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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 9 なんかダメなこと言いました?

肉体が亜人化している可能性がある。そうリリスさんは言った。

「あの……それはいったいどういう……というか亜人って……」

当然、真魚ちゃんは困惑している様子だ。いきなりそんなことを告げられて、平静でいられるわけがない。


「もう少し詳細にお話しますね。……と言っても、結論から告げてしまったのでどこから話せばいいのやら」

「そもそも……その、亜人って……亜鉛の亜に人って書くそれで合ってますか……?」

「そうですけれど」

「人に似ているが、人とは違う体系を持つ生き物。一般的にはそれを亜人と定義しているわ。そして、一般的には架空の存在とされているそれらは実在する」

そう。亜人という存在は"実在している"。ほんの2ヶ月ほど前まで、わたし自身も信じられなかったことだ。

長くファンタジーの世界に浸っていたからこそ、それらの物語にいる存在が現実にいるなんて、考えられないことなんだ。


「……その証明って、その。出来るんですか」

「証明も何も、わたくしたちがそうですから」

「えっ!?」「えぇっ!?」

あまりにもさらっと言ってのけるリリスさんの様子に、わたしも思わず驚いてしまう。

そうやって上げた声が、真魚ちゃんと偶然にも反響しあっていた。

「何で芽衣まで同じリアクションをしているのよ」

「あの、だって……あまりにリリスさんがさらっと言うから……」

「…相変わらず妙なところで驚くものね」

えっ、そんなに変わってるかなぁ……


「…そ、そもそも、あなたたちは何者なんですか……!この街にあなたたちみたいなきれいな人がいたら、一目見たら絶対覚えてると思うんです……」

真魚ちゃんがわたしたちを見る目が、怯えや警戒といったものに変わっていく。

どことなくその目線に、かつて出会った人狼の女の子に近いものを覚えた。

見る人間全てに、どこか恐れみたいなものを覚えて、踏み込めなくなっている人の目だ。

「まあ、わたくしたちはよそ者ですからね。簡単に言うなら、そうですね」


「住んできた街から去らざるを得なかった、流れ者の吸血鬼、といったところでしょうか」

「なるほど……事情は、わかったんですけど……でもなんか一つだけ納得いかないことがあるっていうか……」

「納得できないこと?」

そう聞くと、真魚ちゃんは急にわたしの方に目線を向けた。

「そっちの髪がくるくるしてる人…確か芽衣さん、って呼ばれてましたよね。あとの2人は一目見て人とはオーラが違う!ってわかるんですけど……その、芽衣さんだけなんか普通の人っぽいっていうか……オーラがないっていうか……本当に吸血鬼なのが信じられないっていうか……」

思ったよりズケズケ言う子だこの子!!いきなりグサグサと刺されたような感覚で思わずその場にうずくまってしまう。


「芽衣はまだ吸血鬼になったばかりだから。それにしてもあなた随分と失礼な物言いをするのね」

「あっ……えと……そんなつもりはなかったんですけど……なんかダメなこと言いました……?」

ダメなことを言ったといえばそうだし、でもわたし自身はそこまで気にしてないし……でもリアさんは結構怒ってるみたいだし……

「うーん……わたしはそこまで気にしてない、かな……?」

「答えになってませんよそれ」

言われなくってもそれはわかってるんだけど、うーん……

「あなたもしかして、人との距離感の測り方がわからないとか言われませんか?」


「あっはい……よく言われます、すごいですね流石吸血鬼です……!」

「吸血鬼は関係ないと思うけれどね。それにしてもなんだか変わった子ね……最近の若い亜人というのは皆そうなのかしら?」

「亜人という時点で人間とは距離を置くことが多いですから。その時点で変わった人と言われる性格にはなりやすいでしょう。特にこの国の人は自分たちと違う特徴の人間を避ける傾向がありますからね。とはいえ……六月さんといいましたか?」

「は、はい六月です……」

「あなたの場合亜人関係なしにそういう性格な気がしてなりません。もう少し言葉には気を付けた方がよろしいかと」

結構キツいこと言うなぁ……もしかして、さっきの言葉はリリスさんも実は気に障ってた……?気にしてないのはわたしだけなのかな?


「こ、殺さないでください……」

「殺しませんよ……」

「ほんとにですか……取って食ったりしませんか……」

「あなた吸血鬼をなんだと思っているんですか?」

珍しくリリスさんが困惑して押されている。まあ、リリスさんに圧のようなものがあるというのは、何となくわからないでもないんだけれど。

「それで、本題に戻るのですが。あなたの足の様子は何度か観察させてもらおうと思うので、良ければまたこちらに来てください。

このことは水谷さんにも伝えておきます」

「は、はい、わかりました……それで、なんですけど……何でわたしにそこまで協力しようとするんですか……?」


「うーん……困ってる人がいるなら、助けになりたいかな」

もしこの子の亜人の血が目覚めているのだとするならば、早急に何とかしなければこの子自身の人生が危ないだろう。

ただ、もっとこれ以上に、自分自身の人生をこの子に無意識に重ね合わせているのだろうとも思う。

急に吸血鬼になり、最初は泣き出して逃げ出してしまったこともあった。

わたし自身は何とかなったけれど、藍さんのように何とかならなかった人もいた。

わたしたちが滞在できる時間は2週間。それまでに、何とか解決法が見つかればいいんだけど。


「なんだか……偽善的だなって思います。それって、本当にそう思っているんですか?」

前髪で隠れた目からでもわかる、刺すような視線。おそらく、真魚ちゃんはわたしのことを『信用していない』。

「偽善かもしれないけど……それでも助けになりたいっていうのは本当。わたしのこと、信じられないのはわかるけれどね」

「信じられない……ってわけじゃないんです。ただ……人って怖いから……裏切る人は裏切るから……」

ああ、そうだ。この目はきっと、人を信じられないっていうわけじゃない。

裏切られるのが、怖いんだ。


(『「なんでよ……っ……この、この裏切者っっっ!!!!!!!!!』)

不意に、親友……だった女の子の、わたしを見る激しい憎悪に染まった瞳が、フラッシュバックしてくる。

避けようと思えば避けられたはずの、あの悲劇が。


「……芽衣さんっ!?」

「……芽衣っ!!」

世界がぐるぐると回る。呼びかけてくる言葉を最後に、わたしの意識はいったん落ちていった。

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