/// 21.深層突入
昨日、無事下層を突破して、不本意ながらも聖者の衣(女神の祝福)へと進化したセット装備を身にまとい、ラビの元に戻ったアンジェ。
ラビはまた素敵な変化にキュンキュンしてアンジェを褒めたたえた。もちろんその聖者の衣(女神の祝福)は、祝福が強くかかっているようで、すでにローブと一体化されていて、アンジェの意思にそれなりに従うようで勝手に着脱される仕様なのは変わらなかった。もちろん他の服を着ようとすると、すぐにセットで襲われ装備が完了となってしまうのだった。
そして自動ゆえに迂闊にも外で「脱ぎたい!」などと思ってしまえば、すぐに全裸待機となってしまうので、十分に気を付けてほしいものだ。
とはいえ、そのセット装備は今までのローブ同様体を強烈に守りの力が働き、さらには今回から頭周りまで、つまりは全身くまなく強力な加護の守りを受けることになる。この守りがいったいどの辺りまで通用するかは分からないが、しばらくは安泰のような気がする。
そして今日はいよいよ31階層、深層に突入するべくラビと一緒にキャハハウフフと朝食を取って英気を養うと、名残惜しそうにラビと別れダンジョンへ赴くのだった。
「はあ。お姉ちゃんと一日中ゴロゴロしてたいな」
ため息を吐きながらも悠々自適な老後を実現すべく、ダンジョンの31階層向けてポータルにのった。
30階層の待機室から下に降りると、そこはうっそうとしたジャングルだった。見るからにジメジメとした亜熱帯のようは風景に、アンジェは蒸し暑さを感じ体から嫌な汗が噴き出てき・・・てはいなかった。きっと聖者の衣(女神の祝福)の効果なのであろう。
外気からの影響は一切受けないのか、快適であった。階段を降りる前とまったく同じ状態に、何とも便利なものだと感心した。これであの強制着脱がなければすんなり喜んでいたのに・・・アンジェはそう思っていた。
変態駄目神はしくじったのである。そんなバカ機能を突けるために余分な神力を大量に使い、結果アンジェに鬱陶しがられていたのだ。優秀な女神であってもたまにはポカをするものである。そこがまた良いのかもしれない。ギャップ萌えである。
それはさておき、アンジェは今までともまた変わった風景に慎重に足を進める。とりあえずは様子見のつもりではあるが、見慣れた空のうっすら赤いところを目指して歩き始めた。当然ながらその空の下には次の階層に進む階段があるであろう。
周りは草と土の地面。たまに沼のようなものがみえる。木々が密集するするエリアがほとんどのようだが、遠くには開けた平地や岩場エリアも点在するようだ。
とりあえず目の前の木々が茂ったエリアを抜けようと歩き出すと、突然罠感知の指輪が赤く反応したため立ち止まる。このダンジョンの上層ではたまに反応していた指輪も、最近は無反応だったため無くても良いのでは?と思っていたのだがここにきての反応。
ラビからはアンジェちゃんならすぐに必要になるから絶対外さないでね。と言われていた。その意味が分かった気がする。
警戒しながら進むと、すぐ横の木が動き出しその枝が伸びると鋭い刃のようにこちらへ切りつけてきた。少しだけ絶対聖域に当たり、その刃先にブレもあったため難なく躱す。うねうねと動く何本もの枝が次々と刃のように変化してこちらへのびてきていた。
アンジェは冷静に躱し、星切で弾き、そしてその本体までたどり着くとそれを斜めに切りつけた。「ギギ」と小さな鳴き声を上げ、先ほどまで動いていた枝は動きを止めた。収納を試みるとすんなりその全部が吸い込まれていった。
「ふう」とため息をはくアンジェ。あれが妖艶樹という魔物であろう。ここ深層になるともちろん素材を回収するのだから魔物の名は決まっている。だが上級冒険者の飯のタネ、その生態や攻撃方法などはあまり出回らないため、どういった攻撃があるのかわからなくなっているのだ。
そしてふと思った。ここ最近は危険察知スキルが極々たまにしか反応しないのだ。先ほどの罠感知の指輪については説明がつく。ラビさんから停止している魔力があるところに反応するというので、おそらく動きを止め、こちらを狙っていた妖艶樹の魔力に罠だと反応したのであろう。
そして問題は危険察知である。自身の身に危険が迫った時に反応するというそれが反応しなかった。ということはさっきのは私にとっては危機ではなかった?そんなバカな・・・と思ってはいるが、実際その通りではあった。危険察知が反応するのは、自らのステータスや装備状況では、何らかの危機があるという場合のみである。
考えても分からないので仕方なく考えることをやめたアンジェは、さらに足を進める。
途中で何度か妖艶樹の攻撃にさらされるが、罠感知の指輪が反応している時はその指輪を周りにかざすことですぐに妖艶樹である木を判別でいた。後は素早く近づいては切り裂いていく簡単なお仕事である。
アンジェの特性がすごいのか、手の持つ星切がすごいのか・・・妖艶樹はおもしろいように簡単に切り裂けた。そしてそのことに浮かれていたのだ。
一体の妖艶樹を狩り終えたすぐ、背後から危険察知が反応した。さっきそのことを考えたためフラグが立っていたのかもしれない。前へ飛びながら振り返ると・・・そこには巨大な蛇がこちらへ飛び掛かっていた。
「ふぎゃーーーーー!」
この世界にきてから一番の声がでたアンジェ。蛇はもう本当に絶対に何がなんでもだめなのだ。
幼いころ、ふざけた父が車の中に小さな蛇を投げ込んで、車内でパニックになってしまったトラウマがよみがえる。結局逃げた蛇が見つからず、帰りの車内でまだどこかに潜んでいるのではとすっとおびえながら乗っていたあの日。
帰宅後すぐに泣きながら母に訴えた後、笑顔でキレた母により、父はずたぼろにされていた。それ以来、父とは絶好したままなアンジェであった。
「いやーー!だめっ!こないでーー!ひーーー!」
絶叫しながら星切を振り回すアンジェ。危険察知はきっとこの精神的な危機に対するものだったのだろうか・・・
飛び掛かってきた大蛇、ビッグバイパーは果敢にアンジェに食いつこうとしているのだが、星切に何度か切る付けられると動きを止め。アンジェをじっくり観察するように敵意のある目を向けていた。
動きの止まったビックバイパーに、ようやくパニックが収まり涙目でそいつを睨みつけるアンジェ。驚かされた恨みがトラウマを凌駕した瞬間であった。
「こっんちきしょーー!」
聖女あるまじき声を張り上げビックバイパーを切る付けるとその首は一撃のもとに落るのだった。
ハアハアと肩で息をして呼吸を整える。そしてそいつを恐る恐る収納するとしゃがみこんた。しばらくして落ち着いたアンジェは、立ち上がる。あれはダメな奴だ。ビックバイパーという大蛇が出るのはしっていた。だから覚悟はしていたものの突然背後から襲われるともう、それこそ猫のように毛を逆立てたような感覚ににってパニックをおこしてしまった。
とはいえ、冷静に対処したらまったく問題ないということがわかり多少の安堵はある。そしてアンジェは気を取り直して先へすすめるのだった。
しばらく進むと、アンジェの前には小さな沼地のような水たまりがあったので避けるようにその周りを歩いていた。途中、妖艶樹の密集地帯を抜け、ビッグバイパーの集団に狂気に目を血走らせながら殲滅したりと心臓に悪い展開も何度かあった。体よりも心が疲れ切っていた。
とりあえず今日のところは32階層への階段をみたら戻ろう。そう思って進んでいたのだが、予想通りというかその沼のような水たまりからヌメっとした緑色の何かが襲い掛かってきた。古代スライムという魔物に、一瞬びっくりするも、その中心にある魔石の横を切りつけ、魔石を取り出すとそのまま蒸発するように消えていった。
スライムは所詮スライムである。こうやって核となる魔石を取り出してしまえば終わりである。
そうアンジェは思っていたのだが、本当はここまで一気に切り裂くことは難しく、何度か切りつけている内に体が取り込まれてしまうと、徐々に全身がとかされてしまうというぐろい惨事となってしまうため、魔法による遠距離攻撃で体液を蒸発させ、それから魔石を取り出すのが一般的なのであった。
残る魔物は森林竜という竜種の魔物が居るというのでそちらも一度、見ておこうと思い注意深く周りをみながら移動していた。
結局、次の階層への階段までの道のりの中でそれとは遭遇しなかった。
少し考えたアンジェは、先ほどとは遠回りになるが、別の道を迂回しながら戻ることにした。そしてその道中、岩山と森が隣接するような場所に、おそらくそれだと思われる竜の姿を発見した。なにやら森側から出てきた数十体の妖艶樹と、いわば付近に陣取っている森林竜が2匹、互いが咆哮を浴びせあい争っているところであった。
ダンジョンで初めて見る魔物同士の戦いに少し驚く。考えてみれば普段は人間を見ると襲ってくるのは、それを食料にするためであろう。だがアンジェ自身、少なくともこの階層に来てから他の冒険者たちには遭遇していない。この周辺で活動している冒険者の中で、ここまでも潜れるという実力のパーティの数は少ないのであろう。そんなにホイホイと遭遇する数ではないのだ。
そういう実情であれば、当然お互いが食料として狩り狩られるといった間柄の場合もあるであろう。そんなことを思いながら特に初見の森林竜を観察していたが、背中から生えている木の枝から鋭い突きが繰り出されている。そしてなにやら高温のガスのようなブレスが吹かれ、次々と妖艶樹は消滅していった。そして最後の妖艶樹が倒されると、その倒れた妖艶樹をバリバリと食べ始めた。
弱肉強食を垣間見たアンジェは「よし!」と気合を入れると、気づかれないように飛び掛かり、いつもの首筋への一撃を放つのだった。
ガキリと両手に衝撃が伝わり、完全には断ち切れてはいなかったが、かなりのダメージを与えたという手ごたえは感じながらバックステップで距離をとった。
2匹の森林竜は襲い掛かってきた敵を認識してこちらを見ながら「がう」と唸る。そしてもう1匹の方から何本もの弦の攻撃が繰り出された。先ほど攻撃を受けた方はまだそこまで動けないらしい。こちらをじっと見てはいるが攻撃には移ろうとしていなかったようだ。
迫りくる弦をかわしたり弾いたりしながら様子をみているアンジェ。弾いた際に少しづつ傷を負っていく弦に比例して、攻撃がゆるくなってきていた。そして遂には攻撃が完全になくなったあと、アンジェはその2匹の命を狩り取った。「ぐぅ」と最後の声を上げる2匹に少し心が痛くなった。
「魔物だから・・・仕方ないよね・・・」
ダンジョンに潜る冒険者としては当然こういった魔物を狩っていかないといけないのは分かっているのだが、なんとなくその場を逃げようとはしなかった2匹の竜に、何とも言えない切ない感情がわいてしまったのだ。その時・・・
「きゅー!きゅうきゅうー!」
何かの鳴き声がきこえた。
警戒しながらその声の出どころ、先ほどの森林竜が構えていた後ろの方へ近づくと、そこには小さな森林竜がキューキューと泣いていた。その体は傷だらけになっていた。それを見たアンジェはさらに胸が締め付けられるような気持ちにうずくまってしまった。
うずくまるアンジェへ傷ついた森林竜はよろよろと近づき・・・そしてアンジェの手の甲をペロペロと舐めだした。
はっと顔を上げたアンジェは、急いで中回復をその子にかける。やわらかな光と共にその傷がいえていく。そして緑ががかったその竜体が少し薄く染まった。色が変わってしまった小さな森林竜を見ながら「もともとはこんな色なのかな?」とつぶやいたが、元気になったその竜は、アンジェの足元で頬をこすりつけるようにくっつき、そしてキューキューと可愛く鳴いていた。
「どうしよう・・・」
アンジェはその場を動けなくなってしまった中で今後の予定を考える。この子を飼う?この世界はテイマーとかあるんだろうか?そもそも私がテイミングなんてできるのだろうか?そんなことを考えながらつい「一緒に来る?」と口すさんでしまった。
「きゅーきゅーーー!」
まるで返事をするように力強く鳴くその竜にもはやアンジェは購えない何かを感じた。手を伸ばすとその手を伝って胸に飛び込んできたその竜をやさしく抱きしめる。
「よし!いったん戻ろう!」
そう言うとアンジェは胸の竜を頭に乗せ換えると、帽子の上にちょこんとはまり安定しているようだった。そしてそのまま一気に入口へと向かって走り出した。
途中で妖艶樹の群れなどにも遭遇したが、難なく躱しながら切り倒していく。その間、頭の上の竜はキュッキュと声を上げ喜んでいるようだった。そして30階層に戻るとポータルに乗り、ギルド2階の部屋に戻る。
「ここで大人しく待ってられる?」
そうしゃべりかけ床に下ろすと、当然とばかり「きゅー」と鳴くので、不安があったが急いで下に降り安心と信頼のラビお姉ちゃんを呼ぶのであった。
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