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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第四章 その刃はどこへ向くのか
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第四章 1 またね。

住み慣れた街、住み慣れた家。

それらについに別れを告げる日が来た。


あの日、わたしの日常は完全に終わってしまった。

憎悪の目でわたしを睨み付ける楓ちゃんのあの瞳が、まだ脳裏に焼き付いて離れない。

「……後悔はありませんか」

「うん、寂しいし……葉月ちゃんとも離れることになっちゃうし、これからどうすればいいのかわからないけど」


吸血鬼であるわたしは、何か問題を起こせばすぐにでも亜人狩りに狙われる立場でもある。忘れそうになるけれど、彼らは亜人に対してはほぼ常に容赦がない。

悪い人じゃない……いや、悪い人じゃないからこそ、その正義に基づいてわたしはきっと殺されてしまう。

その事実はとても重たいものだ。


「私達はただの人間より圧倒的に大きな力を持つ。それこそ、ただの殴打だけで人を殺せてしまうほどにね。だからこそ、私たちはいるだけで人をおびやかす存在になる」

「まだターゲットになると決まったわけではないですが……遅かれ早かれあなたが先日の一件に関わったことは突き止められるでしょう。」

先日の一件。そう、柚葉ちゃんの変死だ。

あの時白衣の女の人に捕まって死にそうになっていた彼女を、暴走したわたしは血を吸うために引き裂いてしまったらしい。

あの時点で、ほとんど助かる可能性がなかったとはいえ直接トドメを刺したのはわたしだ。

理性のない状態でやったとはいえ、暴走状態の自分の行動に全く責任がないわけではないのは、わたしもよくわかっている。


「それと芽衣さん。繰り返しお伝えしますが、あなたはこれから誰かに庇護される存在ではなく、自分の力で生きていくことになります。あなたの年齢ではとても厳しい道になるでしょう。わたくしたちも精一杯お手伝いはしますが、それでも限界はあります」

「……うん。わかってるよ」

本当は、まだまだ不安もある。このまま、更に苦労もあるだろう。

「行き先は決まっているの?」

「えっと……」


スマホで路線図を表示して、二人に見せる。わたしの親戚の家だ。

一時期、神楽坂町に住む前にその近くに住んでいたことがあって、ここなら知っている人も多い。

本当は、知っている人にこれ以上迷惑はかけたくない。でも、知らない人なら良いってわけじゃないし、いずれにせよ誰かのお世話にならなくては生きていくのは難しい。

だから、わたしはこの人達を頼ることにした。


「ここにお父さんの知り合いが住んでてね。昔お世話になったことがあって……でも、小学校に上がる前だから、向こうも覚えてるかどうか…」

「住まわせてもらえるかどうかは交渉次第かしらね。それに私達も来る以上警戒はされるでしょう」

「うん。それについては考えてあるよ」

この三日間、わたしは持てる知識と経験を全て使って、街を出る計画をした。

旅に出るのに必要なもの、その間に使うお金など、時にはリアさんやリリスさんにも聞きながら。

亜人狩りの追及から逃れるのだとしたら、これはおそらく逃避行とも言えるんだろう。

きっと今まで以上に苦労する。けれど、わたしはそれ以上に過度な現状維持を望んでしまった自分が許せなかった。

何とかなるはずと思って、結果的に目の前にある命まで救えなかった。


「正直驚きました。まさか芽衣さんがここまでしっかりと物を考えて、先の計画を立てていたとは」

「え?」

思わず驚いて変な声が出てしまった。

「いえ、正直わたくしにとってあなたは庇護の対象のようなものでしたから。あなたを見くびっていました、ということですよ」

「……まあ、芽衣と比べればあなたは400年以上年寄りだものね。そうなるのも当然だわ」

「それはあなたもでしょう」

長い時を生きているリリスさんからすれば、まだ16歳のわたしって…一体どう見えるんだろう?


「さて、冗談はともかくとしても、特に頼る相手は重要です。あなたは特に今精神状態が不安定で暴走のリスクが高い。信頼できない相手のもとにいた場合は特にそうなりやすいです」

「……うん」

またあの暴走を起こしてしまったら、わたしは人を傷付けてしまうことになる。

……あの人狼の女の子だってそうだった。暴走を何度も抑えようとしても抑えられなくて、結果的に自ら死を選ぶことになってしまった。わたしだって、そうならないとは限らないんだ。


「精神を安定させるような薬剤はありませんからね。一応作れたことはありますが。依存性が強すぎて使えたものじゃないです」

「そうなんだ……」

「定期的に服用しないと幻覚や悪夢などの副作用があります」

「それ、この国では法で規制される薬物なのではなくて?」

リリスさん、そんなの作ってたの!?

「そうですよ?前に住んでいた国での話ですから今ここにはありませんが」

「へえ……なんか、すごいね……」


「そんな話をしている場合ではないでしょう。リリスも早く荷物を纏めなさい。私と芽衣はもう終わっているわよ」

「あら?随分お早いんですね。まあわたくしも既に準備は終えているのですけれど。後で自宅まで戻って荷物を持ってきます」

「それじゃ、リリスさんが戻ってきたら改めて行こっか」

「そうね、それと……」

「葉月さんとの別れの挨拶は、忘れないようにしておきなさい」

「うん、そうだね。葉月ちゃんにも、今までいっぱい助けられたから」


何分か待った後、リリスさんが戻ってきた。……とても重たそうな荷物を軽々と運びながら。

「うわっ!?いっぱいある!?」

「持っていきたいものを全て選んでいたらこうなりました」

「少しくらい取捨選択はしなさい」

「これでもしたのですよ?それにわたくしも何だかんだあの家には愛着がありましたから」

それにしても、軽く10キロ以上はありそうなのに涼しい顔で運んでるのって……。

「さあ、リリスは放っておいて行くわよ。あれは言っても聞かないから」

リアさんが顔をしかめながら、部屋を去っていったのが見えた。


「葉月ちゃんは……まだ寝てるみたい。そうだ。それなら……」

ノートの切れ端に、葉月ちゃんへのメッセージを書く。

一年後、五年後、あるいはもっと後になるかもしれないけれど、必ず戻ってこれると信じて、「またね。」という言葉で〆ながら。


でも、気づけばその置き手紙は、涙のしみがいくつか出来ていた。

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