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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 16 その罪から逃げる気なの?

「あ。あの……」

「えと。ごめんね……まさか真魚ちゃんがもう上がってきてると思ってなくて……」

「いえ、綾香さんに頼んでお手洗いを借りようと思ってたところだったんですけど」

「そうなんだ、なんかびっくりしちゃって」

微妙に噛み合わないような会話をしながら、わたしたちは一度別れる。


改めて、不思議な距離感の子だったな……と思った。

もしかして、わたしの周りって結構変わった子が多い、のかな?

「……あっ、そうだ!洗面所行かなきゃ!」


洗面所で寝癖を整えながら、顔を洗う。

眠気でまだ少しぼんやりしていた頭が、しゃっきりと意識を取り戻していく。

ただ、そこで気づくことがあった。自分の顔は何度も洗面所で見たはずだ。

ただ、今日はそこに少しだけ"変化"があった。

「あれ、こんなのあったっけ?」

自分の口許に目がいく。犬歯が、今までと比べても明らかに大きくなっていたのだ。


また一歩、本物の吸血鬼に近づいてきたことを自覚する。

気になって何度も指で触っていると

「……痛っ」

指が切れて、そこから鮮血が流れ出す。見た目以上に歯が鋭くなっているのか、かなり深い傷で血の流れはかなり早かった。

でも、そうして気にしているうちに指の傷はどんどん塞がっていく。


「すごいなぁ…吸血鬼の身体って」

思えば、腕が千切れようと脚が千切れようと、たちどころに元に戻っていたし、リアさんもあそこまでの惨状だったにも関わらず何分か経てば動けるようになっていた。

明らかに普通の人間と違う身体。

「また、遠くに行っちゃうかも……」


客室の方まで戻ると、そこには既に真魚ちゃんとリアさん、リリスさんがいた。

「あ、上がらせてもらってます……」

相変わらず俯いた顔の真魚ちゃん。その表情は長い前髪のせいでほとんど読み取れない。

「ところでその前髪、見えているのですか?あれではかなり視界が悪いと思いますが」

あっ、わたしも気になってたところだ。あんな前髪じゃ、前を歩くのも一苦労だろうと思っていたのだ。

「大丈夫です。ちゃんと見えてます、ちょっと視界は悪いんですけど……」

やっぱり視界悪いんだ……。


「どうも人と目線合わせるの、怖いんです……」


----------------------------------

詩音の家ではすごくお世話になった。

途中から「詩音さん」呼びはやめろ、って何回も言われてしまった。

これまでお世話になりすぎて私の中ではもう命の恩人みたいなものなんだけど、詩音はそういう扱いは嫌いだったみたいだ。


「ボクらなりの救済とはいえ、人に近いもの殺して回ってるんだからさ。そういうやつが人の感謝なんて求めちゃいけないんだよ」

そう詩音は遠い目をしながら語った。

きっとこの結論になるまで、何度も悩んで悩んで悩み続けたんだと思う。

「いつでも辞めますと言っていいんですからね。別に亜人狩りとならなくとも、私たちと友人でいる方法はあるのですから」

そうか……そうだよね。心のどこかで、この人達と繋がっているために亜人狩りでいようとしていた自分がいたことを気づかされた。


詩音と接しているうちに、自分の中で無意識に封じていた記憶が蘇っていく。

血の海の中に立ち尽くす、私にとって友人だったはずの女の子。

中学の頃から一緒だったはずなのに、今やその顔すら心の中ではうろ覚えだ。

私はあの後、そこを何もわからず飛び出していった。現実を見るのが怖かった。私たちの中に起きていたことを認めたくなかった。

友達であったはずのあの子が裏切ったのを、私は信じたくなかった。


「………っ、………っ」

走りすぎて、息が苦しいどころか胃の中のものまで吐き出しそうな勢いになる。元々インドアだった私が、こんなに走ったらこうなるに決まってる。

でも、それすら理解できずブレーキが壊れたように動き続けていたのだ。


「大丈夫かな?」

不意に、ぽんと肩が叩かれる。

「誰、ですか……」

乱れまくった呼吸を整えながら、ゆっくりと振り向く。そこには、見知らぬ女の人が立っていた。

明らかに怪しい人なのに、何故か私はその人に妙な安心感を覚えた。

「あな、たは……」

「君のことをよく知るもの、かな」

明確じゃない、要領を得ない答え。明らかに怪しい人のはずなのに、この時の私はこの人の話を聞いた。いや、聞いてしまった。


「柘榴。間宮柘榴さ。何、名前くらいはどうでもいいよ。それはただ単に記号に過ぎないからね」

「変わった名前ですね」

「そうかな?気に入ってるけどね」

そこからの会話はひどいものだった。

「君の友達……■■■■は君を裏切った。自分が化け物であることすら隠して、君の目の前で友達を殺してしまったんだ。まったくひどい話だよね」

「君はどうする?そんなひどいことをした友達に対して、泣き寝入りをするのかな?それとも、これまで通りに友達の"振り"をするのかな?」

「そんなの……わかんないです。あまりにも、異常すぎて。何もかもがおかしいから、私は何も考えることができない」


「君は実に愚かだ。勝手に掌の上で踊らされていて、その上■■■■が何者なのかすらも知らない」

「■■は……何者なんですか?」

「吸血鬼さ。人の血を吸う怪物だよ。そいつには吸血衝動というものがあってね。まあ簡単に言うと人の血を吸い尽くさないといけないのさ。人間が鳥や豚を殺して食うようにね」

「君はさ、本当にバカだよね。友達がそんなことになってるのに、呑気に友達だと思っていた」


「殺しなよ。そいつを」

女の人の声が、急に冷たく鋭いものに変わっていく。

「だって君が彼女を放置してたせいで、天野柚葉は殺されてしまったんだ」

「彼女は、君が殺したも同然だよ?君はその罪から逃げる気なの?どこまでも愚かなままいるつもり?」

私の中の何かが、黒く染まっていくような気がした。

「後回し、タイミングを逃すと言っておきながら、大事なことから逃げようとする、現状維持の振りだけ上手くなっていく」

そこから先は思い出せなかった。ただ、私のことを罵倒する言葉を、彼女はひたすら呟き続けた。その後、私は泣き叫んで、家の中に帰ってもフラッシュバックして暴れてしまった。

これが、私に起きたこと。


そして、■■……芽衣を殺してやりたいという気持ちは、未だに消えることはない。

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