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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章9話  永久凍土スクピディア




 飛行船内部に入ると、ある一室に案内された。そこは教室のようなつくりをしていて、一つの長いテーブルが階段のように段差をつけて並べられている。俺の嫌いな授業が始まる予感がした。


 「さぁさぁ残った勇敢な若葉たちや。これから試験内容を説明するよ。適当な場所に座ってね。」


 紺碧の眼をした身長の小さい男、イロアスが『魔王』だと最も疑っているエナ=アソオスがテーブル前の壇上に上がる。


 イロアスとミューズは真ん中あたりに座った。セアはイロアスの目の前のテーブルに座った。


 「さて、今回の舞台スクピディアは、知っての通り何百年も前に『厄災』が一翼『孤独』によって永久凍土に沈んだ島。この島は『孤独』の魔力の残り香によって無数の魔獣が誕生している。一体一体が非常に強力な個体で、島は一般人どころか並の騎士や魔術師ですら踏み込めない現状。こんな島で何をやるのかとみんなは疑問でしょう。」


 魔獣とは、女神ヘレンによって生み出された獣が魔力を持って進化した種。

 その魔力の質や量によって強さが異なる。


 「『厄災』の残り香とはいえ、スクピディアにいる魔獣はそこらに蔓延っている魔獣とは比べ物にならないよ。本当にそんな島で何をするのか、やっとわかるね。」


 イロアスの隣に座るミューズが、魔獣について何も知らないバカな彼に気遣って説明してくれる。


 ミューズ、いつもありがとう、これからもよろしくお願いします。


 「さて、気になる試験内容はーー」


 周囲が固唾を飲む。どんな恐ろしい試練が待っているのか不安になる。そしてエナの口から恐ろしい言葉が発せられる。


 「ーー鬼ごっこ。」


 「・・・は?」

 「・・・は?」

 「・・・え?」


 俺とセアとミューズだけでなく、周囲すら驚き固まった。


 「当たり前じゃーん、君たちみたいなひよっこがスクピディアの魔獣を倒せるなんてこっちも思ってないよ〜。ってことで、試験内容の具体的な説明に移ろうか。」


 「あの『魔王』もどき、煽ってきたぞ。」


 「・・・『魔王』もどき?」


 ミューズが何を言ってるんだと言わんばかりにこちらを見てきたがあえて無視した。ここからは大事な話だ。真剣に話を聞こうよミューズくん。


 「君たちは2時間、僕から逃げ切ってもらう。範囲はスクピディアにある広大なビザル森林。この森はスクピディアの中だと比較的安全な地域だよ。加えてこの森に騎士団のエリートたちが結界を張ってるから、森の外の魔獣は中には入れない。ただし、森には元々生息しているモナクシアウルフやモナクシアベアがいる。この魔獣にも気をつけながら逃げてね。」


 「モナクシア・・・確か昔の言葉で『孤独』を意味する単語ね。文字通り『孤独』から生まれた魔獣っていうわけね。」


 セアもバカな俺のために説明してくれる。ありがたや。


 「それと、捕まえるって言っても捕縛するわけじゃないよ。君たちの胸についてあるその魔石を僕は奪いに行く。奪われたら捕まったってこと。そしてその魔石には水晶に登録した君たちの魔力と僕の魔力に反応して、魔力を込めれば瞬時に結界の外にでれるように魔法がかけられてる。つまり、僕が魔石を奪ったら、魔力を込めて結界の外に強制的に出すから、それで捕まえたかどうか確実に判断できる。」


 受験番号の書いてある魔石にそんな役割があったとは。適性検査はこのためでもあったのか。


 「もしもの時の話もしようか。君たちの魔力を込めても外に出られるようになってる。死にそうになったら脱出してね。でもその時点で捕まったっていう扱いにするから。あ、意地張って死んでも僕ら責任取らないからね?」


 騎士団は俺たちを見殺しにするつもりはないってことなのか?意外に考えられている試験だ。最後に物騒な注意が聞こえたけど、聞き流そう。


 「さて、これで以上だけど、みんな到着するまでにメンタルケアくらいしといてね。」


 「質問。」


 エナが説明を終えようとすると、一番前に座っていたあのお嬢様から質問が飛んだ。


 「なんだい?プラグマ家のお嬢さん。」


 「この試験の合格基準を説明してくれる?」


 「あぁ、忘れてた。この試験の合格基準を説明しようか。ズバリ、逃げ切れたら合格だよ。」


 「そんだけじゃねぇだろ、ちゃんと説明しやがれ。」


 エナが意気揚々と合格基準を発表したのに呼応して、イロアスたちの背後からヤジが飛んだ。発言したのはテーブルに足を組んで偉そうな態度をとっている男。


 「あいつ・・・」

 「あぁ、間違いない。」

 「あんなやつでも受験資格があるのか。」


 その男が発言した時から妙に周囲が騒がしい。この男は何か有名人なんだろうか。


 「確かに合格基準はそれだけじゃない。僕は全員捕まえる気満々だからね、そうすると自ずと全ての人が僕と出会うだろう。その時の実力も測らせてもらう。詳しい基準は僕の頭の中にある。これ以上は答えられないかな。」


 「つまりたとえ捕まっても不合格にはならないということね。」


 「そうなるね、まぁもちろん目指すのは逃げ切ることだよ。だから君たちは全力で挑んできてね。」


 「ってことは、あんたを倒してもいいわけだな。」


 一体何を聞いたらそうなるのかわからなかったが、それは考えていたところだった。個人的に一戦交えたいと、そう考えていた。


 「いい質問だ、もちろん僕を倒しても合格だ。そして試験も終了、残ったみんなも逃げ切ったということで全員合格!どう?」


 「ーー最高だなぁ。」


 「ただ、本当に僕を倒したいのならば、君たちは殺す気で僕に挑むといい。文字通り、殺す気でね。」


 その瞬間、エナから発せられた自分とは桁違いの魔力による威圧に、イロアスとミューズは冷や汗をかいた。最初であった時よりも、広場で発した威圧よりもさらに重い。そして同時に思う。


 間違いなく、倒すことは不可能だと。


 「あぁ、僕も魔法使うから、でも君たちには極力傷つけることは避けるから安心してね。僕の狙いはあくまでも魔石であるということを念頭に置いていいよ。じゃ、頑張ってね。飛行船の中は好きにしてていいけど、暴力行為とかしないでね?即刻受験資格剥奪するから、一生。」


 エナが出て行ったすぐ後、2人の受験生が立ち上がった。一人は生意気なお嬢様。

 もう一人は先ほど最悪な態度で質問を飛ばしていた男。彼が立ち上がり歩くだけで周りがざわつく。


 「なぁミューズ、あいつ知ってる?」


 「逆に知らないのかい?レフォー孤児院のミテラさんの教育は素晴らしいと言われてるんだけど、本当に授業を聞いてなかったんだね。」


 「座学が嫌いなもんで、特に歴史。」


 「なら知らなくても当然だ。彼はアストラ=プロドシア。12年前、最悪の裏切り者を輩出し滅びたプロドシア家の生き残りだよ。」


 「最悪の裏切り者?」


 「ーーアナ=プロドシア。若干13歳にして実の両親を殺し、プロドシア家を壊滅させ、ノートス帝国に身を捧げた『最悪の魔女』のことだよ。彼はその実弟だ。そしてプロドシア家は裏切りの家系と呼ばれ、彼は王国中から蔑まれることになってしまった。」


 「でもあいつは何もしてないんだろ?悪いのは全部その姉ちゃんだろ?」


 「それだけ『最悪の魔女』がやったことは最悪なんだよ。プロドシア家は王国でプラグマ家に次ぐ武力を誇る名家だったんだ。それをたった一夜で壊滅させ、ノートス帝国は隙ありと攻め入り、王国は大きな打撃を受けた。その行いのせいで彼にもその血が流れていると周囲が怯え蔑んだんだ。」


 「・・・酷い話だ。」


 「まったくだよ。差別的な王国なんだ。『聖女』様があまりに国民から好かれているから、みんな『聖女』様に害を及ぼすものを許さないのさ。」


 「難しいな。『英雄』ならどうするかなぁ・・・。」


 「『英雄』?それって女神ヘレンを封じたとされる騎士のことかい?」


 「あぁ、俺の夢なんだ。俺は『英雄』になりたい。だから全ての人に手を差し伸べる人になる。どんなやつにでもね。」


 「夢か・・・僕の夢は亜人差別のない国かな。」


 「ミューズを見てたらわかるさ、それを目指していることくらい。」


 「だから僕はこの入団試験を絶対に突破しないといけない。ただ今回の試験はあまりに難易度が高い。冒険者風に言うならS級だ。そこで思ったんだ。イロアスくん、協力しないか?」


 「協力?」


 「あぁ、個人で逃げるより、協力して逃げたほうが生存率が高いと思うんだ。エナ師団長の注意も拡散できる。」


 「いいよ!そうしよう!」


 「よし!本当は計画を練りたいんだけど、生憎スクピディアの地図は極秘事項に指定されていて、僕たちには具体的な計画を立てることすらできない。試験中に的確に判断するしかない。だから残り時間は各々メンタルを整えよう。」


 そう決めて2人は席を立ち、教室のような苦手な空間から離れた。教室の外を出てからミューズとは一旦別れを告げ、イロアスとセアは飛行船の中の落ち着ける空間を探した。飛行船には何個も部屋が用意されているようで、俺はその一室を借りてセアと試験について話すことにした。


 「ロア、どうするの?」


 「森の中の鬼ごっことなれば、俺の経験も生きてくる。憂さ晴らしでやってた孤児院での鬼ごっこの経験がね。」


 「確かにそうね!それにミューズとの協力戦。彼は優れた魔力を持っているから、頼りになるわね。」


 「セア、試験中は俺から離れててくれるか?」


 「どうして?」


 「セアは人から見えないから、正直鬼の位置を把握するのは余裕だ。だけどそれだと俺の力で合格したことにはならない。」


 「わかったわ、そしたら私は上空で見てようかしら。でも危険だと判断したらすぐに魔石に魔力を込めるのよ。いい?」


 「・・・」


 「ロア、死んだら元も子もないからね!?」


 「わかったよ。」


 そう言いつつも、俺はきっとリタイアしないだろう。『英雄』になりたい。そのために、逃げるなんて嫌なんだ。これ以上話したらボロが出るから、話を変える。


 「セア、試験とは関係ないんだけどさ、適性検査のことで、俺の水晶はなんで黒色だったと思う?」


 「水晶の故障だと思うわよ?だってあなたは炎魔法が使えてるじゃない。」


 俺は10歳まで魔法が使えなかったが、命のやり取りの末に炎魔法を習得した。だけど、示した色は黒。もしかしたら、俺が魔法を使えなかったことと関係があるのかもしれない。


 俺は魔法についてもっと知るべきだと感じた。セアなら詳しく知ってるかな。


 「セア、魔法が使える原理ってーー」


 「誰と話してるの・・・?」


 急に知らない声が会話を遮った。部屋のドアの前に少女がいる。身長が小さい桃色の髪と眼をした少女。そのか細い姿は、おそらくであるが位が高いとはいえない家系の出身であるだろう。


 しかし、その桃色の髪に似合わない黄金の指輪をしている。


 その少女は俺とセアが話している声を聞いてしまった。


 セアは認識阻害によって俺以外は基本見えない。普通の人には今イロアスは独り言を呟いてる人か、妄想の中の誰かと話しているヤバいやつに見えるはずだ。


 なんとかして誤魔化さなければ、ヤバいやつ認定される。


 「ごめんごめん、試験について考え事してんだ!」


 「嘘・・・」


 「はい?」


 この子今嘘を見抜いたのか?いや、偶然だろう、というか当てずっぽだ。


 「今嘘ついた、でも深掘りはしない・・・。ごめんね、勝手に入っちゃって・・・」


 嘘を見抜いた、はっきりと確信を持って。


 「君は一体何者なんだ、どうして嘘だと思った?」


 「だって、嘘の波長してるもん・・・」


 嘘の波長?この子が何を言ってるのかさっぱりわからなかった。


 「ねぇ君、名前は?」


 「サン・・・。あなたの名前は・・・?」


 「イロアス、君も家名はないんだね。俺もないんだ、仲間だね。」


 「仲間・・・」


 この子は不思議な子だ。なんとも言えない不思議なオーラを纏ってる。仲間と言われて首を傾げて俺をずっと見つめてくる。これがいわゆる不思議ちゃんってやつか。


 「仲間じゃないよ・・・。人はね、そんな簡単に信用できないんだよ・・・」


 そう言って、サンは部屋から出ていった。


 亜人差別、裏切りの家系。この2つはイロアスの大きな悩みの種だった。『英雄』として一体どうすればいいのか深く考えていた。


 だからこそ今の言葉は深く刺ささる。


 亜人差別、裏切りの家系。この2つに大きく関連する言葉。


 『人への信用』


 今の俺にはどうしていいか答えが出ない、あまりに難題。

 しばらく悩んだ先に、船内にアナウンスが鳴り響く。


 「やっほー、エナだよ。みなさん右手をご覧ください〜。右手に見えますは、永久凍土スクピディアで〜す。」


 イロアスとセアは窓の外を眺める。そこに広がっていた光景に驚愕した。


 全てが白銀に染まった島。そこに色はなく、全てが凍った島。かつて栄えたであろう街そのものが凍りついている。


 まさに永久凍土。


 その島の姿にセアは驚嘆し、絶望の表情を見せる。


 「嘘でしょ・・・これがたった一人の『厄災』に許された力なの・・・」


 確かにその通りだ。今の自分の炎魔法は、この島を焼き尽くせるだろうか。そう考えると、この力はあまりに絶望的だ。


 いつか必ず、俺はここまで上り詰めて見せる。今絶望してもしょうがない。あの日、魔法が使えなかった頃から俺は成長した。今は、絶望する時じゃない。


 「さてさて、そろそろ到着するから、各自準備を終えて飛行船乗った場所まで集まってね。」


 再び聞こえたアナウンスに従って、イロアスとセアは移動する。移動した先でミューズと合流した。ミューズもセアと同じで、島の状況に絶望したらしいが、うまく切り替えたようだ。


 飛行船は徐々に降下し、やがて島に降り立った。飛行船の乗り場が開き、全ての受験生が白銀の世界を間近に見る。


 「ようこそ。永久凍土スクピディアへ。さぁ、試験を始めようか。」


 全員が船を降り、目の前に広がる白銀の森林の前に立つ。ガラスを張ったドームのような結界が森林を覆っている。


 森の前に何人もの騎士がいて、結界に力を込めている。


 そして飛行船から降りた受験生全員が森の前に立ったところで、エナは話しだす。


 「みんな準備万端だね。」


 俺は震えた。この凍土からくる冷気に反応したわけじゃない。武者ぶるいだ。


 「それじゃあ早速始めようか。まず君たちが森に入る。それから10分後に僕が入る。そこから2時間の鬼ごっこの開始だよ。じゃあみんな、準備はいいかな・・・」


 ちょうど一軍隊が通れそうな幅まで、目の前の結界が開かれる。


 いよいよ始まるのだ。


 『英雄』になるために、今日この日をどれだけ待ち侘びただろうか。俺は今日、その一歩目を踏む。


 さぁ、聞かせてほしい。その始まりの合図を。


 緊張の静寂。それを破る試験官の声が、響く。


 「ーー始め。」


 一斉に森の中に走った。セアは約束通り森の上空へと、俺とミューズは森の中をかけていく。


 「イロアス君、とりあえず走ろう!森の全体像を把握したい!」


 「わかった・・・え?」


 イロアスはふと後ろを振り返った。そこには信じられない光景が待っていた。


 数十名の受験生が、入り口に屯しているのが見えた。まさか・・・いや、()()()()()。俺たちは駆け抜けよう。


 そして、イロアスとミューズは結末の見える集団を後に、森の中へ消えていった。




※※※※※※※※※※※




 「・・・それが作戦?随分まとめ上げたじゃないか。そこは評価しようかな。でも、愚策と言わざるを得ないかな。」


 みんなが森に入ってから10分。鬼役を務めるエナ=アソオスは目の前の集団39人を相手にため息をこぼす。


 確かに目の前には意思の整えられた集団が道を塞いでいた。その集団の先頭の男が語り始める。


 「私は十大貴族が一つ、ミルメクス家長男カンピアである。」


 「へぇ〜、僕貴族とか興味ないんだよね。だから今年は貴族の騎士団推薦の制度取り消したし。やっぱり見るべきは地位じゃなくて実力でしょ。」


 「本来ならば私は騎士団入団を約束された身である。しかし貴様のせいで、面倒な試験を受けないといけなくなったである。だが見よ!この我が従順な部下を!」


 「・・・で?」


 「この試験で目指すのは逃げ切ることではない!貴様を倒すことである!さぁ、行くぞ!彼奴を仕留めれば我らの勝ちだ!私に続けぇぇぇ!!」






 試験開始から15分経過。


 脱落者39名。


 残り人数62名、残り時間105分。 


 


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