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41 会合

◆▲◆▲◆▲◆▲◆▲

エリモス連邦を研究している学者ザヒードの働きによって、メデルド伯爵、エリモス連邦のペトラ族の長老とルーカスの三名の会合の場が開かれた。


「突然、お呼び出てにも関わらず応じて下さりありがとうございます。私はダキア皇国第二皇子のルーカスです。こちらがメデルド伯爵です」

ルーカスが挨拶をすると、メデルド領と接する隣国の土地で遊牧生活をしているペトラ族の長老が自己紹介を始めた。

「ペトラ族の長老をやっているパプスです。今回は我々の部族の若者がそちらにご迷惑をかけている件だと伺っております。すでにあの者たちは部族から追放した身。貴国内で迷惑をかけたのであれば、そちらの判断での対応で構わないです。ご迷惑をおかけしたお詫びに、今後私たちはもう少し西の方面を起点にして暮らしていこうと考えております」


長老の言葉を受けてルーカスが問いただす。

「もし、その考えが誘導されたものだとしても、ですか?」

「どういうことですかな?」

長老の瞳がルーカスを射抜くように見つめる。長年、大人数を率いてきただけにその眼光は鋭い。

「今回、何者かが裏で糸を引いている可能性があると言うことです。詳細を説明する前に何点か確認させていただけますか」

ルーカスの言葉に長老が深く頷いた。


「今ペトラ族が住んでいる地域は、代々引き継がれてきた部族の土地と聞いておりますが正しいでしょうか?」

「その通りです。何百年も前から我々の先祖が住んでいました。我々の行動範囲の土地に関してはペトラ族のものとしてエルモス連邦に認められています」

「その土地で鉱石が取れるかもしれない、と考えたことはありますか?」

「鉱石?ご存じのように私たちは遊牧民です。鉱石の知識も扱い方も知りません」

「調査しないと定かではありませんが、陸続きのメデルド領側では鉱石が取れます。あなた達の土地にも鉱脈が続いているかもしれない。ここと同じ様に鉱石が取れる可能性が少なからずあります。今回はそれがこの騒動の原因と私は考えています」


ルーカスから飛び出した思いもよらない話に、長老もメデルド領主も目を見開いた。

「……と言いますと、ペトラ族の土地にあるかもしれない鉱石を狙っている何者かが仕組んだということですか?でも、それなら我々の領内にペトラ族の若者が訪れる理由はなんでしょう」

「ペトラ族は清廉潔白な考え方を好む部族だと聞いています。もし自分達の部族の若者が隣国にちょっかいを出し始めたらどうするか……長老がおっしゃったように、若者を部族から絶縁し、住む場所も変えるだろうとある程度の予測ができると考えます。それに、部族から縁を切られた若者達が万が一にも、ダキア皇国内で悪さをした場合、我々に処理が一任されるという流れになるのも読めるでしょう。若者をけしかけて行動を起こさせれば、首謀者は自ら手を下す必要はない。それに両国、またはメデルド領とペドラ族との間にも修復し難い溝が生まれる可能性もあります。ペトラ族が住む場所を変えることで、今後鉱石採掘について交渉もしやすくなる。交渉においては、他の部族を操って自分達は表に出ない可能性もあるかもしれませんが」


長い白髪の前髪の奥に見える長老の瞳には諦めや惑いの色が浮かんでいる。

「……全てこちらの行動を読まれた上での話だったということか」

「最近、そちらの土地のことで調査をしてきた者はいましたか?」

「調査はしていないがノウマッド族が流れてきた。あれはただの放浪民。我々の所にしばらく滞在して、すぐに別へ移動していったが……」


ようやくここでノウマッド族が繋がった。

一気にルーカスの頭の中で、結論までの仮説が組み立てられていく。


「その時に、ノウマッド族とメデルド領にいるペトラ族の若者の間に接点はありましたか?」

「……その時は気にしなかったが、今となると確かに時期が被る。ノウマッド部族がいなくなってからすぐに、若者達は部族に入ってくるお金に拘るようになったんだ」

「お金ですか?」

「ああ、我々の生活は家畜を遊牧しながら生きていく。主に春や秋に家畜を売ることで収入を得るのだが、若者らはお金がすぐに手に入るような生活をしたいと言い出したのだ」


しばらく熟考したのち、ルーカスは「その考えを若者らに洗脳させることがノウマッドの目的だったかもしれない」と呟いた。


「実はノウマッドの暗殺者に狙われている者が私の近くにいます。長老のお話を聞いて、繋がった気がします。何者かがノウマッドに二つ指令を出したのでしょう。暗殺とペドラ族を鉱山のある土地から遠く離れさせるように、と」

二人の反応を窺った後、ルーカスが話を続けた。

「ウルペス子爵が怪しいと睨んでいる。ウルペス子爵が借りている小屋に若者たちが住んでいることが理由の一つだ。まずは向こうの罠にはまったように、騎士団で彼らを引っ捕えよう。理由はなんとでもつけられる。問題はその後だが……長老はここまで話を聞いて、若者への処遇についての考えは変わりませんか?切り捨てる予定ですか?それとも引き取りますか?」


長老はしばらく熟考していたが、諦めた様子で口を開いた。

「本人達が望むのであれば再教育という名で引き取ることはやぶさかではない」

「若者達に尋問し背後の協力者としてウルペス子爵の名前が出たら、ウルペス子爵を引っ捕えよう。ただ、ウルペス子爵もあくまでも駒、首謀者は王都にいるはず。嗅ぎつかれないよう隠密に首謀者を追い詰めていきたい。早急に進めよう」

長老の言葉に頷いたルーカスが今後の進め方を二人へ説明する。


「それと鉱山の件はどうお考えになりますか?興味をお持ちなら、ダキア皇国より技術提供などの協力を公式に申し出ます。何より、鉱山や鉱石に精通した者が多くいるメデルド領がすぐ横です。メデルドから技術者や学者を送り出すことはできるな?」

ルーカスの問いにメデルド領主のボビーが深く頷いた。


「今回の件で考えさせられましたな。我々の遊牧民の生活はこれから変わることなく続いていくものだと当たり前の様に思っていました。でも、周りが変われば我々も変わっていかざる得ないことがよくわかりました。今後もいつ同じようなことが起きるかわかりません。確かに遊牧が私たちのスタイルだが生活仕様は変わってきているのは理解しております。……我々は全くの素人なので、色々と教えて頂けるとありがたい」

長老がルーカスとボビーに頭を下げた。

「それであればまず地質調査から始めないといけませんね。どんな鉱石が埋まっているのかで今後の方針も変わってきます。その後、地質に適した機材や技術をメデルド領が協力するという名でお互いいい商売ができそうですね」

「よし、それについては文官に至急文書を作成するよう指示をしよう。まずは、騎士団が大々的に若者を捉えよう。長老には周囲に悟られないよう取り調べに来てもらえるか?若者達との証言を聞き、それを踏まえて今後について擦り合わせしたい」

「承知した」

長老の瞳に鋭さが戻った様だった。



騎士団が、国境付近の平和を害する行為が目に余るとしてペトラ族の若者達を捉え、同時にウルペス子爵も若者達に協力していた可能性があるとして話を聞くために捕獲した。

案の定、ペトラ族の若者達はノウマッドから享楽的な生活を勧められ、甘い言葉に乗ってメデルド領の街へ出てきた。ただ、何をすれば良いかわからず、子爵からお金をもらってで街に姿を表したり、人々に不審がられる様な行動をとっていたと。ただ結局、根が真面目な部族なので、若者達もこれ以上のことができなくて悩んでいたようだ。


こっそりと呼んだ長老から雷を落とされた若者達は、こっぴどく叱られてホッとしたようにペトラ族の家族が待つ家へ戻っていった。

ウルペス子爵はなかなか口を割らなかったが。小屋とは別に借りていた屋敷内を捜索したところ、ペトラ族の土地の地図と鉱脈についての研究書類、ノウマッド族と交わした内容を(したた)めた書類が出てきた。

直接アロペクス公爵につながる書類は見つけられなかったが、ノウマッド族へ依頼した内容にはエヴァを傷つけることも含まれていた。


収集したそれらの書類を前に考えを巡らせていたルーカスの元に、王都の街中でエヴァが人身売買組織の残党に襲われたこと。そして、ノウマッドの暗殺者がエヴァを助けたようだという一報が入った。

その内容に、ルーカスはいても立ってもいられず、残務を部下に任せ、ロシュに飛び乗って王都へ戻ってきたのだった。




舞踏会から退席してきた皇帝()第一皇子()にメデルト領地での調査結果を報告する。

話を聞き終わった皇帝は長い足を組み替えて残念そうに言った。


「それではアロペクス公爵が絡んでいた証拠がないではないか」

「今夜の舞踏会中に部下達をウルペス子爵の王都の屋敷に忍び込ませ、何か繋がるものが出てこないか探らせています。ウルペス子爵の財力だけではノウマッド族やペドラ族へ支払う金は調達できない。何かしらカラクリがあるはずです」

「アロペクス公爵邸に通っている商人の件はどうなった?」

「商人達はノウマッド族の可能性が高い。王都内で潜伏している場所は突き止めて部下が見張っているから、捕らえて何を企んでいたか吐かせる」

「そうか。しかし、アロペクス公爵が首謀者という証拠が出てくるかはわからないな」


「全てが明らかになったら、兄上にはメデルド領へ行ってペトラ族に会ってもらいたい」

ルーカスがレイモンドに声をかける。

「あー外交の仕事ね。本当に鉱石が取れそうなの?」

「専門家の話によると、この国では取れない鉱石が採れるかもしれないそうだ」

「そうなんだ。でも、なんでアロペクス公爵はそれを知ったんだろう」

「ペトラ族で石彫刻を生業にしている者がいるらしい。その者が彫刻した石材に鉱石が混じっていた。そしてその作品が美術商人の手に渡ってアロペクス公爵の手元にまで行ったようだ」

「すごい偶然があったんだね。そこで変な欲を出さずにちゃんと国家を通していれば、大金や利権は手に入らずとも何かしら手に入れられるものはあっただろうに」

冷たく嘲る様にレイモンドが笑う。


「ルーカス、ご苦労だったな。休めと言ってもまだ休める状況ではないか。アロペクス公爵、ウルペス子爵とノウマッドの商人の件は引き続き調査を頼むな。何か事が大きく動くようなことがあれば至急知らせてくれ」

一礼をして執務室を出ようとしたルーカスを、皇帝は呼び止めた。


「そういえばエヴァ嬢と踊っている姿は良かったぞ。見応えがあった。始めてお前のあんな締まりのない顔を見たな」    

「ね、父上いったでしょう、面白いものが見れるって」

顔を赤らめたルーカスに父も兄もにまにまとする。

「あの令嬢がお前が妃にしたい娘だな」

「はい、その通りです」

直立して父に向き直ったルーカスに、上機嫌な皇帝が面白そうに話を続けた。

「あの令嬢との結婚を認めよう。五大貴族のロダン家は代々内務大臣を勤めているし、王家の薔薇園も作っている。相手としては上出来だ。で、婚約はいつするのだ?」

「ロダン公爵家当主のエドワードには許しを得ております。父上からも了承をいただきましたので、この件が片付いたらすぐにでも婚約式を執り行いたいと考えております」

皇帝である父からの許しに高揚したルーカスの頬がほんのりと色づいている。


「リュゼ嬢がすごい顔で睨んでいたから気をつけなよ。なんかやらかしそうな予感がする。ま、むしろそれで尻尾を掴めそうな気もしなくもないけど」

レイモンドの予感はルーカスも懸念していたことだった。

「わかっている」

リュゼや取り巻きの令嬢達がエヴァにしようとしたことを思い出して不愉快な気持ちが戻ってきたルーカスは、顔を顰めながら頷いた。


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