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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 8 二人がいてくれたおかげだよ

本を2冊持ち歩いて、わたしたちは宿へと戻った。

「……満足そうね、芽衣」

リアさんが微笑みながら、わたしの顔を見る。

「そうかな?」

「そうね。足が小躍りしていたし。あなたが少しでも元気を戻してくれたみたいで良かったわ」

「……二人がいてくれたおかげだよ。わたしも、こんなに早く立ち直れるって思ってなかったから」


神楽坂町にいた日々が、まるで遠い昔のように感じる。本当は二日前にはあの町にいたはずなのに、もう既にあそこでの日常を忘れそうになっている。

「そうだ、葉月ちゃんにもちゃんと伝えておかないとね。元気でやってるよ、って」

「そうですね。彼女も不安にしているでしょうから」

「葉月ちゃんも立ち直れてるかなぁ……」

あの子がどうしているかはわからない。けれど、なんとなく葉月ちゃんなら上手くやれているであろうという期待が、何故か胸の中にあった。


「ただいまーー……あれ?」

宿に戻って挨拶しようとしたところ、見慣れない……いや見覚えのある人影を見つけた。

「あっ……あぅ……」

さっき書店で見かけた女の子だ。きょろきょろと宿の近くを繰り返し歩いている。

「少し怪しいわね。挙動もどこか不審だし……ここで何かをしようとしているのかしら?」


リアさんが前に出る。すると、女の子は更に萎縮したのか後ずさっていく。

「その……そういうのでは……なくて……」

「その方、単にお話をするのが苦手なのではないでしょうか?」

「お話をするのが苦手…………????」

「たまにいるのですよ。なかなか人と目を合わせることが出来なくて会話も上手くできない方が」

「……紛らわしいわね」

「リアさん怒らないで……!」

「別に怒っているわけではないのだけど……」


「ぁ……あの……」

「うわっ!?えっと……どうしたの?」

急に袖を掴まれて、びっくりして振り返る。いきなりのことで驚いたけれど、そこには女の子の姿があった。

「あの……こちらの人に……用が……あってぇ……」

小さい声だけど、滑舌ははっきりしているのか聞き取りやすい声だった。きっと、もう少し大きな声で喋ればかなりきれいな声なんだろう。


「宿の人……水谷さんに?」

「はいっ……そうです……」

「お名前は……?」

「六月……真魚……」

「真魚ちゃんね。わたしは咲坂芽衣。色々あってここでお世話になってるんだけど……」

ゆっくりと言葉を選びながら、彼女……真魚に話しかけてみる。少しずつ打ち解けられたかな?

「あぁ……お世話に……!?なら丁度よかったです!あの、わたし……ちょっと悩みがありまして……」


「ここで何かしようとしているというわけではないのね?」

「ひぃっ!!」

「別に怖がるようなことはしていないじゃない」

「えっとリアさん?たぶんね、さっき警戒してたのが、そのまま伝わっちゃったんだと思うよ……?」

おそらくこういう子は、こっちが優しく物事を伝えてあげれば、ちゃんと打ち解けてくれるんだと思う。そう期待して、真魚ちゃんに改めて近づいてみる。

「この人はわたしのお友達だから、大丈夫だよ。怖くないよー」

「は、はい……さっきは大きい声出してすみませんでした……」


「困ったわね……」

「あなたそのコミュニケーション能力でよく芽衣さんに近づこうと思いましたね」

「そういえば最初は芽衣もだいぶよそよそしかったわね……」

どうだったかな……?そんなに昔のことじゃないはずなのに、何故かかなり前のことのように感じる。


「あら?お客さん?どうしたの?」

「あっ……はい、そうです……」

「とりあえず上がっていきなさい。芽衣ちゃんたちも、ほら」

「はーい」

綾香さんが玄関前から様子を見に来た。彼女は穏やかそうな笑顔で、真魚ちゃんを含めたわたしたちを迎え入れた。

「えっと……この子は?近所の子ですか?」

「そうなの。といってもこの子身寄りがないみたいでね。親戚に引き取られてこのあたりに住んでたんだけど……どうしたのかしらね?」

「相談がある……らしいです」

「相談?珍しいわねぇ……」


「はい……実はですね……」

と言うと、真魚ちゃんが着ていたスカートを不意に捲りあげる。

「何してるの……!?」

「何って、えと……はい……とりあえず見てもらわなきゃと思いまして……」

露になった地肌を見ると、そこには魚の鱗のようなものがあった。それに驚いて思わず息が止まる。

「あの……わたしたちもここにいて良かったの……?」

「いいです……よ。その、それに対して何か言ってこなければ……ですけど……」

「病院では見てもらったの?」

「原因がわからないみたいで……水谷さんなら知ってるかなって思った……んですけど……」


「魚の鱗……リリス、原因に心当たりはある?」

「わかりませんね……まさか病気ではないでしょうし。そんな病気はわたくしの知識にはございません」

「リリスさんでもわかんない?」

「はい。まったく。お手上げですね」

リリスさんは医学の知識は相当あるらしいということを、以前に聞いたことがある。そのリリスさんがわからないというのであれば、確かにもうお手上げかもしれない。


「それにしても、水谷さんなら……ということは、もしかして水谷さんはそういった知識があるのですか?」

「いぇ…街の人について詳しいので……そういう人脈もあるのかなと思いまして……」

「あー。なるほど……」

それにしても、これはどうしたらいいんだろう。リリスさんでも心当たりがないとなると……

「いえ、もしかしたら……」

「リリスさん?」

リリスさんが何やら唸っている。珍しく、考え込んでるみたいだ。


「少し場所を変えましょうか。ここでする話ではありませんし。リアと芽衣もこちらに」

「……わかったわ」

「うん」

そうやってわたしたち……と真魚ちゃんは庭へと移動する。どうしたんだろう?

「それで……何かわかったん……ですか?」

「ええ。落ち着いて聞いてください」


「六月さん。あなたは肉体が亜人化している可能性があります」


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