俺の片思いの行く末は?
「成功する、成功しない、成功する――あぁ……!」
俺は情けない声をあげた。
花びらの最後の一枚が『成功しない』だったからだ。
俺には好きな娘がいる。けれど告白する勇気がもてなくて、こうして職場の敷地内にある花壇から花を頂戴し、花びらを一枚ずつちぎっては捨ててを繰り返し、土へ還元している。
「おい、お前は何日花占いするつもりだ? いくら王族がこない場所でも庭師に怒られるぞ」
見ている同僚のフランクが呆れる。
「そんなことやっていたら、いつまでたっても前に進めないぞ」
同僚のフランクは俺の腕を掴んで立ち上がらせる。
「いや、だって。彼女可愛いし、他のやつだって狙っているって聞くし……」
「たしかに人気らしいな。けど、全員断ってるそうだぞ。好きな人がいるからって。お前、彼女と面識あるんだろう?」
「あ、ああ。姉ちゃんの友人の妹さんだ」
「俺たちは騎士だ。まだ新人だけれど女性受けする職業に就いたんだ。大丈夫だって」
「でも、花占いは『成功しない』って……」
「あのな、花びらは枚数が決まっているんだからあてにするなよ。行ってこいよ。ていうか行け。当たって砕けろ」
「砕けたら終わりだろう!」
俺の突っ込みをさらりと受け流した同僚のフランクは、俺の腕を掴んだまま引っ張って、彼女が働いている場所、食堂へ向かった。
彼女の名前はフィーネ。王宮内にある食堂の従業員の一人。
小顔でぱっちりとした目に栗色の髪色をもつ、誰にでも笑顔で挨拶する可愛いらしい十代の女の子だ。
食堂は混雑時から過ぎていて、利用している人は少ない。
行け、と同僚のフランクに背中を押された俺は、食堂の窓口から厨房の中にいるフィーネに声をかける。
「なんでしょうか?」
フィーネは厨房から出てきて、俺の前に立った。
「あ、あの……その、伝えたいことが……」
俺の心臓は今にも破裂しそうな感じで、ばくばくしている。
深呼吸してから俺はついに告白した。
「あの、好きです。付き合ってください!」
俺が告白すると、彼女は眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をした。
視線を下げてさまよわせている。
彼女は姉ちゃんの友人の妹。家がご近所さんなので、たぶんどう言ったらいいのか迷っているのだろう。
「ごめんなさい……」
フィーネは迷った末、変な言い訳はせずに一言にしたようだ。
彼女の纏っている空気と表情で訪れる未来を俺は悟ってしまったが、答えを聞くまでは、と希望を捨てなかった。
だが、希望は儚くも散った。
悲しみに包まれながらも、俺は現実を受け止めた。
「あの、理由を教えてもらえますか?」
「私……ディートフリートさまが好きなんです!」
「は?」
俺は何かの聞き間違いかと思い、名前を聞き返した。
「ディートヘルトですか?」
ディートヘルトは何人もの女と付き合っている俺たちの先輩騎士だ。
「違います。あの尻軽騎士さまじゃありません」
彼女は冷めた声で言った。
ディートヘルトは女性たちの間では名前ではなく、『あの尻軽騎士』という悪評の通り名で呼ばれている。
「ディートフリートさま、です!」
「女性だけで編成された騎士団の副団長ですか? 女性ですよ?」
男児に恵まれなかった結果、父親に男の名前をつけられた女性騎士だ。
「いいじゃないですか。あの尻軽な騎士さまよりも、花びらをむしってぶつぶつ言っている騎士さまよりも」
「うっ!」
「庭師のおじいちゃんがこの間言っていましたよ。なにかぶつぶつ言っている騎士さまがいるって」
「すみません……」
「私、強くて格好よくて、あのきりっとしたお顔が好きなんです!。去年、あの尻軽騎士さまに言い寄られていたときがあってすごく困っていたんです。偶然、言い寄られているところを目撃して追い払ってくれたんです」
格好よかった、とフィーネは頬を朱色に染めて、うっとりとした顔で言った。
この日の夜、俺は同僚のフランクと酒場に行って胸の内をさらけ出し、飲み明かした。
完
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