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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第三章 円熟した者の愚かしさ
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第三章 16 残念だったね

どれだけの時間が経っただろうか。

24時間?3日?1週間?いや、2週間……は経っていないはずだ。

ほとんど眠ってすらいない私は、もはや時間の感覚すらわからなくなっていた。

「目が覚めたかな」

「……… ………」

返事をしようとしたが、声すら出せない。出す元気すらももうないのだ。


「そうだ。君のお友だちがもうすぐそちらに向かっているよ」

お友だち……芽衣か。それとも楓か。

「……には、何も……してない……?」

「何もしないさ。命までは取らないよ」

そもそも、何の目的で私を誘拐なんてしたのだろうか。

この女性……私を誘拐した人間の話は、基本的にほとんど何を言っているのかがわからなくて、未だに目的も何もわかったものではない。

いや、話している言語は確かに日本語なんだ。でも、まるで違う国の、いや違う星の言葉を話しているかのように、会話が通じない。


「そうだ。君の足の……そうだな。左足の爪も剥がしていいか?右足はすべて剥がしてしまったからね」

自分の手を見る。血を流した跡で汚れきった手。そこには爪が全くなかった。いや、全て剥がされてしまったんだ。

最初はとてつもなく痛かった。気を失いそうになったし、叫ぼうと思ってもあまりの痛みで声すら出なかった。

だが、3本、4本と剥がされていくうちに、次第に慣れて痛みを感じなくなった。

いや、"慣れてしまった"のだ。指の爪を剥がされるなんていう、非情なことに。


「……何で、……そんなこと……」

「そんなことって、単なる耐久実験だよ。丸1日以上放置されて衰弱された人間が、どれだけ痛みに耐えられるかのね」

ああ。彼女の私を見る目。それはまるで実験動物を見るような目なんだ。

「嫌かい?」

「……嫌って……言っても……"する"……だろう……」

「当たり前さ。よくわかってるじゃないか」

そう言うと、私の頭を慈悲深く、まるで自分の育ててきた子供にするかのように、撫で始めた。その手の感触に、私は何故か安心するような感覚を覚えた。


「歩ける?もし歩けないのであれば、手を取ろうか?」

「…………わかっ……た……」

なんとか足を動かして立ち上がろうとする。それだけの動作のはずなのに、今はそれがものすごく重たい運動のように感じた。

ふらふらと、それでもしっかりと立ち上がる。

「よくできたね、えらい子だ」

一歩を踏み出そうとしても、よろけて倒れそうになる。そのたびに支えてもらって、なんとか2歩、3歩ほど歩くことが出来た。

「……芽、衣……楓……無事か………」

そして芽衣、楓だけでなく、ある小柄な少年の顔も、脳裏に浮かんでいた。


------------------------------

文字がほとんど読めなくなっている看板、独特の埃の臭い。

この町にこんな廃墟みたいなところがあるのだと、16年この町に住んでいても知らなかった。

「ここ……で本当に合っていますでしょうか?」

「そのはずだよ。あの子が嘘を言ってないのなら」

罠の可能性も考えていた。でも、確かに何者かがわたしの事を呼び出そうとしていたこと。そして……

「仮に罠でないのなら、天野さんを見捨てることになる、ですか」

「うん。あの人を信じるってわけじゃないけど、何となく嘘ではない気がしたから」

「納得はいったわ。勿論、警戒は怠らないようにすべきね」

特に、さっきのあの子がこっちにもいるなら、相当激しい戦いになるはず。何せ、あのリアさんがあそこまでボロボロにされた程なんだから。


「あれ……」

目の前のドアを開けようとするが、それがなかなか開かない。

「これは……建て付けが悪くなっているみたいですね」

「…………」

不意に耳元で大きな音。すぐにその正体はわかった。

「お行儀が悪いですよ」

「敵相手にそんなこと気にしている余裕があるわけないでしょう」

それはもうお行儀なんて問題じゃないんじゃ……。


「これはこれは、非常識なお客さんですね」

人形のような作り物らしい美貌に、うっすらと笑みを浮かべる少女が、機嫌悪そうに座って待機していた。

「出会い頭に他人をボロボロになるまで刻んだ相手に言われたくないわね」

「そのボロボロになるまで刻まれておいてどうして生きてるんですか?」

気持ち悪そうに、憎々しげにわたしたちを見る。

「柚葉ちゃんは今どこにいるの?」


「ああ……『それ』なら2階にいますよ。とはいえだいぶ衰弱してましたし、もうすぐあれは死ぬでしょう」

「それとかあれとか、随分と物みたいに扱うのですね」

リリスさんが怒りを露に、少女に食って掛かる。

「ご主人様の前では自分以外のすべての生命体は実験体も同然ですから、物ですよ。何を言っているんですか?」

「…………っ!随分と、随分とたちが悪い……!」

コンクリートの壁を、叩く音がむなしく響く。


「2階へは案内はしてくれるのよね?わざわざ呼び出したのだもの、それくらいはしてもらわないと困るわ」

「勿論。こちらです」

「……あら。意外と素直に案内をしてくれるのですね。少し意外でした」

一触即発。今すぐにでも、殺し合いが始まってしまいそうなほどのピリピリと張りつめた空気。

静かな廃墟の中に、響く4人の足音。その音を聞くたびに、私の心臓が、今にも止まりそうなほどに緊張を増す。


ふと、いっそこの心臓が止まってくれたら楽だったのに、なんていう考えが、頭をよぎる。

そんなこと、思っちゃいけないのに。必死に、頭を横に振ってそれをかき消す。

「……芽衣、どうしたの?」

「ちょっと、よくないこと考えてて」

何とか、平静を保とうとする。ダメだ……リアさんまで不安にさせたら……。

「不安なのですね。当然でしょう。あなたはわたくしたちと違い、まだ16年しか生きていない人間です。ですから。……そう思うことは、何もおかしなことではないんです」

リリスさんが私の方を、しっかりとした眼差しで見る。違う。違うんだよ。


「こちらです」

足音がピタリと止み、さび付いたドアの前に女の子が立つ。

やっと……やっと……柚葉ちゃんがそこにいるんだ………。

絶望的な気分の中に、一筋の光明が差す。

だが、その光明は、すぐにわたしの心を裏切ることになる。だって、そこにいたのは。


「あはははははははは、残念だったね。あまりに遅いものだから、彼女は僕が殺しちゃったよ」

けらけらと笑う長い髪の女の人と、胸から血を流し今にも絶命しそうになっている、柚葉ちゃんの姿だったんだから。



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