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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第4章  箱庭を蝕む天使
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第4章2話  7人-1人




 空の玉座を見つめる男がいる。

 そこは空のまま置いておくべきだと思っていた。


 しかし、そうでも無いらしい。


 戦争で身も心も疲れ果てた彼らを治める王が必要だったのだ。


 また変な話だが、彼らのうち、亜人を疲れさせていたのはこの国の王だった。結界を初めに設けようと口に出したのは彼だった。

 真の意味を隠したまま、結界を張ることに同意した女性もいたが、王こそが最も結界を求め続けた。


 そして築き上げたのは黄金郷。

 玉座もまた、赤い布地を黄金が包んでいる。


 「王朝で一番の嫌われ者が座っていた玉座に、ボックが座ることになるとはね。」


 「まぁ、適任だと思うわよ。」


 「キノニア先生、ボックはそんな大層な人間じゃあーー」


 「影で苦しみながら今まで頑張ってきたんだから、次は最初から太陽の元で頑張りなさいよ。」


 「・・・もう少し、役目があるということと捉えているよ。」


 真っ暗闇を道化のように踊った後に、道化の面を捨てて民衆の前に立つ。


 今まで君臨した王と宰相は投獄され、その地位を失った。亜人を苦しめて、戦争の最中でさえ自分を優先することしかできなかった彼らには、誰も付いてこなかった。


 王朝を虹と光で満たしてくれた、ダスカロイについて行く者が大勢いたのだ。


 王として声明を上げた日、王朝は爆発的な産声をあげた。


 それはダスカロイが予想していなかったこと。なぜなら、彼らを苦しめ続けたのは他ならぬ『魔導王』が張った結界だったのだから。


 「悪者になってしまったね、マギア。」


 この一言に尽きてしまう。


 自分の業が世に晒されていないのは、『戦争』マギアが世界を滅ぼそうと暴れてくれたおかげだった。彼が全ての敵になることで、王朝は一つになった。


 「彼のおかげで王朝は変わったと言っても過言では無い。」


 巨悪に立ち向かう勇敢な人間と亜人。


 「だが、忘れてはならない。それは全て尊い犠牲あってのものなのだと。」


 巨悪にも正義があった。

 彼なりの愛がそこにあったのだ。


 「・・・では、行こうか。王としての最初の仕事をしに。」


 「そうね、今日はみんなの出発の日。あなたの言葉がないと締まらないもの。」


 『戦争』マギアとの激闘から1ヶ月。

 この日、イロアスたちアナトリカ王国の騎士団は帰国する。


 王朝を救ってみせた英雄の帰還であった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「じャあな。」


 「もっと悲しむことはできないのか君は。」


 片方は包帯を巻いて完全には癒えていない。もう片方は傷を完治させ、既に修行まで始めていた。


 「ミューズ、ギザがまたねなんて言うことがもう凄いことなんだよ。私がお兄ちゃんの眼を通して見てた時はそれはもう心が冷めきっててーー」


 「余計なこと言うんじャねェよ。」


 「私の騎士なのに偉そうね。」


 「仕方なくやッてんだろうがッ!!」


 笑う。

 アルテミアが、何でもない日常を過ごしている。


 それがどれだけ凄いことなのかを、ミューズは理解している。


 「ミューズ=ロダ。」


 「・・・?どうしたんだいギザ、改まって。」


 「テメェの勝ちだ。」


 その言葉は、じゃあねなんて言葉よりも遥かに凄い言葉。本来のギザの性格からは出ることの無い言葉。


 「誰がなんと言おうと、俺様はテメェの全てを肯定する。王朝を救ったのはイロアスとかいうガキかもしれねェ。でもな、亜人を救ったのはテメェだ。俺様が救われたのは、ミューズ=ロダだ。」


 ミューズの目の前がボヤける。


 亜人の有り様にどれだけ苦悩したのか。それはミューズの近くにいた者は須らく知る事実。人前で泣くことをやめたのもまた周知の事実。


 そんな彼が、涙した。


 「ありがとう・・・ありがとう、ギザ。」


 美しい友情を横目に、王朝の門が開く。

 もはや、誰の手でも開かれるようになったその門にこの戦争の結果が現れているようだった。


 その門から、ダスカロイとキノニアが現れる。

 目の前に広がる光景に喜び、そしてまた悲しんだ。


 英雄たちが、帰還してしまうことが惜しいと感じる。だが、彼らには役目がある。


 「じゃあ見送ろうか。英雄たちの帰還だ。」


 ミューズ、ギザ、アルテミアを見た後に、既に荷物を整えていたフェウゴ、カンピア、アストラを見る。


 そして目は移りーーー


 「ミスター・イロアス、君はあからさまに不機嫌になるね。」


 「・・・うるせぇ。」


 ムスッとした顔をして、横に目を逸らす。


 「エルドーラは先に帰ったんだ。彼がいないんだからもう少し笑ったらどうだい?」


 「あんな奴・・・」


 「彼は英雄とは程遠い性格をしているのは確かに共感するよ。全員の幸せなんて願ってすらない。ただ一人のために全てを尽くしている。彼に意見したければ、それこそもっと上に言わないと。」


 「そんなことわかってる。」


 「わかってるからこそ、悩んでるんだね。大丈夫、君の苦悩を既に共に分かちあっている子がいるじゃないか。」


 ここに、リディアだけがいない。

 彼女はエルドーラとともに先に王国に帰ったのだ。


 「ミスター・イロアス。どうか今だけは笑っておくれ。」


 ダスカロイはイロアスの肩に手を当てる。


 「目の前の全ては、紛れもなく、君たちが救ったものたちだ。ボックたちはみんな笑っている。幸せを噛み締めている。もちろんこれから先も大変なのは違いない。それでも、今だけは喜びに満ち足り無ければならない。」


 へこたれているイロアスが、顔を上げる。

 そこには、イロアスを見て笑う人たちがいる。


 辛い過去を持つ者たちだ。

 苦しい戦いを超えてきた者たちだ。


 光を求めて、救われた者たちだ。


 「君たちの幸せを、我々は願っている。次は、ボックたちが君たちの助けになることを約束する。」


 ダスカロイは笑う。

 返事はいらないと、気持ちの整理がつかない少年の顔を見て、笑うのだ。


 そして、指を鳴らして魔法陣を描く。


 「また会おう。『英雄』イロアス。」


 もう一度鳴る指の音とともに、彼らの姿は消える。

 アナトリカ王国とディコス王朝を繋ぐ中央に飛ばされたのだ。




 ーーあの日君を見た瞬間から、この結果が見えていた。


 いや、それは大袈裟な表現をしてしまった。


 あの日君を見た瞬間から、この未来を想像した。


 亜人と貴族が協力してこの王朝を再建する。結界は不要。2つの種族が共存するのだ。


 「君を心の底から送り出せて良かった。」


 瓦礫を片付ける皆を見ながら、笑い、ダスカロイは王朝の宮殿まで歩く。

 皆から『王』と呼ばれ、笑いながら手を振り、歩く。


 きっと完全な共存ではまだない。これは同じ傷を癒し合ってるだけかもしれない。

 それを、永続させるのが王の務め。そのきっかけすらなかったこの王朝に、このような世界を与えてくれたのだ。


 「さぁ、戦いは始まったばかりだ。再び来るであろう『英雄』との邂逅に向けて、まずは王朝を立て直そうとしようか!」




 ーーーディコス王朝。


 そこには、かつて『魔導王』が居たという。

 だが、もはやそのような存在は確認できない。


 今はただ、世界に愛された七属性の使い手である、魔法が使える『魔導の王』がいるだけ。


 亜人と人間が共存する、唯一の王朝があるだけ。


 ただ、それだけの物語。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「ここまで来ても無駄だぞ。奴には面談をする権利も与えてない。」


 男は、冷たく目の前の女性に言い放つ。

 その冷たさは自分の能力からなのか、それとも元々の性格故か。


 涙を流して、歯を食いしばり、拳を握る彼女に向けて容赦なく放たれる。


 「お前の権限など、ここでは無いに等しい。この監獄の主権はお前の家系にはない。もちろんお前の身分は俺という圧倒的な力の前では無力だ。」


 「分かっています・・・」


 「ではなぜ来た。」


 「せめてその子の傍に、いたいからに決まってるでしょ。」


 睨みつけ、声をふるわせる。

 どうしようもなく湧いてくる感情とは真逆に、その行動は冷静だった。


 「・・・謁見の場は与えてやる。だが、全てを調べあげてからだ。」


 「以外ですね・・・本来は謁見すら与えてくれないかと。」


 「本来は与えねぇよ。だが、お前の言うことにも一理あるって話だ。それに、決定権は全てセレフィアにある。」


 「アタシは、彼女の居場所を作ります。」


 「勘違いするなよ、俺はあくまで謁見の場を与えるだけだ。こいつが一度でもセレフィアの敵になったということを、俺は許さない。あの子の敵は、須らく俺の敵だ。」


 薄暗い空間。

 硬い硬い鉄扉の向こうで、声一つ上げずに彼女は鎖に縛られ仰向けに倒れていた。


 特殊な魔法で作られているこの空間で、リディアは涙を流して怒りに身を震わせる。


 「待っててね・・・サン・・・!!」



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