/// 22.アンジェの子育て
「キャー―!何これ可愛いんですけどーー!」
相談があるというアンジェと一緒に、部屋に入るラビの目に飛び込んできたのは、こちらを見て小首を傾げながら「きゅー?」となく小さな竜の姿であった。
「もー今度は何?拾ってきちゃったの?」
いつになくテンションが上がっているラビが両手で抱き上げると、その竜はラビの豊満な胸にスリスリとほほを寄せていた。
「あのね、深層に入ったんだけど・・・」
先ほどのことをラビに丁寧に話していく。
「なるほどね。いいんじゃない?魔物を使役する冒険者もいないわけではないからアンジェちゃんのしたいようにしたらどう?」
アンジェの説明中に、小さな手をアンジェの方を向けてバタバタさせていた竜。その竜を受け取りながらラビの言葉にコクコクと首を動かし頷いたアンジェ。
「じゃあまずは名前つけなきゃね」
その言葉にはっとしたものの「うーん」と首をひねりながら考えるアンジェは、中々良い名前が出てこなかった。そんなアンジェにまたも可愛さ全開で首を傾げながら「きゅる?」と鳴く。
「キュル?・・・かな?」
鳴き声からその不意に出たアンジェの言葉に、今度は「きゅーきゅー」と嬉しそうに手足をばたつかせて鳴くのをみて、無事その竜の名前は『キュル』と決まったようである。
「じゃあキュルちゃんは何を食べるのか調べて見なきゃね。私も聞いたことないしね」
そう言われて「あっ」と声を上げ、次元収納から妖艶樹の枝の切れ端を選ぶと取り出してみた。親と思われる森林竜は、倒し終わったこれをバリバリ食べていたことを思い出したのだ。
すると、その小さな枝を両手で抱えながらガジガジとかじりだしたキュル。アンジェとラビはそれを食べ終わる30分ぐらいの間、ただただほっこりと見つめていた。
その後、ラビはやけに遅かったとふくれっ面のリベリアに謝りつつカウンター業務に戻り、アンジェは街の外の林に向かっていた。
「ここでいいかな?」
適度に開けた場所についたアンジェは、そういって収納から結構な量の妖艶樹を取り出す。そして手頃の大きさに星切でザクザクと切り分け始めた。ついでにビッグバイパーを1匹も取り出し同じように細切れにしていった。取り出した瞬間に「ヒッ」と小さく悲鳴を上げたが、これはキュルちゃんのご飯!お肉なんだ!と思って頑張った。
その後も、すでに加工済みのボア肉、オックス肉をとりだし、コップにカウミルクを注いだ。ついでに魔石も一つ取り出してみた。
「どれがいい?」
その言葉に反応してきゅるきゅる鳴き声を発しながら、ミルクをペロペロした後、猪肉&牛肉をガブガブとつまみ、蛇肉は少し匂いを嗅いだ後にそっぽを向いて最後に妖艶樹の木をガジガジとしていた。
「キュルはちゃんと言葉を理解している!うちの子は天才!」と思いながらも、興味を示さなかった魔石と蛇肉については食べないものだと感じ、しまい込む。これで食事の心配はないようだ。在庫がなくなれば肉類を大人買いすることなど、今のアンジェの財力にとって造作もないことであった。本当は蛇肉も加工場でちゃんと加工してあれば食べるのだがそれはまた別の話であった。
しばらくすると「きゅふ」とないてお腹をポンポンしているキュル。それを微笑ましく見ながら、大量にストックした妖艶樹の枝とあまった肉類を収納して、頭にキュルを乗せると、ルンルン気分で部屋に戻るのだった。
ゴロゴロと暇を持て余しながら戯れる1人と1匹。その後、帰ってきたラビを入れて2人と1匹になった部屋で、ラビさんが買ってきた肉の太雅の熟成オックス牛の炭火焼弁当、お値段なんと2800エルザという逸品を堪能していた。
キュルちゃんの歓迎会ということでちょっとお高めなお弁当に満足の二人であった。もちろん、もう一つ一応買ってありキュルに与えてみたのだが、当然のようにおいしそうにキュルキュル鳴きながらがっついていた。
さらにサプライズでラビが買ってきてくれた、大き目の籠にふかふかの布がかぶせてあるキュル用のベットに、大喜びで潜り込んで鼻歌のような鳴き声を上げていたかと思っていたら、いつのまにか小さく寝息をたてて眠っていたキュル。そのキュルを見ながらいつもより夜更かししてしまう二人であった。
今夜もいい夢見れそうだな、と思いながらアンジェもラビに包まれ眠りについた。
◇◆◇ ステータス ◇◆◇
アンジェリカ 14才
レベル5 / 力 S / 体 S / 速 S / 知 B / 魔 E / 運 S
ジョブ 聖女
パッシブスキル 肉体強化 危険察知 絶対聖域
アクティブスキル 隠密 次元収納 中回復 防御態勢 神速
装備 星切 聖者の衣(女神の祝福) 罠感知の指輪
加護 女神ウィローズの加護
使役 キュル(森林竜)
◆神界
「おうほほほほおおっ!ぶはっ!」
涎まみれのだらしない顔に、新たに血飛沫をあげ興奮した声で絶叫いるのはご存じ変態駄目神、ウィローズであった。
アンジェがビッグバイパーにパニックになっている様を見ながら腰をぐいんぐいんさせ鼻息を荒くしたついでに鮮血を噴き出していた。もうれはもう黒である。美少女が恐怖にゆがめる顔に興奮するド変態である。
完全にアウトである!と言いたいのであるが、周りには誰もいない。一人きりで行われるその狂時であらば問題は生じないのでは?そういった意味合いではセーフともいえよう。ギリギリのセーフ・・・であればそれはもうノーカンである。
そんな変態は、次の瞬間またも従者にランキブレイクの終わりを告げられ、ブチギレながらもいそいそと顔の汚れをふき取ると、腰の振り過ぎ&鮮血吹き出し過ぎで疲れた顔のまま会議室に戻る。その女神の様子に周りの従者から心配の目を向けられ、さらに女神への熱い信仰心が勝手に高められていくのであった。
やっとの思いで仕事を終えアンジェを覗き見るころには、すでに夜も遅く楽しい食事タイムが終わっていたころだった。
そして女神は驚愕する。
いつの間にか増えていた新人竜の存在に「ぐぬぬ」と唇を震わせ、さらには寝顔を見守るアンジェとラビの様子に嫉妬心を煽られ、ついには一人ブツブツと部屋の隅で呟いている面倒くさい感じの鬱神と化していた。はたして明日にはこの落ち切った気持ちを這い上がらせることができるのか?それはもう神のみぞ知る。である。
そんなこんなで夜は病的に更けていく。それでも世界は今日も平和である。
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