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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 4 新しい景色を見たいな、って

列車に揺られながら、外の景色に目をやる。

見渡す限り、どこまでも緑が広がるそこは、自分の今まで知っていた都会の景色とはまるで別物で。

知らない世界が、広がっているように思えた。


「どうしたの?外の景色なんて見つめて」

リアさんが少し心配そうに、わたしの方を見る。

「ちょっと、こういうの見るのもいいかなぁ、って思って」

「そう。それなら良かったわ。あれからまだあなたは悪夢を見るらしいとリリスから聞いていたから」

「だいぶ安定はしてきましたかね。わたくしたち亜人は精神のバランスを崩したとたんに爆発する爆弾のようなものですから、特に気を付けなくてはいけません」

悪夢そのものは、実はもう少しましになってきていた。

しかし、それ以上にわたしの中で気がかりなのが、起きている最中のフラッシュバックだ。

あの時の光景に近いものが目に入っただけで、道中で食べたものを吐いてしまったこともあった。

「新しいところに向かうのであれば、更に不安も強くなるでしょう。よりわたくしたちも気を付ける必要がありますね」

「あまり不安にさせるものでもないわよ、リリス。悪感情というのは伝わるものだと言ったのは誰かしら?」

「はいはい。そうですね。そのあたりも気を付けましょうか」


「わたし……街を出るのなら、今まで知らなかったものをいっぱい見たくて。この列車の窓からの景色も、そのひとつなのかな。って」

「……それだけあなたは、多くの世界を知りたいのね?」

「今まで、色んな本とか物語を見てきたけど、その世界に触れることって、なかったわけだからさ。今度はそこに触れてみたいな、って」

いつしか忘れていた、幼い時の冒険心のような気持ち。それが今になって、何故かまた熱を持とうとしている。

最初に町を出たときは、ずっと住んでいた神楽坂町に別れを告げるのが何よりも寂しかった。

でも、今は不思議と。

「なんだか今、ちょっと気分が躍ってる。新しい景色を見たいな、って思ってる」

「それはよかったです。わたくしたちも、生まれ故郷を離れるまでにはだいぶ時間がかかりましたから」

「そうだ。リアさんたちの生まれた国ってどこなの?聞いたことないような……」

思わず気になって質問してしまう。そういえば、そのことも知らなかったんだ……


「そうですね。世界一食べ物が不味いとされる国、といえばわかりますか?」

「あー、なるほど……」

その国のご飯は食べたことがないからわからないけど、たぶんあの国だ。

「わたくしはずっとそこにいたのでそんな実感ないのですけどね。時代も違いますし」

「ざっと300年前だものね。芽衣にとっては教科書の中の世界よ」

300年前。教科書では確かまだ江戸時代だったはずだ。あまりにもスケールの違いすぎる話に、少しめまいがしそうになる。


「生まれ故郷を出たのは今から300年ほど前……魔女狩りと呼ばれる風習が流行っていた頃よ。芽衣、魔女狩りは知っているかしら?」

「えっと……聞いたことはある、かな?」

知識としては、ファンタジー小説にその名前を見たことある、くらいだった。

「ひどい時代でしたね。吸血鬼も多数迫害されましたから。

とはいえあなたのような壁の通り抜けなんていう反則技を使われたら、あの人間たちもどうにもなりませんでしたけどね」

「あなたの変身能力の方が大概でしょう。一体どれだけの姿に化けていたことやら。

童女だろうが老婆だろうが時には男だろうがお構い無しだったじゃない」

改めて、その時の長さに驚かされる。そして、吸血鬼の能力の凄まじさにも。


「なりふり構ってはいられない、という話ですよ。そこからずっと色んな国を転々として、今ここに流れ着いたのが大方100年前です。今度その話も聞かせてあげましょうか?」

正直、すごく聞きたい。好奇心がわたしの中でうずうずと騒ぎ始める。

「とはいえ、その間に何人も仲間を失いましたからね……こうして残ったのはわたくしとリアだけ。相変わらず、吸血鬼には生きにくい世の中です」

今この平和な国にさえ、亜人狩りがいるのだと、その現実に打ちのめされそうになる。

話がわかる人達だけど……いや、だからこそ彼らは時にわたしたちに容赦がないのだ。


「……ふぅ。歳を取ると過去ばかり振り返るようになってしまってよくないですね。芽衣さんには少し退屈な話でしたでしょうか」

「そんなことないよ。すっごく気になる話ばかりだった。何で日本に来たのかとか……」

「あんまり面白い話ではないわよ?」

「それでも聞きたい」

「……変わってるわね、あなたは」

リアさんがわたしに微笑みかける。その表情は、その言葉とは裏腹にとても優しげだった。


「まだ時間がありますし、どうしますか?今の間に眠っておくというのも……」

「そうだ。なんか、急に眠くなってきちゃったよ」

すっかり話に夢中になってしまって気付かなかったけれど、今日の起床時間は朝の5時。普段より2時間以上は遅い。眠くなるのは当然の話だった。

「私たちは本来夜型よ。昼に活動しているのがむしろ珍しいのよ。昼型なのもあくまで矯正しているからだし、それも人間に溶け込むためだもの」

「そういえば、二人って夜でも全然眠くなさそうだよね?」

「人間と違って睡眠で補給すべきエネルギーがそれほどないというのもあるのでしょうかね。むしろ8時間は眠っていないといけないというのもなかなか不便そうです」

「わたし、最近は7時間も寝てないような……」

本を読んでついつい寝るのが遅くなってしまうから、っていうのは、秘密にしておこう。…よくこのことで葉月ちゃんに叱られたなぁ


「そういや、葉月ちゃんって今どうしてるんだろ?」

「葉月さん?確かに心配なのはわかるけれど……なるようになるでしょう」

「定期的に連絡を取ってみてはいかがでしょうか?

亜人狩りからの追及が来ることを考えるとリスクはありますけれど、あくまで一般人である葉月さんの携帯電話まで探るほどの権限は向こうにはないはずですよ」

「そっか。そうしてみるね」

目の前にあるスマートフォンに目をやる。これだけの機械があるだけで、遠くにいる葉月ちゃんにもメッセージをすぐに届けられるんだ。このことにここまで感謝したのは、初めてかもしれない。


「そもそも、両親には連絡はしないのかしら?一応事情は説明したけれど……」

「あっ、お父さんとお母さんにも送らなきゃ!」

「……ふふっ」

「なんで笑うのっ!?」

慌てるわたしを見て、思わず笑いをこぼすリアさん。

……こういう時だけは、なんだか意地悪だ。

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