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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 5 悪い噂が出ちゃって

「やっと、着きましたよ……」

歩くこと一時間。わたしたちは暑さと疲れでへとへとになっていた。

吸血鬼化で身体能力は上がっているけれど、何よりも暑さで奪われる体力がなかなかに辛い。

そして、日傘をすり抜けて通ってくる陽射しが、まるで肌が焼けるように感じるほどに強いのだ。

これが吸血鬼化による影響なのか、それとも元々暑いからなのか、それはわたしにもわからなかった。


そして、

「真魚ちゃん、大丈夫……?」

真魚ちゃんはわたしたち以上に疲労困憊という様子で、日陰に腰を落として座り込んでいる始末だった。

「今日の気温、見るのを忘れていましたね……まさかここまでとは」

スマホで天気予報を確認していると、今日の気温は最高で36度という予報だった。今の時刻は11時半。下手したら一番暑い時間だ。


「おかしいですね……この国、夏は暑いとはいえここ数年はとんでもない暑さになっていましたから」

「地球温暖化の影響がすぐそこにまで迫っているわね。帰ったら冷房を入れてもらうしかないわ」

ハンカチで汗を拭いてみるけど、それでも追い付かないほど全身から汗が噴き出している。二人も相当な様子だ。


「とりあえず探してみようと思いますけど、そもそも全然人いませんね、このへん……」

ぽつぽつと人影はいるけれど、それでもかなり数が少ない。やっぱり、この暑さでは外に出るのもままならないのかもしれない。

「いったいこの国はいつからこうなってしまったのかしら……冷房……冷房……」

「何をぶつぶつと言ってるんですか。ほら行きますよ」

嫌がるリアさんを引きずるようにして、日傘を片手に持ちながらリリスさんが歩き出していく。

「真魚ちゃんも行こっか」

「あ、はい……」

こうして、真魚ちゃんのルーツ探しが再び始まった。


港の方を出て、海岸に向けて歩き始める。

もちろんまだまだ暑いけれど、潮風のおかげで少しだけマシなように思えてきた。

このくらいの暑さなら、まだまだ動けそう。

ビーチの方に向かってみると、そこは如何にも人気の多そうなビーチ。

しかし、そこは人がいっぱいいるどころか、嘘のように閑散としていた。


「珍しいわね。こういう場所は人が群がると聞いていたのだけど」

「リア、言い方。それにしても珍しいですね。こんなに人がいないとは。普段からこうなのですか?」

「いえ……流石に人はいますよ。ここまでいないのは珍しいですけど……」

やっぱり真魚ちゃんから見ても、目の前の光景は珍しいものだったらしい。

一体どうしてだろう……?


「あの、すみませーん」

「あら、見ない顔だけど、もしかして観光客?」

ビーチの近くに立っていた、この街の人らしき女の人に声をかけてみる。

長い髪を後ろでまとめた、背の高い元気そうな印象の若い女の人だ。

ちょっと緊張したけど、女の人はあっさりとわたしの方に笑いかけて、答えてくれた。

「えっと……ここって随分人が少ないですけど、いつもこのくらいなんですか?」

「いやー、そんなことはないわよ?むしろ昔は人がいっぱいいたんだけどねぇ」

「どうして、こんなに閑散としてるんですか?」

「それがね……何でもこのあたりに怪物が出るとか悪い噂が出ちゃって」

「怪物?」

「そうそう、なんか魚人?とか人面魚みたいなのを見たって。最初は怖いもの見たさでくる人もいたけど、やっぱりそんなの出るって聞いたら危ないじゃない?」

「随分本気にする人もいたものね」

「それでも悪評には変わりないのよ。それで私も商売上がったりだから困ってるの。あ、私はこのへんで海の家ってのをやってるんだけど、良かったら来ない?」

「なるほど……そういう事情だったのですね。いいでしょう。行きましょうか」


わたしたちは案内されて、海の家まで向かうことになった。

小さな机と椅子が数個、看板が建てつけられているだけの簡素なところだけれど、何だかその簡素さにも風情のようなものが感じられた。

「ほんと全然お客さんいなくてね。君たちが来たので3日ぶりだよ」

「3日……!?そんなんで商売できるんですか!?」

真魚ちゃん…そういうことはあんまり言っちゃダメなんじゃ……。

「あ、誰かと思えば六月さんとこの子じゃない。元気してる?」

「そうですね……元気といえば元気ですし元気じゃないといえば元気じゃないというか基本元気じゃないですね」

どうやらこのお姉さんは、真魚ちゃんのことをよく知っている人らしい。

「あら、その様子なら相変わらずだ。最近元気なさそうって聞いたから、ちょっと心配してたんだよ」

「お姉さん、もしかして真魚ちゃんと知り合いなんですか?」

「まあ知り合いっていうか……ここは色々人と人との結びつきが強いからね。噂なんてすぐに回ってくるよ。君たちのことも実は色々噂になってるの」

そうなの……?ちょっと恥ずかしいな。


「やたら綺麗な外国人を2人連れて歩いている女の子、だなんて。話題にならないわけじゃない」

「言われてみれば……!」

もう、すっかりリアさんにもリリスさんにも慣れてしまったけれど、今でも不意の仕草でドキっとしてしまうくらい、2人はとても綺麗な人なんだ。噂にならないわけがなかった。

「田舎ネットワーク、ほんと怖いですからね、咲坂さんも気を付けてくださいよ……」

「なんで私だけ……!?」

「あなたが一番警戒心なさそうだからですけど」

真魚ちゃんの言葉がグサリと刺さる。警戒心……ないわけじゃないんだけどなぁ。


「そーだ。名前言ってなかった。私は寒河江夏海さがえなつみ。寒い河……画数多い方ね、に。中国の長江に江と書いて寒河江、下の名前はそのまんま夏の海って書いて夏海。覚えやすいでしょ?」

聞いたことのない珍しい苗字だけど、そうやって言われてみれば確かに覚えやすいとも思った。

「そういえば、この街はやけに海や川、水に関連した名前や苗字の人が多いのね。先ほど表札がいくつか見えたけれど、そういう漢字ばかりだったわ」

「あー、そういう風習って感じ。なんでもこの街は海の神様がいるとかでね。まあ、ほとんど廃れた風習だから、このへんの爺さん婆さんの一部だけ知ってるようなもんだけどね。苗字もそういう由来でついたらしいよ。まあ私も全然詳しいことは知らないんだけど。子供の頃死んだ爺ちゃんに聞いたくらいだし」

海の神様、風習。小さな町だけれど、そういうのもあるんだな、と思って聞いていた。


「ところでさ、この街って人魚の一族が住んでるって噂、あるらしいんだよね」

ただ、その話だけは聞き流すわけにはいかなかった。


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