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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 4 好きじゃないんですよね

頭の中に、電撃が走るような感覚。

解けなかった問題が急に解けるようになったような、何かがすっと目覚めるそれを、わたしの頭の中が走っていった。

「……芽衣、どうしたの?」

「この街で……人魚の目撃情報がある!」

まだ、真魚ちゃんに関係のある何かなのかまではわからない。けれど、わたしには、何かこれが大きな解決への糸口になるのではないかと、そう思えてならなかった。

「まさか大海原町内で目撃談があったとは……こちらの書き込みは何年前のもので?」

あまりのうれしさにまだ確認していなかった。えーっと……

「結構前かな……2009年だから、10年以上前?」

「そりゃそうですよ、今の時代ネットの掲示板なんて使う人、ほとんどいませんから」

「……えっ、そうなの?」

推理小説でネットの掲示板の書き込みから真相を暴き出す話があったから、ありなんじゃないかって思ってたけど……。

「使う人はいるにはいますけど、今時の人はほとんど使わないですよ」

うーん、小説の解決法は、いまいち現実に当てはめるには足りなかったのかもしれない。そういえば、件の小説も結構出たのが前だったような……。


「目撃談が10年以上前となると、流石に少し厳しそうですね。ですが向かってみる価値自体は0ではないと思われます。可能性を完全に排除するべきではないでしょう」

「そうね。せっかく芽衣が見つけてきてくれた情報だもの、無駄にはしたくないわ」

「1人私情入ってる人がいますけど、意見そのものは賛成です。でも……えっと目撃情報ってどのあたりです?」

「港のあたりって言ってるから……うーん、港ってどこ?」

「ここから歩くと1時間はかかりますよ。流石にこの暑い中向かうのは……」

「1時間ね……そのくらいならおそらく大丈夫だわ。……芽衣」

「?」

「これを」

そう言って渡されたのは、リアさんの使っているものと同じデザインの日傘だった。

「いいの?」

「同じものがあるから。それに、あなたにも必要だと思って」

「…ありがとう」

「どういたしまして」

どうやら、いつの間にか同じ日傘を買ってきてくれていたらしい。不思議と、受け取った時に心が温かくなっていくのを感じた。


「そうだ、真魚ちゃん。案内をお願いしてもいいかな?」

「えっ、私ですか?」

「だって、道知ってるの真魚ちゃんしかいないし。それにこの街についてももうちょっと知りたいから」

「えっと、この街に移り住んでるわけではないんですよね?」

「そうだね、でもあと1週間はここにいるつもりだから、その間に知っておきたいことも多くって」

それに、真魚ちゃんが住んでいるところに、どういうものがあるのかも興味があった。

わたしは、もっと彼女のことを知りたいと、そう思っていたのだ。

「……私、あんまりこの街のこと、好きじゃないんですよね」

「?」

ただし返ってきた反応は、あまりにも予想外で。

真魚ちゃんは、俯いてこちらの顔を見ることはなかった。


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昔から変わった子だって言われてた。

いつも俯いているし、そのせいで友達は少ない。だから、本の世界に没頭することが増えていった。

別に、友達がいないこと自体はなんてことはない。

人間、最後は一人だって、誰かと繋がっていることに意味なんてないって、私はそうやって自分を納得させてきた。

放課後に話す友達はいなかったけれど、それでもそれなりに楽しかった。


変わったのは、あの脚の鱗を見られた時だった。

「気持ち悪い」「化け物みたい」「近づいたら感染る」

私でも、何でこんなものが脚に生えているかなんかわからないのに。

集団生活の中で、「変わった子」である私は真っ先に排除された。


それから、人と顔を合わせれば浴びせられるのは心ない言葉の数々。

最初は庇ってくれていた先生たちも、面倒になったのかそんなことはしなくなった。

結局、先生たちだって私の存在が許せなかったんだ。


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「そうなんだ……なんか、ごめんね?」

「別にわざわざ謝らなくたっていいですよ……案内くらいはします。でも、その後本当に解決してくれるかどうかは、正直疑ってます」

「そうでしょうね。会ったばかりの私たちをそう簡単に信用はできない。むしろ、簡単に私たちの言うことを信じるようであれば、そちらの方が不安になるくらいだったわ」

しかも冷静に考えれば、わたしたちは吸血鬼。単なる人間よりも得体のしれない存在だ。

ずっと、わたしが吸血鬼であることを隠してきたのは、あの子との関係性が壊れること、それ以上に。

"別の生き物"になってしまったその事実から、逃れようとしているための行動でもあることを。わたしは今になって気づいている。


「善意ではあるのですがね…ですが、単なる善意である方が、かえって不気味にみられることもあります。

実際、彼女に協力する意味…メリットというものがこちらにあるわけではありませんから」

わざわざ見知らぬ女の子の悩みについて、聞いてやる必要は本来ない。リリスさんはそう言っている。

ここで真魚ちゃんを見捨てられない理由も、単なる共感というか、同情というか、そういった気持ちの方が強いんだ。

もしかしたら、そういう感情はかえって彼女を傷付けるのではないかと、そういう発想も頭によぎってしまった。


「とりあえず、ここでぐだぐだ話していても何も進まないので、六月さん。案内をお願いします」

「わかりましたよ……でも町の案内とかはしませんからね。私、そんなにこのあたりに詳しいわけじゃないですし」

「うん…わかった」

言われてみれば、神楽坂町に住んでいた時のことを考えても、まだまだあのあたりには知らないことが多かったように思う。

きっと、真魚ちゃんにとっても、そんなものなのかもしれない。


「…どうしてでしょうね。助けられない人がいるっていうのが、こんなに認められないのは」

小さな声で、しかしはっきりと、そんな呟きが聞こえてきた気がした。

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