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ルネサンスの女神様 - ねえ、電気つけてよ!  作者: 亜之丸
黄金色のプロミネンス
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1-1 はじまりの日

 6月のとある日、うす暗い梅雨空の下、渋谷にも少しうっとうしい雨が降っていた。

 そんな雨の中であっても、駅前のスクランブル交差点は、今日も多くの人であふれていた。


 薄暗い空をも忘れさせるように、周囲の大型LEDビジョンには、華やかな映像が流れ、色鮮やかな光の洪水で街はあふれていた。

 しかし多くの若者は、そのようなにぎやかな街の喧騒には一切目もくれず、スマートフォンを眺めながら信号待ちをしていた。



 時を同じくして、地球の各地に存在している 宇宙を観測する為の薄暗い施設の部屋の中では、高速演算処理中であるPCの冷却ファンがうるさい音をたてており、ディスプレイに次々と流れる数値を、研究員は乾いた眼で追い続けていた。


 前日から観測され始めたその現象は、急激に変化している太陽の特異な活動。

 金色の大きな炎を噴き上げる太陽、その放たれた巨大なプロミネンスは、地球からでも容易に観測できる大きさであった。

 太陽から吹き上げられた黄金色のプロミネンスは、24時間ほど噴き出し続けた後、噴出の勢いは急速に収まって行った。

 それは、(こうべ)(もた)げた金色の龍が、太陽から昇るようにすら見えた。

 そして、その金色の龍は、何日もの時間をかけて太陽系を走り抜け、やがては銀河の宇宙空間へと消えてゆくものと予想されていた。


 その太陽から噴きあがったプロミネンスには、未知なるエネルギーが大量に含まれており、それは強力な太陽風として、4日後には地球が回る軌道を超えていくと予想されていた。

 地球は太陽風の直撃こそ免れたが、それは一番エネルギーが強い先端を躱しただけであり、太陽風が通り抜けた後にも、まだ尾が残されていた。

 公転軌道により、地球がその高エネルギーが残した尾の中に突入することは避けられない事であり、それは時間の問題であった。


 これまで観測されたことがない太陽活動に伴う太陽風であるため、それが地球にどのような影響を与えるかわからない。


 しかし、今回発生したプロミネンスが黄金色の特異な物であった事もあり、テレビのローカルニュースでは面白く取り上げられ、その映像では小学校で行われた太陽観測会の様子などが紹介されていた。



 ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇



 マリエは、高校時代の友人である遠藤奈々子の紹介により、その奈々子の父が経営する遠藤建築都市計画事務所でアルバイトをしていた。

 遠藤は建築士であり、今マリエはその遠藤所長と共にタクシーに乗り、クライアント先を訪ねている途中であった。

 タクシーでの移動中、あちこちで太陽めがねをかけて、太陽を見上げる小学生達を見かける事が有った。



 マリエは16歳になった時、カノ国からの留学生として日本の高校に転校してきた。

 カノ国は比較的新しい国であり、日本とは友好条約を結んでいる太平洋上に浮かぶ小さな島国である。

 日本人であった初代国王を筆頭に、建国の際は日本からの移民を中心として誕生した国家であり、その為に公用語としては日本語を母国語としている。

 その建国からは4世代ほどが経過し、年配の日本人の中にはカノ国という名前くらいは憶えている人もいるが、ほとんどの日本人の記憶からは、カノ国の事などは忘れ去られていた。


 そんなカノ国人であるマリエは、1年生の夏休み明けに、奈々子がいる高校に転入してきた。


 日本に来たマリエにとって、学校と呼ばれる集団による生活の場を初めて経験することになり、日本的な人との付き合い方には、まだ慣れていなかったのかもしれない。

 夏休み後に転入という、クラスでの友人関係が既に出来てしまった後の事もあり、転校後しばらく経ってもクラスの生徒とはすこし距離感があった。


 マリエの風貌は、日本人離れをしたすこし華やかな顔立ちであり、そこが大人びた感じに映り、周りの高校生から浮いたように成っていた。

 実際、彼女は日本人以外の血を1/8受け継いだ 所謂エイス(eighth)、ワン・エイトであり、異国のオーラのような雰囲気を(うかが)わせるのはその為かもしれない。

 残りの7/8は日本人の血を受け継いでいるマリエであるが、彼女は黒髪ではなく栗色の髪色をしていた。

 曾祖母が金髪であったため、その影響が出ているのかもしれない。


 カノ国人である彼女の正式な氏名はMarie(マリー) Cardacia(カルダシア)であるが、日本で活動する際は和名として駆田(かるだ)マリエと名乗り、マリエと呼ばれている。

 その彼女の腕には金色のバングルが付けられているが、これはおしゃれなアクセサリーではない。

 派手なアクセサリーは高校で禁止されているが、これはカノ国人が必ず身に付けていなければならない物であり、カノ国大使館を通じた申し出により、学校側からの許可は得ている。


 そんな彼女に、クラス内で積極的に話しかけてきたのが遠藤奈々子であった。


 マリエは東京にあるカノ国の施設に住んでおり、学校生活以外に一般社会でアルバイトをしたがっている事を知った。

 現在彼女は国の施設に住んでいるため、生活費は心配ないようであるが、日本をもっと知りたい事と、彼女が将来やってみたい事を探したいと言う事で、少しお小遣いも稼げるアルバイトをしてみたいと話してくれた。


 そして奈々子の紹介で、マリエは高校時代から奈々子の父の会社である、遠藤建築都市計画事務所でアルバイトをしていた。


 二人は高校を卒業後、奈々子は大学の建築学部に入学し、将来女性設計士を目指していった。

 マリエは、当初卒業後にカノ国に帰国しようかと迷っていたため、日本で大学へ進学することは全く考えていなかった。

 事務所の仕事を見ていて、その仕事に興味がでてきたため、卒業後の18歳になった今でも、遠藤建築都市計画事務所でアルバイトをまだ継続していた。

 建築と言うよりも、所長の仕事内容に興味があったが、相変わらず建築士など資格については興味がない彼女であった。


 その遠藤建築都市計画事務所はその名前の通り、家やビルの建築設計事務所とは異なり、都市計画による街全体の計画や設計を行う街づくりの設計事務所であった。

 所長は、いくつものデベロッパーやゼネコンに対して都市計画のプレゼンテーションを行ったり、現在進行中の大規模プロジェクトに対して、アドバイスやコンサルタントを行っていた。


 同い年の娘を持つ所長はマリエの事を殊更気に入っており、当時はまだ高校生であったが、あちこちのプレゼンテーションに、秘書のごとくマリエを連れ歩いていた。

 所長に付いて客先で行動するために、学生時代からスーツを着こなして働くマリエは、事務所の若い男性からも人気があった。


 気が回るマリエは、所長の行動や思考を常に理解しており、所長からは事前に詳しく聞かずとも、プレゼン先で必要となりそうな資料をそろえ、それが必要なタイミングで所長に提示した。

 時には所長の耳元でささやくことで、所長にとって、無くてはならないサポートの存在となっていた。

 所長を影から支えるマリエの姿は、クライアントからの評価も高いものであった。


 所長はマリエにアルバイトではなく、このまま社員として働かないかと何度も声を掛けているのだが、彼女は腕のバングルを眺めながら国に帰る事も考えているので、と 話は常に流していた。

作者からのお願い:

このたびは、本小説をお読みいただきありがとうございます。

また、この作品を見つけて頂いた事を大変感謝しております。

皆さんにたくさん読んでいただきましても、システムには反映されておらず、ブックマークと、評価ポイントの★の数のみがランキングポイントとして計算されています。

少しでも多くの方にお読みいただきたいので、ご登録にご協力いただけますと作者の励みになります。 何卒お願い申し上げます。

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