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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章54話 七色の虹は遥か天まで




 つくづく、自分が『厄災』なのだと理解させられる。


 最早自分の味方は居ない。たった一人も戦場に立っていない。


 愛する妹でさえ、自分を止めるために全てを投げ打って彼らの背中を守る。


 まるで世界が敵になったかのようにーーいや、違う。世界は最初から敵だった。


 何もかもを知り尽くしたあの日から、世界はずっと敵だった。900年間変わることなく、敵であり続けたのだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 3分間耐え続ければ、勝ち。


 それは、臨天魔法という奥の手を使ったことが全てである。これを用いれば、魔力回路はショートし、一時的に使えなくなる。


 もちろんマギアの臨天魔法が持続型という他に類を見ないほど訳の分からない時間発動し続けているが、全ては縛りによるもの。魔力回路もまた縛りにより増強され、ショートを起こさずに今も魔法を使い続けられる。


 だが、魔力貯蔵は空になる。

 これだけの魔法、持続型とはいえずっと使い続けられるわけが無い。


 ・・・そんな淡い期待もしていたが、それは有り得なかった。


 魔力貯蔵もまた、縛りによる爆発的な効果を得ているのだ。


 「あと3分って、長すぎだろ。」


 それが率直な感想。

 この化け物から3分ヘイトを稼ぎ続けるのは至難の業。アルテミアが居なければ既にへばっていたのは間違いない。


 そのアルテミアも、兄と違って魔力量は多くない。魂は二分割されているが、そこは完全に2分された訳では無いらしい。


 「3分間、必ず守る。だから、血反吐吐いても止まらないで。」


 「えぐい注文だね。でも、それが正しい。」


 変幻自在の影がもう何度心臓を握り潰そうと押し寄せただろうか。


 止まることなど許されない。自分だけが楽しようだなんて甚だしい。

 誰かを救うと、徹底して決めたのであればそれを成すために他の何もかもを捨てなければならない。


 例え自分であろうと。


 自分がヘイトを稼ぐと言ったが、マギアは最早イロアスに構ってる余裕はなくなった。

 どこにいるかも分からないほどの濃霧に包まれたダスカロイを殺すために、自分が操れるだけの影を投入していた。


 「それはさせねぇ!!」


 イロアスはマギアに向かって突っ込んでいく。フルオートで影を動かしてはいるが、本人の意識がイロアスに向けば影の量は減る。


 「どうして俺に勝てると思っている。」


 マギアの攻撃は単調ではある。それは数の暴力であるが、質もまた劣ることは無い。全てが命を刈り取りにきて、自動追尾もしてくる。


 マギアの防御もまた単調ではある。フルオートで自分に向かってくるものを阻み、あわよくば殺す。または、何も感じとれないほどの闇の中へと引きずり込む。


 単調ではある。

 しかし、これが最も強いのだ。


 爆発的な身体能力を持つイロアスでさえ全てを捌き切ることなど出来ない。背中にいるアルテミアがいてこその本領を発揮している。


 「小僧、アルテミア、サン、道化、有象無象の騎士共・・・ここまで揃っても遂には傷一つ与えることが出来ないこの現状をどう捉える。」


 「各々の想いを抱えた幹部、北の魔獣、南の帝国、砂漠に蔓延る亜人。それら全てが歯向かった今宵の争いを止め、遂には俺の権能まで封じ込めたことは偉業だと、この俺自身が褒めて遣わそう。」


 「しかし、頂きを知らぬ貴様らはまだ希望を持つ。踊ることを忘れた道化に何を期待している。ここが影の中である限り、太陽が貴様らに微笑むことはない!!この『戦争』アーロン=マギア=ボラデルカを超えて笑うことなど、出来やしないのだ!!」


 長きに渡る戦い。

 太陽が陰り、暗黒の世界に王朝が包み込まれても、彼らは決して諦めなかった。


 僅かな光だけを頼りに、ありとあらゆる力を解放し、限界を土壇場で超えてもなお、遂にはマギアに傷一つ負わせることなどできない。


 それでも、絶望はありえない。


 「俺が心折れてねぇ限り、負けはねぇんだよ。諦めるなんて言葉、出るわけねぇんだよ。」


 「悪足掻きに過ぎない。分かりきった結果に、何を抗う。」


 「闇夜に浮かぶ光を知らねぇのか。」


 「・・・何を言ってーー」


 「夜に浮かぶ月光は、お前を照らし続けてるぞ。太陽を隠して影に身を潜めて、その光を拒んで・・・お前には、何も見えてない。」


 「その光を奪ったのは、貴様らだ!!」


 分かってる。

 マギアにとっては、そもそも世界から敵に回ったのだ。たった一人の、親愛を奪われて。


 それでも、それでもイロアスは今のマギアを許さない。


 その光が今、誰のために戦うことを選んだのか。


 「月光が、誰のために光り輝いているのか、テメェはまだ分かってねぇのか!!」


 影を縫って、淡い光を背に置きながら、イロアスは翔ける。


 想いを叫び、血反吐を吐いてもなお止まらぬその圧力に、マギアは全力で応えるのだ。


 その一瞬にも満たない全力のぶつかり合い。

 人が流していい量ではないほどの、血液が闇に呑まれながら、刻一刻と時を刻んだ音が鳴り響く。


 霧は晴れ、影は遂に捉えた。

 だが、そこに近づくにはあまりにそれは輝きすぎていた。


 「亜人を想う偽善で自分の悪意を覆い隠した道化が900年踊り続けた。そして、時は満ちたのだ。」


 虹色にその瞳を輝かせ、手で優しく包むは黄金の輝き。


 「道化は殺した。太陽を、空に返す時だ。」


 それはこの影の世界では本来存在し得ないほど、強烈な光を発して輝いていた。


 強大であればあるほど影は強くなる。まさに表裏一体であり、それを直感的に理解した光魔法の使い手たちはその出力を弱めざるを得なかった。


 「真っ向勝負といこうじゃないか。」


 霧の中、完成に至ったその魔法の名はーー


 「 太陽の咆虹(たいようのうた) 」


 ダスカロイを中心とした広域で、その光は唄う。

 誰一人として零すことなど許さないと、魔法が唄う。


 この魔法は、全属性に適応を持って生まれたダスカロイ=ドレイペだからこそ成し得る技。全ての属性に光魔法を組み込むことで、あらゆる魔法が光の属性を持つ。


 「すごい・・・影が塵になってく・・・」


 それを目の前で感じ取ったのは、霧で守り続けたサン。


 水魔法と光魔法を持つ彼女は、この魔法がどれだけの集中力と難易度を誇るのかを知っている。


 二属性掛け合わせるだけでも相当な技量が必要なのだ。感覚でやってのけているイロアスには理解ができないだろうが、二属性の効能を100パーセント発揮することは中々に技術がいる。力のバランスを間違えれば暴発も有り得る。


 ダスカロイは、それを七属性でやってのけた。


 一属性ずつ丁寧に魔力を込めて、光と闇ですら共存させる。ギオーサが杖ありきでようやく実現したことを、神経1本1本まで集中した極限状態の中でやってのける。

 もちろん同時発動ではなく順序立てして発動しているので、突き詰めればギオーサでも習得可能な領域ではある。


 だが、それを七属性全てでやってみせるのだ。


 光の領域は宮殿を包み込み、イロアスを囲い、マギアと対立する。王朝に満ちた影の世界は、光によって侵食を食い止められる。


 「これが、お爺様に並ぶ力・・・『七人の使徒』の真の実力・・・」


 リア=プラグマは、ただただその実力を測った。その上で、この戦いの決着を遂に目の前に見えたのだ。


 「行くぞ『戦争』。影は幾億に伸ばそうが、太陽には届き得ないことを知るがいい。」


 「驕るな。貴様の光を呑み込んだ時、この世界は終わりを迎える。精々足掻いて見せよ。」


 闇と光。


 これ程荒々しく、分かりやすく、対立するものがあろうか。


 七本七色の光の柱がマギアに向かって放たれる。それはそれぞれの効能を持ってマギアを襲う。


 影で受け止めた瞬間にそれは爆発し影は散る。追撃するかのように雷鳴が鳴り響き、マギアを押し流すように光の波が立つ。だが、その荒波を笑うかのようにマギアは影で呑み込む。


 瞬間、影は内部から爆発する。その影の死体からは光の粒子が湧き出て、マギアの頬を焼く。


 ようやく、マギアは傷を負った。


 影が負けじと光の輝きを喰らって黒より黒く染まる。だが、大地から差す光がマギアを包み込む。


 大地は質量を持つ光によって打ち上げられ、その身は上へ上へと昇っていく。


 上から振り下ろされる影の腕が光を抑え込み、ダスカロイが確立させたはずの光の領域に侵入しようと試みる。

 そこに居たリア、サン、アストラ、そしてイロアスは想う。


 これが、『七人の使徒』と『七つの厄災』の衝突なのだと。


 ダスカロイはマギアの下の光を膨張させる。他の七色の光を全て混ぜ合わせ、巨大な光の槍となってマギアを貫こうと放たれる。

 大地のエネルギーを吸い込み、爆風で影を吹き飛ばし、雷鳴はその切れ味を増し、水のように滑らかに。


 マギアが雄叫びをあげる。


 その夜鳴きは影を暴走させ、最早コントロールを捨てる。フルオートで自分を守ったりなどしない。


 全てを破壊するためにその影は暴れ狂う。雄叫びをあげてその憤怒を夜に叫ぶマギアを真似るかのように、影は生命という生命を襲う。


 ダスカロイの光の領域が黒に染っていく。マギアを貫かんと七色に光る槍が抑え込まれていく。


 「ふざけた力だ・・・!!」


 「これが臨天。言ったはずだ、頂きを知らない貴様らは希望を持ちすぎたと!!」


 夜が来る。

 太陽を隠し、陰った大地に差す光を殺さんと欲して、影は何もかもを呑みこんでいく。一筋の光すら覆い隠すほど、マギアの影は黒に染っていく。




 ーーーだが、夜にこそ彼女は輝きを増すのだ。


 「ごめんね、お兄ちゃん。」


 それは僅かな光なのかもしれない。凡そ夜を照らす事など出来やしないが、その輝きは誰の目からも離せず、照らしたいものだけを照らす唯一無二の救済の光。


 「ーーーアルテミア。」


 「私が、照らしてあげないと。そうじゃなきゃ、結晶の中から出てきた意味なんて無いんだよ。」


 「・・・そうか、あの時お前はーー」


 「イロアス!!お願い!!」


 月光は、その信を一人の少年に置いた。兄を止めるために、自らはその少年に懸けたのだ。


 雨を蹴りあげ、光の領域から唯一這い出て影の君主の元まで翔ける。


 そこには、ある筈のない光纏って。


 「やはり貴様は・・・そうか・・・」


 「もう影は効かけねぇぞ。俺には、俺を照らしてくれる光がある。」


 マギアを守るフルオートの影は、イロアスが纏う光によって消滅する。その強すぎる光に、影の君主すらも灼かれてーー


 「イロアス、ありがとう。」


 月光が、その光の輝きを増す。

 光の領域は再びその真価を発揮し、傷つき倒れる者、震えて夜明けを待つもの、身体を赤く染め上げてもなお闘志を燃やすもの、その全てを救って包み隠す。


 「 其の光は唄う 己の業を燃やし 踊り狂う夜を超えて 宙の涙を照らす 色彩は豊かに 誰の心も貫くだろう 」


 後追いの詠唱。

 完成されたはずのダスカロイの大魔法は、再びその輝きを増してマギアに向かって放たれる。

 イロアスの突撃によって怯んだその瞬間、その隙を逃すはずも無く。


 「夜は明ける。夜は、明けないとダメなのさ。」


 ーー影は散る。


 最後は、愛を見ながら、影の王は月光に灼かれて夜から追い出される。


 ダスカロイの放った光魔法が太陽に目掛けて放たれ、雲は晴れ、雨は上がる。


 夜の帳は太陽に照らされて消滅した。


 空には、七色の虹が祝福するかのように王朝に橋をかけたのだった。




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