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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 8 合格も失格もないでしょう

「お父さん、来たよ」

「ああ……ありがとう真魚。そこの人達は真魚のお友達かい?」

真魚ちゃんに向けて笑いかける、どこか穏やかそうな雰囲気の、眼鏡をかけた男の人。この人が、真魚ちゃんのお父さんなんだ。

「うん……最近、ちょっとだけ仲良くなったんだ」

「そうか、良かった。最近はあんまり学校にも行けてないって聞いたから、心配で。それにしても……見た事ない顔だが……」

「私たちは観光客です。たまたま出会って娘さんと意気投合しまして」

「おお……しかも見たところ外国の人みたいだ。真魚にこんなお友達がいたなんてなぁ。いやぁ、本当に嬉しい」

リリスさんの対応に、嬉しそうな顔を見せる真魚ちゃんのお父さん。


「真魚は昔から友達が少なくてね、元々人と関わるのが苦手だったみたいなんだ。

外に出て遊ぶっていうよりは、本を読むのが好きな子でね。それが原因で、付き合いが悪いだとか、何とか言われてしまったらしくて」

「年頃の女性は、色々とそういうことはあるでしょうね。人と違う人間は、大体排斥されるものです」

「はは……排斥って程じゃあないと思うんだけど、色々とトラブルもあったらしいんだ。私には真魚の気持ちを完全にわかってやれることは出来ないから、それがきっかけでちょっと家族の仲もギクシャクしちゃってね」

片親……しかも異性の親ともなれば、コミュニケーションを取るのも難しい、ってどこかのドラマで見たような覚えがある。きっとそれは、真魚ちゃんたちの家でも同じようなことだったんだと思う。

「おかげで必要以上に頑張り過ぎちゃって、この様さ。真魚にはもっと迷惑をかけた。私は父親失格なのかもしれないな」


「……親に合格も失格もないでしょう」

ゆっくりと、リアさんが沈黙を破った。

「親というものの役割は、そこに存在しているというだけでも価値はあるわ。良い親と悪い親はいるかもしれないけれど、そこにいるという意味だけでも見出すべきよ」

そこにいるという、意味。

「…あら、リア。珍しいですねそんなことを言うなんて」

「別に。親という存在やシステムに少し憧れがあっただけよ。私たちに親なんてものはいないのだから」

そういえば、吸血鬼ってどうやって生まれてくるものなんだろう……。後で、聞いてみようかな。


「なんだか、変わったことを言う人たちだね」

「そうかなぁ……でも、皆いい人ですよ」

少しずれた答えかな、とも思っていたけど、流石に吸血鬼って言うわけにはいかなかった。

「いい人……かぁ。そうなのかな。そうだ、お父さんが好きだって言ってた本、持ってきたよ」

「おお…ありがとう。ずっと読みたいと思ってたんだ。覚えててくれたんだね」

「本屋さんで見てたまたま思い出したっていうだけだよ。だから、ほんとにたまたま見つけただけ」

「たまたまでも嬉しいのは嬉しいさ。本当にありがとね」


「……わたくしたちはいったん退散いたしましょう。家族水いらずの場に邪魔者は要りません」

「そうだね。二人でお話させてあげよう」

わたしたちは、そっとこっそり病室を出た。

「そうだ、さっきリアさん。吸血鬼には親がいない、って言ってたけど……どういうことなの?」

「私たち吸血鬼の本体は血だから、人のように親から生まれてくるわけではないのよ」

もっと、わたしたち人間と同じような存在なのかと思っていた。そこに、ちょっとだけショックを覚える。

「血の塊が人の形を取った存在。それが吸血鬼よ。多くの血を流して死んだ者が、未練によって蘇ったと言われているけれど……私には全く記憶がないわ。気づいたら生まれていただけ」

「…わかってたけど、本当に人間とは違う存在なんだね」

「人の血から生まれているから、人とは近いけれどね。でも、生まれた時の私は蜘蛛のような形をしていたわ」


思わぬところで聞いてしまった、吸血鬼のルーツ。

なんだか、リアさんの存在が少し遠いものになってしまったように感じる。

「わたくしは実は違うのですよね。これは久々に話すことなので記憶が定かじゃないのですが、どちらかといえば芽衣さんに近い存在なんです」

「近い存在っていうと、元々人間だったとか?」

「その通りです。と言っても人間だった時どんな姿だったのかすらもう記憶がないですけれどね。小さな子供だったということくらいしか覚えてないです」

「そうね。リリスは元々半吸血鬼よ。…言っていなかったかしら」

「初めて聞いたよ……」

なんてことを話していると、病室の方から真魚ちゃんが駆け寄ってくる。何か迷いが晴れたような、すっきりとした顔をしていた。


「あの、どんな話してたんですか?」

「わたしたち?まあ……大した話はしてないよ」

真魚ちゃんが聞いても、別に面白い話じゃないだろうからなぁ……。

「そ、そうですか……あ、なんかリア?さんでいいんでしょうかなんか愛称っぽいですしほんとの名前聞いてないし……から言った話聞いて、お父さん元気出た、って言ってました」

「私の名前ならカメリアだけれど、別にリアでいいわ。そう、別に元気づけたくて言ったわけではないのだけど、そうなら良かったわね」

「……ああ、はい」

ふと、真魚ちゃんの顔をもう一度見る。前髪から、前よりははっきりと目が覗いていた。


「真魚ちゃんって、すっごいその…綺麗な目してるよね」

まるできれいな海をそのまま覗いたような、美しい目。見ただけで吸い込まれてしまいそうなほどの魅力があった。

「えっあ、そういうのなら私趣味じゃないんでダメですよ」

「そ、そうじゃなくって!」

「確かにすごくきれいな目ですね。わたくしでも素直に認めるほどの美しさです。…一体どうしてその目を隠しているんですか?勿体ない」

リリスさんが真魚ちゃんの顔を覗き込むように、その瞳を見る。リリスさんも綺麗な人だから、真魚ちゃんは顔を赤くして必死に目を逸らしていた。

「あの……私実はいじめられていたんです。だから、人の目を見るのが嫌で……」


「真魚ちゃん、もしかしてその目を閉じた理由っていうのは……」

「はい、そうですよ。目を閉じた原因はくだらないイジメです」

イジメ。わたしの周りでも、まったく馴染みのない言葉というわけではなかった。でも、よほど人の目を見たくない理由としては、納得がいく。


「では、改めて。聞いてくれますか?」

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