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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章44話 新たな芽




 これから先の戦いの結末は見えている。

 全身ボロボロにされ、それでもこの場に立っている俺様と、バビロンを相手にしていたはずなのに息切れひとつせず来た『大将軍』。


 一切の無傷でタイマンを張ったら、10回に1回は勝てる。場所にもよるが、ここが中央の海付近であったならば、10回やっても1回も勝てないだろう。


 その野性的な直感は、さすがとしか言いようがないほどである。

 ギザは自分を強いと思っているし、事実強い。しかし、最強とは思っていない。自分より強いどうしようも無い化け物も存在すると思っている、例えば、『冠冷』や『魔王』がそれに当たる。


 『冠冷』が学校に来た時、1番毛を逆立てて反応していたのはギザである。外から来た理解の外にあるような絶望的な強さ。それを全身で感じとっていた。


 あくまで一例だが、ギザは自分を最強と思っていなく、自分より強いものは存在すると認識している。


 そして、『大将軍』エナリオス=スニオンもまた、自分より強いと認めている強者である・・・が、決して勝てない相手では無い。


 結末は見えている。

 自分の全てをかけて、勝つ。


 この祈りを、願いを、ようやく叶える時がきたと。

 崇拝はしていないが、この場を与えてくれたことは『戦争』に感謝している。


 「・・・いいさ、誰も願いを聞いてくれなくても、俺様は一人で勝ち取ってみせる。」


 「・・・」


 エナリオスは、ただ沈黙で返した。


 哀獣は、王朝が生んだ化け物だ。

 結界という理不尽に耐え忍び、『厄災』の手を借りてでも自分の存在を高らかに叫び、苦悩し、奔走し、暴走する。


 「・・・敬意を払う。貴様は、強い。」


 『戦車』ギュムズ=ナシオン、ミューズ=ロダ、アストラ=プロドシア。

 エナリオスから見ても実力者であると思っていた三者を倒して、それでようやく息切れを起こし、血を吐き、それでもこの哀獣は戦意を無くさず立っている。


 誰の寵愛も受けず、誰も願いを叶えてなどくれやしなかった。


 「俺も願いを叶えることは出来ない。俺にも、この王朝には滅びてもらっては困るのだ。」


 「てめェが何考えてやがんのかわからねェなァ。そんな強さがあって、何でそのクズの下にいやがる。」


 「このクズの下に付くのは、この瞬間をもって終わった。」


 静かに、厳かに放たれた言葉は、ミューズやアストラのような、王朝に来て日が浅い者を含めて驚嘆させた。


 「エナリオス・・・何を言っているのだ・・・無礼だぞ!!よくも王の前で!!」


 「そうじゃ、エナリオス・・・何を言ってーー」


 言葉を失う王と、影で困惑の中怒りをさらけ出す宰相。


 「この王朝は、この戦いで生まれ変わるだろう。俺の目的にはもはや貴様らは不要だ。」


 「生まれ変わるじゃと・・・何を言っているのだ。」


 「・・・すぐにわかる。もうそこに、新たな時代が迫っている。」


 魔法が使えないミューズが、地面の振動から何かが来ることを察する。ギザはもちろん、背後から何かが迫ってきているのを感じた。


 玉座の間の扉が開く。


 「間に合ったのである!」

 「ミ、ミューズ様!」


 「カンピア、フェウゴ!!」


 扉の前には、ボロボロでカンピアの肩を借りるフェウゴと、何とか立って歩いているカンピアがいた。


 その後ろから、続々と魔法学校で同じ授業を受けていた王朝の貴族が入ってくる。


 「・・・」


 こちらを黙って見つめる貴族ーーカケ=ドューレは、状況を確認し、再びミューズに目を向ける。


 「あ、」


 「・・・?」


 「あ、ありがとう・・・ここを守ってくれて・・・」


 「ど、どういたしまして。」


 困惑はした。半殺しにしてしまった相手からの感謝。確かに、国というものが滅びようとする戦いの中だが、この王朝の貴族は亜人をそれでも差別すると思っていた。


 よく見れば、彼も息切れを起こし、魔力も波長が悪い。戦っていたのだ、彼もまた。


 「お父様!!」


 遅れて駆けてきた女の子、セイレン=スニオンがこの状況を即座に理解し、父の元へ駆け寄ろうとする。僅かだが、力になろうと。


 「・・・ギザ、場所を変えようか。」


 返事は要らなかった。ギザは決して気を弛めていた訳では無い。しかし、滑らかに音もなく近寄ってきたこの男の動きをつかめなかったのだ。


 ガードはしたが、ギザは玉座の間の壁に打ち付けられ、追い打ちをくらい壁を突破って外に出される。


 目の前に、何を投げ打ってでも殺したい奴がいたのにーー、やっとここまできたのにーーー


 「ッッッッ!!ぜッてェ、殺してやる!!エナリオス=スニオン!!」


 「叫ぶな。聞こえている。」


 落ちるまでの間でも、2人の攻防は激しい衝撃波を生みながら殺し合う。正確には、殺意のあるのはギザであり、エナリオスは宣言通り殺す気は無い。


 玉座の間から出た2人を遠目に見るセイレン。自分はまた、父の力になれないことを悔やむが、もっと悔やむ者もいる。


 「行かなくちゃ・・・」


 歯を食いしばって、魔力も空となってしまってもなお立ち上がろうともがく獣がいた。


 環境が違うだけ。


 同じ亜人として生を受けた身として、あの哀れな哀れな獣を止めなければならない。


 いや、もはや止めることは叶わなかった。それでも、自分はここでそれを悔やみ、横たわっているだけなんて出来なかったのだ。


 血反吐を吐くほど、攻撃を受けた。内蔵も骨もやられ、息をする度に痛みが走る。

 それでも、あの哀獣からすれば、屁でもない痛みだと、ミューズ=ロダは知っている。


 立ち上がろうともがいて、もがいて、もがいて、前を向いて、ようやく気づく。


 「て、手を貸してやる。」


 「・・・はは、一体どうしたんだい。僕は亜人だよ。」


 「ギュムズ先生なら、手を貸すだろうって思っただけだ。それとも、行かないのか。」


 「・・・いや、ありがとう。」


 大きな背中だった。今はヒミアの結界の中のベッドの上で昏睡状態ではあるが、彼の存在はそれでも大きいのだ。


 「僕は、ギザの戦い見届けなければならない。この王朝の行く末に、亜人の未来が懸かっている。そして、ギザが、全ての鍵を握っている気がするんだ。」


 「待たぬか!!」


 カケの肩を借りて歩き出すミューズに、怒鳴り声で止める誰かの声があった。

 エナリオスが言うように、新時代はそこまで来ている。貴族の子が、亜人に手を貸し、自らを弱者と認めて1人の巨人を討ち果たした。


 結界という理不尽に囲んで、亜人を差別し侮蔑したディコス王朝は、今まさに滅亡に危機に抗っている。


 例え、戦っているのが東のアナトリカ王国の騎士であれ、王朝に関与しなかった浮遊する魔法学校フィラウティアの教師であれ。


 宮殿に匿われた王朝内全ての貴族たちも、たとえその中に騎士団の全員が居ようとも、彼らは変わりつつあるのだ。


 『戦争』という、900年に及んで虫けらと呼び笑った男が見せる絶望に、抗っている。


 「カケ!!亜人になんぞ手を貸すでない!!このドューレ家の恥さらしめ!!」


 だが、簡単に変われぬ者もいる。

 それは、王朝をここまで外道にしてきた、由緒正しき貴族たちだ。


 「お父様、今はそんなこと言ってる場合ではーー」


 「口答えするな!!騎士団も何をやっているのだ!!早く王と私を守れ!!亜人は外に放り投げてしまえ!!」


 「そ、そうだ。余を守れ!!エナリオスめ、一段落ついたら極刑だ!!あの痴れ者め!!」


 誠に不愉快は話だ。

 ギザがどうしても殺したいと叫ぶだけはある。


 外道も外道で、下策も下策。

 外はエナリオスが降らす雨によって、最早『戦争』の残した影たちは形を保つことを許されない。しかし、形ばかりの騎士団は必要だ。これから何が起きるのか、そもそも革命軍本部に向かった者たちの勝敗もわからない。


 だが、ヒミア=タブーの結界が必ずしも瓦解しないものとは限らない。

 そんな時、形ばかりで怯えて宮殿に逃げ込んだ騎士団でも、その存在ばかりは必要なのだ。


 まぁ、そんなことよりも、この2人の由緒正しき貴族と王族が、何を口走っているのか理解できるものは、そもそも残念ながら今はいなかった。


 「お父様、それは有り得ません。」


 そして、反論するのはアナトリカ王国ではなく、この王朝の者であるということを、この愚かな2人は予想だにしていなかった。


 「彼らの尽力があったからこそ、今この場にいる人は生きているのです。」


 「下民が我々を守るのは当然だ!!」


 「下民では無い!!」


 本当に何があったのか、王と宰相に声を荒らげる少年の隣りにいるミューズは、不思議だった。


 「彼らは、この王朝の滅亡に共に抗ってくれている友である!!」


 「な、何を言ってーー」


 「お父様、貴方との縁はこれまでです。僕を殺すのも好きにすればいい。ですが、この戦いが終わってもなお、権力があると思わないでください。」


 「おい、この無礼者をつまみ出すのだ!早く動け!!」


 王の言葉でも、動くものなど一人もいなかった。

 もしも地下の戦いで、カンピアの叫びがなかったら、フェウゴの捨て身がなければ、カケの心が変わらなければ、セイレンの武力がなければ、きっと今も王朝は変わらなかっただろう。


 だが、歴史は今ここで変わった。


 王と宰相というこの王朝の最高権力者を前に、ただの一人も動くことは無かったのだ。


 「行こう、ミューズ。俺達もこの戦いを見届ける義務がある。」


 ミューズは笑うのだ。


 見てくれよ、イロアス。君のように接してくれる人が居るんだ。


 ーー世界は変われる。


 これが、ミューズ=ロダが見た、亜人差別撤廃という英雄覇道の最初の景色であった。




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