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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 7 便利上等ですよ

「静かですねぇ」

「そうだねぇ……」

寝転がりながら、今更積んでいた本を消化していく。

正直そこまで面白いものではなかったけど、これだけ穏やかな時間が流れるのは久しぶりで、それがなんだか幸せで仕方なかった。


「あ、リリスさんも何か読む?」

「そうですね、それではこちらの本を……」

コップに入れた氷がカランと鳴る。静かで穏やかな部屋の中で、その音は長い余韻を伴って響いていた。

「……あなたたち」

「リアもどうですか?寝転がって本を読むというのもいいものですよ」

「そうではなくて。流石にだらけすぎではないかしら?」

「いいじゃないですか。ここ最近色々疲れる出来事だらけだったのですから。それに2週間経ったらまたここを出なくてはいけないのですよ?貴重な時間こそ休むのに使わなくては」

「そうだよ?それに今は世間は夏休みなんだから、休む時間なんだよ?」


「……芽衣。あなたも何だか言うようになったわね」

「へ?そうかな?」

「リリスに変な影響を受けていないといいけれど」

「人聞きが悪いですよ?それにあなたも大概ではないですか」

そう言われてリアさんの方に目を向けると、どこかばつの悪そうな顔をしているように見えた。


「とはいえ……何もしないというのもそれはそれで退屈ですね。芽衣さんは読書で時間を潰せるから問題ないでしょうけれど……」

「あはは……」

しかも、最近本を読む暇が少なかったからより読書欲が増してしまっている。

のんびりと部屋で寝転がる時間すらなかったのだ。

「いかんせん退屈な時間をいざ得られると、それはそれで物足りなくなってしまうのは難儀ですね」

「少し悔しいけどリリスに同意するわ。ここに来てから時間の流れがものすごく長く感じるもの。ここ最近の2倍くらい。悪いことではないのだろうけれど」


その気持ちは、実のところ理解できなくもなかった。平和な時間が欲しいと思っていながら、それにどこか満足できていない自分もいたのだ。

「……そうだ、今日出る新刊があったから、それ買いに出掛けにいこうかな?リアさんとリリスさんも一緒に行く?」

「あら、芽衣さんからその提案が出るとは」

「わたしもちょっと……話聞いてたら外に出たい気分になっちゃって。それにもうすぐ持ってきた本、全部読み終わっちゃうから」

「……5冊は持ってきていなかったかしら?」

自分でも驚くほど読む手が止まらなくて、気づいたら一気に何冊も読んでいたらしい。でも、ちょっと引いたようなその顔は少しショック。


「いいではないですか。早速行きましょう」

「…ところで、書店の場所はわかるの?何年か前に来ていたとはいえ流石に詳しい立地までは知らないと思うのだけど」

「実は大丈夫、全く問題なしだよ」

スマホを取り出して地図アプリを開き、書店までの道のりを表示させる。

リアさんもリリスさんも、目を見開いて驚いてるようだった。


「これは、地図ですか?」

「うん、どこにいてもそのあたりの地図が見られるんだよ。流石に電波の通っていない場所は無理だけど……」

「文明の利器というのはすごいものですね……わたくしもこれは知りませんでした」

「今はスマホがあれば大体のことは出来るんだって。あんまり使いすぎるとよくない、って言われてはいるけど……」

「いいではないですか便利上等ですよ。不便な生活を一度経験してしまうと……もう二度とそこには戻りたくなくなりますから」


400年以上生きているらしいリリスさんからすれば、確かに今の便利な生活は、もしかしたら羨ましいとすら思うほどのものなのだろうかと、そう思った。

「これでも色々と苦労はしていますからね」

「そっか……何百年も前ってなると,色々と今とは違うからかな?」

「そういうわけではないのですが……いいでしょう。またいつかお話ししましょうか」

もしかして、聞いちゃいけないことを聞いちゃったのかな……

「そういえば、リリスについては私も知らないことが多いわね」

「そうですか?まあ、秘密の多い方が魅力的とも言いますからね」

「隠し事が多いのは感心しないわよ」

「…………今はとりあえず目的を果たしましょう?」

これ以上踏み込むことは、きっとわたしにも出来ないんだろうな……。


見慣れない風景、見慣れない街。

目に移るもの全てが新鮮、とまではいかないけれど、確実にわたしたちの住む町とは違った空気が流れていて。

一体その違いはどこから来ているのだろう?

「こうして3人で歩くのも初めてかもしれないね」

「そうですね、それにここはなかなか空気が良いです。少し陽射しが強すぎるのは難点ですが」

2人は日傘をさしながら歩いていた。今は真夏。純粋な吸血鬼である2人にとっては、とてもきつい気温だろうと思う。


「芽衣は大丈夫なのかしら?」

「うーん……ちょっと頭はふらっとするけど、そんなに?もともと暑いのには強いらしいんだよね。他の人がどうなのかわかんないからどのくらいかはわかんないけど……」

「なるほど……かなり吸血鬼化は進んでいるけど、まだそこまでではないのかしら?」

「半吸血鬼とは言いつつも、血が定着すれば日光にも弱くなりますし老化も進まなくなりますからね。ほとんど完全な吸血鬼になっていきます」


これでも、前よりはだいぶ暑さに弱くなってきた気がする。

現実として言葉で言われるよりも、こういう実感の方がより自分が吸血鬼になっていったことを実感する。

一体これから何百年の時を過ごすことになるのか。

考えていても仕方ないけれど、それでも考えとして頭によぎってしまう。


目的地までは案外近かった。

ずっと話しながら歩いていたからか、20分で着くと言われていたのがかなり短く感じた。

「えっと……ここのはず」

「ふぅ。やっと着きましたね。何だかあっという間でしたね」

「……リリスが延々と喋っていたからでしょう?」

「お喋りなのはわたくしの長所ですから」

街の小さな本屋さん。それでも、今日買おうとしていた新刊はかなり宣伝もされていたから売っているはずだ。


店の中に入ると、わたしよりも少し年下くらいの女の子が何だかきょろきょろと歩き回っていた。探している本でもあるのかな?と思ったけれど、わたしは何故かその子が気になってしまった。

前が見えているのか怪しいくらい、長い前髪の女の子だった。


「えっと……どうしたの?」

「あっ……あの……!」

突然話しかけてきたわたしにびっくりしたのか、慌ててしどろもどろになっている。どうしよう……

「どうされたのですか?」

「あっ……あっ……」

リリスさんが助けに入るけれど、相変わらず彼女は何も言えないまま。

しばらく無言のまま気まずい空間が流れ、やがて彼女は走り去っていってしまった。


「何だったのでしょう?」

「うーん……」

しばらく考え込むけれど、当然答えは出なかった。

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