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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 15 嫌いじゃなかったですよ

「どうして……どうしてこの街にあなたがいる。の」

声が震える。脚が震える。身体全体が怒りに打ち震えて、どうにかなってしまいそうだった。まるで、全身の血が煮えたぎるようだ。

「どうしてって、僕はこの街で医者をしているだけだが?

この間は面白そうな研究対象がいたからたまたまあそこにいただけさ」

あまりにも真顔で、それが当たり前のことであるかのように言い放つ。


「それで?僕に何の用かな、言っておくけど君たちに用はないんだよ。用があるのは君たち吸血鬼じゃない」

「あの……私、違いますけど」

「真魚ちゃん、その人に近づいちゃ……!」

「ああ、もしかして君が六月真魚か。隣の大海原町に住居を移したと聞いているけど、まさかここに帰ってきたのかな?」

「帰ってきたとかではないです、ただ、そうですね。間宮先生なら私のこと知ってるかと思って」


「ああ、そうか」

間宮先生と呼ばれた女の人は、何か合点がいった様子で真魚ちゃんの方を見た。

その目は、何故か優しさに満ちた表情をしていて、わたしはその目にどこか恐怖を覚えた。

「いやぁ、その様子だと実験は成功したみたいだね」

「実験……ですか?」

「ああ、亜人の遺伝子を生まれてくる子供に埋め込む実験さ!君はまだ人間のようだけど、いずれその遺伝子が強く出て人間ではなくなる!」

「…………!」

なんで、さっきあの目線に恐怖を覚えたのか、わかってしまった。

あれは成功した実験動物を見る目線だったんだ。


「母体には悪いことをしたけどね、でも君は無事にその歳まで育ってくれたようで何よりだ」

「じゃあ……お母さんが亡くなったのって……!」

「僕の実験のせいだとも言いたいの?でももう遅いよ。だってこの街自体が最早僕にとっての実験場みたいなものなんだからさ」

「この街が亜人だらけの街になっていること……そしてやけに住民が少ないのも、あなたによる仕業ということでいいのね?」

「人類のための実験なのに酷いこと言うなぁ。でも結果としてはそうだよ?僕は医者だからね。治療として色々埋め込んだりしたのさ」


理解が出来なかった。もう、知らない国の言葉で喋っていると言われた方が、しっくり来るくらいに彼女は理解の外にいた。

そして、その口調、表情、仕草からわかったことがある。

この人は意図的に人の怒りを煽るようにしているんだ。

声を聞くだけで、仕草を見るだけで、全身が煮えたぎるように怒りに支配されそうになる。

もちろん、わたしにとってこの人が「柚葉ちゃんの仇」なのも大きいんだと思う。だとしても、わたしはもう怒りを抑えきれそうになかった。


「そん、な……」

「そんな裏切られたみたいな顔をしないでくれ、僕が君を裏切ったんじゃなくて、君が僕のことを何も知らなかっただけだよ?」

「違う、違う……だって先生は重い病気の時もちゃんと私のこと見てくれて……」

「六月さん!あの女の言葉を聞いてはダメよ!」

「だって……あの人のこと……先生のこと信じてたのに……」

真魚ちゃんら呆然と立ち竦み、ぱくぱくと口を動かしながら天を仰いでいた。

本当に、本当にひどいことが起きているんだと思った。


少し冷静になって、ひとつだけ気付いたことがある。

リリスさんが、さっきから一言も喋っていない。

ふと、リリスさんの方を見ると、彼女は俯いたまま黙っていた。

あのお喋りなリリスさんが、だ。

「あの、リリスさん……?さっきからどうした、の……?」

少し近くまで寄ると、何かギリギリという聞き慣れない音が聞こえた。

……少し経ってわかった。これは。

歯ぎしりだ。凄まじい歯ぎしりの音がしているんだ。 

「…芽衣さん」

「?」

「絶対に避けてくださいね」


その合図と共に、巨大で真っ赤な槍が白衣の医者に向けて放たれる。

避けようとしたけど、わたしの方にも少しだけ掠ってしまうほどの速さだった。

近くの家の壁を抉り取り、響く爆音。

あんなのに当たってたら、再生も間に合わないかもしれない。

「まさかこんなところで会えるとは思いませんでしたよ、間宮柘榴さん。出来れば近づきたくもありませんでしたが、こうなってしまったらもう殺すしかありませんね」

こっちまで背筋か凍るほどの冷たい声。

「あら、もう聞こえていませんか?あの速度で投げたんですもの。無事なはずがありません」


「酷いことするじゃないか、吸血鬼さん……」

けど、土煙が晴れた先には、槍が身体に突き刺さりながらも平気で立っている白衣の医者の姿があった。

「肉体改造をしていてね。このくらいの傷ならすぐ治るのさ。君たち吸血鬼の性質のおかげでね」

「……化け物」

「なんとでも言うがいいさ。何せ僕は異端扱いされるのには慣れてるからね」

「本当に、皮肉も何も通じない方ですね。気持ちの悪い神経をしているものです」


「ふぅ……面倒なのに絡まれちゃったし、僕はしばらくまた別の街にでも行こうかな」

「……待ちなさい!!待て!!逃げるなっっっ!!!!!」

リリスさんの叫びもむなしく、白衣の医者……間宮柘榴は瞬く間にどこかに消えていった。


「……行っちゃいましたね」

「真魚ちゃん……」

「とにかく、これで全部わかったんです。私がどうやって生まれてきたのか。何でこんなことになってるのかも」

彼女は、どこか、吹っ切れたような表情をしていた。

「ここまで付き合ってくれて、本当にありがとうございました」


「咲坂さん。私はあなたみたいな人は、嫌いじゃなかったですよ」

そう言って、彼女は持っていた荷物からハサミを取り出した。

「……っ!」

そして、それを自分の頭に近づけた。

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