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25 新領主

「エヴァ様!」

「アニー!元気にしていた?」

屋敷内に入ったエヴァに真っ先に駆け寄ってきたのは、エヴァの乳母の娘であり幼馴染でもあるアニーだった。泣き虫のアニーはもう泣いている。


「またお会いできて嬉しいです」

「私もアニーに会えて嬉しいわ」

もう会えないかもしれないと密かにお互い覚悟して別れただけに、手と手を取り合って二人は再会を喜んだ。


「アニー。そこで泣いたままだと、お嬢様に休んで頂くことができないわ。さ、応接室にお二人を案内してくれるかしら」

「リリー様、そうでした。エヴァ様、ルーカス様ご案内させて頂きます」

アニーが泣き笑いの表情のまま、エヴァ達を応接室へ案内した。



「お嬢様、改めてよくお戻りくださいました」

並んでソファに座ったアーサーとリリーが、対面に座ったエヴァへ頭を下げた。


「アーサー様!リリー様!頭をあげてください!」

慌てたエヴァにアーサーが絞り出すように声を出す。

「先日、王宮の使者より辺境伯爵位を継承するようお話を頂きました」

王妃からエヴァは聞いていたので頷くと、アーサーは「本当にそれでお嬢様はいいのでしょうか」と苦しそうな顔で尋ねてきた。


ああ、と腑に落ちる。

アーサーは清廉潔白な騎士だった。

従兄弟でもあり、当主でもあった父を騎士団長として、ずっと支えてくれていたことを知っている。経緯があったとはいえ、父の娘であるエヴァを差し置いて、自身に爵位継承の話が来たことに納得をしていないのだろう。


「ええ、もちろんよ。アーサー様が辺境伯となってくれたら嬉しいわ」

「お嬢様、よろしければ今回のあらましを教えて頂いてもいいですか?ある程度の話は聞いておりますが…詳細なことを伺いたいのです」

アーサーや領地の皆には、叔父一家の刑執行の話は晴天の霹靂だっただろう。

「ええ、もちろんよ。アーサーは知っておくべきだわ」

エヴァは居住まいを正すと、父母の事故のこと、叔父夫婦とバーク伯爵が犯した罪の話をし始めた。

ルーカスもダキア皇国側の視点の話を補足してくれたおかげで、エヴァももう一度何が起こったか整理することができた。


「お嬢様、本当に申し訳ありませんでした」

じっと聞いていたアーサーとリリーの二人は、話が終わるとエヴァに再度謝罪をした。

「二人が私に謝ることは何もないわよ」

「いえ、辺境伯騎士団の団長として、領主の犯罪を手助けする状況に気付けなかったこと。そして、クラウス様とエリザベス様の事故も事前に防ぐことができなかった。騎士団長失格です」

アーサーが頭を下げたまま悲痛な声で後悔を口にする。


「聴取した部下から聞いたが前辺境伯はアーサー殿に嗅ぎつけられないように、かなり注意を払っていたようだ。アーサー殿が気づいたら間違いなく不正を暴かれるから、と。秘密を守る為、領内を通る人身売買組織の馬車を警護していたのは決まったメンバーだとも聞いている」

「はい、その者達は事件のことを知ると全員自主的に王宮騎士団へ出頭しました」

「そうか」

「お金に困っている奴らばかりでした。遊びや散財の金ではなく、家族が病気だとかでどうしてもお金が必要な真面目な奴らばかりでした。皆、積荷については尋ねてはいけないと命令されていたので、律儀に積み荷に注意を払わないようにしていたそうです。お金に困っていたので、特別手当のため自ら進んでその仕事を引き受けていたようです。自分が重犯罪に加担してしまったことを全員泣いて悔いていました」


エヴァの瞳から涙が溢れる。

「皆、悪くはないのに……領主の叔父様の命令に逆らうなんてできないのに……」

エヴァの手にそっとルーカスが触れた。

「大丈夫だ。その辺りの事情はティフリス国王側はわかっているはず。そこまで重い処罰はないだろう」

「それならいいのですが……」

俯いてしまったエヴァに、アーサーがそれから……と言葉を続けた。

「執事のイアンは退職しました。彼もまた何も気づけなかった故に加担してしまったことになったと悔いておりました」

「イアンまで……」

イアンは叔父の忠臣かと思っていた。てっきり叔父のやっていることを把握しているかと思っていた。

「どうやらクラウス殿に勘付かれてから、相当慎重にやっていたみたいだぞ」

ルーカスの言葉に複雑な気持ちになる。

父と母の死に意味などあったのだろうか……。


「イアンの進退は王宮から来て下さった管財人が受理をしました。そしてリリーの親族になりますが、マルセルという者が執事となることが決まりました。後でお嬢様へ紹介致します」


アーサーは姿勢を正してエヴァを見つめた。

「私はクラウス様の従兄弟ではあるが分家出身です。ずっと自分は裏方で本家を支える為に学び動いてきました。やはり、お嬢様やお嬢様のお子様が当主になるのが正当な道理と思うのです」

「そうは思わないわ。それに王命よ。アーサー様は領民のことを考えてあげられる良き領主になると、私は期待しているわ。それに、アーサー様が継いでくれると私は嬉しいの。騎士団の在り方について父の考え方を引き継いでくださっていたから」

「しかし……お嬢様はこれからいかがされるのですか?」

「ダキア皇国へ行くことにしたわ。お母様のご実家を訪ねるの」

「こちらへは、もう戻られないのですか?」

ちらっとアーサーがルーカスを見た。


「まだわからないわ。今は根無草みたいなものだから」

ルーカスは居場所を作ってくれると言ってくれたけれど……作ってくれた場所で私を受け入れてもらえるかどうか、自分がそこが居場所と思うかはまた別の話だ。


「ね、アーサー様、私はあなたに辺境伯になって欲しい。そして、私がここへ来た時に受け入れてくれる関係が築けたらもっと嬉しいわ」

「わかりました。謹んでお受けいたします。エヴァ様はいつでも帰ってきてください。ここはあなたの故郷であり、実家なんですから」

居場所がないと思っていたけど、ここにもあったんだ。

居場所って幾つ作ってもいいのかしら。


「ありがとう。スタール家をよろしくね」



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