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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章56話 終戦は醜く汚く




 王朝に七色の虹が橋をかけた。


 まさかこの王朝で、こんなにも美しいものを見れるとは思ってもみなかっただろう。


 その空の輝きは、暗く染った皆の心を癒していった。宮殿の中に避難していたものも、窓から射す光に気づきぞろぞろと外に出てくる。


 今となっては瓦礫の山となった黄金郷を鈍く照らしながらも、遥かに気高く美しい光が天に輝いていたのだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 血だらけになりながらも、イロアスは歩みを進めた。全身ボロボロのまま、肩には泣きながらイロアスの無事を願っていた精霊を乗せて、最後にはたった一人で戦い抜いた男の元まで。


 フラフラになりながらも倒れそうになるイロアスの肩を、誰かが支える。


 「お兄ちゃんの元まで行くんでしょ?肩貸してあげる。」


 「・・・ありがとう、アルテミア。」


 聞きたいことがあったのだ。

 俺は全てを救うつもりで動いた。結果的にマギアの野望を打ち砕くことになったが、それが正しい事だったと信じて疑っていない。


 それをアルテミアと共に止めることに意味があったのだと、イロアスはそう思って仕方がないのだ。


 だからこそ、彼が本当は何を想っていたのかを知りたいのだ。その心の内に何を秘めていたのか。


 ーー瓦礫の山を超えた先に、彼は仰向けで倒れていた。


 天を覗き見ながら、彼はこちらに気づいた。


 「小僧、俺は貴様を否定したかった。」


 「・・・俺のしていることは、間違っているのか。」


 「おい、そんな情けないことを聞くためにここまで来たのか。そんな腑抜けた揺らぐ精神で俺を止めようと歩んだのか。」


 「それは違う。」


 「ならそんなことを聞くな。貴様はそれでいい、それが正しいと信じて歩まなければ、貴様が救ってきた全てもまた揺らぐ。」


 「・・・マギア、お前はやっぱり『戦争』じゃないな。お前は、ただの兄だったんだろ?」


 「俺は『戦争』だ。世界を敵として見たあの日から、俺はずっと『戦争』だ・・・『厄災』なのだ。」


 イロアスは、アルテミアからマギアの過去を聞いた。アルテミアが見たマギアの過去はあくまでも一部であり、その全貌を知ることは無い。これから先も、知り得ないだろう。


 彼が妹の魂を残すために奔走したことなど、マギアが誰かに語らない限り永遠に夢の中へと消えていく。


 だけど、イロアスは少しだけわかってしまったのだ。


 敵に回っても、それでも妹を切り捨てられずに迷い続けたマギアを目の前に見た。

 その結果の敗北。


 「お前が本当に『戦争』なら、俺たちは勝てなかった。お前が兄だったからこそ、俺たちは勝ったんだ。」


 マギアは、何も言わなかった。

 ただ天を仰いで、ゆっくりと妹を見て、漸く口を開いた。


 ーーー言の葉が喉の奥から出るその瞬間


 「あら、負けたんかいな。ヌシは弱いなぁ。」


 「・・・!!逃げろ!!アルテミア!!」


 この戦場で唯一、イロアスが嫌悪した存在。

 この男からは、いや、この生命からは何も感じないし何も感じさせない。


 理解しようとすること自体が間違っているかのように、それはただ存在する。


 マギアの叫びで振り返った瞬間、目の前には最悪の光景が広がっていた。


 アルテミアのすぐ背後にあまりにもおぞましく不敵で不気味で、そんな笑った狂気が存在した。


 「ほんじゃ、貰っていくわ。あと、ヌシはもう死んどきや。」


 一瞬だった。


 仰向けに倒れて胸の真ん中から血飛沫を上げて、叫ぶことも無く横たわるマギア。

 不意打ちをつかれて、体が硬直したかのように動けなくなるアルテミア。


 「ついでに、ヌシも貰ってくわ。なんかそうした方がいい気がするねんな。」


 ついでにーーそれだけで、自分にも伸びる狂気にイロアスは恐怖した。


 目の前が真っ暗になる。やっと明けた夜に再び呑み込まれる。

 肩に乗ってたセアが泣き叫びながら、行かないでと言う。


 ーー動けない。動けないのだ。


 動け、動け、動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け




 動いてくれ、頼む。


 「頼む・・・妹を・・・助けてくれ、イロアス。」


 力なく、弱々しくも、気高い声がイロアスの耳に聞こえた。さっきまで殺しあった者の声だ。兄であろうと奔走した男の叫びだ。


 これを救わずして、何が『英雄』なのか。


 瞬間、体に激動が走る。

 その声と同時に、金縛りは解かれた。


 無意識で弾いた手。

 心臓に宿る力。


 暗い暗い闇の繭に閉じ込められたと認識する。

 急に見え始める闇の中、目の前にはやっと開放された少女を脇に抱える狂人ーークレイブ。


 「なんやヌシ、見えとるんか。」


 「てめぇ、ふざけるなよ。やっと、やっと、やっとその子は自分の願いを叶えたんだ。疲れきったこの戦場に、手を出してんじゃねぇよ!!」


 「・・・いや、見え始めたのか?ヌシ、なんか特別っぽそうやな。」


 「無視してんじゃねぇ!!」


 闇の中、イロアスの剣が鈍い銀の光を纏って火花を散らしながら狂人の顔を照らす。

 周りにはその一瞬しか見えていないだろう、しかし、イロアスには闇の中でもハッキリと相手の顔を見えている。


 「まぁええわ。連れてってみればわかることやんな。」


 「リディアはどうした・・・!!」


 闇夜の中、イロアスはあまりにも気になってしまった問を与えた。それは、本来この場にいるはずのない相手が現れたからこそ、問わずにはいられない。


 「あぁ、奪い合い高めあったあの女なら、死んでもうたわ。」


 真っ暗闇の繭の中、もうそこに光はなく、イロアスの目の前は真っ暗に閉ざされた。

 人が死ぬーーそんな安易なこともイロアスにはわからない。


 さて、君は人の死を目の当たりにしたことがあるだろうか。

 それはなんとも儚くも、死ぬ時は一瞬でありそこに善悪の感情も揺らぎもない。ただ、居なくなったと思うだけの空白が存在するだけで、実際に実情に伴うのは後日である。


 だからこそ、イロアスのその行動は恐ろしく早かった。


 人が死んだ、人が死ぬ、そんなことをまるで想定してなかったかのように、瞬間的に力を発した。


 「ーーー殺す。」


 全身から血液が流れ落ちてる。だが、そんなこと気にならないほどの激昂。


 怒りに身を任せてしまう。目の前に憎しみしか宿ることの無い狂人がいて、自分にはそれを殺すために振るう剣しかない。


 振り回し、振り回し、振り回す。

 単調で愚直で、なんとも愚かなことだろうか。


 「ヌシ、弱いな。」


 感情に身を任せて、強くなれる者なんて居ない。感情が急に技術を磨けるのか、今までの努力を上回れるのか、冷静に正確に分析できるのか。


 わかっていたし、知っているつもりだった。


 それでも、人の死はイロアスにとってはあまりに効きすぎた。誰をも守り救おうとするその意志を目の前の狂人は嘲笑うように煽るのだ。


 直線上に振り下ろした剣は、クレイブに簡単にかわされ、鳩尾に重い重い一撃を喰らう。


 「これで手土産3つ目。あわよくば4つ目までくれるといいんやけどなぁ。まぁ、ここらで退散やな。」


 「ふざ・・・け・・・」


 「ヌシ頑丈やな。でも、敗北者は奪われるだけやで。だって、死人に口なし意志なし、死体は物やろ?」


 目の前が暗くなっていく。上手く喋れなくなっていく。


 「・・・ん?」


 それでも、意志を保ちクレイブの袖を引っ張って離さなかった。


 「行かせない・・・!!」


 闇の繭の中、最後の最後に振り絞った力の解放。それは、繭を弾け飛ばし、再び太陽の下に映し出される。


 「なんや今のは・・・闇属性同士の反発・・・?」


 「置いて・・・いけ・・・」


 クレイブは、生きたまま連れていくことをやめた。この目の前の少年からは、どうしてか嫌な気配しか感じなかった。


 ここで殺しておくべきだと。


 ナイフよりも鋭いであろうクレイブの爪がイロアスの脳天を切り裂こうと振り下ろされる。

 その悪意に反応したのは、誰よりも近くで待機していた精霊だった。


 突如として、イロアスは光の結界に守られる。クレイブの爪を弾き返し、結界には傷一つない。


 「だめ、それだけはだめ・・・イロアスだけは絶対に死なせない!!」


 結界の中、漸くその姿をクレイブは捉えた。

 本来は見えるはずのない精霊が、その魔力を限界まで高めて、その姿を色鮮やかに見せてみた。


 金髪に青色の瞳ーー否、その瞳の色は光り輝く黄金へと変化していた。


 「大精霊・・・いや、なんやその髪色と瞳の色は・・・ヌシは誰や。」


 恐らくこの場では2人にしかわからない話。


 そんなことはどうでもいいかと言うように、その光の結界はとある2人を呼び集めた。


 クレイブの目の前が霞んでいく。強く発する光すらも呑み込んで、そこは霧に沈んでいく。


 「その子、返してもらうよ。」


 霧の中、レーザーがより正確にクレイブの右腕を貫いた。

 精霊によって僅かに動揺させられたクレイブの隙を見逃さないと、まだ残る2人の光魔法の使い手が駆けつけたのだ。


 右腕の力が瞬間的に抜け、抱えていた少女は霧に呑まれて消えていく。


 「やられたわ・・・死体じゃないから権能も発動せぇへん。やれやれ、何のために派遣されたことやら。」


 「権能・・・そうか、やはり君は魔人族だね。それもその強さは戒僧。」


 「ヌシとは初めましてやもんな。どうも、戒僧クレイブっちゅーもんすわ。」


 「それで?戒僧が何の用かな?」


 「探りを入れるのは結構なことやけど、今ヌシらの方が危ない状況ってわかっとる?」


 「何だと・・・」


 ダスカロイの背後から、おぞましいほどの大魔力を感じ取る。それは、先程まで戦っていた『戦争』の魔力そのものでありーーー


 「アルテミア・・・まさか・・・」


 それは意思無いアルテミアの魔力の暴走。マギアがアルテミアから取り上げていた筈の『戦争』の力の残り香であった。


 「せっかく大人しくさせとったのに、ヌシらが余計なことするからやでほんまに。まぁでも、代わりにあっちの死に体の方貰ってくで。」


 「させるか!!」


 「させようや。じゃなきゃ、魂の片割れがこの王朝滅ぼしてまうで?いいんかいな?それは敵も味方もだ〜れも望んでないことやのに。」


 「外道が・・・!!」


 「俺っちも可哀想な亜人の一匹なんやけどなぁ?そんな外道なんて言わんといてや、お涙ちょちょ切れやでぇ?」


 明らかに放っておけば危険なクレイブと、暴走している『厄災』。それでも、どちらを止めなければならないのかは火を見るより明らかだった。


 意識が途絶え途絶えのイロアスは精霊が結界を張って護っているが、死に体で転がっているマギアはそうでは無い。


 何の目的で『厄災』を回収しているのかはわからないが、ろくな事にならないのだけは確かだった。


 それでも、ようやく解き放たれた『戦争』を目の前に、それを抑えないなど選択肢になかったのだ。


 「ほんじゃ、また会おうや・・・って思ったけど、その体たらくじゃ会うことはなさそうやな。」


 クレイブはゆっくりとマギアの元まで歩く。

 ダスカロイがアルテミアを抑えにかかったからだ。サンもまたアルテミアを止めるために既に力添えをしている。


 「精霊が一番欲しかったんやけど、触らぬ神に祟りなしってやつやな。」


 セアの結界を横目に、遂にその手はマギアに触れられる。


 「主君に、触るな。」


 それは、クレイブが最も驚く声だった。決して二度と出会うはずのないだろう声。


 「・・・確かに殺したはずやけどなぁ。」


 セアの光の結界の中から、イロアスは確かに目を開けて彼女を見た。

 フラフラになりながらも、イロアスはしっかりと見たのだ。


 胸に大きな傷跡をあけながらも、心臓を潰されてもなお両の足で大地を踏みしめ、大剣を振るうリディアの姿を。


 「リディア・・・頼む・・・」


 その声は、地面に横たわるマギアの最後の頼みであり、


 「もちろんです。それが、エフェソス家の全てです。」


 リディアは、その大剣を大きく天に掲げる。


 「おーい、俺っちを無視するんやないのーーーおいおい、待てや!!それはやめんかい!!」


 焦るクレイブに、あなたには止められないでしょと言うように不敵に笑うリディア。


 天から真っ直ぐに迷いなく振り下ろされる大剣。


 その大剣は、マギアを深く深く、貫いたのだった。




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