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2-1 目覚め

 埼玉県に住む 佐藤隆二は、静かな朝を迎えていた。


 彼は昨夜8時くらいに帰宅した為、夜の10時に発生した停電時には、部屋でくつろいでインターネットの動画配信を見ている時であった。

 駅前で食事を済ませた後、彼が勤めているコンビニとは異なる別の会社のコンビニで、朝食やアイスを買っての帰宅である。

 他社店舗の情報調査と言う事にしているが、実のところ、彼が住む駅の周辺には、同社のコンビニは一軒も無かったのが本当のところであった。


 彼が勤めるコンビニ本社では、対応する部門ごとに小さな課が沢山作られており、彼は若干26歳にして課長であった。

 しかし課長と言う肩書は、彼が特に優秀とかいうことではなく、業者対応の対外的なハッタリ的な側面が強く、銀行にたくさんいる副支店長職みたいなものであった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 昨夜は停電になり、復旧しなかったので、それ以降にすることが無くなり、やけに早い就寝となってしまった。

 いつも7時に鳴るはずの目覚ましはまだ鳴っていないが、カーテンの隙間から差し込む明かりで目が覚める。

 何時かと思い、ベッド脇の目覚まし時計を見ると、彼は飛び起きた。


 目覚まし時計の針が10時を指していた。


「やばい、寝過ごした! 遅刻だ!」


 すでに始業時間を1時間過ぎ、今朝は10時から会議の予定が入っていたので、慌てて充電中のスマホを取り出し、会社に電話を掛ける。

 しかし、焦っているせいかスマホの電源が上手く入らない。

 今まで充電していたから、バッテリーは問題ないはずだ。


 電源スイッチを長押ししても起動する様子はない。

 しかたなくメールを入れておこうと、ノートパソコンを開くが、なぜかPCの電源も入らない。


 寝坊したことで慌てていて忘れていたが、そこではっと気が付き、昨夜停電があった事を思いだした。

 そう思いだして、リモコンで天井のライトをON/OFFするが明るくならない。

 そして、テレビも電源が入らない。


「うそだろ?」


 朝になっても、昨夜の停電がまだ復旧していないようだ。


「10時か...

 会社勤めを始めて、この時間まで寝過ごしたことは初めてだな。

 そろそろお気楽独身生活も潮時なのかな。

 会社には連絡できないからしょうがないよな」


 そう呟きながら、もう一度目覚まし時計を見る。

 やはり間違いなく、時計の針は10時をすこし過ぎたところを指している。

 電波時計なので、電池が無くならない限り正確な時刻を知ることが出来るはずだ。


 そこで、何か違和感を感じた。 何だろう。

 普段聞こえる秒針の音が聞こえない。

 スムーズに動く秒針ではあるが、それでも時計を耳に近づけると小さな音はしているはずである。

 それが時計を耳に当てても、中の音は全く聞こえない。


 そこで違和感に気が付くが、寝覚めて既に数分は過ぎているはずなのに、時計の時刻は先ほどから10時過ぎを示したままであった。

 そう、この時計が停まってしまっていたのだ。


 俺は苦笑いをし、落ち着いて時刻を知ろうとし、そこで愕然とする。

 なんと、停電したこの部屋の中では、時刻を知る方法が全くなかった。


 窓を開けるが、本当はまだ朝早いのか、それすらわからない。

 普段は聞こえている外の騒音は全く無く、本当に静かな朝を迎えていた。


 これだけの停電であるので、会社に遅刻の原因は説明できるな。

 そこからは少し開き直って、時刻は分からないが出社の準備を始める事にした。


 電気がつかない暗い洗面台で歯を磨き、蛇口をひねるが水が出ない。


「え?」


 何と水道も断水してしまっていた。


「あ、停電か」


 この4階建てマンションの水道は、裏庭に置かれた貯水タンクから、ポンプで加圧してマンションの各部屋に給水している。

 電気で動くポンプなので、当然停電すると水道も使えなくなる。


 ちょっともったいないけど、冷蔵庫のペットボトルの水をコップに注いで、泡だらけの口をキッチンでゆすぐ。

 電気が切れているので、水も少し生ぬるい。

 とういう事はキッチンのIHも使えないのか。


「アイス! 昨夜コンビニで買ったやつ!」


 ほとんど物が入っていない冷凍庫に入れられたアイスは、既に袋の中は棒と柔らかなジェルに変化していた。

 幸いなことに、アイスの袋から液体は漏れ出していなかったので、そのままアイスの袋ごとキッチンの生ごみ入れに捨てた。

 溶けた液体はシンクに流した方がよさそうだが、蛇口から水が流せないので、袋のまま廃棄した。


 パンの他に牛乳が買ってあるが、停電が続くと牛乳は傷むと思うので、今朝のうちに全部飲み切っておく。

 シャワーは使えないので、トイレを済ませ...


 そこで気が付くが、何も考えずにさっきトイレを流したが、断水ではもう水洗トイレは使えない。

 タンクに残っていた最後の水を、さっき使ってしまったようだ。


 クリーニングの袋を破り、シャツを着こむ。

 昔だとネクタイにスーツだったのだろうが、今の時代はノーネクタイで出勤できる。


 普段通り、スマホを持って出るが、スマホの電源が入らない。

 会社でもう一度充電してみるつもりだ。

 スマホが使えないと、モバイル定期が使えない事に気が付いた。


「電車に乗るには現金が必要だな」


 給料前の事もあり、口座にそれほどの余裕はないが、多少の現金であれば財布に入っている。


 エレベータは止まっているので、階段で降りる。

 ゴミ袋を持ってきてしまったが、今の時間が分からないので、ひょっとしたらもう収集車は行ってしまったかな?


 1階に降りると、裏に住む大家さんがいた。


「おはようございます。

 あの、今って何時ですか?」


 ちょっと、とぼけた質問であるが、しかたがない。


「あ、佐藤さんかい。

 いや、これは大変な事になっているよ。

 朝から水道が出ないと言われたんだが、ポンプが動かない事にはどうしようもないね。

 あ、今は7時だよ。

 うちも時計が停まっちゃっていて、玄関にある大きな振り子時計だけは動いているので、時間ならばわかるよ」


「あ、だったらまだゴミは間に合いますよね?」


「そうだね、収集車来るにはまだ時間があるから、ダストボックスに出していくといいよ」


「ありがとうございます。

 そうか、まだ7時なのか。 いつもより30分以上早いけど、たまには早出もいいか。

 では行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」


 そこで、大家さんは普通に送り出してくれた。


 すでに、世の中からは情報という物が止まっている。

 昨夜の大停電の情報を伝えるはずの新聞はこない。 テレビのニュースも見れない。 インターネットも電話も繋がらない。


 各地で起きた大火災や災害など、ニュースが無く、情報が入らなければ、平静な物だ。

 誰も、どこかがおかしい気はしているが、それを知る手立てがなく、何が起きているか、まだ気が付かなかった。


 すこし長く停電が続いただけであり、多くの人々は普段どおりの朝を始めようとしていた。



 駅まで20分くらいなので、俺は毎日歩いている。

 バスもあるのだが、それに乗れば楽で早いが、待つ時間や、朝から混雑したバスには乗りたくない。

 マンション近くのバス停には、いつもより長い行列が出来ており、しばらくバスが来ていないようだ。

 そこで、何か雰囲気がおかしいと思ったのは、バスが通る大きな道路に車が1台も走っていないのだ。

 道の先を見ると、交差点の信号も消えたままである。


 そうか、停電は交通機関まで影響しているのか。

 こりゃ電車は混んでいるかな? 早めに出てきてよかったな。


 ところが、歩いていても、いつまでたっても車というものが1台も走ってこない。

 正確に言うと、車がいないわけではなく、ところどころで車は停止しているが、それは信号ではない道路の真ん中にポツンと停まっている。

 よく見ると、車に運転手が乗っていないので、これじゃ道路は渋滞するな? と思うのだが、道路はそんな雰囲気も無く、後ろから来る車もいないようだ。


 昨夜寄ったコンビニの前を通ると、店舗前にテーブルを置き、そこで何かを売っていた。

 ここも停電により、POSレジが使えないようで、どうやら賞味期限が近づいたお弁当やパンなどを現金で販売しているようだ。

 昨夜からの事もあり、ちょっと嫌な予感?がして、そのコンビニでおにぎりとペットボトルのお茶を買っておいた。


 この店はうまいオペレーションしているな。

 朝のこの時間だったら、昨日入荷分も賞味期限前に売り切る事が出来るな。

 このとき、店の前に商品はまだたくさん並べられていた。



 買い物を済ませ、駅にまで近づくと、歩道を歩く人も増えてきた。

 しかし、更に駅に近づくと、様子が少しおかしくなってきた。

 駅の前に多くに人がいる。


「これ、どうしたんですか?」


「なんか電車が止まっちゃっているらしく、駅のシャッターが降ろされていて、中に入れないらしいですよ」


 そう言われてシャッターの前を見ると、駅員さんが大きな声を張り上げて叫んでいる。


「現在、電車は動いていません。 本線の復旧につきましては未定です。 他社の交通機関をご利用ください!」


 駅員さんは振替乗車券を配布しているが、奥に見えるもう1つの鉄道線である日本鉄道(にほんてつどう) NRラインも動いていないようだ。

 最も、そちらを使って会社にたどり着くには、何度も乗り換えをしなければならない。


 この駅で2つの鉄道会社の路線が交差しており、通勤にもショッピングにもここは便利な町である。

 駅前ロータリーに有るバス停には、バスを待つ長蛇の列ができている。

 ここでも車を1台も見かけないので、バスはいつ来るか分からない。

 どこかで大渋滞しているのだろうか?


 せっかく早く駅に着いたが、これでは困ったな。


 この駅から会社までは20㎞を超えていると思う。

 いつもであれば区間急行に乗って30分。

 そもそも、歩いて会社に行くことなどは、一度も考えた事すら無く、スマホも動かないので地図を調べようがない。

 それに今履いている通勤用の靴だと、頑張っても1時間に5kmくらいしか歩けないだろう。


 簡単に計算しても、休み無しで歩いて、往復だと8時間必要だ。

 もしこのまま停電が続くと、街灯も消えたままだろうから、暗くなる前に、会社に着いたらすぐに帰宅することになる。

 すると、今日出社する意味など全くない。


「あ、こりゃダメだ」


 会社まで歩くつもりであれば、あらかじめ歩ける靴やそれ用の服装をして、最悪会社に泊りの準備をして出発する必要がある。


 結局、俺は会社に連絡をできないまま自主休業とし、本日は家に戻ることにした。

 まだ時間が早いため、駅前のスーパーは開いていなかったので、途中で晩飯を買うために、朝も寄ったコンビニに向かった。

 さっきは店の前に沢山並べられていた商品であるが、あの後多くの物が売れてしまったようで、すでに選択の余地はほとんどなかった。

 その中から、いくつかの食糧とペットボトルを買い込み、来る時よりも眩しくなった太陽を浴びてマンションへ戻ることにした。


前話で導入編が終わり、本話から本編に入ります。

本篇からは、1週間あたり3話(火木土)を目標に投稿していく予定です。


作者からのお願い:

このたびは、本小説をお読みいただきありがとうございます。

また、ご紹介する方法がない中で、この作品を見つけて頂いた事を大変感謝しております。

皆さんにたくさん読んでいただきましても、システムには反映されておらず、ブックマークと、評価ポイントの★の数のみがランキングポイントとして計算されています。

少しでも多くの方にお読みいただきたいので、ご登録にご協力いただけますと作者の励みになります。 何卒お願い申し上げます。


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