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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 2 もう他人事じゃない

街の図書館へは、30分ほど歩いた場所にあるらしい。

けれど、もう40分は歩いた気がしたのにまだ着かない。

慣れない街なのもそうだけれど、何よりもと住んでいた神楽坂町よりもずっと建物が少ないのが、道と道がとても広く感じてしまう。

それに季節は真夏。吸血鬼でなくても暑くてたまらないほどの気温だった。

今日の気温は30度以上。今年はまだまだ上がるそうだ。わたしも、そろそろ日傘を買った方がいいのかな?


「暑いねー。真魚ちゃんは……大丈夫?」

「まあ…これくらいなら。それにまだまだましな方ですよ。というか……そっちこそ日光大丈夫なんですか?」

「なんか……意外と平気みたい?普通の人よりは弱いみたいだけど」

夏の暑さくらいでも対策しないと熱中症になりやすいから、気を付けろとは言われたけれど、そのくらい。

どうやらリリスさんによると、今の一般的な吸血鬼のイメージはある程度歪んで伝わっている部分が多いらしくて、実態は思ったよりは人間に近いんだそうだ。

まあ、確かに日光ですぐ灰になったりしたら、生活なんてできなかったからなぁ……


「へぇ……なんか意外ですね。結構イメージと違うところあったりするんですか?」

「そうだね……本当に下手したら普通の人と区別つかないくらい」

「一番の違いは寿命かしらね。人間は生まれてから死ぬまで80年、長くても100年だけれど、吸血鬼はだいたい1000年は生きるわ」

「1000……!?とんでもない年数ですね」

前にも言われたけれど、本当に途方もないと思う。しかも1000年"は"ということは、別に1000年が寿命というわけではないみたいだし……

「ちなみに失礼なこと聞きますけど、そちらの赤髪さん、今何歳ですか?」

「もう正確な生まれた年代を思い出せないけれど……そうね。だいたい400年前くらいかしらね。昔はすぐに時間のわかる時計なんてなかったから、もう本当に大体よ」

「そのくらい長い時間生きてたら、確かに忘れちゃうかも……今でも忘れちゃう人、いるらしいし」


「リアが421歳、わたくしが452歳ですね。いい加減そろそろ覚えてください」

「本当にどうでもいいのよ自分の年齢なんて。100年越えたら全部誤差よ」

「それは流石に大ざっぱすぎるんじゃ……」

「芽衣もあと90年経ったらわかるわ」

ものすごいスケールの、「大人になったらわかる」みたいな話を聞いてしまった気がする……いやちょっと待って、90年……!?

「まあ、半吸血鬼でもその時点で老化は止まりますからね。吸血鬼はずっと若い容姿のまま、寿命が来ると朽ちて灰になりますから。」

そ、そうなんだ……実感が湧かないなぁ……でも、あんまり考えてるとちょっと憂鬱になりそうだからやめておこう……


「……あ、着きましたよ」

真魚ちゃんが指を指したその先には、目的の建物があった。神楽坂町にあったそれよりは小さいけれど、わたしにとっては見慣れたものだった。

「私よくここに行って勉強したりするんで。静かだし、話しかけてくる人もいませんし」

「あー……たまに勉強しに来る人もいるよね。やっぱり家にいると誘惑が多いし」

「勉強放って本読んだりしてるんですか?」

「う、うん……えっと、ノーコメントで……?」

その先はあえて答えなかった。ちなみに本当は……うん。たぶん真魚ちゃんが察している方向性だ。


建物の中に入ると、そこは木と紙の匂いが心地よい、入っている人もほとんどいない空間だった。

久々に入ってくるこの香りに、少しだけ気分が高揚する。

「なんか嬉しそうですね」

「うん……やっぱりこの匂い、気持ちいいんだよね……」

「私にはよくわからないわね」

「そうですか?わたくしは少し気持ちはわかりますけれどね。……さて、ここからは私語なしで調査に向かいましょうか」

そういや、リリスさんもよく街の図書館には行ってたんだっけ。そんなことを聞いたことがある気がする。


散り散りになって、お互いに目的の本を探しにいく。

ついつい小説のコーナーを探しに行っちゃいそうになるけれど、今は我慢。

それに、欲しいものがあったからといって図書カードがないから今は借りられないのだ。

とはいっても、見慣れないジャンルの本を探すのは、それはそれでなかなか苦労する。

真魚ちゃんの例は……確か脚に魚の鱗のようなものが生えていく、ってものだったっけ?

だとしたら、人魚の伝説かそのあたりかもしれない。


なんてことを考えながら、あれも違うこれも違うと脳内で呟いて本棚の中を見ていく。

人魚の伝説だけじゃなく、他の方向性からも見ていった方が良かったかな?

ずっと悩んでいたら、一冊のある本を見つけた。

それは、ある怪事件をまとめた雑誌だ。

ほとんど読むものが小説であるわたしは、こういうオカルト雑誌なんて見る機会はほぼ無いと言ってもいい。でも、なぜかその本が無性に目に入ってしまった。


……こういう本だったら、もしかして。

雑誌の見出しを見てみると、そこには「河童」を見たという人物にインタビューした、という記事が載っていた。

ぱらぱらっとめくってみると、どうやらその人は「手に水かきが生え、川を泳ぐ人間を見た、それはきっと河童に違いない」と話していたみたいだった。

少し前までのわたしなら、絶対にそれは一種の作り話として楽しんでいたことだろう。

でもその話は、わたしにとってはもう他人事じゃない、現実にある出来事のように感じられた。


雑誌を一旦閉じてから、リアさんの方へと向かっていく。図書館の中では走っちゃいけないけど、逸る気持ちを何とか抑えながら歩いていたからなんだか不自然なステップになってしまった。

「芽衣、何か見つけたの?」

小声で話しかけるリアさんに合わせて、わたしも小声になる。

「うん、真魚ちゃんの話とはあまり関係ないかもしれないんだけど」

「……そう、私はね」


「直接、人魚を見た、という人の話を読んだわ」

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