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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章49話 兄妹




 これは、アーロン=マギア=ボラデルカをよく知る者から聞いた物語。


 これは、『戦争』マギアをよく知る者から聞いた物語。


 これは、900年間結晶に閉じ込められてもなお、ただ一人の兄を想った少女から聞いた物語。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 どうしてあなたは、お兄ちゃんの心を縛り付けてるの?


 どうしてあなたは、優しい心を利用するの?


 どうしてあなたは、そんなに何かを憎んでいるの?




 ーーどうしてあなたは、泣いているの?



 結晶の中で、少女は夢を見た。

 それは、何かを憎み、壊してやりたいという悠久の願いであり、同時に、救いを求める愛でもあった。


 その夢を自分のものではなく、兄のものだとわかったのはいつだろうか。


 兄は、誰かの心の叫びをずっと受け止めている。

 ずっとずっと、何年、何十年、何百年の時を超えてもなお受け止めている。


 その叫びは、兄を掴んで離さなかった。

 そして、兄もまた、振りほどくことをしなかった。


 「世界が一つになれば、平和な世界が訪れるのか。」


 「もちろん、約束しよう。」


 「その世界は、もう誰かを恨まなくても、誰かを殺さなくてもいい世界が広がっているのか。」


 「もちろん、世界を再構築するのよ。」


 「その世界で、アルテミアはアルテミアでいられるのか。」


 「もちろん、私がそれを許そう。」


 兄は、自分のことを考えていないのだ。

 自分以外の誰かの幸せを願って、そのために動いている。


 「だから、私の手を取って欲しい。」


 兄は、その手を取った。

 それは決して間違いじゃないと、私はそう断言する。


 だって、彼女の心の叫びは、泣いていたのだから。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 堂々と、真っ直ぐに、イロアスは『戦争』に向かって指をさす。


 革命軍の幹部を次々と撃破し、砂漠を超えてここに現れるだけでも、この歳の少年にしては凄いことだ。


 それは『戦争』マギアも理解しているところであるが、不快だった。


 「なぜ貴様が、アルテミアを連れている。」


 目を焦がすほどの強烈な殺気が漏れ出す。本来ならば周囲もそれに気づき手を止めるが、亜人はむしろ戦意を増すばかり。


 目の前の悪を殺すことで精一杯になっているのだろう。


 何よりも、この殺意が現状、自分以外に向けられていない。


 「900年俺から奪い、貴様らはまだ妹を奪うのか!!」


 「奪っちゃいねぇよ!!お前の妹の願いを叶えに来ただけだ!!」


 マギアはアルテミアを見る。

 アルテミアもまた、マギアを見つめる。


 「お兄ちゃん、もう大丈夫だよ。もう、やめようよ。」


 900年の時を超えて、兄妹は初めて会話した。

 結晶から救い出したあと、アルテミアは目覚めることはなかった。リディアが側にいて光魔法でずっと看病してもなお目覚めることは無かった。


 そのまま始まった戦いに、攻め込んできた『魔導王』の相手に、マギアは妹とついぞ面を向けるタイミングも失っていた。


 ようやく、ようやく話せたのに、


 初めの言葉は自分を否定するものだった。


 「・・・アルテミア、お前にはまだ理解してもらわなくていい。これは、必ず成しえなければならないことだ。」


 「お兄ちゃん、お願い。」


 「ダメだ。俺は世界を一つにする。」


 「そのために亜人を巻き込んで、ずっと戦いを強いるつもりなの!?自分の権能のために、彼らを利用し続けるの!?」


 「必要な事であり、彼らもまた自由を望んでいる。ギザがそうであるように。」


 「お願い・・・もうやめて!!」


 「例えお前に嫌われようと、これは必要な事だったと理解するだろう。」


 アルテミアの叫びは聞こえない。

 『戦争』マギアには、聞こえないのだ。


 「おい、マギア。」


 呼び止められた不快感を目に込めて、まるでゴミを見るようにマギアはこちらに目を向けた。


 「お前は取る手を間違えた。」


 「何も知らないゴミが、囀るな。」


 「知ってるさ、お前が優しい優しい兄だってことを。」


 亜人を利用し、自分の権能を強化する。

 無敵となり、その力を世界に向けて放つ。


 それは紛うことなき『厄災』であるが、彼の行いは全て優しさからできているとしたらと、そう語られた。


 「だけどな、間違ってるぜ。」


 「何を間違えている。『戦争』とは、貴様ら人間が生み出した己の正義を貫くための手段だろう。傲慢で強欲な貴様らは、相手を屈服することで自らの正義を、正しさを、信念を押し付ける。」


 「そうだ、それでもお前は間違っている。」


 「不快だ。貴様のような子どもが何を語る。」


 「それを間違いだと証明するやつは、別にいる。その役目は俺じゃない。俺はその救いになるために、そしてお前を救うためにここに来た。」


 「不快にも程があるな。俺は救いなぞ求めてない。寧ろ、俺が世界を救ってやろう。貴様ら人間が生み出した『戦争』という手段を持って、世界を再構築する。」


 「その先の世界で!!お前の妹は笑ってんのかよ!!」


 「笑っている。少なくとも、結晶の中に閉じ込められ、暗闇を見続けた900年よりも、そこはずっとずっと、平和な世界だ!!」


 「ふざけんじゃねぇ!!お前が見なきゃいけねぇのは、今ここに生きてるアルテミアだろうが!!」


 イロアスの心からの叫びを、マギアはどう受けとったのか、それは彼しか知らない。


 しかし、彼は確かに歯を食いしばり、その言葉を受け止めた。

 それでもなお、影で型どった剣を握り、イロアスに剣先を向けるのだ。


 「セア、アルテミア、リア、サン。亜人たちを任せた。」


 「イロアス・・・」


 「任せろ。俺は、そのためにここに来た。」


 腰の鞘から剣を抜く。

 稀代の天才ダスカロイでもかなわなかった相手であるが、不思議と負ける気はしなかった。


 問答は済んだ。

 道は分かたれた。


 それでも、イロアスは『戦争』を救うのだ。

 倒し、屈服させるのでは無い。


 救うのだ。


 見つめ合う二人。

 マギアもまた、彼を改めて敵と認識した。


 「アナトリカ王国騎士団イロアス。」


 「『戦争』アーロン=マギア=ボラデルカ。」


 名乗り合い。それは相手を認め、敵として認識した証明である。

 同時に、イロアスは必ず救う対象として、マギアは必ず殺す相手として、互いに認識しあったのだ。




※※※※※※※※※※※




 「急いで!!イロアスの今の実力じゃ、10分も持てば凄い方!!」


 「ちょっと!!私のロアをバカにしないで!」


 「そういう意味じゃない!お兄ちゃんの権能の話はしたでしょ!!」


 無限の魔力と無限の再生。何度も連続で大技を放つ事が出来る上に、攻撃を食らっても痛覚遮断からの自己再生でたちまち傷はなかったことになる。


 「10分で、この戦争を止める!!」


 イロアスが稼げる時間で、自分に出来る全てをやり遂げなければならない。


 兄を止めるために、『戦争』を止めなければならない。


 「そうでしょ・・・そのために、私にはこの力があるんでしょ!!」


 「アルテミア様・・・?」


 サンは光魔法を持つ。そして、水魔法で常に周囲を感知し続け、危ない局面はアルテミアに被害が及ばないようにリアと共に流れ弾を防いでいた。


 常に感知し続けていたが故に、それに気づくのも早かった。


 「私の想いを、戦場に。」


 アルテミアの体が光を発する。

 それは、兄とはあまりに対照的すぎる力。


 「光魔法・・・『厄災』が、どうして・・・」


 セアが驚くのも当然だった。

 『厄災』という世界を滅ぼそうとする悪意は、世界を愛する光を受け取れない。


 つまり、光魔法を会得することは不可能なのだ。

 それをしてしまえば、魔法の根幹が崩れ落ちる。


 魔法は世界という、絶対的なルールが崩れるのだ。


 「アルテミア、あなたはーー」


 「今はそんなこといいでしょ!!」


 いち早く動いたのはリア。

 アルテミアの光魔法がどんな効能か、それを周囲を見て理解した。


 アルテミア周辺の者は、戦う意志を放棄し武器を落とす。リアはそれをすかさず破壊して回る。


 「戦意の喪失・・・いや、戦争を止めたいという気持ちの伝達。」


 「『戦争』マギアが信念の衝突を自分の力に変換すると言うなら、もう一人の『戦争』アルテミアはその力を他者に伝えることが出来る。」


 アルテミアがマギアと同じ権能と、本来有り得るはずのない光魔法を持っているからこそ、為せる技法である。


 兄と反対の道を歩む。

 全ては、兄を救うためにーー


 「お願い、止まって!!」


 光魔法の範囲はどんどん拡がっていく。


 ・・・しかし、彼女は『戦争』でありながら戦争を知らない。


 マギアの魔力と再生力を見ても、なお光だけで『戦争』が止まると思っている。


 「憎しみが、強すぎる・・・」


 アルテミアの光は、全てに届かない。距離が離れれば離れるほどその力は弱まっていく。


 「お願い・・・私の想いを聞いて!!」


 その叫びは戦火に消される。

 誰にも、その声は届かない。




 「ーーー」




 何かが聞こえた。


 それは、信念を伝えようと奮闘するアルテミアにしか聞こえないほどの、小さな小さな叫び。


 それでも、想いの丈は遥かに強い。


 「誰なの!!」


 リアもセアもサンも聞こえていない。

 アルテミア一人だけが、その声を聞き取り、周囲を見渡す。


 「アルテミア様・・・?」


 「お願い!!一緒に探して!!誰かが、戦場で叫んでいるの!!」


 アルテミアにしか聞こえていない叫び。

 だが、聞こえていなくとも彼女には探す術がある。


 「アルテミア様・・・手を貸して・・・」


 アルテミアの効能を利用して、サンは自分の光魔法を使う。

 リアと戦った時には攻撃としてしか使っていなかったが、きっとこれが本来の使い方なのだと体で理解している。


 「導きの燈籠(モリヴォス)


 サンの指さす方向に、真っ直ぐ光が道を示す。


 「・・・イロアスがこの戦場で最も頼りにしていたのは、あなただったのね。」


 セアは、知っている。

 イロアスはこの戦場に、マギアの間違いを証明する者がいると断言した。


 「ミューズ=ロダ。あなたこそが、イロアスの希望。」


 王朝を囲む壁の上に、彼は血を流してもなお2本の足で立ち叫ぶのだ。


 「戦いを、やめてくれぇぇぇ!!!!」




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