/// 25.竜撃の爪
さわやかな朝。
アンジェは額に感じるテシテシで目が覚める。幸いキュルに変化は無いようだ。そして変わったのは、そのテシテシ攻撃にラビも参戦していたことである。
「お、お姉ちゃん・・・その・・・テシテシやめて・・・」
恥ずかしそうにラビに伝えると真っ赤な顔を布団に潜り隠してしまった。
「ふふ。おはようアンジェちゃん。そしてごめんねー。キュルの見てたら便乗したくなっちゃって」
そう言われたアンジェは、今度はガバリと布団から顔を出してラビの胸にうずくまってスリスリしてエヘヘヘと悦に入っていた。
「じゃあそろそろ起きようか。『頑固な武器屋』に行かなきゃね」
そう言いながら、ラビはアンジェの頭を優しく撫でるので、起きるのはまだ少し先になってしまうだろう。
◆武器工房『頑固な武器屋』
「おお!今回もまたすげーの連れてきたな!あれか!武器か!こいつの見繕えばいいんだな!」
ルドルフの一言目がそれである。
「もう!また興奮して!」
興奮したルドルフの顔を手で押さえつけてアンジェを守るのはもちろんラビであった。
「まってろ!」
名残惜しそうにキュルを見ながら一旦奥へと消えていくルドルフ。そして数分で戻ってくると手には何やらゴテっとした装飾が施されたバンドのようなものを持ってきて、それをアンジェに渡そうとしたが、アンジェがラビに隠れたまま出てこないので、結局ラビ経由でアンジェに手渡された。
「そいつは竜撃の爪。竜の牙を加工した武具で、手にはめてぶんなぐる!ってやつだ!」
なにやら小手のようなその武器?は、手のひら側で肯定する金具のついているので小さなキュルの手にも装着できそうではある。
「拳闘士なんかがこれを装着し、魔力をこめると竜気を発生させて攻撃力を上げる武具だが、試してみるか?」
そんなルドルフの言葉に試しに装着してみるとしっかりと固定はできているようだ。
「おい!一応言っておくが試すなら裏の整備場でな!ここでぶっぱなしたらさすがに怒るぞ!」
もちろんそんなことしないのに!と思ったアンジェだったが、促されるまま二人と一匹でその整備場へ向けて歩き出した。
整備場と呼ばれる場所は、小さな倉庫のようであったが壁には固そうな岩の塊や、何かしらの金属で作られているであろう、大きな塊がおいてあった。
「あれはアダマンタイトを俺が加工して強度を上げた奴だ。あれなら傷一つ付かねーだろうよ。あれに大きな傷をつけれれば・・・そうだな、多分深層ボスも一撃で瀕死ぐらいにはだろうよ」
そういって指さされた黒い塊を見る。ひそかにアダマンタイトという異世界ワードにワクワクしていた自分にハッとしてキュルを見ると、すでにこっちを見て「撃っていい?」と待ちきれない様子に見えた。
「撃っていいよ」
アンジェがそう伝えると、キュルは「キュー―!」と鳴きながら何やら力を籠めて真空の刃を飛ばす。装着した武具からは少しだけバチバチとした光がはじけ、明らかに強い圧を感じながらそのターゲットにあたると、バキっという音を立ててその刃は飛散した。
元々細かな傷はあったが、どうやらそこにうっすらと傷を増やすぐらいにはなったようだ。しかしその結果に納得がいっていない様子のキュルは、さらに気合を入れて一鳴きすると、先ほどより長いため時間の後に、明らかに先ほどのより強い光をバチバチとさせて、真空の刃が放たれた。
その放たれた刃もバチバチと視認できるようになり、アダマンタイトのターゲットへと向かっていき、先ほどよりもさらに大きくバキンと音をたて、10センチほどではあるが少しえぐれた傷をつけていた。
アンジェはうちの子凄い!と満足げな笑みを浮かべ、ラビとルドルフが驚いた表情を浮かべている間に、キュルは「キュルル」と弱々しく鳴いてアンジェの頭の上に乗った。表情は満足そうではあったが、きっと魔力か何かがなくなって疲れてしまったのだろう。
「あれは・・・すげえな。竜気が真空刃にがっつり練り込まれてた・・・」
「そ、そうね・・・さすがキュル・・・神竜ね・・・」
凄いものを見せされた二人は惚けていたが、「キュールルルー」という上機嫌のキュルの鳴き声に反応して先に平常心を取り戻したラビだった。
「で、アンジェちゃん。どうするそれ?」
「お、おいくらですか?」
ラビの質問に買う気満々のアンジェであったが、すぐさまルドルフから「やる!」と声がかかった。
「ルドルフさんどういうことですか?」
「ああ、後で実践での使用感とか聞かせてくれりゃーいい。持ってけ。元々少し小さめに作った奴だ」
そういうとルドルフは何やらうんうんと自分ひとりで納得していたようだった。
「あと定期的なメンテには俺んとこ持ってこい。多分それ進化できる武具になれる作り方はしたんだよ。眠らせとくより使ってもらった方が今後の参考になる。あくまで試しに作った奴だからな!」
「そういうことでしたか・・・よかったね。アンジェちゃん、キュルちゃんも」
どうやらそれは試作品のようなものだったようだ。それよりも進化できる武具というワードにまたもワクワクが止まらないアンジェ。珍しく「あ、ありがとうございます」と自分の口でお礼を言ってペコリと頭を下げる。
対してキュルの方は、ルドルフの方へ飛んで行って太い腕に頬ずりしならが「キュルル」と鳴いて戻ってきた。ルドルフの方もまんざらではないような笑みを浮かべていたので喜んでもらえたのであろう。キュルの可愛さは正義なのである。
その後、帰り道の屋台でジャンクな何かをそれぞれ買い食いしながら、ラビはギルドへ、アンジェとキュルはダンジョンへ向かっていた。
◆イーストダンジョン・29階層
ダンジョンに入ると、20階層から足早に下へと進んでいく。キュルの攻撃力はやはり段違いで上がっているようだ。そして25階層、ホーンバッファローとの再戦で一撃のもと首を切り落とすキュルに喜ぶアンジェだった。
そして今は29階層。ホーンバッファローメインとなってきたこの階層で、一人と一匹はとにかく二人のコンビネーションを強化して狩りまくっていた。次々に移動しては群れを狩り、アンジェの収納の中には大量の素材がストックされてきた。
ホーンバッファローは素材としてそれなりに高価に買取をしてくれるのであるが、短期間に納品をすると値崩れしそうなぐらい狩ってしまったので、アンジェはしばらくはストックしておこうと考えていた。
逆に24階層辺りで肉とミルクを集めていった方が良かったかな?とも思った。食料系はどんだけ狩っても値崩れしない供給が追い付かない素敵な需要を誇っていたのである。
それでも目的は次の深層だ。レベルアップにはここが一番良いだろうと、結局はこの29階層で狩り続けることに決めたアンジェである。
「今日はこの辺にして、そろそろ帰ろうか?」
アンジェがそう話しかけると嬉しそうに鳴くキュル。とりあえずはサクッとリベンジは成功していたので、明日はいよいよ深層の探索を再開しようと思っている。キュルと一緒にどんどん進んでいっぱい稼ごう!
『早く二人と一匹のまったり生活を実現!』それが今のアンジェの夢であった。
「よし!一緒に頑張ろうね!」
「キュル!キュキュー!」
◇◆◇ ステータス ◇◆◇
アンジェリカ 14才
レベル5 / 力 S / 体 S / 速 S / 知 B / 魔 E / 運 S
ジョブ 聖女
パッシブスキル 肉体強化 危険察知 絶対聖域
アクティブスキル 隠密 次元収納 中回復 防御態勢 神速
装備 星切 聖者の衣(女神の祝福) 罠感知の指輪
加護 女神ウィローズの加護
使役 キュル(神竜) 竜撃の爪+
◆神界
「なんかかっこいいよね。バチバチーって・・・私も何かほしい・・・」
そう言いながら、自前の神力を拳に宿し、バチバチと白い雷をまとわせながら巨大な光の剣を創造する女神。それには大量の神力は練り込まれ、今にもはじけ飛びそうな力を秘めていた。その光を見ながら、狂気の駄女神はえへえへと顔をだらしなくさせていた。
その神力がたっぷり練り込まれた剣は、次の瞬間には消滅しているため、神力はちゃんと女神に戻っているということなので、プライマイとしてはゼロである。安心してほしい。
その後も、キュルに対抗して様々な武具を創造しては消し、そしてたまに目の前を薙いだ際に、籠められた神力が少しばかり飛散してしまったことがあったが、大した量ではないのでセーフである。むしろカッコいい神力の雷、白雷を見れたことに幸せを感じてほしい今日この頃である。
そんなこんなで今日も世界は平和である。
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