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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第一章 紅の瞳の吸血鬼
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第一章 2 もう元気だから、ね?

パソコン壊れた間に書いたストックが尽きました。

カメリアさんの部屋を出ると、どうやらそこはマンションのようだったということがわかった。

さっき見た景色を見るに、相当高いところにあの人の住居はあったのだろう。

地上までのエレベーターを待っている間に、色々な想いがわたしの心を駆け巡る。

何かに刺されて、死んでしまって、生き返ったと思ったら吸血鬼になっていて……?

空想の存在に会えたのは嬉しかったけれど、自分がその存在になってしまったとまで聞くと、流石にその現実はなかなか受け入れられない。

制服から覗く自分の腕と手を見てみると、記憶にあるわたしの姿とは特に変わりはないように思う。カメリアさんは日光は大丈夫だと言っていたけれど、このまま登校してもいいのかな……?

そもそも、ここから学校に行けるのかな……?


エレベーターを出て地上に降り、マンションを出るとそこはよく知っている景色だった。家から学校に向かうまでの間にあった、やけに目立つ高層マンション。

そこがカメリアさんの住居のようだった。

「意外と、家近いんだなぁ……」

そんなことを考えながら、スマートフォンで時間を確認する。

急がなきゃ。


学校まで着くと、クラスメイトはもう席に着いていた。どうやらまだホームルームは始まっていないらしい。

もし花瓶でも飾られてたらどうしようかと思いながら、わたしの席を探していると。

「芽衣ーーー!久しぶりーー!」

楓ちゃんが抱き着いてきた。

「もうー!心配したんだからね!すっごい重たい風邪だって聞いてたからもし何かあったらと思って!もう!!」

要領を得ない楓ちゃんの台詞に、少し気になるところがあった。

……どうやら、この3日の間にわたしは風邪で寝ていたことになっていたらしい。カメリアさんの言う事後処理って、そういうことなのかな?

「心配しすぎだよ、楓ちゃん……もう元気だから、ね?」

「風邪なめちゃダメよ!拗らせたら大変なことになるんだから!葉月ちゃんも心配してたと思うわよ!」

……そういえば、マンションからそのまま学校に向かったから、葉月ちゃんにも顔合わせてなかったな。

流石に家族には「風邪」じゃごまかしは効かないと思うし……カメリアさんはどうしたんだろう?

「芽衣、もしかしてまだぼーっとしてる?」

「えっ!?あ、そんなことないと思うよ……?」

楓ちゃんの追及をなんとかごまかす。こういうときの楓ちゃんは鋭いのだ。

「ちょっとでも調子悪かったら、保健室行きなね?」

「う、うん……」


そこからの学校生活は驚くほどスムーズに進んでいた。

いつものように授業を受け、そしてお昼休みになる。

昼食はもちろん持ってきてないので、学校の購買でサンドイッチを買うことにした。

吸血鬼になったからといって特に何か食生活が変化したということもなく、サンドイッチを食べることはできた。ただ……


「芽衣、どうしたの?」

「ううん、なんでもない」

サンドイッチに挟まっていたレタスとトマトが、今までよりもあんまりおいしく感じないような……。

もともと野菜はそこまで好きというわけではなかったけれど、それでもこんなに「美味しくない」と感じることはなかった。

「なんか、食欲なさそうね」

「そうかな……?もしかして、病み上がりだからあんまり食欲出ないのかも……」

サンドイッチの残りは楓ちゃんにあげることにした。少し罪悪感はあるし、食べられないほどではなかったけれど、正直これ以上食べ進めるのは少し辛かったのだ。

代わりに楓ちゃんから貰ったお弁当の卵焼きと冷凍らしいハンバーグは、むしろいつもよりも美味しく感じた。どうもレタスとトマトだけがダメだったらしい。

食堂を出た後も、楓ちゃんはずっとわたしの方を不安げな顔で見つめていた。


午後の授業が終わり、帰りのホームルームを終えた後、楓ちゃんはわたしの席の方に来る。

「芽衣ー、もしかして忘れてる?」

「えっ!?……あっ」

すっかり忘れていた。文芸部の活動があるのは火曜と金曜。そして今日は金曜日なのだった。

「もうー、ほんとにぼーっとしてるんだからー!先に部室行ってるからねー!」

そう言うと、楓ちゃんは教室を後にしていった。廊下を走ってはいけないからなのか、早歩きで廊下を渡る姿が見えた。

彼女の姿を見送った後、わたしもそれに続いていった。


部室棟。わたしたち文芸部の秘密の時間。三日前に来たはずなのに、久々に訪れるような気分になる。

「あれ、部長まだなんだ?」

「珍しいね、いっつも柚葉ちゃんは一番に来てるのに」

柚葉ちゃんはいつも部室に来るのが早い。少しせっかちな所がある彼女は、わたしたちが授業を終えてすぐに部室に向かったとしてももう部室で待機しているくらいには、いつも早く部室に来るのだ。


「と言っても私たち二人だと何したらいいのか、って感じなのよね。いつも議題持ってくるのは部長だし。芽衣はどうする?」

「わたしは柚葉ちゃん来るまで本読んでるね」

カバンから本を取り出す。

中身は小説で、本の途中には栞が挟まっていた。

ストーリーは人狼、つまり狼男の青年と人間の女の子によるラブロマンス。本当の姿を見せたくない青年と、もし醜い怪物だとしても彼を愛すると誓った女の子。青年の人狼としての真の姿を女の子が見てしまった……というところで読むのを止めていたのを、本を取り出したところで思い出した。


もしわたしが吸血鬼であることを知ってしまったら、楓ちゃんはどう思うだろうか。そう思うと、読み進めていくうちにこの狼男の青年が他人とは思えなくなってしまった。

物語の世界とはいえ、それを作り出したのは人だ。つまり物語は"人"によって生まれる。だからこそその物語が"人"であるわたしの心に深く刺さっていく。

今日に学校に来てから、どうもこういったセンチメンタルな気分に陥ることが多いような気がする。どうしてだろう。


「すまない、遅れた!!」

ぼんやりと考え事を続けていた思考は、一人の声によって打ち破られる。柚葉ちゃんの声だ。

「どうしたの部長、遅れるなんて珍しい」

「この間の抜き打ちテストの成績が悪くて先生にこってり絞られてしまってな!!いやー学業と創作活動の両立というのは大変なものだ!」

とは言いながらも、柚葉ちゃんはまたいつものように大口を開けて豪快に笑っていた。

「ほんとに大丈夫なの?」

「私のことは気にしなくていい。中間でも赤点はギリギリ取ってないからな!」

「いやギリギリだからそうやって怒られたんだと思うけど!?」

楓ちゃんのツッコミが響き渡る。久々によく知る空間に戻ってきた感じだ。


「まあ、私の成績以上に。芽衣の復活の方が大事だろう。」

「そっちも大事っちゃ大事だと思うけど…でもそうね。この時期に風邪を拗らせちゃったんだものね」

やっぱり柚葉ちゃんの認識でもそうなっていたらしい。それにしても"復活"って……他意はないんだろうけど、その言い回しはちょっと気になってしまう。

「ちゃんとお薬飲んで寝たら元気になったよ。まだ病み上がりだから万全じゃないけど…」

「お昼も食欲なかったもんね、ほんと無理しちゃダメよ?」

楓ちゃんの心配そうな様子に、少しだけ罪悪感が芽生えてしまう。何せ先程の話も、なんなら風邪で寝ていたというのも全て嘘だったのだから。

「うーむ、それなら今日の活動は少し早めに切り上げるか。あんまり遅くまで芽衣に無理をさせるわけにもいくまい」

柚葉ちゃんがメガネをくいっと上げて、そう宣言する。正直わたしとしてもそっちの方がありがたかった。何せ色々なことがありすぎて、文芸部の活動どころではないのだ。

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