/// 20.領主カサネガ・ケアッツイネ
「はあ、まったく!お兄様は何を考えて運営をしていたのかしら!」
こう実の兄を思い出し悪態をつくのは、新しくエルザード帝国・イーストの領主になったカサネガ・ケアッツイネであった。
兄であるカサネガ・サーネの突然の引退により、自分が継ぐことになってしまった領地経営に苦慮していた。
元々、ケアッツイネは貴族学院に通っており、領地経営や貴族としての教養や風習、それこそ裏の手の回し方に至るまで、将来的に貴族の妻としてやらねばならないあれこれを、一通り受けていたのだ。もちろん兄も同様だったのだが、結局兄は私腹を肥やすのに夢中で失敗してしまった。
そんな失敗はもう許されない。領民が反旗を翻さない程度の政をしていかなくては、いずれ誰かの恨みを買ってなんらかの終わりを迎えてしまうのだ。
優秀なケアッツイネは、ちゃんとその授業の内容を丸暗記していた優秀な生徒なのであった。
まずは一番の問題となった孤児についての施策を考えなくてはいけない。
わがままにギルドを扱った結果、何かがあってあのように豹変してしまった兄。18と、自分より2つ年上なだけとは思えぬほどの、見事な禿げ上がりっぷりを思い出し身震いする。絶対にあのような失態はしない!そう心に決めるケアッツイネであった。
実際、今このイーストでは、カサネガ家の印象は最悪であった。
何か悪いことをしたり、親の約束を守らない子供には「サネ禿るわよ!」というと大抵は言うことを聞くらしい。その話を聞いた子供たちが恐怖のあまり、サネションやサネクソを漏らすという現象も確認されているという。それほどまでにカサネガ家の評判は地面をえぐりそうなぐらい低くなっている。
「まずは実際に見てみるしかないわね・・・」
そう言ってなんとか挽回の策を得ようと、同じく引退したおじいさん執事の孫であるお兄さん執事、イケンメを呼ぶとギルド裏から少しはなれた発端の孤児院『大樹の家』へ出かける準備を整えた。
◆大樹の家
その日、さゆり、デニイロ、ほか子供たちは孤児院前の畑を収穫に汗を流していた。
ギルドや冒険者からの支援により、生活には余裕もできていた。しかしそれにおんぶにだっこするわけにはいかない。自分たちで畑を耕し、良いものを作って食べるという食育をしながら、健全な育成を育むことも大事な務めであった。
その大樹の家の敷地の前に立派なあの馬車が止まる。従者が急いで馬車の扉を開けると執事イケンメが下りた後、手を差し伸べられておりるケアッツイネの姿があった。
すぐに気づいたさゆりとデニイロがそちらに近づき挨拶をする。
「これはカサネガ様、このようなむさくるしい場所に、ようこそいらっしゃいました」
「いえ、ご連絡もせずにお邪魔して申し訳あれません」
さゆりの挨拶に軽く礼をして謝辞を口にする。
「この女があの剥げたのの代わりの領主なのか!いでっ!」
失礼な言葉にデニイロのゲンコツが振り下ろされ、アデルがうずくまる。
「すみません」と謝るデニイロにケアッツイネはそれを軽く笑みを浮かべ「嫌われて当然ですよ、あの禿は」と返していた。
「まあ!アンジェ姉ちゃんが助けてくれたから!いいんだけどな!」
そういってアデルはそっぽを向くのでまた軽く頭をはたかれていたアデル。アンジェに助けられてからというもの、熱狂的なアンジェファンになりいつかはあの十字架付きのバッチを買うんだとコツコツと少ない小遣いをためていたほどである。
「そうですね。アンジェリカさんにはワタクシも本当に感謝しておりますわ。あの禿の悪行を懲らしめてくれたのですから・・・」
そういって笑みを浮かべるケアッツイネに、アデルは少しほほを赤らめていた。
「ま、まあ、アンジェお姉ちゃんの良さがわかっているあんたは、み、見込みがあるよ。ちゃんとやってくれよな!」
そう言ってそっぽを向いては、またデニイロに怒られていた。
「ふふふ。そうね。頑張るわ。それで・・・今日来たのは、今までのお詫びと今後について、何かできることはないかの確認にきました」
そういってまた軽く頭を下げるケアッツイネにさゆりが慌てて中に入ることを促した。
「あらやだわー、おかまいもしませんで。狭いところですが中にはいっていただいても良いからかしらー?」
こうして、ケアッツイネは現状困ってはいないこと。あの禿の命じた税金がすでに解除されていることへの感謝と、少しの補助金と設備投資などについての話を軽くして、後日実務のできるものを寄こすということで、その場はお開きとなった。
ちなみにアデルはその間、部屋でお勉強といって本を読むふりをしては話をしているケアッツイネの方をちらちらを見ては顔を赤くしていた。
ケアッツイネは、どうやらこの後も他の孤児院をまわって現状を確認しにいくという。
「今度来た時には俺がもてなすよ」
帰る際には、また頬を赤らめと照れながら挨拶をするアデルに、デレてきたショタ・・・デニ×アデもいいかなって思ったけど・・・ちょっとかわいいかも・・・と思ってしまったケアッツイネは現在16才。まだ大丈夫!全然セーフなのである。
その後、ケアッツイネとアデルが数々の苦難、嫉妬と策略と不運な偶然、そして少しの腐臭にさいなまれながら、ゴールインするのはまた別の話である。
◆神界
「最近、女神様が少しお疲れ気味ではないのか・・・」
そう話すのは、女神様と苦楽を共にする従者の長、Aである。モブではない。Aという立派な名前である。そしてそれに同意し、応えるのはAを補佐する従者Bである。
「たしかに・・・私も昨日の会議でも顔が優れぬご様子だったように見えましたわ」
「そうであろう。今日の北部と中央の龍脈のゆがみの修正にしても、神力が足りず、自らの気力を変換して補われておられた・・・」
その言葉に二人してうなだれる。
「そもそも最近は神力の回収がうまくいっていないようですわ」
「そこなのだ!もっとウィローズ様への信心を集めるため、何かできないものか・・・」
最近は枯渇気味の女神の神力について、知恵をしぼる二人。本来、神力は民の神への祈りを集めるもの。そしてその貯まった神力を各所で使い、正しき方向へと導いくである。ただ、最近はなぜか分からないのだが、女神様の神力が中々たまらない異常事態となっている。
しかし、我らが主・女神ウィローズ様は、足りない神力を気力で補ってこの世界を守っておられる。気力については時間が立てば回復していくものであるが、それもここ最近無理をなさっているようで、疲れた顔を覗かせていると、従者の皆は心配しているのである。
中々たまらない神力、龍脈の動きも少しづつではあるが乱れが生じやすくなっている。そして気力まで回復しづらくなっている現状に、もしかしたら女神様は何かに神力と気力を浪費されているのでは?となんとも不敬な絵空事を語る輩もいるという。そういう話もチラホラ聞いていた従者長Aはため息を吐く。
「まったく・・・嘆かわしいものだ」
「そうですわ。そんな突拍子もないことを妄言する暇があるのであれば、民からの信仰心をより多く集めるため、邁進することに時間をつかってほしいものね」
まだまだ二人の残業時間は終わらない。この後、深夜遅くまで改善策をひねり出しては、明日の会議で提案をしていくのであった。
このような従者たちの活躍もあり、今日も世界は平和が保たれる。
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