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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第五章 人魚はそうして目を閉じた
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第五章 1 そうして私は目を閉じた

「ねーー、あんたさぁ。ぼーっと突っ立ってないでなんか言えば?」

「暗いんだよね、あんたいると雰囲気悪くなんだよ」

違う、違う。

「だからなんか言えっつってんだよ」

「そういうところがムカつくってんの、わかんない?」

違う、違う。


「あんたなんか消えればいいのに」


そうして私は、目を閉じた。


--------------------------------


人なんて信用できない。

きっと誰もが私を嫌うから、だったら人の目なんて見なければいい。

そうして私は周りの目を避けて、生きることにした。

今、目の前にいる女の子だって、きっと私のことを嘲笑って、踏みつけて、自分が気持ちよくなるための道具にしようとしているに違いない。


彼女は私を助けようという。

しかし、目的がわからない。一体、何のためにそんなことを言うんだろう。

きっとどこかで、裏切ろうとしてるに違いない。それに、私なんか助けようとしても、それは本当に意味のないことなんだ。

私に、助ける価値なんてない。

だから話だって聞いてやらない。

そのはずだったのに。


「本、好きなの?」

その言葉に対しては、つい頷いてしまった。

その世界にだけは、私は逃避できるから。


--------------------------------


やっと、会話の糸口が見えてきた気がする。

わたしの狭くなっていた視界が、やっと開けてきた。

「えっと……どういうのが好きなの?」

「主に……ファンタジーとか……あと恋愛も好きです。嫌ですよね私みたいな根暗女が」

「えっそんなことないよ!?どんな人でも受け入れてくるのが物語なのに」

「えぇっ……あ、うん……なんか余計なこと言ってごめんなさい」

「謝らなくていいのに。あ、そうだこの間出た新刊なんだけど……」

「芽衣さん」

「へ!?」


「熱くなりすぎです」

「ごめんなさい、つい……」

久々に同じ話題を共有できそうで、ついつい舞い上がってしまったことを自覚して、顔が熱くなってしまった。

リリスさんやリアさんもたまに読んではくれるけれど、どうにも好きなジャンルが違うのか、最近はあまり話が合わないのだ。

それに不満があるっていうわけではないんだけど、やっぱりどこか寂しさを覚えていた。


だって、決別した"あの子"とは、そういう趣味まで合う友達だったんだから。

「あの……どうかしたんですか?」

「なんでもないよ!ただ、ちょっと嬉しかっただけ。わたし、あんまり趣味合う友達いなくて」

「そんな風には見えないですけどね。あとさっき舞い上がったと思ったら顔赤くしてそうなったと思ったら表情沈んでてもしかして結構情緒不安定なんですか?」

「そうかな……そうかも……」

そういえばたまに考えてることがわからないっていうのは、言われたっけ。


「なんというか、ほんと初めて会った時から思うんですけど、変わった人ですよね」

「あはは、よく言われる」

自分でも、どこが変わってるのか、そういうのはほとんどわからないんだけど……

「そっちの人……いや人じゃないや吸血鬼さんたちも、本読むの好きなんですか?」

「わたくしはそうですね。そちらの……リアはそこまででもないみたいですが」

「最近ようやく興味が持てたところよ。未だに活字には慣れないのだけどね」

リアさんにも色々おすすめしたものを読んでもらってるけれど、時々無理させてないか、って心配になる。

「大丈夫よ。最近は本を読むのも楽しみになってきているわ」

わたしの不安そうな表情を、すぐにリアさんは察してくれた。最近、見透かされたかのように、リアさんにはわたしの感情が筒抜けだ。


「六月さんはファンタジーや恋愛がお好きとのことでしたが」

「えっ……バカにするつもりですか?」

「そんなわけないじゃないですか。わたくしは好きですよ。特に痴話喧嘩で破滅する人間の話とか。人ってどうしてそう一時の感情で破滅する方向に向かうのか。わたくしには勉強になります」

リリスさん……それはちょっと楽しみ方が違うんじゃ……

「……うっわ。性格悪いですね」

「あら?そういう楽しみ方をするものではなかったのですか?わたくしの読んでいるものがそういう方向なだけかもしれませんが」

「あなたが特別腹黒なだけよ。六月さん引いてるわよ」

「あらーー……何か間違えましたかね」

リリスさんの独特の視点は、真魚ちゃんにはなかなか伝わらないものみたいだ。

正直、わたしもよくわからないっていうことは、黙っておこう……。


「しかし、ここにいるだけではなかなかあなたのその体質の原因を調べるのも難しいでしょう。我々だけではただただ憶測を並べるだけになります」

「…そうだね。色々調べに行った方がわかりやすいかも。といっても……どこに調べにいったらいいんだろう?」

調べものなんてしたことないから、どうすればいいのかわかんないや。

「ありがちなのはあなた…六月さんと同じような事例を調べることでしょうね。前例があれば取っ掛かりも見つけやすくなるし、原因もわかりやすくなる」

「あー……その発想はなかったです。前例なんてないってお医者さんが言ってましたから」


「医学的な観点ではわからないにしても、たとえば民族学的な……そういう伝承が見つかっていたとしたら、ヒントになる可能性はありませんか?」

「えっ、伝承調べるんですか?私の身に直接起きてることなのにですか?」

「この国ではよくあることですが、神隠しなどの伝説を実は亜人が引き起こしていたということはよくあるんですよ。たとえば行方不明になった人達が実は亜人に襲われていたりとか……」

「老けない人間が実は吸血鬼だったとか」

「リア、あれは単に冗談で言われてるだけで事実じゃないですよ」

「……てっきりこの国に来ていた吸血鬼なのかと思っていたのに」

まあ、いるよね……たまに全然年取らない人。


「なのでこれから……わたくしたちで図書館へと向かいましょう。この町に図書館があるのは既に調べはついているので」

「はい……わかりました。でもほんとに当てになるんですかね?」

「情報の調査は何がきっかけで」

なるほど……図書館。図書館!?

「芽衣さん、遊びに行くんじゃないですからそんなに目を輝かせないでください」

「図書館って、あの空気がすごい好きなんだよね、微かにかおる本棚と紙の匂い、時間が止まったように静かにしてる……そういえば街の図書館なんてだいぶ長いこと行ってないから……」

「落ち着いてください」

「はい……」

どうにも、なんだか気持ちが先走ってしまう、そんな気分なのだった。

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