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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 7 目の前の幸せなこと

「真魚ちゃんって、お父さんとお母さんはどんな人なの?」

それを聞いた真魚ちゃんが、ゆっくりと口を開く。

「お父さんはとっても優しい人ですよ。ただ、色々大変だったみたいで、身体壊して去年からずっと入院中です」

「……そんなに大変なことになっているの?」

「それにしても去年からとは長い気がしますけれどね。そこまで重症なんですか?」

「はい。せめて私を大学には通わせたいと言っていて……でもその分頑張って働きすぎて入院です。嫌ですよねこんな風に真面目な人が損するの……」

前髪越しからも、どこか恨めしいような目でどこかを見つめているのが見えた、きっとこの言葉は、本心だ。


「……家族想いなんだね、真魚ちゃん」

「親孝行も何もできてませんけどね。こんな風にここで言ってたって、何も解決しませんし」

「母親はいるの?」

「いません。私を産んだ後に亡くなりました。無理のある出産だったらしくて、私も全然詳しくないんですけど」

真魚ちゃんのお父さんは、男手一人で真魚ちゃんを育てていたということなんだろう。わたしもほぼ葉月ちゃんとの二人暮らしだったけれど、葉月ちゃんの様子を見ているだけでも家事が大変そうなのは理解できたし、

それに加えてお仕事もしなくてはいけないのは、確かに大変そうだ。きっと、自分の時間なんてほとんどなかったはずだとも思う。


「……そうだ。今からお父さんのお見舞い行くんですけど、一緒にどうですか?」

「…いいの?でも大勢で押し掛けたらびっくりするんじゃ……」

「構わないですよ。でも喜んでくれると思います。私友達いないから、確かにビックリはすると思いますけど」

「……調べ物ばかりなのも疲れますからね。それにあなたの家族にも会ってみたいです」

「随分と私たちを信用してくれたみたいね。てっきりそういうところに行くのは断られるかと思っていたのだけど」

「これだけ動いてくれてるなら信用はしますよ。変な人達だとは思ってますけどね」

「そ、そんなに変かなぁ……?」

少しずつ、心を開いていってくれているみたいで、とても良かった。変って言われるのは、あんまり納得いかないけど……。


更に歩いて、真魚ちゃんの案内で病院を目指す。

暑さにも段々慣れてきたのか、それとも少し気温が下がってきたのか、そこまで辛い暑さには感じない。

「待合室……冷房は効いているかしら」

「待合室で熱中症になられても患者が増えますから効いてるんじゃないですか、それにしてもあなたは今日そればかりですね」

「吸血鬼を真昼間にこれだけ歩かせる方がおかしいのよ。……いや、この暑さで出歩いている人間もおかしいわ」

リアさんは相変わらずの様子。でも、この気温なら確かにそれは心配かも。


「ここです」

軽く話をしながら歩いていると、思ったよりすぐにコンクリートで出来た大きな建物が見える。

「大きい病院だね」

「この町に病院はひとつしかないですから、大きいのも無理はないです。小さな診療所みたいなところならあるんですけど、でも基本はちゃんとした病院ですね」

少し古そうな印象だけど、神楽坂町の病院より、大きそうだ。

「私のお父さんはここに入院してます。あんまり騒がなければ……たぶん咲坂さんたちは大丈夫だと思いますけど」

「そうですね。わたくしたちはそのようなマナーくらいは守れますから」


そのまま待合室まで行くと、そこにはたくさんの患者さんがいた。すごく混んでるけど、今ってそういう時期だったかな…?

「あー……人多い……」

真魚ちゃんはというと……わたしの後ろに隠れるようにして、ガタガタと震えている。

「真魚ちゃんどうしたの……!?」

「あの……人混み……怖くて……」

「真魚ちゃんが先に行かないとお見舞い行けないよ……!」

うーん……どうしよう……まさか、真魚ちゃんが人混みがここまで苦手だとは思わなかった。


「わたくしが先に行って受付まで頼んできます」

流石リリスさん……!こういう時すごく頼りになる!

「六月さんのご友人と言えば通るでしょう。……そうですね。お父様のフルネームだけ教えてくださいますか?」

「あ、はい。渉です。六月渉。さんずいへんに歩く、の字ですね、ではその……お願いします」

何とかなったと、なんとか胸を撫で下ろす。それにしても……

「真魚ちゃんって、人混み苦手なの?どうして?」

「人の視線が怖いから……人に顔見られたくないんです。咲坂さんは怖くないんですか?」

「わたしは…そんなことないかなぁ……。でも、真魚ちゃんがすっごい苦手そうだなっていうのはわかったよ」

どちらかといえば、わたしは一人で過ごすことの方が好きだけれど。


「何というか……幸せそう、ですよね。咲坂さんって」

「え?そんなことないと思うけど……」

「はい、なんか……周りに恵まれていそうっていうか。すごい羨ましいです。正直。だから……手を差し伸べようとしてきたときは、そんな人が私の気持ちなんてわかるか、って思ってました」

何か気配がして横を見ると、そこから見ていたリアさんの視線が、不意に鋭く厳しいものになっていることに気づいた。

人が幸せかどうかだなんて、他人から見てそうわかるものじゃない。

昔、お父さんがわたしに言ってくれたことだ。


『だからね、それを理由に人を妬んだり、簡単に同情したりしたら良くないよ。その人にはその人の、苦労もあるし幸せなことだってあるんだ』

『お父さんにも、大変なことってあるの?』

『そりゃあ、僕にだってあるよ。……でも、それと同じか、それ以上に幸せなことがあるからね。芽衣ももし辛いことがあったら、目の前の幸せなことの方を見てね。そしたら、頑張れるはずだよ』

それからすぐに、お仕事で一人海外に旅立って行ってしまった。その時は寂しかったけれど、今もその言葉だけは、胸に残っている。

でも真魚ちゃんは、そんなわたしを見て、さっきみたいなことを言っていたのは。

きっと、もしかして。目の前の幸せなことの1つも、見えなくなっているんじゃないか。


「……無神経ね。芽衣にだって」

「リアさん、待って」

「わたしにも何度も、辛いことや大変なことだってあったの。でも、その分、リアさんたちがいてくれたから、何とか立ち直れたんだと思う。だから、決して何も考えてないわけじゃないんだ。だから、あの、えっと……」

これ以上先は、言葉が上手く出てこなかった。

「…いいですよ。ただ、咲坂さんが無神経なだけの人じゃない、ってわかってましたから。だからお見舞いが終わったら、話しますね」


「私が、目を閉じた理由」

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