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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第4章  箱庭を蝕む天使
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第4章15話 生命の定義




 「とまぁ、ざっくりこんな感じかな。」


 この1ヶ月で準備できたことをルダスは自慢げに語る。確かに、現世全てを見渡す目が無ければ、この采配は不可能だろう。


 「おいおい、Bの敵が見えねぇぞ。」


 「見えないのが当たり前なんだよ。あそこは私の瞳をもってしても見ることは叶わない。あそこは既に異界と化している。」


 「じゃあどうすんだよ!!」


 「信じるしかないのさ、必要な戦力は揃えた。そうだろ、『聖女』?」


 「ルダス、問題はここではなくって?ポイントDとでも言えばいいかしら。」


 そう、現世全てを見渡せたからこそ、今この場の戦力は限りなく少なくなった。


 本来、ここにこそ重点を置くべきなのだ。


 「『原罪』『魔王』、そして9人の『戒僧』たちをどうするつもりかしら。」


 世界調停機関には、3人の『使徒』がいる。さらに言ってしまえば、『正義』『観測者』は千年を生きる傑物であり、その実力もまた、世界大戦を生き残るほど。また、『闘神』は恐れ多くも世界最強の称号を背負う。それほどの実力を備えた者たちがいるこの場所は、安全ーーとは言えなかった。


 相対する北の大国魔宗教国ヴォリオスには、『原罪』『魔王』がいる。問題なのは、『原罪』の権能の特殊性である。


 「権能はたった一人にその器を与えることが出来る。女神から与えられるものよりかはスペックは落ちるけど、権能は権能。絶大な力を発揮する。でも、『原罪』の権能はその原則を凌駕した。」


 「んなもん、説明されなくても分かってる。俺たちが1番戦ってるんだ。」


 「だからこそ、ルダス、あなたはその実力をよくわかっているはず。なのに、なぜここを手薄にしたの。」




 ポイントDーー世界調停機関メディウム。


 議長である『正義』レイ=ストルゲーを筆頭に、『観測者』ルダス、そして中央の結界主である『国境』アリシダ=アンドロ。

 その配下には、万を超える小人と巨人の兵団がいる。


 東の大国アナトリカ王国から、凡そ千年統治し続ける女王である『聖女』セレフィア=ロス=アナトリカと、その人のためだけの騎士『冠冷』エルドーラ。




 「相対するは、『原罪』の権能の代行人たち、9人の『戒僧』。教えてルダス、彼らの情報を。」


 「・・・確かに、あなたは全然戦ったことなかったかな。有名なのは何人かいるね。世界の五本指に入る『敬神』は言わずもがなだろう。他にも、『不盗』『真実』『沈黙』なんかの影響力は絶大だろうね。世界の有数な都市を落とし続けている。君の国や、ましてや自分の国、南の帝国の都市も落としている。」


 「・・・そうね。『真実』には特にやられているわね。」


 「彼らは悪魔の亜人である魔人族だ。その凶暴性がそもそも根源にあり、その3人は最も元祖に近い。云わば、『獣返り』と呼ばれる。この世界の亜人に稀に現れる現象だ。自分たちが純粋無垢な魔獣であった時の心に返ってしまうことを指すが、それに限りなく近い。」


 セレフィアは中央の戦いにはほとんど参加したことが無い。それは自国を守るためにという理由だが、その『戒僧』の強さは知っている。


 「でも、今回『真実』はいない。彼女ともう一人、『慈母』は私の目に映らない。」


 「・・・他には。」


 「『不殺』『贋作』『安息』『純潔』・・・どれも一癖も二癖もある強さだよ。」


 「ならば、気をつけるべきはやはり『不殺』だな。」


 「『不殺』・・・まさか・・・」


 「そう、その名の通りだよ。」


 「『戒僧』の権能は何かしらのルールを縛り、そのルールを犯した者に罰を与える。」


 故に、『不殺』の権能はーーー




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 呪林地帯の内部。

 木々は嗤い、蔓は自殺をおすすめするかのように丸く輪っかを吊る下げる。


 魔獣は死体が動いているかのように、飢えでお互いを食い合ったかのように、骨が見え隠れする胴体。森を彷徨う騎士もまた、首の無いもの、腕のないもの、脇腹が吹き飛んでいるもの、多種多様である。


 「イロアス、ここで体力を使うな。」


 「わかってるよ!!」


 炎を剣先に集結させ、極限まで縮小し、


 「穿て。」


 放たれた破壊光線は、木々を燃やし、大地を削り、魔獣を焼き付くす。


 「火葬だ、喰らって寝とけ。」


 「大地が再生する前に行くぞ。この呪林地帯の再生速度はこの1ヶ月嫌という程見ただろう。」


 大地から溢れ出る魔力ーーいや、正確には『厄災の箱』から溢れ出る魔力が大地に流れ、異常なほどの再生能力を付与する。


 魔獣は灰にしなければまた再び蘇り、その獰猛性を増す。


 「廃城に着く前に体力は温存しろ。」


 「じゃあ手伝ってくれてもいいんじゃねぇのか、師匠!」


 「それは無理でさぁ。」


 「なんでだよ!!」


 「ルダスにきつく言われてるんでさぁ。お前は廃城にいる奴は全力で殺せと。」


 『闘神』は最強と呼ばれる。故に、ルダスから心配されたことなどなかったし、あれこれ指示をされることもなかった。


 自分が通る道にいるもの全て粉砕してきたから。


 そんなルダスが、今回だけ自分に指示をした。それは長く中央に一緒にいたからこそわかる異常事態である。


 「俺も力を残しておきたい。生憎、俺は俺の最強には程遠い。」


 「何言ってんだ、師匠は最強だろ。」


 焼け焦げた道を走り回る。その速度は通常の人からすれば尋常ではない速度であろう。特別な身体能力を与えられた2人がその天与の肉体を遺憾無く発揮する。


 だが、今日この日は特別であった。


 「嘘だろ・・・なんだこの再生速度は!!」


 焦土と化した大地はみるみる緑を取り戻す。果たしてこの色を緑と呼んでいいのかは疑問だが、植物をあえて緑と称する。

 呪いに満ちた植物が、すぐに再生しその道を阻む。


 「イロアス、光魔法も込めろ。」


 「・・・了解!!」


 剣に魔法を纏わせる。2つの魔法の同時使用はもはや身体で慣れた。その原理を知らずとも、剣に容易くその効能を混ぜる。


 「お前程度の光でも、再生を遅らせることは叶う。」


 斬る斬る斬る斬る斬る斬る。


 呪いによって無限の再生を付与されても、その光には叶わない。明らかに遅くなった再生に、隙を見出す。


 「伏せろイロアス。」


 腰にささった二本の剣のうち、一本を取り出し、横一線に振るう。


 世界が、元々そこに空間を残さないかのように、剣は振るわれた。その剣撃は、目の前の全てを斬り去る。


 「師匠!!光魔法は!!」


 ただ斬るだけではだめだと、そう解釈される言葉をイロアスに言ったのは他でもないオフィーリア。しかし、オフィーリアは剣に何の魔法もなし。


 「俺が使えるわけねぇだろ。」


 「じゃあ意味ないじゃん!」


 「いや、これでいい。空間ごと断絶してやった。」


 木々はすぐさま再生するーー否、くっつかず、ズレ落ちていく。


 「はぁ・・・?異次元すぎだろそれは・・・」


 「天を割ろうとして矛を振りかざし続けた誰かさんの御業でさぁ。名前も知らねぇがな。」


 「なんで名前も知らない人の業使えるんだよ。」


 「おい、お前どんだけ『闘神』について知らねぇんだ。」


 ダラダラと話している暇なんかない。


 なぜかは知らない。だが、イロアスもオフィーリアも急いでいた。廃城は目前まで迫る。そこまで辿り着くのにそもそも普通の冒険者では半日はかかるだろう。

 だが、それをたった1時間以内で到達。


 もはや、レコード記録と言えよう。


 「ラストだ。この廃城を守る不死の騎士団を殺す。」


 「余裕だね、師匠の邪魔はないから。」


 込める光魔法。また、オフィーリアは腰の剣を一本しまったままもう一本だけ再び抜く。腰にささったままのもう一本の方が明らかに業物の気配を漂わせているが、そちらには手をかけることすらしない。


 「・・・!!まて!!イロアス!!」


 放とうとするその刹那、オフィーリアは振りかざしてしまった剣を天へと向ける。その勢いで、もはや止まることなどできないイロアスの光魔法の方向を変えた。


 なぜ止めたか。


 イロアスの気配察知には何も引っかからなかった。常に周囲から殺意が沸きあがるこの大地では常人の気配察知など役にも立たないだろう。

 それを知っていたのか、彼は、いや、彼女は・・・そのどちらとも取れぬ中性的な顔立ちのその何かは、笑ってこちらを見ていた。


 イロアスとオフィーリアの横からずっと、ただ見ていた。


 「・・・ここまで来れたのは不幸中の幸いか。」


 「そうだね、オフィは早いね。でもねでね、隣の人間は遅いね。ねぇ、そこの人間はなんて名前かね?」


 「弟子、こいつと言葉を交わすな。」


 「えぇ?なんでかねなんでかね?ゾエと楽しく話そうね。」


 その姿は子どもだった。中性的な顔立ちと容姿の子ども。


 なのに、あの雰囲気を感じた。数ヶ月前に、西の大国で感じたあの嫌な雰囲気。

 ーーー『不盗』クレイブと、同じ匂いがする。


 「絶対にこいつの前で()()()()()。」


 イロアスは、まだ知らない。あの時、クレイブは何も見せなかった。何もしなかった。『戒僧』としてその力を発揮しなかった。


 「初めましてだね。オフィが名前を隠しても、無駄だよね。君は有名人すぎるもんね。これからよろしくね、イロアス。そうだねぇ、イロがいいね。イロはイロね。」


 「なんで・・・名前を・・・」


 「知ってるよね。みんな知ってるよね。でもね、なんでかは言うなって指示なのね。ゾエの主様からの指示なのね。あぁ、でも怖いもんね。自分だけが一方的に知られてるって怖いもんね。言わなきゃね言わなきゃね、ゾエも自己紹介しないとね。じゃないと、不公平で不平等で不条理で不合理で不可解で不安定で不摂理で、なんとも不完全だもんね。」


 強烈な個を持つもの、誰かに何を言われても曲がらないその精神。誰かを食い物として生きることを楽しむ狂人。


 それを、直感で感じとってしまった。


 「改めて自己紹介ね。ゾエの名前はゾエ。与えられた罰は『不殺』だね。」


 こいつを、殺さなきゃいけないと、そう感じ取ってしまった。


 そう思った瞬間に、イロアスは剣を振るおうとしていた。決して、頭がそうしたのではない。反射であった。


 この肉塊を見た瞬間に、殺さなきゃと思った。


 「イロアス、自分に光魔法をかけろ。」


 その言葉とともに、剣はオフィーリアに再び止められた。


 「だめだ、今こいつを殺さないと・・・」


 「イロアス、光魔法をかけろ。」


 「だめだ!!こいつを殺す!!」


 「・・・」


 その沈黙から、オフィーリアが手を出すのが早かった。剣の柄で鳩尾を突っ込まれる。イロアスは鳩尾を抑えて、あろうことか師匠を睨んだ。


 「なにすんだ・・・」


 「自分に光魔法をかけろ。こいつの前で名前を握られるな。」


 イロアスはオフィーリアに勝てない。そして味方であること。それを知っていても、今オフィーリアを睨んだ。

 しかし、染み付いたオフィーリアとの戦闘の日々が、イロアスに光魔法を使わせた。


 「・・・頭はクリアか。」


 「今、俺は何を・・・」


 「光魔法を纏え。こいつらの精神汚辱は種族に与えられた神獣の加護だ。人の精神を汚染し、殺意や憤怒を植え付け、平常な心を乱す。俺のような特別な肉体を与えられたやつや、何百年も生きているような精神の発達したジジババなら効かねぇだろうが、お前のようなまだまだ未熟なガキには無理だ。光魔法を常に展開しろ、『戒僧』の中でもこいつは特殊だ。」


 思えば、クレイブの時もそうだった。自分が何も考えずに殺意を抱いたのは、あれが初めてだった。


 「悲しいね悲しいね。ゾエのこと、殺してくれないのね。」


 「イロアス、こいつを殺すな。こいつだけじゃない、こいつの前で何か生きるものを殺すな。殺せばこちらが死ぬ。」


 「生きるものって、なんだよそりゃ。植物とかもか!!」


 「いや、こいつが生きていると感じているものだ。その定義はこいつの中にある。」


 「はぁ!?なんだよその理不尽な力は!!」


 「ねぇねぇイロはね、植物って生きてると思う?ゾエはね、生きてると思わないんだよね。だってね、魂がないもんね。魂がないものは死んでるもんね。」


 「魂の有無・・・それがお前の定義か。」


 「ねぇねぇオフィ。この呪林地帯の魔獣や屍って生きてると思うのね?」


 魂の有無。それが、生命の定義だとして、相手に魂があるかを見分ける方法はあるのか。


 答えは、ある。


 「・・・まさか、見えるのか。」


 イロアスは、驚愕するのだ。


 「ゾエはね、特別なのね。魔人族の中でも、とりわけ特殊なのね。だからゾエはね、『不殺』なの。」


 ゾエは背中から奇妙で不気味な翼をはやす。クレイブとは違う、それはあまりに肉体を改造したかのような気味が悪い翼。


 高笑いが、大地に響く。


 「ゾエは『不殺』なのね!!ゾエの前で生命を奪うものは自らもその生命を奪われる!!」


 ーーーそのあまりに理不尽で最凶で、正しい『権能』の恐ろしさを。




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