第四章 14 すごい刺激的だったんだよね
コンビニで各々買ってきたご飯を持っていきながら、詩音さんの家へと戻っていった。
友達の家に泊まったことは何度かあるけど、自分の家じゃない家に「帰る」っていうのは不思議な感じだ。
「それにしても、随分遠いところまで向かったものですね。この近くならもう少し近いところにもあったでしょうに」
「あそこにはちょっと苦い思い出があってさ」
正確な時間こそわからないけど、20分は歩いた気がする。決してよく運動する方ではないので、足もかなり疲れて痛み出してるくらいだ。
「……そうですか。まあ、だいたい察しましたよ」
「察してくれて助かった。それにしても楓はさ」
「どしたの?」
「もうちょっと食べないわけ?ちゃんとスタミナ付けないとこの先戦うときに困んない?」
「詩音。麻倉さんはここ数日何も食べていないのでいきなり重い食事は胃に悪いです。もう少し食べた方がいいというのには同意しますが」
そっか……私、これから戦うことになるんだ。ひょんなことから始まりそうなこの生活だけど、やっていけるかどうかも、かなり不安だ。
「少しずつ慣らしていけばいいんですよ。すぐに戦力になるとは私たちも考えていませんので」
睦海さん、私のことを励ましてくれているのだろうか。
明らかに気を遣われているなというのはわかるんだけれど、不思議と悪い気分はしなかった。
「そういや、睦海もボクの部屋来るのは初めてだっけ」
「初めてですね。想像もつきません」
何だかんだで高校生になってから、こういう風にお友達の家に行ったことはほとんどなくて……いや、詩音さんお友達って言っていいのかな?勝手に思ってたら迷惑にならない?
「ここだよ」
「わぁ……」
「うっわ……」
詩音さんが部屋のドアを開けると、睦海さんがこれまでに見たことのないような顔で驚いていた。それもそのはず、アニメのポスターやフィギュアなどで彩られた部屋は、なんというか目に痛いほどの色彩というか……とにかくインパクトのすごい空間だった。
この部屋で眠ってほしいと言われたら、たぶん一時間は寝付けない気がする。
「睦海、その反応失礼すぎない!?人の部屋見て何引いてんの!?」
「いえ絵に描いたようなオタク部屋だったのでつい」
「アンタは少しくらいオブラートに包むことを覚えろよ」
「はいはい。それにしても……この部屋いつからこんな色彩の暴力みたいな空間になったんですか?」
睦海さんの言葉がどんどん容赦なくなってきている気がする。何か、思うところでもあるのかな。
「うーん……と言ってもつい最近だよ、中学入ったあたりから。ボクさぁ、小学校まで何にも興味持てなくて退屈だったんだよね。友達もいなかったしつまんない子供だったんだよ」
つまんない子供、とまで断言するあたり、やっぱりその頃には苦い思い出があるのかな……
「で、中1の時だったかな。夜中にたまたまテレビつけてたらアニメやってて。夜中の12時とかにやってんのにすっごい過激だったんだよ。血なんてドバドバ出るし、ヒロインの女の子はほぼ常にパンツ見えてるし」
深夜アニメはほとんど見たことないけれど、なんとなく過激なイメージはあった。テレビでやるくらいだからそこまでではないんだろうけど……。
「でもさ、それがすっごい刺激的だったんだよね。その刺激がとっても気持ち良さそうに思えたっていうか?そっから色んなアニメとか漫画にハマって、それだけじゃ満足できなくてここに入ったってワケ」
退屈を打ち破ってくれる大きな刺激。それこそ、彼女にとってはそれがまさに青天の霹靂……っていうものだったのかな。
どこか、雲がかかったように見えなかった詩音さんの人柄が、少しだけ見えたように思えた。
「その食事も刺激を求めた結果ですか」
「そうだけど?」
睦海さんが見ている方に目を向ける。そこには、大量のタバスコで真っ赤に染まっていたサンドイッチがあった。
「あの、これって元々こういう色だった訳じゃない、よね……?」
「んなわけないじゃん。自分でかけたんだよ。さっき喋ってる最中にね」
言われてみればいかにも辛そうな、その上で酸っぱい匂いまでしてきた。これ、食べられるの……?
「前々から思っていましたが、とんでもない偏食ですよねあなたは。身体壊しますし、その身でよく人にアドバイスできますね」
「うーん、でもなんか定期的にこういうの食べないとなんかもう満足できなくなっちゃってね」
「それ、依存症なのでは……?」
あえて私は何も言わなかった。いや、まあ私も甘いもの大好きだし……太るからたまにしか食べないけど。
晩御飯を終えて、私たちはゴミを片付けて改めて部屋に戻る。
未だに一瞥すらしない詩音さんの家族に少し不安を覚えるけれど、あまり突っ込んで会話するのもだし、気にしすぎないことにした。
「あ、そうだ。客室あるしそっちにお布団敷いとくね。楓と睦海はそっちで寝て」
「わかりました」
「うん」
良かった……詩音さんの部屋で寝ようなんてことになったら絶対なかなか寝付けないところだった……。
泊まらせてもらってる身で、文句なんか言えないし……。
「今なんか失礼なこと考えてなかった?」
「詩音の部屋だと色彩が凄すぎて寝付けそうにないと思っていただけです」
「その台詞言われて全部暴露するやつ初めて見たんだけど。
あ、寝るまでここの漫画は適当に読んでていいからね。いっぱいあるからいくらでも時間潰せるよ」
詩音さんの部屋の本棚は、たくさんの漫画が並んでいた。まるで漫画以外興味がないと言わんばかりに。
「あと、こっちのケースに入ってるやつはクソ漫画マニアに思ったよりクソじゃなかったで押し付けられたやつだから」
「クソ漫画マニアって何!?……あ、これ」
「どしたのさ」
本棚の中から、ある一冊の本を見つける。それは、私が初めてお小遣いで買った思い出の本だ。
飽きてしまって売ってしまったけど、後になってなんで売ってしまったんだろう……って何度か後悔してしまった漫画だ。
「昔、好きだったやつ。詩音さ……詩音も好きなの?」
「ま、まあそれなりには……?でもそんなに大好きって程じゃないから、あげてもいいよ?」
「ねえ……詩音はさ、この漫画の中で好きなキャラとかいる?」
「何いきなりその質問。うーん……強いて言うなら。というか楓はどうなの?」
「私?私は……白の国の王子様!」
「えっ……ボクは黒の国の王子の方が…ほら、ああいうちょっとダークな方が惹かれるんだよね」
「えーー、でもさ、あの王子様って確か最後の方がすっごいかっこいいんだって!」
「ボクはそういう正統派にはあんまり興味が……って、楓さあ」
「やっと笑えるようになったじゃん」




