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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第4章  箱庭を蝕む天使
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第4章1話  調停の騎士団




 ーーーカン、カン、カン。


 昼にはハンマーが釘を打つ音がそこら中から聞こえる。その音を耳障りだと思う者はもはやディコス王朝には居ない。

 誰もがその音と共に生き、共に笑う明るい未来が訪れているのだから。


 「みんな、いい顔だね。」


 「あなたのお陰ですわよ、校長。」


 「キノニア先生、ボックだけじゃないさ。」


 男はその音と共に優雅に歩く。この平和と呼べる光景が、何よりも嬉しく、今はどこまでも目に留めておきたいから。


 ーー戦争から時は過ぎ、時間にして1ヶ月経っていた。


 「見違えるほどの、平和だね。」


 「そうですね、『冠冷』が先に帰った影響もあると思いますけどね。」


 「エナリオスが全く安静にしてくれなかったね。お陰でヒミヤ先生のマジギレが初めて見られたのだけどさ。」


 「王朝最強の『大将軍』も彼女の気迫には逆らえないでしょうね。なんたってもう何日も充分に眠れてないのに怪我人が暴れるんですから。」


 「追加で凍傷もあるとキレていたね。あれは怖かった。」


 鳴り渡るハンマーの音を背景に、キノニアとの談笑は花を咲かせる。


 平和故に、その談笑もある。

 ダスカロイ=フィラウティアが背負っていた業はもはやない。彼は新たにドレイペとして、一人の魔導師としてその名を馳せることになる。


 「さて、校長。こんな平和な時でも王朝は新しく進化しないといけないんです。」


 「えぇ、もちろんわかってますよ。」


 「『大将軍』がヒミヤ先生に押さえつけられている間、この国の防衛もままならない。その上、復興に必要な人材も足りない。山ほど業務があるんです。」


 「えぇ、わかってますよ。」


 「・・・それならどこに行こうと言うんです?」


 キノニアの優しい笑顔の裏側に、徐々に篭もる熱を感じる。外でハンマーを叩く音を聞いて平和を全身で感じている暇などない。


 そう言われたのだ。


 「ディコス王朝は国王と宰相が不在なのですよ?カケ=ドューレが父親の仕事を頑張って引き継いで、他の貴族たちも復興の業務に勤しんでいます。」


 「それは大変素晴らしいね。」


 「あなたも『使徒』だった務めを果たしては?」


 遂に優しい笑顔が消える。

 外を散歩している場合ではないと真正面から怒られた方がマシだと思ってしまうほど、キノニアの怒り方はとても心に響く。


 「一理・・・どころか、百理あるくらいだね。」


 「では戻りますよ、自分の足で戻らないと耳を引っ張って連れてきますよ?」


 キノニアが指で摘む動きを目の前で見せてくる。余程握力が籠っており、血管が浮き出る。


 「キノニア先生、本当に申し訳ないが宮殿には戻りません。」


 「ダスカロイ?」


 「遂に名前で呼ばれると本当に怖くなってきたけど、ボックが外に出てきたのには理由があるんだよ。」


 「なんだと言うのですか。」


 「君ほどの実力者でも、()()()()()を感知出来ないのは仕方ない事さ。そして、彼らの対応こそがボックが『使徒』であったのであればやるべき事だ。」


 ダスカロイが向かう先、それは王朝の正門。

 そこに近づいて初めて、キノニアは彼らの存在に気づいた。


 ーー正門が開く。


 そこに居たのは、白い装束を纏った2人の男だった。


 「ようこそ、平和となったディコス王朝へ。さて、今更何の用だいーーー調停の騎士様よ。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 『大将軍』も『暴獣』も『炎鬼』も、そこにいる強者の誰も彼らの存在に気づくことは出来なかった。


 彼らが傷を負い、万全な状態じゃないから。


 ーーという訳では無い。


 彼らの存在が特殊ゆえである。


 実際に、ディコス王朝で彼らの存在に気づいたものは2人。


 かつての『使徒』と『戦争』だけである。


 「ギザ・・・君は何も感じない?」


 「あァ?何の話だ。」


 「そう・・・じゃああれは、余程女神の寵愛を受けているのかな。」




 感じ取ってしまったものは、次にその実力を測ろうとするだろう。そして、その底知れない実力を見て慄くのだ。


 「調停の騎士・・・?」


 「調停機関メディウムにいる『正義』直属の騎士団だよ。そしてここに居るのは、その騎士団の中でも六騎士と呼ばれる最高位の騎士。」


 目の前に現れて、キノニアはその存在を計ってしまった。それがどれほどおこがましい事か、すぐに知る。


 遥か北に城を構える魔宗教国ヴォリオス。そこに存在するレベルの違う魔人と戦い続ける騎士団。


 その最高位たる六騎士の実力が、キノニアに測れる訳がなかった。無論、キノニアも世界では有数の実力者である。


 だが断言する。


 彼らが一人いるだけで、王朝で起きた目まぐるしい戦争の状況は一変したかもしれないと。


 「そろそろ、宜しいですか?」


 白装束を纏う六騎士の一人が、その口を開く。

 イメージとは裏腹に、とても穏やかな声をしていた。


 「何の用だい?『調停の弓』である君が来る理由はここにはないと思うよ。」


 「そんなことはありません。『厄災』が一つ落ちたのです。私たちが来る理由としてはそれで充分かと思料します。」


 「ボックとしては、疲れ果てた王朝に新しい問題が来てしまったと感じざるを得ないんだけどねぇ。」


 「私たちとしても、疲弊したこの大地に来ることはあまり好ましくない者であることは承知しております。が、貴方が『使徒』としての役目を果たしたことも私たちとしては重い事実として受け止めざるを得ないのです。」


 「情報が早いね。これは枢機卿の仕業かな?」


 「あの方の見えているものと考えていることは、私たちには測りかねます。」


 「だろうね。」


 「枢機卿の情報を基に、長は私たちに直接命じられました。」


 「そうだろうね、じゃなきゃ君たちは動かない。長話もなんだから、要件だけ聞こうかな?」


 「承知いたしました。長が私たちに命じたことはたった一つ。」


 丁寧な口調の『調停の弓』とやらは、ダスカロイに掌を向け、ゆっくりと笑った。


 「貴方が、ディコス王朝の新たな王となる事です。」


 「・・・は?」


 その提案ーーではなく、命令はあまりにも唐突で、理解し難いものだった。

 しかし、その必要性を理解することは早かった。


 疲弊し切った王朝を治めるに値する王が、いまは居ないのだ。


 かつての王と宰相は既に国民からの信頼を失い幽閉されている。今は周りを固めていた貴族が必死に経済をやりくりしているが、それにも限界が来る。


 「この命に、拒否権はありません。貴方は王にならなければならない。」


 「はは・・・一度だけ会ったことがあるが、君たちの長は本当に性格が悪い。」


 「私たちは長を敬愛しております故、そのような発言は控えて頂きたい。」


 「他意はないんだ、すまない。だけど、他にも適任者は居そうだけどね。」


 「『使徒』だった貴方より適任な者はいないと思料します。」


 ダスカロイは額に手を当てて、天を仰ぐ。

 自分が王になるということーーそれが、どれほどな役目かを知っているから。


 この王朝を疲弊させたのは、『戦争』なんかでは無い。紛れもなく、結界を貼った『魔導王』の一族。その一族の自分が王になるなど、歴史をバカにしているようなものである。


 だが、それを業として、役目を背負うのもまた自分の仕事なのかと思うのだ。


 「・・・ちなみに、長に進言したのは枢機卿かな?」


 「その質問の意図はわかりかねますが・・・」


 「ボックにとっては重要なことなんだ。」


 「承知いたしました。ご認識のとおりでございます。」


 「そうか・・・ようやく、目を向けてくれたのか。」


 ダスカロイは笑った。王の役目を押し付けたことはとても気分が悪く、恨めしい気持ちがある。

 だが、この役目を進言したのがあの枢機卿であるのならば、少しは嬉しいものだ。


 「ようやく、フィラウティア以外を見てくれたようだね。」


 「それで、お答えは如何に?」


 「受け入れようじゃないか。ボックが今この時をもってディコス王朝の王となろう。」


 今この場の一存で決めることでは無い。王朝で生き残ったものたちの意見を聞かなければならない。


 ーーー本来は。


 今、この場で決めることができてしまうのが中央調停機関メディウムの権力。この世界のバランスを取り続ける機関の意見には、どの国も無下にすることなど出来やしない。


 それに、疲弊し切ったこの王朝に早急に王が必要であるということはダスカロイも理解していた。


 ディコス王朝は西の要である。南の帝国と北の教国に挟まれ、中央の助力を借りて存続してきた。要と言えども危ない橋を渡り続けた。


 民を導く王が必要なのだ。

 不安定な地盤を固めることが出来る王が。亜人と人間を繋ぐ架け橋のような王が必要なのだ。


 「承知しました。今この場にて、調停の六騎士『天弓』アルク=ヴェロと『斧屈』ネメアが証人としてここに不破の誓約を。」


 ダスカロイとアルクの前に、魔法陣が展開される。それは誓約の証。


 この証をもって、ダスカロイ=ドレイペは王となる。『魔導王』と呼ばれたあの偽りの王から、民をまとめあげる本物の王に。


 魔法陣がゆっくりと消える。


 「これにて、貴方はディコス王朝の王となりました。」


 「では、ボックたちは失礼するよ。」


 「お待ちください。私たちが来た理由はもう一つあります。」


 「・・・」


 「『戦争』アルテミア=ボラデルカの身柄を中央に引き渡してください。」


 「・・・ボックは今君たちという証人をもって王となった。」


 「えぇ、存じております。」


 「では、断る。」


 「王と言えどもーー」


 「中央は神ではない。王は君たちの操り人形ではない。彼女の身柄どころか、その一瞥もさせない。」


 「正気ですか?『厄災』を匿うのですか。」


 「彼女は既に『厄災』ではない。『戦争』ではない。たった一人の、平和を望む女の子さ。」




 王朝の正門が閉まる。

 それは王が命じたから。新たな王が、彼らの目から一人の少女を隠すために閉ざすように命じたのだ。


 その王は先程誕生した。

 ついさっきまでは己の業を果たしてげに満足に笑っていた男。


 だが彼は再び役割を与えられた。


 今度こそ、守り抜くだろう。


 二度と、同じ過ちを踏まないように。

 『魔導王』ダスカロイ=ドレイペは、その二つ名の通り真の王となったのであった。




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