/// 23.キュルの腕試し
「きゅーきゅきゅぅ!」
アンジェはそのかわいい鳴き声と、額にテシテシと感じる何かとともに目を覚ます。
目の前にはキュル?の顔。そしてまだ続いている額へのテシテシ攻撃中のかわいい手の感触に次第に脳が覚醒していくのを感じた。
しかし頭の中は混乱をしていた。キュルだよね?鳴き声は確かにキュルなんだけど・・・
目の前のそのキュルと思われる小さき竜は、昨晩までの薄い緑の表皮がさらに薄くなって見えたのだ。そしてどことなく艶のある美しい表皮になっていた。
そう考えている間もずっとテシテシされているので「キュル?」と呼んでみると「キュー!」と一鳴きしてからアンジェの胸に飛び込んできて頬をスリスリとこすりつけてきた。どうしてこうなったのだろう?そう思いながらステータスを再確認してみる。
昨日確認した段階では、素早さが遂にSにアップして、神速というスキルが発現したことを確認していた。さらに正式に使い魔として認識されたのか『使役 キュル(森林竜)』という表記もあったはずである・・・が、なぜにキュルの種族欄が『神林竜』という種族になっているのか・・・
この色の変化は進化をした、ということだろうか。すでに隣には居なくなっていたラビに聞くため、いったん身支度をしてからキュルを連れ、下に降りてベルを鳴らすのであった。
◆イーストギルド・1F
ちり~~ん♪
ラビがその音を聞き、いつもの柱を見るとアンジェと頭の上に載っているキュルを発見する。
丁度暇をしていたラビはすぐに駆け寄って「おはよう」と声をかけるが、頭の上のキュルの変化に気づき「キュル?どうなってるの?」と質問を投げかけた。
「私も・・・わからなくて、起きたらこうなってた・・・」
「うーん、私も分からないわね。ちょっとギルド長に聞いてみよっか?」
ラビの提案にコクコクと頷き腕にしがみついてギルド長の部屋をノックする。
「あいよ」と声がしたので中に入ると、だるそうに書類を整理しているエルザがこちらをみて目を細めていた。
「なんか竜が見えるんだけど、幻覚じゃないよね?」
そのエルザの声に「それが・・・」と軽くいきさつを話すラビ。
「多分だけど最初の回復した時と同じだわ。この子、アンジェの魔力を吸って進化してるみたいね・・・でも神林竜って・・・ふざけた名前、私も聞いたことないわよ?」
「アンジェちゃんの魔力を吸って・・・。私が朝起きた時にはキュルちゃんに変化なかったから、その後で何かやっちゃったのかしら?」
その言葉にアンジェも首をかしげるが、朝のことを思い出す。
「朝、キュルが私のおでこテシテシしてた。それで起きたの。その時にはこうなってた」
そういいながらキュルを両手でもって顔の前に掲げていた。
「キュル・・・あとでそのテシテシしてるの私にも見せてくれる?」
なにやらラビさんの鼻息が荒い。そして何となく恥ずかしさが増してキュルの背中に顔をうずめてみるアンジェだった。
「まあその子竜も寝ているアンジェをいいことになんか吸ったんでしょきっと」
エルザのそんな投げやりな回答に「吸ったって・・・」と声を上げるアンジェだったが、それ以上の言葉は出なかった。
「とにかく!獣魔登録だけはしときなさいよ!竜なら大金積んでも奪ってこいってやつが少なくないんだから!」
「あっ・・・そうでしたね」
エルザの物騒な言葉に、思い出したようにラビが肯定する。その後、部屋を出た二人は、ギルドで小さなメダルのついた首飾りを出すと、アンジェのギルドカードとくっつけると少しだけ光を放った。どうやらこの首飾りがアンジェの獣魔としての証明となるらしい。
そして渡された首飾りをキュルの首にかけると自分の姿を確かめるように首を動かしキュルキュル鳴いて喜んでいるようなダンスをしていた。
ずっと見てられる。二人はこう思ったのだが、それはこっそりとこちらを窺っていたラビの同僚のリベリアはもちろん、ザンガスはじめギルド内の各定位置についている3つの組織の面々も同様であった。
◆イーストダンジョン・19階層
ギルドで首飾りを付けてほっこりした後は、ダンジョンに1人と1匹の状態で1階層から様子を見ながら足を進めていた。
もちろん今のキュルの実力を測るためだ。
完全にアンジェの庇護下で連れまわすのか、共に戦うのか、それともお留守番をさせるのが良いのか。アンジェもどうしたら良いか迷ったのだが、やはりキュルだって竜である。共に戦う方が良いだろうと思い「一緒に戦う?」と聞いてみた。
するとキュルキュルと嬉しそうに頷くので、まずはその力の程を確認ということでキュル1匹でのダンジョン探索をすることになったのだが、キュル自身よりもむしろ緊張しながら見守ることになったのはアンジェの方であった。
ゴブリンなどには全く危なげなく狩ることができていた。その小さな手で払う動作をしたと思えば風魔法なのか真空の刃がその先に存在する魔物を真っ二つにしていた。
そして10階層付近でアンジェは気付く。キュルって森林竜だったよね・・・今見ているキュルには、元々生えていた小さな翼が少し大きくなってふわふわと浮かぶようにしてうまく魔物の攻撃をかわしていた。
うん。やっぱり別の種族になっちゃったんだね。アンジェはそう思うことで考えることをやめた。
ついにはたった一日でこの19階層までたどり着いていた。ワイルドボアの突進や毛針についても最初はびっくりしていたものの、すぐに慣れ、難なく躱しては真空刃で何度も切りつけそして多少の時間はかかるが倒しきることもできていた。何やら魔物たちを狩っていく度にその攻撃の威力は増している気がしていた。
どうやら多数の魔物を狩るうちに、どんどんレベルを上げていっているようでさすがに複数のボアは無理であっても、単独で対峙するようにアンジェが調整すると問題がなく戦っていける程度まで成長していた。
とりあえずは今日はここまで。と時間も夕刻になる頃なので、足早に20階層の無人のボス部屋を通り抜けて裏の待機室から入口へと戻っていった。
ギルドに戻るといつものようにラビのサポートの元、少なくない戦利品を換金し、そしてボア肉についてはキュルの食料用にストックされていった。今夜はキュルの初の冒険を祝してそのお肉で焼肉パーティーにしゃれ込み、楽しい夜を過ごす二人と一匹であった。
そして翌朝、今度は水色の艶やかなボディとなったキュル(神林竜)改め、キュル(神竜)に額をテシテシされて起きるアンジェであった。
隣で目を覚ました後に少しの期待に胸を膨らませ見ていたラビさんの話では、キュルがごそごそと寝床を這い出てくると、小さなあくびをした後にアンジェの顔へ近づき、少しの間スリスリと頬ずりをしていたとのこと。その際にアンジェから発せられた淡い光がキュルに吸い込まれていく現象を目撃したようだ。
そしてその後のテシテシに「もう!可愛くて死ぬかと思った!」とさらに興奮してアンジェに顔を近づけてるくラビ。恥ずかしくなったアンジェは、キュルを抱き上げるとそのまま自分の顔を覆い隠すようにして照れていた。
「ラビお姉ちゃんが迫ってくる・・・幸せだけどすっごく恥ずかしい・・・」
今日も朝から幸せな二人と1匹であった。
◆神界
「うーーーん。あの子竜、アンジェの中の神力吸ってない?」
そういいながら真剣に下界を覗き見る女神ウィローズ。しかしその真剣なまなざしの下では、すでに涎の跡が乾いているのが伺える。今日も平常運転である。
「たしかに竜種は神力には敏感だけど・・・アンジェの神力は転生時に私が念入りに注入したものだからね・・・おいしいのかしら・・・」
そう話す女神の口元は尖っていた。今にもチューチュー言いそうなその口元で何を吸うことを想像しているかは、それこそ神のみぞ知るである。
「とりあえず神竜になったから、もう進化はしないとは思うけど、まあ私の神力を吸い込んだからにはアンジェを害することはないでしょう」
そう言った女神は一人うんうんと頷いた後、ラビの興奮ぶりに恥ずかしがるアンジェを見ては、言葉にならない奇声を上げては腰を動かすのであった。
今日も朝から世界は平和である。
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