表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
89/174

第五章 6 幸せになれるといいね

「ところでさ、この街って人魚の一族が住んでるって噂、あるらしいんだよね」

わたしは、わたしたちはその言葉を聞き流さなかった。

「おうおう……何急に。どうした皆、もしかしてそんなその話気になった?」

その様子が少しだけ異様に見えたのか、寒河江さんも少しだけ驚いて目を丸くする。

「気になるも何も、わたくしたちは人魚について調べているところなのですよ」

「マジかーー。もしかして自由研究の課題とかそういう感じ?」


そう言われて、わたしたちの中に一つだけ選択肢が生まれた。

「……これ、言っておくべきでしょうか」

「ややこしくなる前に話しておくべきよ」

「わたくしもそう思います。町の人である寒河江さんであれば、あなたのその様子にも別に不審に思うことはないでしょう」

真魚ちゃんの脚のことを、誤魔化すか。誤魔化さないか。

「わたしは、言っておくべきだと思う。きっと、寒河江さんならそんな変な反応もしないと思うし……」

「私は嫌ですけど……」

「ごめんね、真魚ちゃんが嫌ならいいんだ。でも、言っておいた方が前に進むと思う」

「なんか折れそうな気配しないんでいいですよ。言います」


「あの……夏海さん。これ見てください。」

そう言って、真魚ちゃんは靴を脱ぎ、その上に穿いてある靴下も脱ぎ始めた。

「ちょいちょいどうした急に、言っとくけどお姉さんはそういうのは……あら」

明らかに魚の鱗としか思えないそれ。明らかに皮膚病の類などではないだろう。

「なるほどね。それが人魚と関係あるかも、と。まあ、お姉さん的にはちょっと飛躍しすぎかなーって思わなくもないけど、でも自分の脚がこんなんなっちゃったら怖いよねぇ」

まあ、まさか自分たちが吸血鬼だから、なんてことは言えない。流石に、それは寒河江さんだって信じてくれないだろう。

「まあ、人魚の一族って言っても。この街は昔…昔って言っても江戸時代くらい?なんだけど。人魚と呼ばれる生き物が住んでて、なんか結構人間と仲良く暮らしてたらしいんだよね。たまに食べ物とかもらってたらしい」

人魚と呼ばれる何か。もしかしたら、それは亜人の可能性もありそうだな、と思った。


「でもある時を境に人魚はピターっと現れなくなったの。何でも海に帰ったとか、海が汚くなったからこのあたりに住めなくなったとか。今は全然いないんだけど、このへん砂浜でも平気でゴミ捨てるマナーなってない奴がいてさ。私の子供の頃までそうだったの。

まあ、だからいつか人魚がここに帰ってこれるように、海岸汚さないようにしましょうって話なんだよね」

「……ありがちな話ですね」

「最終的に教訓話に帰結するところが、いかにもだわ」

2人は、露骨にがっかりした顔をしていた。せっかくの手がかりかもしれなかったのに、まさかよくある教訓話のような昔話だったとは。

「あー、がっかりしないで最後まで聞いて。でもね、昔大津波でこの街が沈みそうになった時に、人魚が協力して街を復興したって話はあるよ。これも死んだ爺ちゃんから聞いた話なんだけど」

「おじい様が存命なら、色々話も聞けたのでしょうね……」

「いや無理無理。私が子供の頃に死んでて、その時もう90近かったから。15年以上前だから生きてても話なんか聞ける状態じゃないって絶対」

そうとも限らないような気がするけれど、寒河江さんとしてはそうなんだろう。


「とにかく私からわかることはこんくらいね。あんま役に立てなくてごめんね~」

「いえ、お話を聞けただけでも嬉しいです。何かお礼は……」

「そんじゃ良い時間だし、うちのご飯食べてってよ。もちろん代金はいただくけど、その代金がお礼ってことでどう?」

「わかりました。でもいいんですか?」

「いや全然全然。むしろ久々に食べてもらえそうだからテンション上がってるくらい。メニューはそっちの看板にあるから好きなの選んでね、腕によりかけて作るよー!」


メニュー表を見ると、そこには焼きそばとかき氷が。メニュー自体はそんなに多いわけではないらしい。

「では4人分お願いしますね」

手を「4」のポーズにして、リリスさんが注文してくれた。

待っている間、少しだけ心が躍っている気がした。初めて来る場所で食べるご飯だから、なんだか未知のものに感じているんだろうか。


「あっ皆さん気をつけてくださいね……」

「?」

「ここの焼きそば、凄まじく味が濃いので、喉渇くんですよ。それとお水でもお金取るので」

「………………」

「なるほど、そういうわけですか」

「寒河江さん……」

「くそっばれたか」

なかなかちゃっかりしている人だった。


「はい4人分できたよー!気合い入れてソースいつもより濃くしちゃった!」

「えっあれ以上にするんですか……!?」

「冗談冗談」

「……この人が言うと冗談か本気かわからないわね」

砂浜に焼きそばの良い匂いが広がる。

潮風もあいまって、何だか独特な空気がその場に漂っていた。

焼きそばは……確かに真魚ちゃんの言う通り味は濃そうだけど、それでもかなり美味しそうだ。


「噂通り濃い色ね。やっぱりさっきのような理由で?」

「んーまあさっきのも三割くらいあるんだけど、私自身が結構濃いの好きなんだよね。やっぱ自分が作ってて美味しいもん出したいじゃん?」

「……喜んでもらいたいという気持ちがあるのは、理解できるわ。それに人が来なくても続ける理由もね」

「えっと……赤髪ちゃんはなんか続けたいこととかある感じ?見たところ学生さんって感じじゃなさそうだけど」

「別にあなたのように商売をしているわけではないのだけど……そうね。笑顔を見たい人はいるから」

「お?恋愛相談ならお姉さんいくらでも乗るぞ?」

「……そういうのじゃないわ。からかうようなことかしら?」

「おっと、そんだけ真剣なら余計なことしちゃったね。幸せになれるといいね」

近くでそういう話をされると……なんだかむず痒い。

寒河江さんはそれがわたしのことって気づいてないみたいだけど……

濃いはずのソースの味すら頭に入ってこないほどに、二人の会話が気になって仕方なかった。


「…こういう食事もたまには良いですね。ところで

こっそりわたくしのお皿に野菜を移さないでくださいますかリア」

「人参は苦味がきついから苦手なのよ」

「ちょいちょい、好き嫌いはダメだぞー赤髪ちゃん」

「……えっ、あの人いい歳こいてあんな好き嫌いあったんですか?」

「真魚ちゃん、たとえ何年生きてても好き嫌いっていうのはあるものなんだって」

そういえば血を移されてすぐの頃は、リアさんの味覚が映ったのか不味く感じる野菜が多くて大変だったなぁ……


全員食べ終えて、改めて会計を終えてから海の家を後にする。

結果的に、あまり良い手懸かりは見つからなかったけれど、それでも何かの亜人に繋がりそうな話は聞けたと思う。

一つだけ、聞こうと思って聞けていなかったことがあっあ。

「……そういえば、真魚ちゃんって。お父さんとお母さんはどんな人なの?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ