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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第4章  箱庭を蝕む天使
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第4章14話 期限切れ




 朝一番。


 ここで最も早く起きるのは、バルバロイ=ベイリン。名も無き最後のギルドの長であり、日々夜通し働いている仲間のために、一番に起きるのが日課である。


 いつもは一人で音楽をかけながら準備するが、今日は珍しく一人ではなかった。


 「お前が早起きなんて、珍しいじゃないか。」


 手をとめずに、ふと来た男に挨拶をする。


 「何かあったのか、オフィーリア。」


 普段は皆と一緒に朝起きるタイプであり、何なら朝は苦手な部類であるが、彼は今日起きた。


 正確には、とある男に遠隔で起こされた。


 「時間だ、バルバロイ。」


 その言葉は、バルバロイの手を止めた。そして、ゆっくりと腰を上げ、溜息を吐き出す。


 遂に来てしまったか、そう思わずにはいられない。ここにおける、自分の最後の役目を果たす時が来たのだと、そう思わずにはいられない。


 「期限切れってやつでさぁ。夢のような男からの催促が来た。今日をもって、呪林地帯を完全攻略する。」


 その言葉を持って、バルバロイの手は別な場所に向いた。


 壁に飾る双剣に手を伸ばす。食器や書類になど目も向けず、その鋼の美しさに目を向ける。


 「全ての冒険者は一度眠らせよう。今日の()()()は俺が担当する。」


 「鈍ってねぇだろうな。」


 「誰にものを言っている。」




 ーーーその日だけは、朝の騒音はなかった。喧しい冒険者の声も、朝食にがっつく食器類の音も、何も聞こえない。


 朝まで戦っていた冒険者の全てが長の指示により眠りにつく。


 長からの言葉はこうであった。


 「備えろ。俺たちの最後の役目が今日来る。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 男は、目を覚ます。


 夢の中ではあの男に勝てるという証明は、この1ヶ月で充分すぎるほど理解した。


 同時に、もはや時間が無いことも充分すぎるほど理解した。


 「・・・前段階は、まぁ負け寄りのドローって感じかな。」


 深く、腰を下ろす。

 深く、ため息を着く。


 それは今するべきことでは無いことを、知っている。自分に安息は必要ないことを知っている。


 「あなたがそんなに働き者だなんて、この1000年間誰も知らなかったわよ。」


 ここはルダスの寝室ではない。ここは、唯一議席が用意された円卓の領域。


 故に、彼女がここに来ることも当然と言えば当然であった。ここでしか、会議は踊らないのだから。


 「私は本来、観るだけの男だ。世界を調停する程の力は与えられていない。君たち生命が紡ぐ物語を転々として、手に汗を握り、君たちを応援する。私は『観測者』なのさ。」


 「それがどうして、こんなになってしまったのかと?」


 「いいや、私は私を理解している。私の友人の言葉を借りるなら、これが運命というやつさ。」


 「あら、私はその言葉嫌いだわ。それって、言い訳でしょ?」


 「『聖女』様は、運命を信じないかい?」


 「えぇ、この世全ての事象は、私たちの選択し続けた結果でしかない。私たちは、自分で選び勝ち取って、今この場にいる。今を生きている。運命なんて、自分の選択じゃないと言い訳しているようにしか聞こえない。ねぇ、あなたが一番わかってるんじゃなくて?だって、『観測者』だものね。」


 これは一本取られたと、ルダスは笑った。


 「笑ってないで、はやく指示出しなさい。今日なんでしょ?」


 「これは驚いた。『聖女』は心の声が読めるのかな?」


 「・・・世界がざわめいている。世界の闇を抑え込もうと光が騒ぎ出している声が聞こえる。」


 「さすがだね。ではすぐ会議を開こう。みんなを呼んでくれるかい?」


 ーーー再び、会議は踊る。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 イロアスは目を覚ます。

 今日の目覚めも、まさにいつも通りとはいかなかった。


 騒音が聞こえなかったのだ。


 代わりに、自分で勝手に目が覚めた。


 習慣づいてしまったものではない確信があった。起きた瞬間に、わかってしまったのだ。


 今日、何か起きるのだと。


 『聖女』セレフィア=ロス=アナトリカは、世界中に存在する光の行方を把握出来る。それと同じ感覚で、イロアスも世界がざわめいていることを理解した。


 それが、イロアスを目覚めさせた。


 「・・・行かなきゃ。」


 巡るめく、運命の日。イロアスの第一声は自分を求めるものへと向かう意思であった。


 夢のことなど、覚えているわけが無い。ルダスの魔法や権能は概念に干渉する。それは世界の裏側の管理者であるルダスにしか真似出来ないものであり、その特別な男がかけた特別な魔法は簡単に解けるものでは無い。


 イロアスは間違いなく、夢のことを覚えていない。しかし、誰かが自分を求めていることを、わかってしまった。


 あそこにいけば、わかる。


 「あの廃城に、行けばわかる。」


 窓から見つめたその先に見える廃城が、手招きをしているようにすら感じる。


 「なんだ、起きてたのか。」


 窓とは逆方向、この寝室の入口にオフィーリアはドアによしかかりながらイロアスに声をかけた。


 「あぁ・・・」


 「相変わらず朝が弱いな。なんだその気抜けた声は。」


 「なぁ師匠。」


 「なんだ。」


 「今日、俺はあそこまで辿り着く。」


 自分が感じた何かを、ありのまま正直に言葉で伝える。いつも斬りかかりながら、襲いながら、オフィーリアはイロアスとともに廃城を目指した。


 それが最も体力を消耗していることは分かりきっている。どんな魔獣や屍兵よりも、オフィーリアの攻撃を受けることの方が難しい。


 「お前にもその気が合ってよかった。」


 「・・・?」


 「今日は俺からの攻撃はない。万全の状態で挑み、この呪林地帯を完全攻略する。」


 「・・・!!その言葉、待ってたぜ師匠!!」


 「廃城のその深く。前人未到の領域を突破するぞ。」




 階段が軋む。しかして、その音は陽気に聞こえる。ステップを踏むかのように、リズムを奏でながら、イロアスは下へと降りる。


 「・・・ありゃ?お前ら、いつもみたいに陽気に飯作ってねぇのか?」


 名も無き最後のギルドの1階。みんなが集まり、騒ぐ広場。そこに居たのは、神妙な顔つきをする冒険者たちの1部であった。


 「待っていたぞ、イロアス。」


 いつもは騒ぎ、夜遅くまで働いた仲間を迎えるが、今日はその音がなく、その顔つきもテンションもオーラもない。


 あるのは、一席だけ用意された食事。


 「食え、イロアス。てやんでい。」


 用意された食事は、もはやご馳走と言ってもいいだろう。彩りのない、茶色一色のその肉料理は、イロアスの腹を誘惑する。


 「なんでお前らの分はねぇんだ?」


 「今日は特別な日だってやんでい。」


 「ふーん。」


 イロアスは席に着く。今日、この食事を食べておかなきゃいけない気がしたから。


 緊張の走る空気感。誰もが、今日を特別な日だと思っているのだろう。


 イロアスも、わかっている。

 今日という日は、何かが起きる特別な日。もう3ヶ月以上前に起きたディコス王朝での戦争以来の、戦いが始まるだろう。


 「・・・まじぃ。」


 「「・・・は?」」


 その場にいた冒険者一同は、本来と違う反応に驚き、一度時が止まったかのように静寂が流れた。


 その時間も束の間、すぐに表情が変わる。


 「「何言い出しやがるこのクソガキ!!」」


 この時間が特別であることを知らないイロアスではない。この時間は、共に生き、共に死ぬ、かけがえのない戦友へと送る食事。


 それを知っているからこそーーー


 「みんなで食おう。」


 周囲の鬼の形相は一転して、静寂へと変わる。ぽかんと口を開けて、その言葉の意味を飲み込むまで時間を要した。


 「みんなで食って、みんなで笑おう。そうした方がこの飯は美味い。」


 箸はとめない。


 だが、この味を覚えることは無い。


 暫く、イロアスの食事の音だけがギルド内に響く。豪快に、一度たりとも手をとめない。


 「ご馳走様でした。」


 箸を置き、椅子から立ち上がり、手を合わせ、その感謝を伝える。


 「お前ら!!行ってくる!!」


 「「おう!!帰って宴だ!!」」


 腰に剣を携えて、イロアスは呪われた森へと入る。今日この時をもって、イロアスが森に入るのは最後である。


 二度と、この大地を踏み込むことは無い。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「敵の正体は知れた。千年間表舞台に上がることなく、息を潜め主の宝を守り続けた天使ーー『疫病』デュース。」


 それを知ることだけで、どれだけの進歩であるか。千年間動かなかった歯車が動き出す。


 「ルダス、今日なのだな?」


 歯車が回ったきっかけは、間違いなくディコス王朝。そこにいた、『厄災』と『光の子』。予言通り、全ての『厄災』が光を求めるのであればーー


 「間違いなく今日だよ。」


 根拠は無い。


 これは、天才同士の軍略なのだ。その起こりを、待ち続けた者にしかわからない。


 「よろしい。ルダス、卿の読みでは動くのは『原罪』と『渇望』だったな。どうやって動く。」


 「そっちは既に手を打ってるし、もう私たちができることはない。」


 「・・・信じよう。」


 「はぁ?正気かよレイ様。こいつの采配が全部正しい訳じゃねぇだろ!」


 会議は再び踊る。

 テーブルに行儀悪く足を乗せて、ルダスに向かって文句を言いつけるのは『調停の盾』。


 「アリシダ、我々はルダスを信じるしかないんだよ。頭脳では僅かに『疫病』に勝らずとも、ルダスが持つ瞳は特別だ。これ以上の采配は出来ない。」


 「そうだとも。寧ろこの瞳の方が私の本来の権能だ。」


 「・・・っち。じゃあ采配を教えろ、それで手打ちにしてやる。」




 ポイントAーーアナトリカ王国最大の要塞『パレオフルリオ』。


 要塞主である『鷹の目』ラキ=ナウスマクラー率いる『飛翼隊』。

 西の大国ディコス王朝にて遺憾無くその実力を発揮した2人の新星ーー『親殺し』フェウゴ=ヴァサニスと『裏切りの家系』アストラ=プロドシア。


 そこに合流した調停機関の『魔槍』ヘクトル=ドリー。


 さらに、王命によって既に本国から第一師団が出発済みである。


 『天秤』シロギ=アスティーノを師団長とし、副師団長に『黒鉄の戦姫』ソラクト=ナウスマクラーを抱える第一師団は、アナトリカ王国随一の戦上手と呼ばれる。


 対するは、『渇望』率いる南の大国ノートス帝国。『堕天』を始め、『夜叉』『魔女』『虚飾の君主』と名だたる将軍の地位を与えられた傑物を揃え、女王の居ない国を落としにかかる。




 ポイントBーーアナトリカ王国の北壁。人工的に張り巡らされた大結界が魑魅魍魎の進行を阻む。


 大結界の主『空檻』アイギア=ポルタ率いる『掃除屋』。

 西の大国ディコス王朝にて何者をも奮い立たせた少年ーー『獣王子』ミューズ=ロダと『軍記』カンピア=ミルメクス。


 そこに合流した調停機関の『斧屈』ネメア。


 さらに、王命によって既に本国から第3師団が出発済みである。


 『智将』フレスビューテ=マイムーを師団長とし、副師団長に『銀狼』アゴリを抱える第3師団は、アナトリカ王国随一の軍略家と呼ばれる。


 対するは、『賢王』が御座す絶対王権領域ガスパール。いや、もはや『賢王』の姿形はない。


 忘れ去られたものたちの住まう都と化していることだろう。故に、敵の正体は不明。




 ポイントCーーこの世最後の秘境である呪林地帯。その溢れ出る闇の効能は、『厄災の箱』から溢れ出るもの。


 溢れ出る呪いと対し続けた屈強な冒険者たち。そして、それをまとめあげるのは名も無き最後のギルド長である『奈落の華』バルバロイ=ベイリン。


 秘境の攻略には、『闘神』テセウス=オフィーリアと『英雄願望』イロアス。既に踏破された廃城だが、その最奥はまだ誰も見ぬ世界。


 その最奥には、必ずいるだろう。


 この千年間、その一切を秘匿した番人『疫病』デュース。




 今宵、世界の均衡は崩れ落ちる。




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