第三章 14 だから一人になるのは嫌なんだ
「おや、あなたたちはそんなところで何をしているのですか?」
「いやいや、ただ単に休みの日だから本でも読みに来ようかと立ち寄っていただけさ。そんなに珍しいことかい?」
そうはぐらかすように答えられます。……まあ、このくらいは予想通りですが。
「その割には随分と背筋が強ばっているように思えますね。少なくとも、ここを慣れた場所として利用しているようには思えません」
「……何が言いたいのかな」
「あなたなら察してくれると思っていたのですがね」
先程のことがハッタリだったのは……黙っておきましょうか。
「……このくらいならいいか。僕がここに来てるのはあくまで調査だよ」
「何の調査でしょうか?」
「言う義理があると思うかい?」
「いえ全く」
流石に口がお堅いですね。しかし、ここで調査とは。わざわざ調査するようなことでもあるのしょうか?簡単に口を割ってはくれないと思いますが。
「そっちはどういう目的で?わざわざ休みの学生にしか見えない僕をこんなに警戒しているんだ、まさか何もないとは言わないだろうね」
「休みの学生にしては随分と気味の悪い笑みを浮かべるんですね。いいでしょう。わたくしもそうですよ。おそらくあなたとは別口だとは思いますが。……まあ、今は単なる休憩中ですが」
「休憩なんてしてる暇があるのかい?」
「適度な休憩をしないとパフォーマンスが落ちますから」
「ははっ、これは一本取られた。それじゃあ鳴にも伝えておくよ。一応敵同士なんだ。接触したというくらいはね」
「よろしくお願いしますね」
そうして、彼はそそくさと去っていきました。
「……さて」
「麻倉さんの方は、大丈夫なのでしょうか」
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「無事は保証しないって、どういうこと!?」
「そのままの意味ですが」
その言葉は決して、冗談や脅しじゃないんだろう。
「柚葉ちゃんは今どうなってるの?」
「百聞は一見に如かず、直接見に行けばわかりますよ。まあ……何も言わないのも悪いですし少しは伝えます」
ごくりと唾を飲む。
「彼女は今監禁されています」
「監、禁…………!?」
物騒すぎる言葉に、思わず息が詰まる。何で?どういう目的で?何故柚葉ちゃんを?
「……そもそも、何故それを私たちに伝えたのかしら」
「り、リアさん!?動けるの!?」
声のした方に目をやると、血塗れのまま横たわった体勢で声を発していた彼女の姿が見えた。あの状態で『生きていた』のは知っていたけれど、それでも無事とは思えなかった。
「口を動かす程度ならね。大方再生は終わったけれど、まだハリボテくらいにしか再生できてないからこのくらいしか出来ないわ」
「なるほど。もうそこまでは再生できたのですか。随分と再生が速いことで」
「私のことはいいでしょう。早く続けなさい」
「そうだった……!それで、柚葉ちゃんはどこにいるの!?」
わたしは思わず身を乗り出していた。今すぐにでも聞きたい。聞き出したら一秒でも早く飛び出したい。
「三丁目の学習塾跡。ですよ。そこに私の『ご主人様』がいます」
「へーーー、そんで。そのご主人様ってのが昼間っから女子高生監禁してると。当然そいつ人間じゃないんだよね?」
詩音ちゃんが明らかに敵意を滲ませた口調で、口を挟む。
「……ふふ。人間ですよ。亜人狩りさん。殺せない相手で残念でしたね?」
「……ちぃっ!!!!」
大きな舌打ちが響く。音の方には、悔しそうに歯噛みをしている姿が見えた。きっと、この子にも正義感のようなものはあるんだろう。わたしから見れば、それは随分と歪に見えるけれど。
「……ねえ。吸血鬼」
「わたし?」
「あんたしかいないでしょーが。そこで横たわってるやつに言ってもしょうがないし」
「何かな?」
「ぶっ殺して来いとは言わない。でも、そのご主人様ってのは相当危険だと思うから。ボクはそっちには行けないけど、あとは頼むからね」
彼女の口からそんな言葉が出るのが少しおかしくて、でも。少しだけ。頼られたのは嬉しかった。
「うん、わかったよ」
「流石に積極的にあんたらには協力できないってだけの話なんだけどね。敵が人間で味方が亜人なんて、亜人狩りの名折れだから。だから感謝の言葉なんて言うな」
そう言うと、詩音ちゃんは背を向けて歩き出した。その背中を、わたしはそっと見守る。
「……なんだか、面倒な人だったわね」
「うん。そうだね……」
それ以上はもう、何も言えなかった。
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ずっとモヤモヤした気持ちが、胸の中に刺さって抜けない。
やっぱり、芽衣は何かを隠している。
一人でパソコンに向かいながら、そんなことを考え始めていた。
一人になってしまうと、どうしても自分の中のこういう黒い部分が顔を覗かせてしまう。
だから一人になるのは嫌なんだ。
「……どうしたらいいのかなぁ」
つい、図書館の中だと言うのに独り言が出てしまう。
インターネットで調べると言っても、何をどう調べればいいのやら。
適当な検索ワードを打ち込み、いくつかヒントになりそうなものを探そうとする。
誘拐 場所……いやいや、誘拐って決まった訳じゃないし!でもだとしたら連絡もなしにあの部長がどっか行くわけなくない!?
無為に時間が経過していく。
アリシアさんという人は、色々と難しいことを考えているようでいて、適当なことを言ってる時もある。数時間接しただけだけれど、本当に読めない。
「そもそも、インターネットで検索したところで……」
ヒントがないのだからどうしようもないというのが本音だった。
あー、アリシアさん早く戻ってきてくれないかなぁ……
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「いだっ!?」
頭の後ろへの軽い衝撃で、『目が覚めた』。
どうやら私は眠ってしまっていたらしい。それも、夢すら見ずにぐっすりと。
思わず後ろを振り向く。そこには……見覚えのあるようなないような、そんな顔があった。
「……揺すっても起きないってマジだったんだな」
呆れたように私を見下ろすその人物は……えーっと……えーっと……ダメだ寝起きじゃ全然頭働かない。誰だっけ……
「えっと……すみませんけどどなたでしょうか」
「まだボーッとしてんのかよ。1組の有栖川。お前の連れに頼まれてお前起こしに来たの。ったくなんで俺なんぞに頼むんだよ……」
有栖川くん。確か、選択授業では一緒だったような……そうじゃないような……まだ一学期。同じクラスの同級生ですらうろ覚えなのに、隣のクラスの人だったのなら、覚えていないのも当然だ。
「あー……あの人何考えてるのか、よくわかんないとこあるよね……」
「ご学友なら友達だと思いますー、って。んなわけねえだろ。あ、そうだ」
有栖川くんが思い立ったように、一枚の紙を私に渡してきた。
「起こしに行ったのだけが目的なんじゃねえんだ。これ渡せって言われててよ」
「何これ?」
「伝言だとよ」
受け取った紙を開いて、中身を見てみる。まあ、そんな面白いことが書いてあるわけでもないだろう。
『天野さんの居場所がわかったかもしれないと芽衣さんから聞きました。わたくしはすぐに向かいますので追いかけてきてください』
部長の居場所、見つかったんだ……!わたしは続いてその続きを読む。
具体的な居場所まで書いてある。場所はそう遠くはない所のはずだ。
私はいてもたってもいられなくなって、すぐに図書館を走って出ていった。
私が寝ちゃってる間に、全ては進展したんだ。
「もーー!何でよりにもよってこんな時にーー!」
自分の間が悪いのは、昔からだ。何かにつけて、大事な場面でタイミングを外してしまう。
だからこそ、今回こそは「外したくない」。
大事な友達が何か危ない目に遭ってるかもしれないんだから。




