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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 2 本当に覚悟があるかどうか

「おいおいマジかよ……」

俺は思わず目を見開いてそいつを見た。

何せ、お使いを頼んだはずのやつが何故か人を拾ってきたのだから。

パーカーのフードを目深に被っていて顔は良く見えないが、体格から察するにおそらく女だろうか。


「行き倒れてたから拾ったんだけど。いいよね?」

「いいよねと言われましても。素性も何もわからない人間を拾ってきてはいそうですかとは言えません」

睦海の言う通りだ。素性もわからないやつを拾ってきたところで、どうにか出来るわけじゃない。うちはそういう施設じゃないからな。

「……え、で」

その人物は消え入りそうな声で何か言っていた。上手く聞き取れない。

「どうしたのですか?」

「……麻倉、楓。それが私の名前」

そう言いながら、詩音の拾ってきた人物……麻倉楓はゆっくりとパーカーのフードを上げながら名乗った。


フードの下の顔は酷いものだった。

まず、どこかでぶつけたのか額から血が流れている。既に固まってしまったのもあるから、おそらく何度かぶつけたんだろう。

次に、目の下には濃い隈。おそらく何日もほとんど寝ていない。

そして、その隈に縁取られた目はギラギラとこちらを睨み付けている。

手入れもろくにしていないボサボサの髪もあいまって、まるで浮浪者か落ち武者のようだと言われてもおかしくなさそうな風貌だった。

おそらく俺と同じくらいの歳であろう女子に対しては似つかわしくない表現だが。


「……ひっどい様相じゃないか。一体何があったんだい」

優斗も流石に驚いたのか目を丸くしている。

「なるほど、事情を聞かせてもらおうか。」

「恭平さん?まさか事情聞くんですか?」

「だからそう言っただろ。それに、詩音だってその子から何か聞いてるかもしれない。詩音、その子から何か聞いたりしてないか?」

「あー。それね」

詩音がゆっくりと口を開く。

「吸血鬼を殺したい、って言ってた。」

その瞬間、俺の中で『全てが繋がった』。


麻倉楓。その名前に道理で聞き覚えがあったはずだ。

実際のところ、そいつのことはよく知らない。ただ、選択授業で一緒になったことがあって、そして。

あの咲坂芽衣と、仲良く話しているところを見かけたことがある、くらいだ。


「おい、その吸血鬼って……」

「その子の名前は出すなっっっっっっ!!!!!!!!」

突然の大声に、心臓が少し飛び跳ねそうになる。

「殺したい……殺したいの……あの子は私を裏切ったから……私に黙って……吸血鬼だってことも隠して……」

声のボリュームが安定しないやつだ。明らか過ぎる情緒不安定。よくもまあこんなのを連れてきたもんだ。だが……


「詩音。一つ聞きたいんだが」

「恭平さーん、何ですかー?まあ大体察しはつきますけど」

「もしやこの子を仲間に加えたい、とか思ってる?」

正気かよ。確かに亜人への憎しみが強いあたりは素質がありそうだ。だが、それを抜きにしても明らかに情緒が不安定すぎる。咲坂芽衣の名前を出そうとしただけで、こんな大声上げて叫び出すような奴……

「そうだけど」

平然と言い放つ詩音。マジかよ……マジで言ってるのかよ。


「いやー、だって亜人殺すなんていう仕事、普通の精神じゃできないわけじゃん?多少心が歪んでるくらいの方が向いてるって。それに、先週うちの高校の生徒が謎の死。これも吸血鬼が起こしたって話だし。この子なら事件追ってくれそうじゃない?」

理屈は一見通ってる。だが、ただの様子がおかしい人間じゃダメだ。

亜人狩りは常にターゲットに対してブレてはいけない。俺だって何度も恭平さんに叱られた。特に誤射の件については次やったらクビにするぞとまで言われた。今の情緒不安定な麻倉に、その仕事が務まるとは思わない。


「詩音の考え自体は理解できますね」

睦海が団扇で顔を仰ぎながら、口を開く。涼しそうな顔をしてるが、その実顔は汗ダラダラで真っ赤という構図が、少しおかしなものに見える。

「確かに亜人狩りなんて仕事は多少気が狂ってなければいけません。ですが、銀武器の扱いや亜人を狩るということについての心構え、それらすべてを教え込むには時間がかかります。

動いている標的に対して武器を当てるということがどれほど困難か。人間を守るために外敵を排除するという行為は、時に歓迎されないことだってあります。

それに、彼女自身の意志も聞いておきたいですね」

ごもっともだ。簡単な心構えでできることじゃない。やっぱり、こいつは帰してもらうしか……。


「亜人狩りとかなんとか、よくわからないけど……吸血鬼を殺せるなら……私はそこに入らせてもらってもいい?」

麻倉が指をガタガタと震えわせながら、睦海に指を指す。

「なるほど。気持ちはわかりました。というか詩音……あなたもしかして。この人に同情でもしました?」

「うぐっ……」

ぎくっという効果音でもなりそうなリアクション。わかりやすい奴だ。

「出会っただけとはいえ随分この人に詳しいじゃないですか。身の上話まで聞いたんでしょうね。いえいえ。これを責める気はないですよ。あなたの気持ちは理解できます」

「睦海も反対するつもりなわけ?」

食ってかかる詩音。こいつ、まだあきらめない気なのか。

「いえ別に。私としてはどちらでも。というよりは……恭平さんの意見を聞きたいですね」


「あー、俺に回しちゃうかー。まあいいや。確かに人手足りてないんだよな。それだけに追いきれなかった事件もたくさんある。

だから、俺が後でその子をテストする。もちろん親御さんの許可も貰ってからだけど」

「テスト?」

「ああ。と言っても質問をいくつかするってだけだけどな。あと殺す殺すって言うけど、衝動的に言ってる可能性だってある。そういう子を安易に亜人狩りにするわけにはいかない」


「そりゃそうだねぇ。一時的な恨みや憎しみなんてものは、すぐに消え去ってしまう。生き物の命を奪うっていうのは、それだけに覚悟がいるんだ。

僕や睦海は生まれながらの亜人狩りだから慣れてるし、鳴だって亜人狩り歴はそれなりにあるからもう大丈夫だけど。その子もう高校生でしょ?高校生がその価値観を呑み込むのはなかなか大変だ」

「流石優斗。よくわかってんな。だから本当に覚悟があるかどうか聞く」


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あの赤い景色は、今でも鮮明に思い出せる。

赤黒い血だまりの上に、その中央にたたずむ私の親友……だった子。そして、その傍らには、私の部活の部長、その亡骸が。

地獄だなんて簡単には言いたくないけれど、私にとっての地獄はあの光景だ。


私はあの子が途端に許せなくなった。私には何も言わず、何もかもかくして、それでそんなことをして。

これは裏切りだ。親友であるはずの私に対しての。

あの子が部長を殺したんだ。あの子のせいで、なくなっちゃいけない命がなくなったんだ。


ショックを受けた私は、帰り道で女の人に会った。白衣を着たやけにきれいな人だった。

その人は言った。

「あの子は吸血鬼で、もう人間じゃないんだよ。」と。

人間じゃないから、私を裏切れた?もう私のことは友達でも、なんでもないと思ってる?

その瞬間、私の心は憎悪と殺意に塗れた。


夜、家族とは大げんかになった。態度のおかしい私を見兼ねて話しかけてくれたお母さんに、私は掴みかかってしまった。その後のことはもう覚えていない。

ただ、食卓にぶちまけられてしまった食器の残骸が、この時に何があったかを痕跡として物語ったのみだった。


それから私は、おかしくなってずっと町中を彷徨った。お腹だって減ったし、喉だって渇いて力が出なかった。あの時詩音ちゃんと名乗る女の子に助けられてなかったら、私はそのまま野垂れ死んでいたと思う。

今の私の心を突き動かすのは、あの子……咲坂芽衣への殺意と、付き従う吸血鬼を殺したいという気持ち。そして…………。


こんなにもおかしくなってしまった自分を、何とかもとに戻したいという気持ちだけだ。

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