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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第4章  箱庭を蝕む天使
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第4章11話 ポイントC




 この物語の一人物になれと言われたあの日から、私は君が来ることを待ち望んでいたんだ。


 本当は、ただ眺める者として君の物語を見ていたかった。


 しかし、私の主の願いを聞き入れるのも私の役目。まったく、困ったお人だ。


 だから、特等席で見せておくれ。


 ーーー光の子たる、君の勇姿を。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「今日もここまででさぁ。」


 そう言うと男は目の前の呪いに蝕まれた屍たちを一閃した。


 「・・・クソっっっ!!」


 先程まで苦戦していた男が怒りを顕にする。


 今日で25日目。

 最早目的地は目の前まで迫っているのに、どうしてかここの突破口が見当たらない。


 「25日でここまで来る方が大したもんでさぁ。」


 「・・・そういう師匠は何日で来たんだよ。」


 「俺は1日だ。」


 格の違いを見せつけられ、ため息をこぼす。


 「みっともない息を吐くな。俺と斬り合いしながらここまで進んでるんだ。まったく大したもんでさぁ。俺が1日で到達しちまうようなぬるい森を難易度上げてやろうってんだ。こんなもんだろ。」


 ため息をこぼした男ーーイロアスが先程まで苦戦していたのは、格の違いを見せつけた師匠ーーテセウス=オフィーリアである。他の魔獣や呪いに蝕まれた屍、隙あらば殺そうとしてくる森そのものについては、全くその通りであって大したことない。


 オフィーリアによって最大限引き伸ばした、いつから使えるようになったかわからない光魔法のお陰でもある。


 「帰るぞ。」


 2人は帰路に着く。

 普通に行けば辿り着くであろう目的地の廃城を背に。




※※※※※※※※※※※※※※




 呪林地帯は、世界大戦の遺物である廃城を中心に、闇魔法の呪いが渦巻く大地である。


 廃城までたどり着いた者は現在2組とされている。現代の『闘神』テセウス=オフィーリア率いる数名と、謎の仮面をした魔法使いがたった一人で踏破したとされている。


 その実、『原罪』が放った魔人数名も踏破していたり、実際踏破した者がまだ何組かいることは周知の事実。


 あくまで、ギルドが保管している記録上は2組というだけである。


 「実際のところ、踏破自体は容易い。」


 「・・・それは世界最強の意見ですか?」


 「いいや、一般論だ。そうだろう、バルバロイ。」


 ギルド長の机で何やら書類業務に追われている忙しそうなバルバロイに平気で話しかけるオフィーリア。二人の関係が透けて見えるようだ。


 「容易い訳あるか、この最強め。お前がいるから()()()()()も姿を隠したままだ。」


 「そういえば、あいつの姿が見えないな。」


 「あいつって何のことだ?師匠。」


 バルバロイとオフィーリアの会話的には、この森に何か騎士団長クラスの化け物がいると、そう予感させた。


 「この森は強い魔の瘴気を浴び続けた。故に、木々には瘴気が宿り、それは闇の魔力へと発展し、闇魔法を無意識的に発動し続ける天然のトラップとなった。魔獣にもその瘴気が帯びて、死に直結するような闇魔法が使える特殊な魔獣となった。これ自体がイレギュラーだが、これだけの瘴気を浴び続けたんだ、そいつの出現は世界のイレギュラーではあるが、俺達には予想ができた。」


 「『魔瘴樹骸』ディスコルディア。こいつの存在は、全ての冒険者にとってだけじゃなく、世界的な呪いの象徴でさぁ。悪いことすればディスコルディアに呪われるぞっていうことわざがあるくらいにはな。」


 「へぇ、どんな姿してるんだ?」


 「今のお前が真正面から見たら狂気に犯されて死ぬぞ。」


 見ただけで、死ぬ。


 「あれは呪いそのものだ。呪いが形を得て魔獣へと進化したものだと思え。」


 「姿自体は別にめっちゃキモイ木って感じだ。大きさはイロアスと同じくらい。だけど、漏れ出す瘴気が人を狂わせるのさ。まぁオフィーリアといるならそいつと出くわすことはない。」


 「なんでだ?」


 「俺の身体は特別でな。狂気や呪いとかのデバフを全て弾く。つまり、みんなにとっては見るだけで瘴気に犯される呪木だが、俺からしたらただの木の人形だ。」


 「それを知っているのか、ディスコルディアはこいつの前には姿を表さない。だから踏破が余裕なんだろ。」


 「おい、やっぱりじゃないか師匠。」


 「まぁ、他にも廃城前の無限に湧き出てくる騎士の大軍もいるけどな。」


 「それは一撃で粉砕できるだろう。所詮屍だった。」


 つまり最強の意見だということがこれで判明した。無限に湧き出る騎士は、バルバロイの話だとどれもこれもいまの冒険者では苦しい相手だと言う。訓練された精鋭とも言おうか、その屍兵はまるで戦争をしているようであったとのことだ。


 「あぁわかったわかった。これが俺だからっていうのに百歩譲って認めたとしても、その俺と斬り合いしながらその目前まで迫っているお前の相手じゃない。」


 「・・・まぁ、それはそうだな。イロアス、今のお前は相当強くなってると思うぞ。そもそも、3属性持ちとはね、世界に愛されてんなぁ。」


 3属性ーーこれに関しては、イロアスも何が何だかわかっていない。


 急激に使えるようになった光魔法。寧ろ、なぜ『戦争』との激闘の中で目覚めなかったのか。いや、なぜ今になって目覚めたのか。


 ーーー目覚めたという言い方自体が正しいのかわからない。


 「せっかくの3属性なのに、お前が教えるのは剣術とはな。」


 「しょうがねぇ、俺は魔力がカス程度しかねぇんでさぁ。先々代なんかは魔法剣士だったみたいだが、まぁ時代が悪かったんだよ。魔法ならルダスか『魔導王』にでも教えてもらいな。」


 現状、イロアスは3属性を使いこなせていない。

 そもそも、3属性も持つ者はほとんどいない。いたとしても、3属性を同時に並行できる者はさらに少ない。


 2属性を同時に発動することは、理論を構築できていなくてもなんとなくでできてしまう。右手と左手を使うように、体の中で半分ずつというように、2種類の違うものを同時にというのは容易い。


 厳密にはもちろん理論が組み立てられた立派な応用術である。


 しかし、3属性となるとそうはいかない。

 理論を組みたて、頭で理解した上に、身体に染み込ませる。それだけで数十年費やさなければならないほどの研鑽。


 土壇場で使えるような代物ではない。


 故に、イロアスは今の師匠がテセウス=オフィーリアであることに安堵している。自分の最大の長所である身体能力をいまいち剣術に応用できてなどいないと確信していた。


 それを、どのようにすれば更なる進化を遂げられるのか、その最大の近道が目の前にいる。世界最強が目の前にいるのだ。


 「俺自主練してくる。」


 「程々にしろよ。明日はその屍兵の元まで行くぞ。」


 わかってると言いながらも、今日身体で覚えたことを忘れないように特訓してものにしておきたい。


 今はただ、強くなるために。強くなって、救えるように。


 零れ落ちてしまったものを、再び拾えるようにーーー




 「そんで、実際どうなんだ?」


 「何がでさぁ。」


 「何がじゃねぇよ、オフィーリア。言われたはずだぜ、期限の方は。」


 時間はなかったのだ。


 動き出してしまったものを止めることなど出来やしないのだ。


 「期限は1ヶ月。もうあと数日だ。踏破できんのかよ。」


 ルダスは、オフィーリアとバルバロイに絶対の期限を設けた。それは、いつもおふざけばかりしているルダスからの伝令とは思えないほど、緊張感に溢れ、必ずその期限までにという伝達。


 「何を始めるつもりだ、ルダス。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 彼らはあの扉が開くまで動かない。


 それは真実であり、曲げようのないものである。


 「さて、まずは私の1敗というわけか。まったく、とんでもない化け物だな。」


 期限を設けざるを得なかった。1ヶ月が限度だという当たりをつけていて正解だったと、そこは自分を褒めたたえた。


 想定以上に、敵の動きが正確すぎるのだ。

 自分の嫌な場所にしか配置しないこのやり方は、千年前を思い出させる。


 あの時は『賢王』とのタッグであったが故に、自分は嫌がらせに専念できたが、今はそうはいかない。


 「勘弁して欲しいね全く。今は私一人なんだ、化かし合いは大の得意だが、真正面からはあちらが格上ってやつだ。」


 「卿は先程から何を話している。」


 ルダスが独り言のように呟いたのは、8席しかない議会の場。


 今日はその議会だというのに、その場にいるのはたった3人であった。議長である『正義』レイ=ストルゲーが独り言を呟くルダスを牽制する。


 「これから話す大事なことに繋がるのさ。」


 「卿が我々に迫った期日の1ヶ月はもうすぐそこだ。そろそろ、全貌を話してもらおうか。」


 「それは客人が来てからにしよう、レイ。」


 「ルダス様、いい加減にしやがれってんだ。」


 議席に足を上げて座る男勝りな女性。その女性はルダスを睨み、苛立ちを見せる。

 このような議席の場でその横柄な態度をとる者は珍しくはない。『魔槍』ヘクトルや『斧屈』ネメアもまた横柄な態度ーーひいては、全く議席の場には似つかわしくないような、目を瞑りいびきをかくような態度をとる。


 中でも、彼女は単に態度が悪い。


 「お前は言ったはずだ、まずは1敗だと。それはどういう意味だ。」


 「落ち着きたまえアリシダ。」


 「聞きたいことは他にもあるぜ。なぜ俺以外の六騎士がいねぇ、逆を言えば、なぜ俺だけここにいる。それになぜ議長が何も知らねぇ。お前はそもそも誰と闘っている。洗いざらい吐いてもらおうか。お前が1敗する程の相手なんだろ、俺たちはまだ何も見えちゃいない。」


 「はっはっは、落ち着きたまえよアリシダ。君が持つ疑問は全くもってその通りだが、私にも事情があってね。」


 「お前の事情なんざどうでもいい!!俺たちは何も知らないまま、何もしないまま、負けてるらしいじゃねぇかよ!!」


 ルダスは、何も言わなかった。やや笑ったような顔で、瞳を閉じて、何も言わなかった。


 アリシダという女性の言ったことはもっともである。自分が寝て起きて食べて訓練してまた寝て。そんな間に、1敗しているというのだ。


 「ここは世界の砦だ。ここが崩されることなんてあっちゃならねぇんだよ。」


 世界調停機関メディウムーーそこは、『厄災』から世界を守り、世界を調停する最後の砦。


 かつて、女神ヘレンを打ち倒し、世界を守った大国メディウムの居城があった大地。


 「レイ様が許しても、このアンドロ家が許さねぇぞ!!」


 吠えるは、千年前よりメディウムに仕える王族の盾。その盾は闇を祓い、光を放つ。


 この千年間で、この地位はアンドロ家が受け継いできた。ほかのどの地位も、家系に縛られずにその時の強者を求めているが、この地位は違う。


 『調停の盾』ーーアリシダ=アンドロは吠えるのだ。


 「我らが先祖ペルセウス=アンドロに誓って、ここの敗北だけは許さねぇぞ!!ルダス!!」


 この議会の部屋には、唯一石像が置いてある。それは、千年前の世界大戦において王族を守り抜いたただ一つの盾。


 初代『調停の盾』ーーペルセウス=アンドロの石像。


 「俺の誇りを、踏みにじんじゃねぇぞ。」


 ルダスは沈黙した。

 その誇りをよく知っている。千年前のペルセウスの姿を知っているから。


 沈黙は暫くの間続いた。

 アリシダの怒りは刻一刻と溜まっていくが、ルダスは何も話さなかった。それをレイも咎めなかった。


 これ以上話すことは、アリシダの誇りを傷つけることになるかもしれないから。


 その沈黙を破ったのは、沈黙を紛らわせるために何かを発言しようとする戯言でもなく、怒りに身を任せた咆哮でもなく、ただ、ゆっくりと開く扉の音であった。


 入室したのは2人。

 それは調停機関に所属するものでは無い。ここに呼ばれた客人である。


 「待たせたかしら?ルダス。」


 纏うは世界で史上最高峰の光。誰もがこの光を尊び、どんな闇も晴らすとされる。世界は彼女を愛しているのだ。この光こそが、世界で最も愛された者の称号と言えよう。


 「『闘神』も『天弓』も『魔槍』もいねぇな。つーか、盾しかいねぇじゃねぇか。」


 世界で最も愛された彼女を守るために、彼はここにいる。どんな闇も、全ては凍結し光を覗き見ることすら許されない。文句のない配置であると言えよう、ここに最強を置くのは。




 「やぁ、『聖女』に『冠冷』。遠路はるばるありがとう、これで会議は踊るというものだ。」




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