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ルネサンスの女神様 - ねえ、電気つけてよ!  作者: 亜之丸
黄金色のプロミネンス
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1-2 宇宙天気予報

序章では、破滅に向かう暗い表現が続きます。

これは破滅からの復興(ポストアポカリプス)の為に必要な章となりますので、その手の話が苦手な方はご注意ください。

 一般的にはあまり知られていないが、幾つかの国の宇宙観測施設からは、宇宙天気予報というものが毎日出されている。

 世界各国と協力して国際協力事業を行っている情報通信研究機構、通称NICTから、日本でも宇宙天気予報がだされている。


 フレアと呼ばれる太陽表面の爆発により、紅炎(プロミネンス)が宇宙空間にまで噴き出す現象は、小さい物であれば常に観測されるような一般的な太陽活動である。

 しかし今回、各国の天文台においてこれまで観測されたことがない太陽活動が観測されていた。


 太陽の表面に白いまだら模様として、温度が高い部分が観測される事は有るのだが、今回観測されたのは、金色に輝くスポットであった。

 各天文台が注目している最中、その金色のスポット、特異点から、突然巨大なプロミネンスが宇宙に向けて吹きあがったのだ。

 しかも、通常の燃え盛る赤い炎ではなく、それはスポットと同じ金色をしたプロミネンスであった。


 太陽と地球は近いので、太陽で何か発生すると小さな天体望遠鏡であっても同時に観測することができる。

 光と電波の到達時間は同じであるので、巨大なパラボラアンテナを使った電波望遠鏡でも、小さな望遠鏡であっても、それが観測できるタイミングに変わりはない。


 しかし、太陽と地球の距離が近いとは言っても、光の速度ですら8分以上かかる。

 ちなみに太陽と地球の平均距離は1億4960万kmであるが、それが近いか遠いかは何とも言えない。


 その太陽から生まれた金色に輝く炎は、肉眼でも地球から観測され、時折見せる梅雨の間の晴れ間には、日食観測用の太陽眼鏡などで見ることが出来た。

 太陽の大きさすら超えるような金色の巨大な炎は、吹き上がり始めから丸一日続き、やがて宇宙空間に消えていった。

 溜まっていたものが吹き出した太陽のポイントには、冷えたように黒い点がポツンと残っていた。

 吹き出したプロミネンスの高さと継続時間から、従来の太陽風の規模では収まらず、遥かに規模が大きい太陽嵐が来ると予想された。



 地球から観測された光や電波などの電磁波に比べ、質量がある粒子を伴う太陽嵐は少し遅れて飛散してくる。

 今回観測された巨大太陽フレアの太陽嵐であるが、発生から3.8日ほどで地球の公転軌道を通り過ぎると予想されていた。


 地球表面からの観測では空気の層が邪魔をするため、以前から太陽活動の観測は、地表を離れた宇宙空間からも観測が行われていた。

 その太陽活動の観測のためには、常に太陽の方向を向いた人工衛星を宇宙空間に静止させて行う必要がある。


 実は、常に太陽を向く人工衛星を固定できるポイントといえる場所が宇宙空間には存在し、そこは太陽と地球の引力がちょうど釣り合った場所であり、そこは地球から太陽に向かって150万km程の距離を進んだ場所に有る。

 そこは、ラグランジュポイントと呼ばれ、2つの星の引力がちょうど釣り合うポイントである。

 その空間に観測衛星を配置することで、釣り合った2つの引力で衛星はそこに固定され、宇宙空間から太陽フレアやプロトン現象など太陽活動の観測を行っている。


 地球から150万kmも離れたラグランジュポイントであるが、太陽と地球の距離である1億4960万kmから見ると、それは極めて地球に近い距離であり、如何に太陽の引力が強いかを物語っている。

 ちなみに、ラグランジュポイントを通り過ぎた太陽風は、そこから1時間程で地球を通過していく。


 今回の太陽フレアは、その観測から、今までの太陽風をはるかに超えた、強力なエネルギー嵐が発生したと予想されている。

 公転軌道によって、その金色の龍が残した尾の中に、地球は約5日後には否応なく突っ込んでいくと計算されていた。


 その為、宇宙嵐到来の警報が、宇宙天気予報として全世界に発せられたのであった。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 突然であるが、カナリア諸島ってご存じだろうか?

 カナリア諸島の詳しい場所は知らなくとも、大滝詠一と言う歌手の歌でカナリア諸島と言うタイトルは聞いた事が有るかもしれない。

 また、カナリアっていうと、鳥しか思い浮かばない人もいるだろう。

 でも、その鳥のカナリアの名前は、原産地であるここ、カナリア諸島からきているのだ。



 地図でアフリカ大陸の形を思い浮かべて欲しい。

 アフリカ大陸はその北側、地図で言うと大陸の上側が、西に、そう左側が大きく膨らんだように突き出した形をしている。

 その北大西洋に向かって西側に大きく膨らんだ沖合 数百キロの場所に、点々と小さな島がいくつか見つけられる。

 それらアフリカ大陸の沖合に、7つの島で構成された場所がカナリア諸島である。


 アフリカ大陸の沖合に位置するが、そこはヨーロッパに程近く、かつての大航海時代にはスペインの海洋基地として使用されていたため、今でもこの島はスペイン領である。

 カナリア諸島は7つの島で構成されているが、大陸から一番離れる大西洋側に、南北に並んだ北側に位置する島。 北大西洋の海しかない場所にラ・パルマ島はある。



 この島の山頂にあるロス・ムーチョス天文台は、ここ数日でにわかに慌ただしくなっていた。

 それは世界の天文台を結ぶネットワークに流れた情報によって始まった。


 その情報によると、これまで観測されたことが無い規模の太陽活動が観測されたとの報告である。

 その現象は可視光や電磁波としてはすでに世界の天文台に認識され、連絡を受けずとも、この天文台でも同様に観測されていた。


 世界中の天文台は大騒ぎになっているのだが、ここロス・ムーチョス天文台は特別な意味で世界の注目を集めていた。

 ここには太陽観測用の超高分解能の光学望遠鏡や宇宙から飛来するガンマ線を観測する|チェレンコフ・テレスコープ・アレイ《CTA》などの特殊な電波望遠鏡を有する為でもあるが、今回に関してはもっと重要な事が有った。


 それは、今回の太陽嵐が地球に到達する時間に、この島が太陽に対してほぼ正面を向くことになる事だ。


 地球上の北回帰線に近い場所では、夏至である頃に、太陽がほぼ天頂を通過する。

 ただ国の時刻というのは、その国が独自に定めた標準時刻が用いられている。

 太陽の角度とは時間差が生まれるため、12時ちょうどに太陽が真南に来るとは限らない。


 スペイン領であるカナリア諸島の時刻は、太陽の経度が示す時刻よりも1時間程ヨーロッパ寄りにずれた標準時刻を採用している。

 さらに、スペイン本国と同様に、ここでも夏時間が採用しているために、さらに1時間のずれが出ている。

 

 今回太陽風がこの島に到達すると計算されている時間は、現地時間で午後2時である。


 北回帰線に近いこの島では、夏至を迎える午後2時に太陽が天頂付近を通過し、それは太陽風の到着予想時間である。

 球体である地球の先端として、太陽を天の真ん中付近に捉え、地球で一番最初に太陽風を受ける事となる。

 さらに、世界最高水準の太陽観測装置が揃っている天文台であるからこそ、世界各地から注目を集め、ここに多くの観測学者が集まって来ていた。


 普段はひっそりとした山の上の天文施設は、ちょっとした人口過密状態になっていた。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 ところで、地表をはるかに離れ、地球の上空の成層圏をも超え、地球が丸く見える高高度から地球を監視している装置、地球観測ボールの存在があった。

 これは昔、カノ国が出来たころに飛ばした事が始まりであり、カノ国では地球観測ボールにより、今も宇宙から地球を捉え続けていた。


 カノ国の初代代表である国王により作られた初期の地球観測ボールは、摩導技術の他に、その当時の地球の電子技術を取り入れて作られていた。

 地球観測ボールは宇宙空間で長年の観測を行ってきたため、宇宙線にさらされ続けた初期の観測ボールは、搭載されていた電子カメラが壊れてしまっていた。


 その中の1個の初代観測ボールは、常に太陽の反対側に位置するような軌道を飛行しており、夜の地球を宇宙空間から観察し続けていた。

 地球の影から出ないことで、ボールに照射される太陽風の影響が最小限であったこともあり、初号機シリーズとして唯一故障せずに無事に残った観測ボールである。


 その観測ボールから送られてくる夜の映像を見ると、地球表面に薄く広がる大気により、反対側にある太陽からの光が薄明るく、地球外周に沿って丸く輝いて見えていた。

 暗い夜間の地表の映像ではあるが、陸地が見えてくると、そこには都市が発する夜間光で陸地すらぼんやりと形どって見えていた。



 ロス・ムーチョス天文台が天頂に太陽を捉えたころ、地球の反対側にあたるカノ島は真夜中の0時を迎えていた。

 地球が太陽風の流れに近づくと、それまで夜の映像しか映したことがない観測ボールの画像にも、変化が現れはじめた。


 太陽風の流れの中に突入すると、地球を取り囲んでいた薄いリング状の光は徐々に強くなり、やがてそれは地球の周りに揺らめく眩い光の金冠となった。

 しばらくすると、金冠は大きくなり、観測衛星の画面周囲までもが明るくなり始めた。

 これは、太陽風の先端が観測ボール周辺までも通り過ぎて、さらに遠くへ流れ去ったことを示している。


 地球は球形であるため、太陽風の流れは地球の重力で地球表面に纏わりつきはじめ、ほどなくして地球の裏側のすべてにまで達し、地球を完全に覆いつくすことになった。

 少しの間は地球が正面の盾となることで、観測ボールは直接太陽風の流れには巻き込まれなかった、


 観測ボールは、あと一時間ほどでオーストラリア上空に達する位置に達し、地球を見守っていた。

 故郷であるカノ島をカメラのフレームの端に映し出されたころ、カメラのフレームは周辺から金色に埋まり始め、ついに観測ボールも太陽嵐に飲み込まれ、映像は金色の光に飲み込まれた。

 初代が作り地球を観測し続けた観測ボールからの映像は、最後に金色に眩く輝くと、一気に画面は反転し、真っ暗にブラックアウトした。

 その日、地球観測ボールはその永き仕事を終える事となった。

 この部分を書いていたのは2021年4月くらいなんだけど、公開する直前の9月、設定のカナリア諸島のラ・パルマ島がいきなり噴火しちゃいました。

 驚きましたが、いきなり有名になっちゃいました。 そんなことってある?




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