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20 母の親友

夕暮れ前に、エヴァに謁見の間に来るように連絡がきた。


グレタに見送られて、部屋に呼びにきた近衛兵の後についていく。

ルーカスより事前に聞いていたからか、これからの覚悟が決まったからか、エヴァの心の中は落ち着いていた。


豪華絢爛な廊下をいくつも通り、国王との謁見の間に入る。

近衛兵が重厚な扉を叩くと、中から扉が開けられた。

母から教えを受けた完璧なカーテシーを披露したエヴァは、国王から声をかけられると顔をあげて広間の状況を確認した。

目の前にはダキア皇国レイモンド第一皇子と国王が並んで座っている。

それぞれの後ろには側近たちの姿が見える。ルーカスもレイモンドの後ろに控えていた。


「昨夜は災難だったな。体調は大丈夫か?」

「お気遣い頂きありがとうございます。ルーカス第二皇子にご厚意を頂き、良くなりました」

「それなら良かった。其方に来てもらったのは今後について話をしたかったのだ。ルーカス第二皇子より其方へ、今回の騒動の大体のあらましは伝わっていると聞いている」

エヴァは国王の目を真っ直ぐに見た。

「まず、聞き及んでいる通り、バーク伯爵がダキア皇国の人身売買組織と繋がって、両国民の人身売買に関与していた。主に獣人の子供達をこの国の闇市場で売っていたのだ。購入した貴族達はすでに調べ上げ拘束済みだ。生存が確認できた子供達の保護もできた。そして、其方の叔父であるスタール辺境伯は人身売買組織が国境を行き来できるよう協力をしていた。その見返りに賄賂をもらっていたことも突き止めている」

ここまではエヴァもルーカスから聞いた話だったから頷いた。

「先ほど取り調べで、バーク伯爵とスタール辺境伯それぞれから自白を得た事実がある。其方の両親の馬車の事故は、両名が仕組んだことだと自白した」


やはり……予想はしていたけれど、事実として聞かされるとまた違う衝撃がエヴァを襲う。

雷が鳴り響く中、窓から門を見つめて二人の帰りを待ち侘びていた、幼いあの夜を思い起こす。


「両名はこの国で裁判にかけられ沙汰が決まる。親戚とはいえど、其方も被害者である。裁判が終わるまでは王宮に滞在するように」

「承知いたしました」


国王は一呼吸置いた後にエヴァを優しく見つめた。

「其方は皇后の強い希望によって王太子の筆頭婚約者候補でもあったのだ。今回其方を巻き込んでの捕縛となったこと残念に思う」

思わず国王の後ろにいる王太子に視線をうつすと、向こうもこちらをじっと見ていたのか視線が絡み合う。

「私はバーク伯爵と婚約の書面を既に交わしております」

「ああ、そのことだが、昨夜遅くに辺境伯が書面を文官の部屋に持ち込んできたようだが、舞踏会があった為に受理はしていないのだ。だから、その婚約は無効だ」

そうだったのか……心の中に安堵感が広がる。

「国王様、ご配慮頂きありがとうございます」


話が終わったようなのでカーテシーをして退室しようすると、思い出したように国王が声をかけてきた。

「エヴァ嬢、皇后が其方に会いたがっておった。構わないかね?」

「光栄にございます。どうぞよろしくお伝えくださいませ」


皇后は私になんの用があるのだろう。

国王が言っていた、王太子の筆頭婚約者候補が皇后の強い希望だったとは知らなかった。

なぜ私だったのだろうか。



謁見の翌日の午後、皇后からの非公式のお茶会に誘われた。


「グレタ、どうしましょう。何を着ていけばいいのかしら?」

「そうですね……可愛らしいお嬢様姿で攻めるか、大人の女性姿で攻めるか迷うところですね」

グレタの判断基準はよくわからないけれど、間違いはないので任せることにした。


「やっぱり今日は可愛らしいお嬢様姿でいきましょう」

そう言って出しきてたのは、ミントグリーンのふんわりとした裾のドレスだった。

「髪型は清楚に見えるように仕上げました!」

編み込んだ髪の毛を後ろで一つにまとめてくれた。

「いつもありがとう」

「アクセサリーはいかがしますか?」

暗に、ルーカスが贈ってくれたガーネットのイヤリングを着けるかどうか訊かれているのだとはわかっている。

「今日もこのペンダントだけでいいわ」

「承知しました」

イヤリングは大切にしまってある。

身につけてしまうと、ルーカスからのただの厚意を都合よく別のものに勘違いしてしまいそうだった。


皇后の部屋を訪ねたエヴァがカーテシーをして挨拶をすると、すぐに皇后から言葉がかかる。

舞踏会で姿を拝見はしたが、話すのは今回が初めてだった。

「良く来てくれたわ。あなたのカーテシーはエリザベスそっくりね」

「皇后様は母をご存じでいらっしゃるのですか?」

思わず驚いて言葉を返す。

「ええ、エリザベスとはずっと仲良くしていたのよ」

そういうと、控えていた侍女を呼んで持って来させた箱をエヴァの前に置く。

「これはエリザベスが私にくれた手紙なの。よかったらその箱を開けて見てちょうだい」

箱の蓋を開けてみると、何十通という手紙が箱の中に整然と並んでいた。


「今日あなたを呼んだのは……エリザベスのことを話したかったの」


聞くと母はダキア皇国の公爵家出身という。

母は国境近くの山で狩猟の大会に出場した際に道に迷い、国境付近を巡回していた父と偶然出会ったそうだ。

「私には、お父様とは偶然で必然の出会いをしたと言っていました」

「ふふふ、私にもそう惚気ていたわよ。エリザベスは公爵家の一人娘でもあったから、隣国の辺境伯家に嫁ぐなんて許されなかったのよ。反対されたエリザベスは一人で国境を越えてこの国へ来てしまったの」

呆気に取られてしまう。母は妖精のように可憐な見た目の女性だった。

狩猟の大会はもちろん、一人で親の反対を押し切って国境を越えようとする人だったなんて想像がつかない。


「この国でも、まさか隣国の公爵令嬢が駆け落ちして来るなんて想像していなかったでしょう。彼女の見た目はまさに妖精だし」

「両親はすんなり結婚できたのですか?」

「大変だったわよ。流石に国際問題に発展しかねないから、秘密裏にティフリス王家が入ってスタール辺境伯家とエリザベスの実家の公爵家とが連絡をとってやりとりしたわ。この国は閉鎖的な政策をとっていたから、外交として堂々と動けなくて。結局両家公認ではあるけれど駆け落ちのように結婚したの」

「母の実家は……母が亡くなったことを知っているのでしょうか」

「ええ……知っているわ。エリザベスの両親、つまりあなたのお祖父様お祖母様があなたを引き取ろうとしたのだけれど、幼いあなたが両親を失った直後に他国へ行くというのは環境の変化が大きすぎるのではないかと思って、クラウス様の弟君に預けることになったのよ」

目を伏せた皇后が悲しげな声で話を続ける。

「あなたに謝らなければならないわ。私もエリザベスの両親もあなたが幸せに辺境伯領地で暮らしていると思っていたの。……あの時無理にでも引き取ってもらった方がよかったのかもしれないと後悔しているわ」


王家から指令を受けた密偵が、叔母に買収されていたそうだ。

その密偵が持ち帰った、私が幸せに暮らしているという偽の情報を皇后から祖父母へ伝えていたと。

「だから私のせいで、辛い思いをしているあなたを領地に閉じ込めてしまったの。本当にごめんなさい」

皇后は涙して頭を下げられた。


エヴァは慌てて皇后の側に行って膝をつき、頭をあげてもらうようお願いする。

「皇后様、確かに叔父一家からは虐げられていました。ただ、素敵な出会いもあったのです。師匠と呼べる庭師や良い幼馴染に出会えました。だからこれで良かったのです。もう一つのあったかもしれない道は、どうだったかなんてわからないのですから」

皇后は涙の残る瞳でエヴァをみつめ、優しい子ねと呟いた。


「この箱には、エリザベスからのとあなたのお祖母様からの手紙が入っているの。良かったら読んでみてほしいの。あなたのことも書いてあるから。少しはあなたのお母様やお祖母様の人柄がわかると思うわ」

部屋に持っていっていいと言われ、言葉に甘えて手紙を読ませてもらうことにする。

「こんなことで罪滅ぼしになるとは思ってはいないけれど。エリザベスの実家にも密偵が買収されていて正しいことが伝わっていなかったことを謝罪した手紙は送ったわ」

「皇后様、お気遣いありがとうございます」


「それにしても、本当にエリザベスに似てきたわね。舞踏会に着てきたドレスはエリザベスのではなくて?」

「ええ、そうです。父が母に初めて送ったドレスだと聞いています」

「ドレスを贈られて喜んでいたのを覚えているわ。エリザベスがそのドレスについて書いてある手紙もあったはずだわ」

舞踏会でデビュタントの挨拶にきた私を見て、エリザベスが来たのかと驚きのあまり声がでなかったという。


「私が王太子を産んで、エリザベスがあなたを産んだの。二人で将来子供達を結婚させたら親族になれるわねって盛り上がってしまったのよ。それもあなたを結局は苦しめる結果になってしまって申し訳なかったわ」

叔母が王太子の婚約者の座を自分達の娘に掴ませるめる為に、エヴァをバーク伯爵と婚約させようとしたことを言っているのだろう。

「皇后様、私は大丈夫です。ご心配なさらないでください。色々とご配慮くださって感謝しております」

「エリザベスのことは本当に残念だったわ。私にとって親友と呼べるのは今も昔もエリザベスだけよ。あなたにはどうか幸せになってほしい。あなたの母の友人としてできることはするわ。だから、いつでも頼っていらっしゃい」

皇后がエヴァの両手を優しく包んで微笑んだ。

「心強いお言葉ありがとうございます」

母にこんなにも想って貰える友人がいたことがとても嬉しかった。



部屋に戻って、母が皇后に出した手紙を一つ一つ読んでいく。

手紙の中の母は、結婚後も父に恋し愛する一人のただの少女のようだった。

父と一緒に暮らす生活がいかに楽しいことに満ち溢れているか、娘と過ごす毎日がいかに素晴らしいものか皇后に宛てて書かれている。

領地を見て回って、距離があった領民に受け入れられていくまでの葛藤や挑戦も書いてあった。

そして、故郷の実家への思いも綴られていた。やはり故郷が恋しかったようだ。

筆まめなのだろう、皇后への手紙には事細かに日々の母の想いが書かれていた。

手紙を読んで、妖精のように儚げで可憐な母のイメージが崩れたところもあったけれど、短い生涯だった母の生き様をありありと感じることができて、手紙を読ませてくれた皇后に感謝の気持ちでいっぱいになった。


エヴァは箱の中に入っていた、もう一つの手紙の束を手に取った。

ダキア皇国ロドン公爵家とのやりとりだ。母の実家の名前をようやく知ることができた。


祖母と皇后のやりとりは冷たいものではなく、共通の愛しい人を亡くした喪失感を互いに慰め合う心温まるものだった。

孫娘であるエヴァへの想いも書かれている。

そこには疎んじるような感情はなく、ただ身内として慈しんでくれているようだった。

エヴァは勘当した娘の子供へはいい感情を持っていないと思っていたから。


手紙から、母の実家であるロドン公爵家は、王家の薔薇園を代々維持してきた緑の手の持ち主の家系だということを知った。

母には確かに緑の手を持っていた。

母は花を育てるのが上手だった。作物の状況を見るのも上手だった。


私も緑の手を持っているのだろうか。


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