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【完結】Camellia~紅の吸血鬼が紡ぐ物語~  作者: 八十浦カイリ
第三章 円熟した者の愚かしさ
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第三章 12 諦めてくれるかな?

「ああああああああああああああああっ!!!!!」

懐から、カッターを取り出し、力強く右腕を「引き裂いた」。

こんな風に思い切り叫んだところで、より強い『武装』になるかはわからない。でも、目の前の少女への怒りが、大切な人をあんな風にされた悲しみが、どうしても抑えきれなかった。

どういうわけか、ただのカッターの刃はわたしの腕をかなり深く引き裂き、その血液からは今までよりも濃く、そして鋭い刃物が形成された。


「……っ、はぁっ……」

けれど、武装を出すだけで思いっきり力を使ってしまったのか、上手く動けない。いや、ここで動かないならこんなの出した意味がない。だったらわたしは。

「~~~~~~~~~~~っ!!!!!」

疲れた身体を無理やり振り絞りながら、声にならない声を上げて近づく。風の攻撃がより一層激しくなる。今まで一つずつだった風の刃が、2つ、3つ、いやそれ以上同時に襲ってくる。でも。

それらは全て空を切っていた。

わたしが素早く動いたことで、攻撃の軸がずれたのかもしれない。


「………っ!」

少女の顔に焦りが見える。それをチャンスと見て、わたしは彼女のお腹に向けて思い切りその剣を突き刺す。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

人形のように端正な顔が歪み、口からは血の塊が吐き出される。

「これで……諦めて……くれる……かな……?」

あれだけのことをされてなお、まだ、この少女を攻撃したくない、傷つけたくない、という気持ちが、わたしの中にはあった。だからこそ、もうこれ以上は戦いたくなかった。一撃だけで決着をつけたかった。

「……あまり私を舐めないでくださいよ」

直後、脇腹にものすごい痛みが走る。その衝撃で、思い切りのけ反ってしまう。


なんとか、立ち上がって体勢を立て直そうとする。

だが、この時に異変に気付く。

「気づきましたか……?」

傷が治らない。手足が吹き飛ばされようが、すぐに治っていたはずの身体が、脇腹の傷だけなかなか再生しないのだ。

「特別に教えてあげましょうか。それ、毒なんですよ。毒針。私はあの瞬間に、10発の毒針を撃ち込みました。その毒には傷口の再生を阻害する成分が含まれていましてね。再生能力のある吸血鬼でもむしろその毒で傷口からグズグズになってしまうんですよ」

毒。そういえば、人狼となってしまった藍さんと戦った時も、そんな話が出ていたっけ。

「それって……もしかして人狼の毒、なのかな?」

「さあ、私の身体は数えきれないほど改造されていますから。それが人狼の毒かはわかりません。というかそんなこと聞いて何になるんですか?」

「あなたの、あなたの正体を知りたいから。わざわざわたしのことを襲ってきた目的、それが知りたい」

傷の痛みに耐えながら、それでも必死に少女の方を見据える。


「これから『殺す』相手のことなんて、わざわざ聞くとは余裕がありますね?」

気が付くと、少女の姿が『消えていた』。いや、違う。声は後ろから聞こえている。ということは振り返れば……

「遅い」

「あああああああああああああああああっ!!!!」

お腹を狙ったのだろうか、またあの毒針が撃ち込まれる。痛みでどうにかなりそうになって、コンクリートの上を転げ回った。

「想像以上に期待外れだったみたいなんで、もう殺していいですかね?」

「……っ、……ああああああっ!」

2発。3発。何発も毒針の撃ち込まれたお腹が蹴られた。そのたびに毒針が深くまで刺さっていくような気がして、痛みに悶える。


意識が、朦朧としていく。毒のせいかな?そんなことも考える余裕がないほどに、どんどん瞼が閉じられていく。

ああ、「また」だ。また、普通は何度も味わうことのないはずの死の恐怖。それが、迫っている。

「………ごめん、なさい、リアさん……」

そこで未だに再生もせず転がっている肉塊と化してしまった『彼女』に、届くかはわからない謝罪をする。だって、もう……、わたしは……。


バン。

閉じかけていた意識は、不意の聞き慣れない物音によって覚醒する。

「ぐっ……ああああああああああああっ!!!」

ゆっくりと目を開けると、そこでは少女が片目を押さえ悶絶していた。誰か、誰か助けに来てくれたの……?

「外が騒がしいと思って戻ってきてみれば……いつの間に妖怪大戦争なんて始まってるわけ?せめてボクも混ぜろっての」

思いがけない援軍が、戦場と化してしまったコンビニの駐車場へと現れていた。


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「……あと、他に天野さんの行きそうな場所に心当たりはありますか?」

「うーん、全然ないのよねぇ。というか、部長と私ってあんまり部活以外で交流ないので、いまいち行動範囲知らないんですよ」

申し訳なさそうに、麻倉さんが答える。もっとも、わたくしとしてはそういった「何もわからない」ということのような情報ですら、実は結構ありがたいのですが。


「アリシアさん的には、何か思いつくことありませんか?」

「そうですね……麻倉さんがわからないのであればわたくしには……あっ、彼女は普段図書館は利用されますか?」

「市の図書館ならたまに使ってるって言ってた。でも……そんなとこにいますかね?」

「木を隠すなら森の中……灯台下暗し……。意外と身近な場所ほど答えが眠っていたりするものですよ」

「アリシアさんて、結構日本の言葉詳しいんですね。日本語もすごい流暢ですし」

「まあ、ありがとうございます。わたくしこう見えても結構勉強はしているのですよ」

主に最近は芽衣さんの読んでいるような小説ばかりですけれど。まあでも、最近の文化や風俗を勉強するという意味では、とても役には立っているのですけどね。


わたくしたちはそのまま、市立図書館へと向かいました。

図書館独特の、木と紙の匂い。本が好きな方は、この匂いも落ち着くものだったりするのでしょうか。わたくしにとっても、そこまで悪い印象のある匂いというわけではないのですが。

「全っ然人いないわね……」

「麻倉さんたちの学校が休みとはいえ、平日の昼間ですからね」

図書館はとても閑散としていて、まばらに親子連れなどの姿が見えるくらいでした。もう少し高校生らしき人達がいてもいいと思うのですが、今時の子供はあまり書物には興味を持たれないのでしょうかね?


「どうしよう~~…流石に幼稚園児に聞いても部長のことなんか知らないですよね?」

「確かに麻倉さんの話を聞く限り、天野さんはあまり子供と遊ぶタイプという風には見えませんからね」

「仰る通り、家にこもって本読んだりゲームしてるタイプです。最近はなんかネットのゲーム?にはまってたらしいですけど。あ、もしかしたらネット経由で知り合いとか……」

参りましたね。わたくし、インターネットについてはほとんどわからないのですが。

「少しだけ、わたくしの方で単独で調査に向かっても構いませんか?」

「いいですけど……またどうしてですか?」

「インターネットについては、あなたの方が御詳しいと思いますので」

「私もそんな詳しいってわけじゃないですけど……わかりました」

そう言って別れます。もう少しこの国の……この時代について調べたいことが増えましたから。


目的の本棚に向かって、わたくしは歩き出しました。

最近の図書館は、なかなかスペースが整理されていてわかりやすいですね。

特に強く意識するというわけではないですが、あまり足音を立てないように歩きます。

「……うわっ」

急に、何かに肩がぶつかりました。おや、誰かいたのでしょうか?

目の前には、わたくしよりも少しだけ背の高い影が。

「すみません、どなたですか?」

「こちらこそすみませ……おやおや、まさか図書館なんかで会うとは。なかなか奇遇だ」

出来れば、どちらかといえば会いたくなかった『亜人狩り』の顔が、そこにはありました。

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