないということは、今なお試験にのぞみ、その名に恥じぬ戦いをしているのであろう。私は、今ここで飛行船に戻り、安全圏に入って、一体どうしてこの国の頂点に立つ貴族として胸を張ることができるのであろうか!」


 そう、矜持を持った。


 「貴族じゃなくてもだ!貴様ら庶民は、ここで情けなく尻尾を振って逃げ惑うのか!なんのためにここにきたのだ!」


 そう、覚悟を問う。


 「貴族には、貴族の責務があるのである!ここで引くことを私の血が拒んでいるのである!貴様らは、なんのために騎士を目指すのだ!なんのために、この島に来たのだ!」


 そう、鼓舞する。


 「立って黙って剣を持つのである!それ以外に何が許される!私はいく!矜持を持つものだけついて来い!」


 そして、受験生の眼は変わる。更に、興味をなくし暗んだ紺碧の眼に、確かにその姿は光り輝く映った。


 そうだ、試験開始に38名の受験生を率いて、僕を襲ったやつだ。思い出した。


 そして同時に、称賛した。全くもって見事だと。


 この力ばかりはエナにはなかった。力を見て、エナの背中を見てついてきたのが今の第2師団である。エナは鼓舞せずとも、周囲が勝手についてきた。


 逆にそのカリスマ性はカンピアにはない。しかし彼の言葉には、何かの誇りがある。


 十大貴族ミルメクス家は、商人の家系である。800年前にスクピディア家が崩壊し、商人として十大貴族にまで上り詰めた家系。それ故に、貴族としてのプライドは高く、何よりもノブレスオブリージュを心に刻んでいる家系。


 地位の高さゆえに、恥じた行いなどできず、庶民に見せつけなければならない。自分たちは、貴族なのだと。栄えあるアナトリカ王国の十大貴族なのだと。


 この統率力は、全くもって見事だと言わざるをえない。それ故に、エナは自分の観察眼を少しばかり疑ってしまった。こんな面白いやつを、埋もれさせてしまうとこだったと。


 「あらかじめ言う。これから君たちには東の魔獣の進軍に正面からぶつかってもらう。残りの騎士全員と君たちで掃討する。死ぬかもしれない。それでもいいと思ったやつだけが、騎士についていき、魔獣の討伐に参戦せよ。いいね。」


 「了解である。団長殿。」


 カンピアを筆頭に、受験生全員が返答する。そして残っていた複数の騎士を先頭に、彼らは東の魔獣の群れに向かった。


 医療班と『単眼の死角』を捕縛している騎士はエナとともに飛行船近くに残った。

 そして騎士の一人からある魔道具を預かる。それはアナウンス用のスピーカーである。これを使い、森林に依然として残る6人の受験生に声をかける。


 面白そうな奴らを残してしまった。森の中にはS級犯罪者の首領。いくらなんでも彼らには荷が重いだろう。だが、こんな状況でも期待せずにはいられない。


 エナは騎士団の師団長を務める身としては、あまりに幼く、間違っている。

 明らかな人選ミスとでも言おうか。確かに力には問題ない。しかし、その性格から、いや、その種族の血の濃さから、戦闘を楽しまずにはいられないのだ。


 笑ってしまう。この状況を、強いやつと面白いやつに会えるこの状況に、笑ってしまう。


 この場での最適解は、残っている6人には魔石に魔力を込めてここに脱出するように指示をすることだ。


 だが、期待してしまっているのだ。もう止められないほどに、ワクワクしている。きっと、彼らなら面白くしてくれる。


 「あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。」


 期待を込めよう。せっかくの機会だ、この死地を乗り越えて見せてほしい。


 「現在結界は崩壊、森林の東からは魔獣の巨大な群れが押し寄せてきている。さらに悪いことに、森の中にS級犯罪組織『単眼の死角』の首領が彷徨っている。残る受験生は6人、正直今から君たちの安全を確保するのは難しい。だから僕はあえて、こう言わせてもらうよ。」


 息を大きく吸い、吐き出し、興奮を抑える。彼らに込める期待に、ドキドキが止まらなくなるのを必死に抑える。


 そして告げる。


 「心を躍らせろ。この死地を乗り越えて見せろ。僕は君たちに期待している。」


 さぁ、最後の試験だよ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 そのアナウンスは上空からは聞こえなかった。上空を漂っていたはずの魔道具を持っていた蝙蝠はすでにいない。

 明らかに森の外、遥か遠い森林の入り口付近から聞こえる。


 代わりに上空から聞こえた声は、イロアスにだけ聞こえる。


 「ロアー!!」


 「セア!」


 小さな精霊が上空から俺の肩の上に柔らかく落ちる。ミューズは急に誰かの名前を声高らかに宣言したイロアスに向けて困惑の表情をしている。


 「大変よロア、東に大量のーー」


 「わかってるよ、セア。今が佳境だろ?」


 「ならすぐに魔石に魔力を込めて脱出よ!S級犯罪者の相手なんて死んじゃうに決まってるわ!」


 「いやだ。」


 セアは思い通りの言葉が返ってこなくて、フリーズしてしまった。独り言を話しているイロアスの声だけ聞こえているミューズも、そのイロアスの返答に対して、さらに困惑した表情を見せた。


 「俺は脱出しない。」


 その言葉に過敏に反応したのは、今まさに会話しているセアではなく、イロアスの独り言だけ聞いているミューズだった。


 「イロアスくん!流石に無茶だ!『単眼の死角』は王国が何度も調査しても、15年間一切が謎に包まれている犯罪組織だ!その首領はこの国の団長に匹敵する実力者だ!」


 「なら、なおさら逃すわけにはいかないだろ。」


 「ロア!お願い!今回は危険すぎる!あなたはまだ騎士じゃない!」


 「そんなことわかってるよ、セア、ミューズ。でも、俺が目指すのは『英雄』だ。ここでそいつを逃せばまた被害が増える。それに、ここで逃げてただ指を咥えて見てるのは、絶対に嫌だ。」


 その力強いイロアスの翡翠の眼に、セアとミューズは黙ってしまった。


 「それに、何も俺たちだけで倒そうって言ってるんじゃないよ。」


 「どういうことだい、イロアスくん。」


 「俺たちには頼れる鬼さんがいるじゃないか。」


 最強の鬼ーーエナ=アソオス。彼がこの状況を覆す最大の鍵。


 今現状、俺たちの命を狙う悪鬼が一体追加されてしまった。それはあらゆる盤面を壊す最悪のジョーカー。

 このジョーカーは、鬼すらも敵で、あらゆるものの敵である第三陣営である。


 このジョーカーと拮抗できる唯一の手段は、最強の鬼とぶつけること。


 俺たちの役割は、


 「足止めだ。エナという鬼が迎えに来るまでの、時間稼ぎ。じゃなきゃ本当に、全滅まであり得るぞ、盤面の見えてない俺たちは、できる限りの最善手を打たないといけない。でもそれは逃げるための最善手じゃない。勝つための一手が必要だ。」


 狙いはわからないが、確実に殺しにくる。そんな気配が森の中から感じる。


 「セア、ごめんね。」


 「はぁ、まぁもうわかったわ。ロアが考えなしに動いてるわけじゃないってだけで私はその成長に満足よ。」


 「ところでイロアスくん、ちょっといい?」


 まだ少しの困惑の表情を残しているミューズが、イロアスを見て尋ねる。


 「さっきから誰と喋ってるのか教えてくれないかな?それとも急に独り言を言う癖があるのかい?あるならそう言ってくれれば気にしないのに・・・」


 そうだった、ミューズに説明するの忘れてた。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 エナのアナウンスから10分後、ついに魔獣の進軍が森に到着した。


 森を突っ切る最短ルートで、複数の騎士と、そのスピードについていくことができたカンピアを含む受験生数人が現場に到着する。


 騎士たちは魔獣の軍の横からつっつく形で衝突すると想定していた。しかしそうはならなかった。

 彼らは見た光景に驚愕する。


 たった2人で、東の魔獣の進軍を食い止めていたのだ。


 桃髪の少女と、黄色と黒の入り混じった髪の男が、騎士に匹敵する魔法で魔獣の軍に攻撃していた。


 「おい、突っ立てないで手伝えや。オレァたちだけじゃ限界が来るぞ。」


 「・・・」


 黄色と黒の髪色の男ーーアストラ=プロドシアは雷を纏い、軍に向かって落雷を落とし続けていた。桃髪の少女ーーサンは、水を使って波を生み出し、軍を押し戻していた。


 「よく耐えたのである!」


 カンピアが称賛の声を荒げると、男は不満そうに返答する。


 「オレァたちのおかげでもあるが、上で軍の足取りを遅くさせてる奴がいる。」


 「喋ってないで手を動かして・・・あなたのせいで竜種を2体森に逃してる・・・」


 「オレァに命令するんじゃねぇよ、どっちにしろあれの相手なんかしてたら、この進軍は森を埋め尽くしてたぜ。」


 この2人は、リアとエナが接触した時、その感知能力の高さから常にエナと反対の位置どりをしていた。

 もっと正確に言うと、リアの仕掛けた魔力にいち早く気づき、その魔力から逆探知し、リアの位置を把握していた。


 さらに詳しく言うならば、この2人の能力が関係している。雷と水は、探知に非常に優れた属性である。その力を応用して、逆探知に成功しているのである。


 それ故に、リアとエナが遭遇した西地点から反対の東の地点に居座り続けていたのである。


 最も魔獣の進軍に近かったのがこの2人である。そして実力も申し分ない。


 そして進軍を向かい撃てる時間を作った隠れた貢献者は、この軍の発生地点に向かっているゼモニコス=ポルタである。魔獣の進軍を削りつつ進行していることが大きな働きであった。


 そしてさらに時間は遡り、この進軍の歯止めの最たる貢献者は、現在『魔王』と対峙し続けているオル=パントミモスである。


 彼は今、死の淵を彷徨い続けている。剣を、魔法を、その判断をミスれば死。


 今最もこの一連の事件で貢献しているのは間違いなくオルである。『魔王』の足止めこそ、彼らの生命線である。ここが崩壊した時、間違いなくこの島にいる人間は全滅するだろう。


 『魔王』に今回、明確な目的があることが、未だ全力を出して動かない理由である。全員無差別に殺すわけにはいかない。それが『魔王』にとってはもどかしく、厄介。


 それに先ほどからこの男を殺しきれないことも腹がたつ。


 とりあえずは命令を与えたミストフォロウの連絡を待つしかない。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 続々とエナの意思に答える選りすぐりの6人。そのうちたった一人だけ、一切行動に移さない者がいた。


 アナウンスなど耳にも入っていなかった。ただ、森の中をふらつく。


 ーー臆病者


 ただそれだけのことを考える。


 それはこの森の中にいるあの間抜けな翡翠の眼を持つ少年のことではない。


 それは自分のことでもない。


 それはーーー






 「あんなイかれたアナウンスがあったのに、随分と無作法に歩くっすね。」


 「アタシ、腹立ってるのよ。悪いけど、付き合ってくれないかしら。」


 「いいっすよ、可愛い可愛いプラグマ家の嬢ちゃんの頼みなら聞きやしょう。何しやす?」


 「・・・憂さ晴らし。」




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