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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章59話 黄金より輝かしい月光の元で




 終戦の後の大地は、最早黄金郷など見る影もなく、瓦礫の山と化していた。


 元々外側だけは美しい都だった。

 黄金に包まれた宮殿など、それはもう美しいものであった。


 そんなものは、もうどこにも無い。


 だが誰もがそれを建て直そうなど思わないだろう。

 それほど、この戦争が与えたものは大きく、大きく、人の心と記憶に残り続ける。


 仰向けに倒れる『厄災』と、名もわからない女性。


 「これで、全てに決着がついたな。」


 こちらに向かって歩いてくる音とともに、聞き覚えのある声が聞こえた。


 氷の鹿を横に、エルドーラが少しだけボロボロになって立っていた。氷の鹿の背には気絶したストラトスが横たわっている。


 「・・・『戦争』の最期を見届けて、静けさがくるとはな。」


 本来であれば、『戦争』を討ち取れば歓喜の声が上がるところだろう。王朝を破滅寸前まで追いやり、900年もかけて苦しめたのだ。

 それを討ち取ったとあらば、喜びの声に満ちるはずであった。


 だが、貴族も、亜人も、騎士も、誰もその声を上げなかった。


 「貴様らの心情は察する。だがな、戦い勝利した暁には、でけぇ声出して勝利を喜ぶんだよ。」


 そう言って、エルドーラはダスカロイに目線で何かを訴えた。


 「全ての者が全力を尽くした。誰か一人でも欠ければ俺たちは天を仰ぐことすら叶わなかっただろう。敵にも敵の正義があり、それに同情するのも理解できる。だがな、全力でぶつかって、最期は笑って死んだマギアに失礼だろうがよ。」


 世界最強からの激励。

 それは、今この静けさが漂う戦場にもよく響いた。


 「ダスカロイ、勝どきってやつなんじゃねぇの?」


 その言葉に、ダスカロイは天を仰いで高く笑った。


 「君には、本当に助けられる。」


 一人、大きく笑って、大きく息を吸って、周りを見てーーー


 「この戦争、我々の勝利である!!!」


 迷い迷い、誰もがその言葉の意味を真に理解することができようか。


 それでも、笑っているマギアを見て、イロアスは一つ心に決めて叫ぶのだ。


 誰よりも強く、雄叫びを上げて。


 釣られるように、周囲の歓声が大きくなる。亜人も貴族も関係なく、誰もが天に向かって声を上げた。


 先程までの静けさが嘘のように、戦場だったところは歓声に包まれた。

 いくつかの、泣き声を含みながらも、誰もが叫ばずにはいられなかったのだ。


 その光景を見て、エルドーラは笑う。

 笑って死んでいる女性の膝の上で、満足したかのように眠るマギアを見て、少しだけ笑いながら語りかける。


 「・・・幸せそうな顔しやがって。あの時と全然違うじゃねぇかよ。」




 こうして、双生と哀獣による戦争は、彼らの敗北で終わりを告げた。

 だが、それは何も彼の全てが無駄であったなんてことはない。


 これから先は、悲惨な戦争の残火のお話。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「おや?随分と包帯まみれじゃないか。ボックの方が軽傷に見えてしまうね。」


 セアに包帯でぐるぐる巻きにされた挙句に、窒息させられそうになって、死にかけていたのにヒミア先生に怒られたのは俺だった。


 セアが見えていないからしょうがないのだけど、俺が怒られるのは腑に落ちない。


 「ヒミア先生がこの忙しい時に遊ぶなって。」


 「遊んでなんかないのに・・・」


 「なるほど、精霊様に包帯に巻かれてヒミアに怒られたと言うわけか。さらには元気そうだから治療は後回しにされたと。」


 「いや、ちゃんと治療してくれたよ。今日は安静にしとけって、でも動かないの嫌いなんだよね。」


 七色の瞳を持つダスカロイは、そうかそうかと言って笑ってくれた。


 「ボックも取り急ぎの治療を終えたのでね、挨拶回りでもしようかと思ってね。」


 「・・・ついていっていいか?」


 「いいとも、君にもぜひ来てもらいたかったんだよ。何せ、君はこの王朝では『英雄』だからね。」




※※※※※※※※※※※※




 宮殿をこんなに堂々と闊歩できるのは、恐れることがない『冠冷』の特権だと思っていたが、そんなことはなくなったらしい。


 ボロボロになった宮殿で無事な場所から解放し、重傷者の病室にした。

 それは当然ながら玉座もであり、今まで見たこともないような光景が広がる。


 玉座を亜人にも奴隷にも、種を問わず解放した。


 「王の威光はもはやないね。まさかエナリオスが離反するとは思わなかったけど。」


 その光景を遠い目で見ているダスカロイは、まるでそれを待ち望んでいた光景かのように笑っていた。


 「君のおかげだよ。」


 「・・・いや、これはミューズのおかげだ。あいつが戦って勝ち取った結果だよ。」


 「ではもう一人の英雄に会いに行こうか。彼の居場所はわかっているからね。」


 玉座を後にして、ダスカロイは歩き出す。

 セアとイロアスはその背中を追いかけて、やがて騎士が守っている部屋までたどり着く。


 ダスカロイが来るだけで、騎士は道を譲り扉を開く。


 「ミスター・ミューズ。」


 名前を呼びかけると、そこにはベッドに横たわるミューズがいた。目を見開いているから、起きてはいる。


 「『魔導王』、それにイロアスくん。」


 「よ、随分と酷い怪我だな。」


 「君の方が酷く見えるけどね。」


 いい加減邪魔になってきた包帯を解く。怪我の部分には巻いたまま、明らかに邪魔な箇所をとる。


 セアが悲しそうにしていたが、無視した。


 「英雄がここに2人。実に光栄な場所だ。」


 「英雄だなんて・・・」


 「いいや、君も英雄さ。結界がなくとも亜人と人間がここまで共に助け合う日がくるとはね。ボックの力では決して成し遂げることは出来ない光景だった。改めて、お礼を。」


 ダスカロイが頭を下げる。

 紳士に、それでも厳かに、彼の礼はイロアスとミューズの心を満たす。


 「さて、ここに来た理由は英雄に会いにきた他にもある。」


 ダスカロイはミューズの横のベッドに目を向ける。カーテンで仕切られて誰が寝ているのかもわからない。


 「既に意識を取り戻しているのだろ?ギザ。」


 ダスカロイが風魔法で触れずにカーテンをあける。そこにはベッドに横たわるギザの姿があった。こちらを睨んでいるかのような鋭い目つきに、イロアスは思わず疑問に思う。


 「ミューズ、こいつと寝てるのか?」


 「僕が頼んだんだよ。彼は放っておけば死んでしまうほど重症だったんだ。」


 「誰のせいだと思ッてやがる。」


 「君の脇腹を抉りとったのは僕じゃない。」


 ギザを倒したのはエナリオスだと聞いていた。だが、より多くのダメージを与えたのは間違いなくミューズであり、ギザはその末に倒れた。


 「ギザ、君に話があって来たんだ。」


 「・・・俺の処罰でも決まッたか?」


 「そうだね、君がこれからどうなるか、その決定権はこちらにある。」


 「待ってください!!『魔導王』、ギザはーー」


 「騒ぐんじャねェよ。戦争で敗者がどんな道を辿るのか、想像出来ねェわけじャねェだろ。」


 「それでも!!彼がいたから亜人は団結したんだ!!」


 「それはちげェ。俺も意識朦朧の中テメェの声を聞いた。今亜人のやつらがここにいるのも、団結してるのも、未来を見据え始めているのも、何もかもテメェの功績、テメェの魂の叫びだ。それに、俺様は主君の権能を知ッていた。亜人がそれに利用されるだろうことも知ッていた。」


 「それでも君は最前線を走り続けた。亜人の誰も傷つかないように、根本を断つために誰よりも走り続けた。その背中に、誰も付いて来なかったとしても。」


 「俺様は狼人族だ。亜人からも嫌われるほどの世界から弾き出された一族。誰も後ろに来ないことはわかりきッてらァ。巷じャ『孤独』の眷属とまで言われてんだ。そんなことありえねェけどな。」


 「ギザ、君は後ろに誰もいないと思って振り返らなかっただけさ。みんなちゃんと君の背中を追いかけて走り続けていたよ。ボックが治療中にどれだけ亜人の皆から君を助けて欲しいと土下座されたことか。」


 嘘みたいな言葉だと、ギザはそう思ったのだろうか。いや、例え嘘でも、ギザは驚いて目を丸くした。


 弾き出されて、つまみ出されて、血反吐を吐いて、それでも背後には誰もいなかった。


 ギザは、速すぎたのだ。


 「ボックは、君を必要と判断した。君の処罰は、ある女の子の専属の騎士となることだ。」


 「・・・は?まさか、主君の・・・」


 「君に断る権利はない。君が誰も背にいないと言うのであれば、君の背中に無理やり人を乗せよう。今日をもって、君は孤独な狼では無い。」


 ギザは、何も言わなかった。

 その沈黙を可と受け取り、ダスカロイとイロアスはその部屋を後にする。


 「また後でな、ミューズ。」


 陽気に手を振るイロアスは、そのまま部屋を出ていく。

 ミューズもまた陽気に手を振り返すが、2人が部屋を出たあとに、その手は悲しく下ろされる。


 「・・・あの小僧、知らねェんじャねェのか?」


 「うん・・・伝えたらあの傷のまま暴れそうでね。」


 「どうせ知ることだ。」


 「後に暴れるか、今暴れるかだよ。彼には、重い重い話だからね。それに、伝えるのは僕じゃない。彼女の口から、それを話さなきゃ。」




※※※※※※※※※※※




 扉を開けると、2人の友人が待ち構えていた。


 「何やってんだお前ら。」


 「や、やぁ。ぼ、僕たちもミューズ様が心配で。」


 カンピアとフェウゴ。

 宮殿地下で巨人を相手に勝利を掴んだ2人。その後、貴族を引連れて亜人を止めて見せた2人。


 「アストラも誘ったのだが、断られてしまったのである。」


 「あいつはどこ行ったんだ?」


 「南の砂漠を見に行くと言っていたのである。」


 「・・・?何のためにーー」


 「そ、それより、ミ、ミューズ様は無事?」


 「あぁ、無事だよ。元気そうにしてたぜ。」


 「よ、良かった。と、隣の人が怖くて入りにくくて。」


 「ギザか?ミューズと仲良くやってたけどな。もう大丈夫だと思うから、一声かけてあげてくれよ。」


 そう言うと、2人はミューズの部屋に入ろうとした。

 その時、ダスカロイは2人に声をかける。


 「ミスター・ミルメクス、ミスター・ヴァサニス。君たち2人に感謝を。」


 ダスカロイは頭を下げて、感謝を述べた。


 「君たちが相手にした巨人は、バイオラカスにとって因縁のある巨人だ。それに、王朝を真に恐怖で脅かし続けた巨人。彼を討った功績は王朝にとって大きなものだ。改めて、感謝を。」


 バイオラカスとどんな因縁があるのかはわからない。それでも、ダスカロイは嬉しそうに感謝を述べる。


 「何も我々のおかげじゃない。貴族に勇気を与えたのはフェウゴの献身であり、カケ=ドューレの背中であり、巨人を討ち果たしたのはセイレン=スニオンの実力である。皆の力あってこそである!!」


 「・・・君には軍を率いる才能がある。皆の力を信じ、自分の一声で誰かを動かすことが出来る。だがそこに優越感はなく、自分を高くすることもない。ミスター・ミルメクス、君の成長により一層期待するよ。」


 その言葉は何よりも誉であろう。

 『七人の使徒』から貰う言葉など、誰から見ても羨ましいものであり、最高の研鑽だ。


 「じゃあまたな、お前ら。」


 イロアスは手を振って2人を後にする。

 回らなければならない所がいっぱいある気がしてならないから。




※※※※※※※※※※※




 「ここは重傷者の部屋だよ。」


 「・・・そうか、ちゃんと見ないとな。」


 戦争がもたらす被害。

 建物はまた建て直せばいい。だが、人の心と身体の傷は残り続ける。


 「彼らが目を覚ましたんだ。結果を伝えないとね。」


 重傷者の部屋は、静かな静かな空間であった。誰も騒ぎ立てることもなく、ただひたすらに安静に。


 「ギュムズ先生、具合はどうですか・・・おや?君は確か・・・」


 目を覚ました『戦車』ギュムズ=ナシオン。その横には、静かに泣く少年ーーカケ=ドューレの姿が会った。


 「気にしないであげてくれ校長。我輩の目覚めに涙する少年がいることは光栄な事だ。」


 「確かにそうだね、彼の尽力あってこそだったと先程聞いたばかりだ。」


 「先程事の顛末を聞いたところだ。済まない校長、我輩も戦場で共にできれば・・・」


 「ギュムズ先生。ボックは貴方を雇ってよかったと、心からそう思いますよ。王朝の子どもたちは皆あなたの背中を見て育ったんだ。それが、彼らに勇気を与えた。」


 ギュムズは大きく笑って、カケの頭を撫でる。

 ありがとうと、大きな声で伝えて。


 「ストラトス先生!聞きましたか!気絶してもなお我輩は戦場を駆け回ったようですな!」


 「やかましい。傷に響くから静かにしてくれ。」


 「ストラトス、傷はどうだい?」


 「大丈夫だ。『冠冷』がいなければ死んでいたところだがな。」


 「『魔王』の全力を引き出したんだ。あれは『厄災』と並ぶかそれ以上の実力者。ボックも『戦争』もあれには勝てないだろうね。」


 「南の『堕天』といい、本気で世界が西を取りに来た。これから先も、脅かされ続けるかも知れない。我輩たちは強くなる必要がある。」


 「もちろんだとも。ボックも今まで以上の努力が必要だ。」


 「・・・分かってるならいい。今のお前は特に必要だ。」


 「道化を殺した結果さ。これで君に殺されなくて済む。」


 「・・・ダスカロイ、ようやく我輩はお前を認められそうだ。大層な冠を脱ぎ捨てるまで、時間がかかったな。」


 「待たせたね、ストラトス。」


 二人にしかわからないであろう会話を、イロアスは黙って聞いて笑う。

 こんなに嬉しそうにするダスカロイを、この王朝にきて初めて見たから。


 「ギオーサ先生、聞きましたか!嬉しい限りですな!喧嘩ばかりの2人がこんなに仲良くなって!!」


 ギュムズの奥のカーテンが揺らぐ。

 ギオーサは身体を倒したまま、ダスカロイの方に目だけ向ける。


 「ギオーサ先生、具合は大丈夫ですか。」


 「・・・えぇ。」


 「あなたをそこまで追い詰めるとは・・・余程の手練が紛れ込んでいたようです。」


 「・・・そうね、強かったはずよ。でもね、思い出せないの。私は一体誰と戦っていたのか。」


 「これだけ深い傷を負えば一時的な記憶がなくとも不思議では無い。ギオーサ先生をこんな目に合わせたやつを許しません。」


 「・・・いいえ、憎しみは不要です。顔も声も何も思い出せないけど、どこか悲しい、そんな雰囲気をもっていた。」


 「それでもーーー」


 「思い出せないけど、胸が痛むわ・・・でも、目覚める瞬間に懐かしい顔が浮かんだのだけど・・・それも思い出せないわね。」


 その場にいる誰もが、その正体を知らない。

 知ることは永遠にない。


 「私の心が、穏やかになったような、そのくらい傷が楽になったのよ。」


 深く深く突き刺さっていたはずの傷は、実際は心臓に届いていなかった。確かに深く傷は残るだろう。しかし、命に別状は無いとされた。


 「誰かに、守られてしまったかしら。」




※※※※※※※※※※※※




 「ここにいたのか、随分探したよ。」


 宮殿の庭に、彼女は座っていた。

 傍にはリディアが見守っていて、瞳は悲しみにあけくれていた。


 「キノニア先生とヒミア先生が探していたよ。君もまだ治療が済んでいないのだから、安静にしていて欲しい。」


 彼女は座り込んだまま、目の前の2つの墓を見つめていた。


 墓石の一つには兄の名前が刻まれ、もう一つには何も刻まれてはいなかった。


 『戦争』アーロン=マギア=ボラデルカの傍にいた女性。彼女が何者なのかは、そこにいる誰もが知り得なかった。


 それでも、その女性に何故か涙してしまったのを覚えている。


 優しくて強い笑顔のまま、マギアとアルテミアとサンを抱いて死んでいた。


 その女性を見て、マギアは笑って死んでいった。


 「アルテミア、マギアはお前をーー」


 「私は、自分が本来死ぬはずだったことを知ってるわ。」


 それはマギアの口から誰にも語られることの無い真実。全ては妹のために行われた戦争。


 「誰かのために自分を犠牲にする。大切な人を守るために、大切じゃないものを切り捨てられる。お兄ちゃんは強くて優しくて、厳しい人。」


 墓石に、一滴の涙が零れる。


 「お兄ちゃんのしたことは間違ってる。でも、私のためにと想ってくれた心を手放すことなんてできない。」


 それは零れてこぼれて、誰の手にも拾えない涙。


 「イロアス、あなたは託された。なら、全力で応えて!!」


 「当たり前だ。」


 それ以上の言葉は要らなかった。

 兄を失い、墓前に座り込み、涙を流し、過去を想う。


 託された想いは少年を強くするだろう。


 「・・・イロアス、お兄ちゃんの最期は、笑ってたのよね?」


 イロアスはただ、頷いた。


 「・・・あなたに、永遠の輝きがあらんことを。」


 涙は流れ続けていた。簡単に割り切れるものでは無い。


 だが、それでも彼女は笑ったのだ。

 兄が託した少年に、光は注がれる。


 崩れ落ちて瓦礫と化した黄金郷の中で、彼女の涙とその笑顔は何よりも輝かしい。


 「ありがとうイロアス。あなたのおかげで、お兄ちゃんは救われたのよ。」


 黄金よりも輝かしい月光の元で、イロアスは笑った。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「イロアス、こっちに来て。」


 アルテミアと少し話して、ダスカロイと共にまた別なところへ巡ろうとしたとき、リディアに引き止められた。


 「・・・話すのかい?」


 ダスカロイは念の為に確認した。

 それが何の意味なのか、イロアスは知る由もなく、また、すぐに知ることになる。


 「ミューズは、何も言わなかったでしょ。これはアタシの役目だってそう思ってるのよ。」


 そう言うと、ダスカロイはリディアの頭を優しく撫でて、席を外した。


 「リディア、何でそんな悲しい顔してるんだ?」


 「・・・言わなくちゃいけないことがあるの。」


 「・・・?」


 「戦争の終わり、勝どきをあげた後、あなたはすぐに気を失った。」


 「さすがに意識を保てなかったな・・・まさか、その後に敵が現れたのか!!」


 「いいえ、そうじゃないわ。」


 「誰かに、何かあったのか。」


 「・・・アタシはこの戦争が始まる前に、ダスカロイにあるお願いをしていたわ。」


 イロアスには、まだ検討もついていない。何が起きているのか、何があったのか、これ以上の死人が出たのか。思い当たる節はなく、考えられることもない。


 「アタシは間違っている。それでも、間違ったまま進みたかった。」


 「リディア、何の話をーーー」


 「『冠冷』はそれを許さなかった。」


 「話しがよめないんだけど・・・」


 「革命軍幹部第6席『幻霧』。彼女の処罰はアナトリカ王国に委ねれる。」


 「・・・は?」


 「助力あったとはいえ、アナトリカ王国騎士団への侵入、魔王学校への侵入、『厄災』の助力。到底庇い切れる話でもなく、副団長の判断は紛れもなく正当。」


 「まさか、そんな・・・」


 「サンは、アナトリカ王国にて処罰を受ける。その処遇は不明だけど、その罪はあまりに重い。もう二度と、太陽の元を歩けはしないと。」


 それは、戦後に起きた残酷な現実。

 イロアスが取りこぼした訳では無い。リディアの尽力が足りなかった訳でもない。


 全て幸福に満ちることなど有り得はしなかった。

 幾度となく、彼には試練が舞い落ちる。


 ディコス王朝での戦争は、最期に苦い想いを残して、幕を閉じたのであった。




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