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幕間 兄弟

読んでくださりありがとうございます。

第二章 ダキア皇国編はストックが溜まり次第上げていく予定です。



◆▲◆▲◆▲◆▲◆▲


「王都に行って、バーク伯爵の周辺を調べて来て」

ルーカスがレイモンドから指示を受けたのは辺境伯屋敷に滞在して数日経った時だった。



ここ数年、年間10数名の獣人の子供が行方不明になる事件が続いていた。

過去を辿ると8年ほど前から一定数の獣人の子供達が行方不明になっている。しかも隣国ティフリス王国との国境に比較的近い場所で子供達がいなくなっていることが分かった。

ダキア皇国皇帝の命として、騎士団が動くことになった。

場合によっては国家間の問題となるため、第一皇子のレイモンドが指揮をとり、騎士団長でもあり第二皇子のルーカスが捜査を担当することになった。


捜査の中で、誘拐後になんとか逃げ出してきた子供を見つけた。話を聞くと、どうやら人身売買組織が絡んでいるようだ。

その人身売買組織が国境付近の村々で子供達を誘拐した後、隣国に売り飛ばしている可能性が見えてきた。

それと同時に隣国で誘拐され、ダキア皇国の闇市場で売られている人間を見つけた。

ダキア皇国には奴隷の身分はないが、闇市場で売られていたティフリス王国国民は労働者として、または娼婦として買われていた。


隣国ティフリス王国は閉鎖的な小さな国だ。輸出入は最低限のものだけ。人の往来は商人以外はほとんどいない。奴隷として買われたティフリス王国国民を保護し、話を聞くと荷馬車に乗って国境を越えて入国していることがわかった。

その中の一人にティフリス王国の貴族令嬢がいた。よほど酷い目にあったのだろう。精神が破綻する寸前だったが、事情を聞くことができた。

貴族令嬢は自分の夫に売られたという。自分以外にも前妻達が売られてダキア皇国へ来ているはずだと言う。

捜査の結果、他に二名の女性が見つかった。その二名も主犯格として、自分の夫の名前を出した。

その夫がバーク伯爵だった。


人の行き来が少ないのだから、ティフリス王国で国境を管理している辺境伯の目を盗んで行き来するか、協力を得ているのかどちらかだろうと考え、商人貴族と身分を偽ったレイモンド達は入国早々辺境伯に近づいたのだ。




「兄上、バーク伯爵は間違いなく本星だ」

王都で数日捜査してから辺境伯領に戻ったルーカスがレイモンドへ報告する。

「やっぱりそうか」

バーク伯爵の前妻の三人がダキア皇国で見つかっている。話を聞き、ダキア皇国の人身売買組織と繋がっている可能性が高いと判断しての捜査だった。

「屋敷内に忍び込めた。獣人の子供達を売った先をしっかりリストにして残してあったぞ。そのリストから部下達に売却先を探らせている。生存している者が多ければいいのだが」

密かにダキア皇国から鼻が効く獣人の騎士達を呼び寄せた。

救出には、身のこなしが軽くて鼻が効く獣人の騎士が適しているからだ。


「こっちもスタール辺境伯の金の流れを掴めたよ。やはり、賄賂を貰って護衛をしているようだな。あとは人身売買組織の出入国の時期、バーク伯爵が売った時期とスタール辺境伯が賄賂をもらっている時期を精査して立証すればいいだろう」

「そのあたりの書類仕事は兄上に頼んだ」

「ルーカスの方が賢いんだから、書類も仕事してよ」

「俺は動いている方が性に合う」

納得いかない顔でルーカスを見ているレイモンドを無視して話を続けた。


「今度の舞踏会の夜が、獣人の子供達の保護とバーク伯爵、スタール辺境伯の確保に一番ちょうどいいな」

「舞踏会か。確かにほとんどの貴族は出席するだろうから、邸が手薄になるから忍び込みやすそうだね」

「商人の家に乗り込むから騒ぎになるかもしれないな。王国への根回しは兄上に頼むぞ」

「わかったよ。めんどくさいけど、舞踏会に参加するよ。ついでにエヴァちゃんの虫除けもしてきてあげるよ」

「……」

「あれ?僕にまでやきもち?」

「そんなんじゃない」

「エヴァちゃんと話している時のルーカス、優しい顔してるよ」

「は?大して変わらないだろう」

「自覚なし?尚更本気じゃん」

「彼女は……なぜだか放っておけないだけだ」

「ふぅーん、それならそれでもいいけど。でもエヴァちゃんの血は甘く感じるでしょう?他の女性に吸血衝動あったことある?」

「……」

「それが答えだと思うけどな〜」

「兄上はどうなんだ?いるのか?」

「僕はまだ享楽的に生きるんだ。寿命まだ長いんだよね。先にルーカス結婚していいよ」

「……」

「ちなみに、このバーク伯爵がエヴァちゃんの婚約者になるみたいだよ」

「は?」

「余計に辺境伯との関係が気になるよね。ってことで辺境伯の方ももう少し調べてきて。立証にはまだ足りないんだよね。ついでにエヴァちゃんのご両親の事故のことも調べてよ」

「人使いが荒い」

「はは、だって舞踏会の日までに証拠を抑えないと、エヴァちゃんがバーク伯爵に食べられちゃうよ」

レイモンドを睨みつけるように一瞥すると、ルーカスは足早に部屋を出ていった。


「ふふふ、やっぱりルーカスはかわいいな」

レイモンドはクスクス笑いながら、ルーカスが持ってきた報告書を読み始めた。




◆▲◆▲◆▲◆▲◆▲


舞踏会の夜、無事に誘拐され売られた獣人の子供達の救出作戦が完了した後、レイモンドはティフリス国王へ緊急の謁見を申し入れた。

「ダキア皇国第一皇子レイモンド様ですな。この度はどんなご用件で来てくださったのでしょうか」

部屋に入ってきたティフリス国王は、レイモンドが何者か見抜いていたらしい。

周りの側近達が冷や汗をかいている。

(ふふふ、ティフリス王は賢王だったね)

「この度は身分を偽って挨拶をし申し訳ありません。どうしても秘密裏に動きたい件があったためやむなく偽ってご挨拶をさせて頂いておりました」

「もう偽らなくてもいいということは、その件は解決したのでしょうか」

「ええ、先ほど」

整った顔をにやりと笑ったレイモンドは冷酷な表情になるとティフリス国王を見つめた。

「ティフリス国王は人身売買組織がこの国の貴族や商人の中に販路を広げていたことはご存じでしたか?」

顔色が変わった国王と側近達を冷ややかに見つめたあと、近くにいたダキア皇国の騎士に小声で指示を出した。


間も無く連れてこられたのは、縄で拘束されたバーク伯爵とスタール辺境伯だった。


「これは!!」

ティフリス王国側が騒然となる。

バーク伯爵に至っては、鼻から流れた血が固まり酷い有様だ。

「ああ、先に申し上げますとバーク伯爵の顔は我々ダキア皇国がやったのではありません。ご令嬢を襲おうとした卑劣な行為の報いを本人から受けているだけです」

縄で拘束された二人は、猿轡のせいでうーうーと唸っていた。


ティフリス国王が片手をさっとあげて、側近達を黙らせる。

「レイモンド皇太子、説明をしていただけますな」

「ええ、もちろん」

レイモンドの怜悧な表情に、ティフリス国王をはじめ側近達は足元から冷気が這い上がってくるように感じて固唾を呑んだ。




◆▲◆▲◆▲◆▲◆▲


「なんで、エヴァちゃんを庭師に任命するみたいに皇国に誘うんだよ」

揶揄われ続け不貞腐れているルーカスに思わず指摘してしまう。

「女の誘い方を教育しなかったお兄ちゃんのせいか?」

「うるさいな。いいんだよ。エヴァに告げたところで、自己肯定感低いから断って逃げるに決まってる。色恋のこと言ったら警戒されるだけだ。ゆっくり堕としていくからいいんだ」

「堕としていくって……やっぱり吸血行為すると成長するんだな」

嬉しいよとルーカスの頭を撫でようとしたら手を振り払われた。


「あ゛ー、くそ、言わなきゃよかった。とりあえず一緒に国に連れて帰るから」

「わかったよ。で、どういう予定を考えているの?ロドン公爵家にも連れていくんでしょ?」

「俺とエヴァはロシュに乗って先に辺境伯領に行ってくる。そのあと国境を超える前に合流して、そのあとロドン公爵家に連れていくよ」

密かにロドン公爵家にルーカスが連絡をとっていることは知っている。

なんの根回しなんだか……。

「僕達も辺境伯家で一泊したいな。薔薇園あるし」

「ああ、兄上から連絡入れておいてくれ。あと、ノウマッドの件の打ち合わせが必要だろう」

「エヴァちゃんが王太子との婚約を断ったから、クラウドの従兄弟になるスタール騎士団長が辺境伯の爵位を受け継ぐって聞いたよ」

「ああ、アーサーだな。何度か手合わせしたが、良いやつだった。ノウマッドの件も彼なら協力してくれるだろう」

「じゃあ、そっちはルーカスに任せたよ」

「ああ、じゃあ明日立てるよう指示を出しておく。あんまり飲みすぎるなよ」

レイモンドの手元にあるワイングラスを見て、立ち上がりながらルーカスが声をかける。

「だって、せっかく頑張って事件解決のついでに両国の輸出入の条約を締結したのに、エヴァちゃん連れていくことの方が面白いからつまんなくてさ」

「は?もう酔っ払ってるのか?兄上、早く寝ろよ。歳なんだから」

悪戯っ子の顔をして、いつもの兄弟喧嘩の後の捨て台詞を吐くとルーカスは部屋から出て行く。


「歳じゃない!吸血鬼の寿命が長すぎるんだ!」

レイモンドの叫びは重厚な扉に邪魔されて、ルーカスには届かなかった。




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